エッグマンの戦艦へ「エックス」の字をした飛行機体が迫る。戦闘モードへ移行したトルネード号の翼は空を四つに切り裂く。
待ち構えるエッグマンは無数に備 えた砲台から迎撃を行う。
テイルスは一つたりとも被弾せず巨大戦艦の砲門を確実に潰していく、対するエッグマンは無人小型戦闘艇を繰り出した。

幾つも飛翔しこちらに向かい来るも包囲と言えるほど組織立った動きではなく、テイルスは丁寧に一機ずつ撃墜し無人艇の群衆を突破する。
あっという間に懐に 入った。壮大なスケールの戦艦の割に淡白な守り、とテイルスは感じた。
その感想は正解、むしろ一層用心すべきであった。
おびき出されたのだ。無人機はいわば撒き餌。

甲板の一部が円形に開き、浮遊するようにゆっくり射出されたそれは真っ黒な球体だった。
目を凝らして見れば表面は電子的な細かい光を放っているが、攻撃してくる気配がない。
意図不明なそれを警戒し様子を観察していた。
だが異常は目に見える形では襲ってこなかった。

重力弾。操縦桿に違和感を覚えた時には遅かった。「横が上に」変わったのだ。
重力と揚力のバランスが崩れる。
横への抵抗力を持たない飛行機は成す術なく、また余った機体上方への力が暴走しきりもみとなる。
そのまま横に落ちた。上の翼にある特等席に居たソニックも振り落とされまいと懸命にしがみ付く。
落下中も必死に操縦桿を操り、四苦八苦しながらも重力場からの離脱に成功した。
見失った位置関係の把握にかかる。それで今大変危険な状況下にあることがわかった。

「エッグマン砲、用~意!」

戦艦の正面、主砲が今まさに放たれようとしていた。
そこは空の奈落。遠目でさえ充填されたエネルギーの規模に圧倒される。
直視すれば眩んでしまいそうなほどの光。推し計れぬほどの強大さ。
全速力で照準から離れるように試みる。でも頭の中ではわかっていた。

きっと間に合わない。

振り回されたソニックがようやく体制を立て直した。そして同じく現状の危機に直面した。
全速力で振りきれないか、これが精一杯だよ、そしてもうダメだ。
ささやかな抵抗しか出来ない現状を歯がゆく思う。同時に桿を握る手に力が入っていた。
もう発射される、必要量にはそろそろ達しているはず。

だが覚悟を決めたのに一向にその気配がない。
主砲に目を向ければ、先程まで抑えきれぬほどのエネルギーが光として現れていたのに、今それは失われていた。
かわりに放たれたのはスピーカーからの音声だ。

「・・・お早いお目覚めのようで。」

それは明らかにこちらに向けたものではない、向こう側に居るニンゲンに向けて放たれた言葉。
ただし応答までは聞けず、一方的に話しかけているような具合に、まるで電話している人を見ているような言葉が並ぶ。

「偶の睡眠ぐらい楽しんだらどうじゃ?」

内容とは裏腹にエッグマンの声には明らかに緊張が混じっていた。

今のうちだ。そう思ったテイルスは戦艦の懐に入り着陸態勢に入った。
思った通りエッグマンは身動きが取れない、だから何の障害もなくランディングに成功し た。
そして何が起こっているのか確かめるべく、ソニックとともに指令室を探し向かった。

「復讐か?」

放送は戦艦内部にも響く。
エッグマンは何者と話しているのか、駆けながらその心当たりを探る。
だがきっと彼女だけだ。この戦艦に乗り込んでいる者がそういるはずがない。

「ホホホ、ならば、それはそれは高尚な目的なのじゃろうな?」

「そんな陳腐なものではない」と返答をしたのが想像が出来るぐらい、心当たりの人物の姿が思い浮かぶ。
駆ける最中にもエッグマンの返答と、会話の相手のイメージが艦内に流れる。
ヴェンタスはどうしたのじゃ、次にマイクに直接物がぶつかる衝撃音。

外では遅れてきたスフィアが自前の複葉機でここへ乗り込もうとしていた。
標準的な外観から外れた形状を見る限り、こちらと同じく変形するタイプと見られた。
そしてなぜか車輪を出さずに胴体着陸、その後しばらく、共に乗っていたナックルズも機体から出て来なかった。


そんな彼らを尻目に、ついに指令室にようやくたどり着いた。
自動で開いた扉の向こうに想像通り、彼女が居た。

エッグマンの背後に立ち喉元へナイフを突き立て、そのままの状態で会話している。
逆手持ちのエッジは彼の自由を奪うか、命を奪うかしか選ばない。
彼の座る席のキーボード上には機械の腕パーツが転がっている。青い塗装を施された鋭い指先を持つ腕だ。
それが先程マイクにぶつかったのだろう、乱暴に放り投げられて。

「貴様は私に興味があるみたいだな。どうだ、私をこのまま傍に置いていたいだろう?」
「ほう、もしや研究の協力を申し出てくれるのか、有難い!」

会話の流れが怪しくなってきた。脅しを掛けられている方が歓喜の声を上げるとは、テイルスには嫌な胸騒ぎがした。
一方で彼らはこちらの存在に気付きつつ一切構おうとしなかった。

「だが条件がある」
「やはりタダとは行かぬか。言うてみぃ。」

彼女の考える条件、それが気に掛る一方で言わないで欲しい願望がよぎった。

「全てを終えるまでこの戦艦は私のものだ。それまでは貴様はこの戦艦の一パイロットとして働いてもらう」
「このワシを従えるつもりか、面白い!」

フンと鼻を鳴らしたエッグマンであるが、早とちりにも断りを入れようとはしなかったのはその聡明さ故。
判断材料として決定的な内容を聞き洩らすことはなかった。

「そして終える事ができたのなら、私のことを自由にしていい」

一瞬言葉というものを忘れてしまったような空白をテイルスは感じた。
自分の事を自由にしていい、その意味を果たして理解していたのか。
言うべき相手も理解していたのか。

「そんな、ダメだよヴィクトリア!そんな条件なんて・・・」

エッグマンは独特の高ら声をあげて笑いだした。それでテイルスの言葉はすっかりかき消され彼女に届かなくなってしまった。

「いいだろうその言葉、忘れるでないぞ!ふはは、まさかこのような形で『最後の生き残り』を手中にできるとは!」
「それまでは大人しく私の言うことを聞くのだな」
「無論じゃ!宜しく頼むぞ、ヴィクトリア嬢!」

眼前で異様な契約が交わされた。それに付け入る余地が一切なかった二人に告げられるのは得たものについてのみ。

「今からこの戦艦は私たちのものだ」

その代償に失う可能性のあるものについてはもう、だれも触れる事が出来なくなってしまった。








































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追うもあと一歩及ばず。
絶望を手中にし彼女はどこへ向かうのだろうか。