「これに掴まれ!」

物理学の世界的権威、ノーザンブルー大学のルース教授がテロ組織に人質として捉えられているとニュースで聞き、
さっそくテイルスと共に救出に来たのだが思 わぬ人物と遭遇したものだ。
いつかの白い狼。
レインボーシティにも来ていたがまさか毎度行くところいく所に現れるなんてな、どうやら俺とアイツには少なからず縁があるみたいだ。
あの 時は話す暇すらなく行ってしまったが、今度こそ捕まえてゆっくり話ができそうだ。

ウォタラクアに到着して、近くで待機しているGUNの兵士に状況を尋ねた。
どうやら内部の事はシャドウに任せていたらしく、そのシャドウから基地の爆破を 告げる連絡が入った。
またその無線で教授は無事保護され彼が連れ出すと言った。そして同じ電波の中でルース教授が喚く声が聞こえた。

――まて、彼女はどうなる!?――
――僕の知ったことではない。――

彼女という単語が引っ掛かった。テイルスも同じ事を思ったらしく、二人とも顔を見合わせ、頷いた。
シャドウは二の句に彼女を見捨てる発言を吐いていた。彼の性格や目的意識を考えればいかにも彼らしい判断と言動といえる。
だがこの場合、胸騒ぎの正体を掴 めないまま「彼女」が消えてしまうかもしれない。
考えるより行動、二人は同時にトルネードに乗り込んでいた。

エンジンを鳴り響かせながら具体的に何ができるのかこの段階で考えたが、遠目に「彼女」が外へ出て来たのがわかった。
さっそく縄梯子の用意にかかる。トル ネードに常備され今までも何回かお世話になった代物だ。今回も大いに役立ってもらおう。
固定し機体の下方へ垂らし準備万端だ。

一連の作業の中で視界が下を向いたので、それでシャドウの姿を確認した。彼と共に居るのはルース教授だ。
どうやら彼は無事に教授を救出できた様子。
先を越 されたのはちょっと悔しいが、流石というところか。不思議と誇らしい心地が胸の中で暖かかった。

アジトからは蜘蛛の子を散らすようにGUNの軍隊とテロリストの残党が出て来ていた。乗り物はもう無い、泳ぐ人達の姿が目に入る。
GUNは無事離脱した模 様、あそこに居るのはテロリストばかりだ。
まぁお灸を据えるのにはちょうどいいかな、彼らの事はあのままにすることにした。

問題の建物上空に近づくが、テイルスの運転技術なら何の心配もいらない。
際どい高度を飛行しているが足元が全く揺れない、素晴らしい安定性だ。
そしてソ ニックが知る限り彼女、白銀の狼は非常に高い身体能力を持っている。このスピードで通過しても必ず掴めるはずだ。


「これに掴まれ!」


既にこちらを視認していた彼女はタイミングを見計らい縄梯子を掴んだ。
ヒト一人分の重みに飛行機がぐん、
と下がる感覚がしたがそれを合図にテイルスは操縦 桿を一気に引き、
同時にエンジンレバーもスライドさせ出力を上昇させた。
それからほんの数秒後、激しい爆発とその衝撃、音が襲いくる。巨大な衝撃と風圧に襲われたがなんとか耐えた。
間一髪、本当に余裕などなかった。

不安定な位置にいる彼女が心配になり機体の下を見やった。

彼女はしっかりとしがみ付いたままだ。ほっと胸を撫で下ろし、彼女に上へあがってくるように促す。
風に大きく煽られながらも一段ずつゆっくり登ってきた。 最後に手を差し出したが彼女は自力で立ち上がった。

「どうやら俺達、何か縁があるみたいだな。」

彼女の髪は大きく翻っている。風を受けながらも前を向くのだがこちらを見ようとはしない。

「なぁ、お前も目的があってエメラルドを集めているんだろ。」

怯まず声をかけ続ける。沈黙を守っているのにも何か訳がありそうだが、そんな事には構わずとにかく話しかける。
きっと何かきっかけが掴めれば口を開いてく れる。ソニックは確信の様なものを持っていた。

「エッグマンにも狙われているみたいだし、お互い大変だろ。ここは一つ協力するってのはどうだ?」

眉をしかめたのがわかる。風で髪が掻き上げられているから。でも不快に思っているようにはソニックは感じなかった。
むしろ何かを耐えていると思った。


「だからその寂しそうな表情はやめてくれよ。」


彼女は前を見つめたまま。真っ直ぐ見据えはるか遠く先の先まで見通そうとしていた。
そうして彼女が一体何を望むのかソニックでは考え付かない。
遠すぎ る場所の事なんて近づくまで分かりはしない、
重々承知しているソニックはもうそれを考えるのをやめ、
感じるまま生きることを選び、
もはや思慮することはな くなったから。


答えを待つ。忍耐が足りないなどと評されることもある彼だが、このひと時の間は実に辛抱強かった。
単一的に繰り返すエンジンと風切り音を除けばほとんど沈 黙だったが、彼はそれに耐えかねて大切な一瞬の邪魔をするような真似だけはしなかった。
行く末を睨んで思案し続ける彼女だが、答えを探すうちに次第にその表情からは険しさは消えていった。


「・・・なら、いいな」


風が巻くその瞬間だけ雑音が止む、その間と合致しなければ聞き取れなかった。偶然にも彼女の言葉とそれが合った。
それは風が彼の辛抱に報いてくれたとソニック は感じた。いつも共に駆けている仲間が後押ししてくれたのだと。

「そういえばお互い名前も知らなかったな。俺の名前はソニック。」
「僕の事はテイルスって呼んでね。」

運転席から声を張り上げるテイルス。そう、仲間の仲間もまた、同じく仲間だ。心得ている相棒の反応は実にテンポがいい。

彼女は目をつむり逡巡した。そのあと顔を背けたので、まだ心を閉ざしたままなのかと一度落胆した、のだが

「ヴィクトリアだ」

ヴィクトリア・ザ・ウルフドッグ。
ようやく聞けた名前。捻じれ拗(こじ)れ、細い糸によりを掛けて新しく強い一本を紡ぎ出すように、やっとひとつになれた。
新しい仲間を得て、これからの行く末にドキドキを隠せないソニック。ヴィクトリアと共に、かつてない冒険の訪れを期待した。

スフィアの家に着いてからまずどうしようかな。帰ったことを考えたときふと思い出した。
ニュースを聞いてからは鉄砲玉みたいに飛び出してきたから、そういえば出発前にスフィアが俺の背中に何か声を掛けて来たような。

「忘れ物?」

そんなだったような気がする。もしそうだとしたら俺は何を忘れたんだろう。
まぁ教授はシャドウが無事保護、ついでに探していた女を確保できたわけだし、いいか。

陽もそろそろ落ちて来た。きっと帰りつく頃は真っ暗だ。
夜が明け、明日からのアドベンチャーな日々を想像しつつ、トルネードの上でそれをじっと待つのであった。









































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10話目にしてついに作中で名前が出せました。
ヴィクトリア、 今まで済まんかったorz