「ようこそ、我が城へ。」
「なにが我が城、だよ。」

増築を繰り返したデコボコで不揃い、不格好な形をした家の庭先にあるガレージにトルネード号は格納された。
飛行機から降りた三人は家の中へ入ろうとしたの だが、そのとき迎えに出てきたスフィアの第一声がこれだった。
下らない冗談に思わず声が出てしまうソニック。これでスフィアの思惑どうりに呆けと突っ込み が成立したのだった。
テイルスからは乾いた笑いが漏れた。客人は特に関心が無いようだ。

スフィアは後ろに居る狼、次にソニックの目を見た。
とりあえず目標の第一段階完了、あとはこれからだ、言いたい事は互いに目だけで大体わかる。

それと、ハラ減った、だな。
目標の女を連れて戻る頃には日はとっぷり暮れてしまっていた。
夕食時も過ぎ、緊張が緩んだ二人からは腹の虫が鳴る音が同時に聞こえた。

「メシは母さんが三人分、ちゃあんと作ってくれるから。」

中へ三人を招き入れる。勝手口がガレージに一番近い出入り口だから、中へ入ると台所で洗い物をしていたスフィアの母親と出くわした。

「まぁ、あなたがスフィアが話していたコ?!あらあらとっても綺麗な方ねぇ。」

スフィアの母親が客人の姿を見るなり、洗い物を中断し手をふき歩み寄って彼女の手を取りながら話しかけた。

「ホント綺麗、ビックリしちゃう。お肌は透き通るようだし髪は艶々。
 お目目もぱっちりでその髪型も大胆なのによく似合ってて素敵。
 いいわねぇ私も若いころだったら負けないのに、今はこんなおばさんになってしまったもの。」
「ヴィクトリアっていうんだ。また厄介になるのが増えるから世話掛けるな、スフィアの母さん。」
「全然問題無しよソニック君。賑やかになるからおばさんは大歓迎。むしろもっと沢山呼んできて欲しいくらいよ。」
「母さん、三人は腹減ってるんだから早く用意してやりなよ。」
「ハイハイごめんなさいね、にしてもあんたのお友達にこんなに綺麗な方がいるとは思いもしなくてついつい。
 あっと、いきなりこんな事してちゃお客様に失礼だったわね。いらっしゃいヴィクトリアちゃん、
 こんなヘンテコなウチですけどどうぞゆっくりくつろいでって下さい。」

ヴィクトリアからは少々あっけにとられている様子が見てとれた。
スフィアの母から解放された手は宙に留まったまま何を掴むでもなく固まっている。
母さんの 捲し立てる喋りはさすがの勢いだな、スフィアは思うのだった。

「でもホントにどうしちゃったのよあんた、突然帰ってくるなり連日お友達を連れて来て。
 それはまぁ私たちは賑やかな方が好きだけどずっと外をほっつき歩いて家の事は何も構わないでいたあんたから、
 まさかお友達をしばらく泊めて欲しいとお願いされるだなんて、私はついにこの星が逆回転をし始めるんだと思ったわよ。」
「まぁ、色々あんのさ。」
「色々ってなぁに?もしかしてあの中に好きな娘がいるの!?そりゃあヴィクトリアちゃんは綺麗だけどあんたとは釣り合いっこないわよ。
 あんな綺麗な娘もっと素敵なヒトじゃなきゃダメよ、私が許さない。かと言ってエミーちゃんはソニック君一筋だし、
 まさかあなたクリームちゃんなんて言ったりしないわよね!
 あんたにそんなシュミがあったなんて、そうしたらお母さん悲しくて悲しくて涙止まんないわ よ。」
「違うっての。」

後ろではソニックがこちらを見てニヤニヤしているのがわかる。家に帰ってからずっとこう、母親にしゃべくり倒されペースを乱され続けている。
あの女のこ と、ソニックと話さなきゃならないのに、こうも捕まってはソニックに声をかけるタイミングが無い。
ていうかテメェ楽しんでんじゃねぇよ!
この状況を打開す べくスフィアは三人を席まで案内することを口実に、母親から離れ会話を、ほぼ一方的だが、強制終了させることにした。

「んじゃ三人ともこっちの席に着いて待ちなよ。すぐに母さんが飯を用意してくれるから。」
「なによスフィア、母さんにだけやらせるつもり?あんたも手伝ってちゃんとお客様をオモテナシしなさい。」
「めんどくさい、母さんやってくれよ」
「ダメ、ちゃんとしなさい!」
「そうだぞースフィア。チャントシナサイ。」

母さんを台所に追いやりつつさりげなく一緒に席に着こうとしたっのに、これだから母さんは、と心の中でボヤく。
そしてソニックは面白半分に茶々入れてき た。思惑から外れて結局側を離れられないじゃないか。
ソニックわかってんのか、後で覚えてろよ。これも口にはしない。

「大体普段家に居ないんだからあんたもこうゆう時ぐらい
 男として甲斐甲斐しく働いて「っぁあもうわかったよ!分かったからぁ!!」さいっ!」

既に上の部屋からリビングへエミーとクリームも降りて来ていた。
親父はずっとリビングに居たからこれで全員あの女、ヴィクトリアの傍にいることになる。
親 父は客人を一瞥するなり表情を変えずに黙り込んだ。いや黙っているのはいつもと変わらないか元々無口だし。
ただ席を外したりソッポ向いたりしないからこれ は機嫌が良い部類に入る。もしかして親父、美人だからなのか、まったく。

エミーとクリームは席をヴィクトリアの正面に陣取り話し始めた。
一度姿を見たことがあるとはいえマジマジと見る機会なんて無かったので、熱い視線を二人し て送ってる。

「ほら、早く来て手伝う!」
「ぃだっ、み耳み!っ」

台所に強制連行され向こうとは断絶される。ドアは開けてあるものの会話がほとんど聞こえてこない。
女二人甲高い声で我先に話していて、静まった間はソニッ クが二、三言言い添えているのだろう。
ただ質問されている目当ての客人の声がここからでは聞こえてこない。

「母さんこれ茹でるよ。」

聞き耳を欹(そばだ)てながらも料理には抜かりはない。というか手早く終わらせた方がリビングへより早く行けるというものだ。
面倒事は降りかかる都度に振り払う。それがもっとも楽な生き方。

「ぉぉぉぉおおおおらあああ!!」
「あら、気合はいってるじゃないの。私だって頑張るわよ!」

高速で料理を終わらせる。いや実際は火を通す時間などがあるから気分的なものではあるが。可能な限り無駄を省き時間短縮を試みた。
しかしスフィアの母親の御持て成しの料理は尽きることなく、次から次へと作る作る。何だかんだでお客さんが来るほど嬉しいんだこのヒト。
嬉しい分だけ際限 なく作っちゃうんだよなぁ。
ソニックたちはいっぺんに押しかけたから別によかったが、今回は一人だぞ?三人分だけでいいんだぞ?!
どれだけ食わせるつもりなんだか。浮かれ切った母親 に対し文句は次々と浮かんでくるものだ。

という具合で彼は延々とメシ作りに駆り出されたのである。
ようやくこのエンドレスクッキングに終止符を(向こうの注文で:食べきれないから)打たれたので 会話に参加しようとした時だ。

「よし、んじゃ!」
「片付けもなさいっ!」

無限の食事は有限の胃袋では消化されずたくさん残っている。あぁだから作り過ぎだって言ったのに。
それは冷蔵庫に入れて明日からの食事に回そうとかそんな で、まぁ確かに手をつけてすらない皿まである、ラップでそれらを覆っていく。
そして食い終わった皿。それも洗わなくては。ということで食事の折り返しを過ぎ折り返しのスパートを掛けることになった。
結局何だカンダで終始こき使われたのである。ああもう話す時間なかったじゃないかよ、口に出すだけ無駄と知っているので全て心で留めた。


と嘆いていたのはほんのちょっとのこと。好機はすぐに訪れた。


「ヴィクトリアちゃんのお部屋だけど、どうしようかしらね。」

まだ決めてなかった、というか決められるわけがない料理ばっかしてたから。
ここを逃すまいと手を挙げ申し出る。

「俺が案内する。」
「まぁまぁ、自主的に動いてくれるなんて!ようやくお客様へのオモテナシの心がわかったみたいね。お母さん嬉しい。」
「そゆこと。」

勿論そゆことではない。母親に邪魔されずにヴィクトリアと接触する機会を伺っていたのだ。
案内するという名目で母親から離れられるのなら買ってでも受け持つ。
それにこちらから位置を指定して見張りやすくしておかないと。更に一つ釘をさしておくべきと思っていた。


階段を上り二階へ上がる。この家には階段が五つもある。
何年にも渡って少しずつ増築を重ね上へ横へ空間を広げた結果、沢山の部屋と三つの独立した二階に、 渡り廊下で結ばれた棟が出来あがっていた。
建築は親父の仕事であり趣味だ。その渡り廊下にしても結局後付けで、もともと二つの二階は独立していたからそれ ぞれに階段があるのだ。
不格好の極め付けは廊下が傾き若干スロープになっていることだ。始めから付ける計画は無かったため取り付けに無理があったのだ。

その一端、自らが普段使う部屋から一番様子を見やすい部屋を案内した。

「あんた、エメラルド集めてるんだろ?そのせいで何かと追っかけが付きまとってる、違うか?」

彼女からは細い呼吸が、静かに規則正しく鳴る音だけが送られてくる。全くもって言葉を返す気などそこにはなかった。
しかし無視しているとも違かった。顔をのぞいてみようと振り返り見れば、目が不快を露にこちらを捉えていた。
探りを入れている、まぁ気分の良いものではないだろう。でもまぁいい、別に優しく接しようという気でもなし。

「ウチらもエッグマンの陰謀を止めるつもりだし、共同戦線という具合に協力するのはどうだ?」

青い目は冷たさを表す以外何も光を放たない。ここが自分の家でよかった。
場合によってはこれだけで逃げ出したくなりそうな、重苦しい威圧感は暗い廊下の色 と入り混じりのし掛かってくる。
その闇の中身を知っている、ホームである、それだけが不安を緩和してくれた。

たぶんこれが、ソニックが話していた目つきだ。突き放しながら求めている目。本人すら判断に迷う感情。
だからこちらが決心してやる。返ってくる言葉にもおかげで即答できた。口が開くのをじっと観察できたのだ。

「お互いに辛いだけだぞ」
「辛いから誰かと一緒がいいんだろぉ。」

ため息を吐かれた。あきれたのか観念したのか、両方入り混じっているとしか思えなかった。
あれだな、心の距離感をハリネズミで例えた奴だな。近づきたいけどお互いハリで傷つくから、適度なのがいいとか。
まぁ自分自身ハリネズミだが別にそんなことねぇし。傷つく付かないで悩んでたら先進めねぇし。
いろいろ思うところはあるが逐一告げる気はしない。どの道することは決まったのだから。

「全く、ヒトの家に上がり込んでからこんな交渉、馬鹿げてるぜ。」

まるで芝居に出るような手ぶりと立ち回り、オーバーアクションでおどけて見せる。
距離が短くなるなら、針が触れてしまうなら、それを出来るだけ柔らかくすればいい。


「ようこそ、我が城へ。」


彼女が目を閉じたのを精いっぱいの笑顔と勝手に解釈した。緊張感が薄れたのを何よりの証拠として。
そこで質問が飛んできた。

「一つ尋ねるが」

先程のやり取りの中で気になったことだと前置かれる。
まぁ興味を持たれるのはそう悪くはない、何でも答えるつもりで待ち構えていたら

「お前は本当にロ「それは違うからっ」?」

ヘンな事を聞かれた。あぁさっきの母さんのせいか。全くこうだから家だというのにホームという感じがしない。
違うからもちろん即答。そうしたらこのやり取りで満足したのか、すぐさま部屋の中へ入ってしまった。

まぁリラックスしてくれてる表れと思ってそのまま見送る。
その時の後ろ姿、揺れる銀髪が印象に残った。








































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スフィアくんち。とっても賑やか。
好き放題書けて楽しかったパート。