残す欠片はたった一つ。心当たりは場所でこそないにしろ人物にあり。
ここしばらくは競合相手の気配はない。諦めたわけではないだろうが、欠片を頼りにはもう探れないので動向がいまいち掴めない
きっと集め終えたときに現れるのだろう。気に掛けたところでやるべきことはどの道一つ。
最後の欠片を奪い返すのだ。
反応はあの森の向こうから。遠くには山の中に一本だけ人工物がそびえ立つ、若干不思議な景色だ。
聞いた話によるとちょうどあそこに街が一つあるそうだ。
つまりあのオオカミ女がそこに潜伏していると思われる。
屈辱的な仕打ち、忘れもしない。霧の日から一向に曇ったままのこの心情ともども吹き飛ばしてやりたい。
急く気持ちを落ち着けて呼吸を整える。そして聞こえてきたのは地鳴り。次第に音量を増すそれが聞こえる方を見てみた。
「なんだ、あの大群。」
生き物のような姿をした、無機質な鈍い色をした群れが荒野を横切り森を目指して押し寄せていた。
機械だ。
塗装もされていない金属の体を持つ大群が砂埃を巻
き上げ駆けていく。遠くから事態を観察する。
――背後から気配――
「んなろっ!」
反射的に拳を突き出す。不意に繰り出した軽いものとはいえ、ガードされダメージを与えられなかった。
大群の一派はこちらまで迫っていたのだ機械兵は見境なく襲いかかってきた。ついに間近でその姿を見る。
アルマジロ。機械兵の姿はすべてそうだった。
モデルの特徴と同じく背中や手の甲のパーツが非常に頑丈だ。先ほどの一撃もその甲羅に阻まれたのだ。
同様に機械兵と対峙する影が一つ。この世の何よりも早く動くそれはよく見知ったものだ。
上空に見慣れた青い複葉機も旋回している。
「ナックルズか、ちょうどいいところに。」
「ソニック、一体何が起きいる?」
「あんまりにもゲストが多すぎて構いきれなくてさ。一緒に手厚く持て成してやろうぜ!」
丁度いい、不意を狙われたことにムカっ腹が立っていたところだ。それにこのやり取りの間に辺りを囲われてしまった。
突破するには力を合わせた方がいい。頷
きだけ返して視線は敵を捉える。
模した動物同様に外殻が固い、それなら腹が狙い目だ。しかし向こうも弱点を知っているから簡単にスキは見せない。
手の甲がヤツラの盾であり武器。一体を
倒すだけでかなりの労力を要する。
加えて数え切れないほどの数、不利だ。上からテイルスの援護があるとはいえ進攻を抑えられるわけがない。
せめてもう少しの援護が欲しい、そう思い始めた時だ。
「ソニック、テイルス、あとそこの赤いモグラ!よく聞けっ!」
どこからともなく響く大音声。呼びかけられ耳を傾ける。
初めて聞く声にその主の姿を探した。
森の淵にソニックと似た緑のハリネズミ、しかし遠目にもわかるくらい良いガタイをしている。
「ヴィクトリアから伝言『防御は捨てて攻撃に専念しろ』だとよ!」
どういうことだ。ガードしなければやられるに決まっている。それを注文してくるなんてどういう神経してやがる。
だがソニックは二つ返事で敵へ向かっていく。その動きは普段よりキレがあった。
全く意図がわからないというのに、しかしそれでも信頼して行動するのが奴だったと思い起こす。
とにかくこのアルマジロ軍団を片づけるんだ。
複数を同時に相手にする。右、左、回避したら内側に入り込み中から崩す。
思った通り腹の方は軟弱。同じ要領で二体、三体を叩く。
だが一体多数、ついに背後まで手が回らない瞬間が訪れ、狙われた。気付けても対応しきれない。
避けれない。衝撃を覚悟し身構えた。
だがその攻撃は到達する前に何かによって阻まれた。
理解は追いつかない、ただ相手もわかっていない。
硬直した隙を逃さずアルマジロを打ち砕いた。
「ふん、なるほどな。」
バリア能力。ヴィクトリア、さっきのヤツが呼んだ者の力とここで推定する。
防御をこいつに預け攻撃のみを行う。ノーガードの利は戦いにおいてこの上ないアドバンテージだ。
次々に穿つ。攻撃を受け止めなくていい、むしろその瞬間こそが好機。一方的な優位を誇りアルマジロの数を瞬く間に減らしていく。
学習能力のある相手ならばいざ知らず、単調な機械はバリアを認識せず攻撃を繰り返す。
だからそれに合わせ拳を突き出すだけで倒せる。
不思議だ。普段これだけの数をこなせば疲労が来る、今はどれだけ相手しようとも平気だ。それぐらい調子がいい。
さっきまで息を切らしかけていたのに、逆に力が溢れている。
このバリアに頼らなくとも今現在の体の切れなら、幾人と手合わせしようと勝ち抜く自信がある。
ソニックとテイルスも、さっきの呼びかけてきた大きいヤツも順調に数を減らしている。
全滅まではまだまだ数はあるみたいだが、そんなことはもう時間の問題。トコトンまで相手するつもりだ。
そこで空が曇った。急激に天候が変化したのか見上げてみたが、違かった。
かつてない巨大な軍艦が空を覆い尽くさんとしていた。
その大きさゆえに遠近感もおぼつかなくなる様な、遠景にみた山々匹敵するスケールだ。
その船底にあのヒゲ面マークを見つけた。
次の瞬間からは砲弾の嵐。残るアルマジロを吹き飛ばし、こちらも本来ならそれを浴びたが、バリアによって事なきを得た。
「フハハ、この程度でワシの先を行こうとするなど、笑止!」
このエッグ・ディスペアにかかれば怖いものなしだ、土煙で視界が遮られる中唯一スピーカーの音だけが入ってくる。
音を頼りに方位を定め煙の晴れた場所へ移動した。同時にソニックと並び立った。
アルマジロのせん滅を終えると戦艦からは光が伸び、照らされた森の中から一機のロボットが引き上げられていく。
青いボディの腕に誰かを抱えていて、それは
真っ白で長い髪を纏っていた。
「ヴィクトリア!」
ソニックの口からその人物を指し示す名前がこぼれた。あれがバリア能力の主、目を凝らして姿を確認する。
「あの、オオカミ女!」
見覚えのある髪型。まさしくマスターエメラルドを奪っていった狼だ。
しかし今は無抵抗のままエッグマンによって引き上げられている。ぐったりしていて憔悴している様子だ。
バリア能力が負担だったのかもしれない。
さっきまでの戦い方、そのせいでエッグマンの手に落ちようとしている。
スピーカーからは、ヴェンタスよ御苦労であった、ロボを労う声。
「テイルスはソニックを乗せて先に行ってくれ、俺は後から追う!」
緑のハリネズミが二人に指示を出す。そして青い翼は速やかに飛び去ってしまった。
畜生、乗り込むタイミングを逃してしまった。あのオオカミ女とわかったからにはこちらだって用があるんだ。
今から追いかける手立ては、ソニックと知り合い
らしいコイツに頼むしかない。
「おい、そこのオマエ!」
「あん?」
「頼む、俺も連れて行ってくれ!」
「・・・じゃあ遅れるなよ!!」
後から行くと言っていた手前、何かしら手段を用意してのことだろう。
ものすごく面倒くさそうな眉間にしわを寄せた顔をされたが、ついて行ってもいいようだ。
遅れを取るほど鈍足ではない、そう思っていたのにヤツは体躯からは考えられないほど俊足だった。
食らいつくように追い駆けて、行く先は森の中にある街を目指していた。
やっと能力の一端が出せた感じ。
お次はスカイチェイスですね。