「世界最大のショッピングモール『PRISM-プリズム-』全館完成に先立ち本館がオープン!」

エミー・ローズの手の中では派手な色使いでそう印刷された紙がひらひらと揺れている。
彼女はこのチラシに書かれた場所を目的にクリーム・ザ・ラビットと一緒にレイ ンボーシティへとやってきた。

住んでいるところから電車一本で来られるところだったので、折角だからクリームを誘って新しいデパートを覗いてみようと思い立ったのだ。
最近に延長された 路線の新しい終着駅、そこにある街は自然の中に都市のほうがが置き去りにされたような印象を受ける、山間の緑豊かな地域だった。

目的の建物はそれを囲む山々にも匹敵する高さだったので遠くから見ても簡単にわかった。花火が鳴りアドバルーンが幾つも空に揺れている。
きっとあそこでは 新装開店ならではの大きな賑わいを見せているのだろう。
出来たばかりのぴかぴかの建物。想像してみるだけで心が浮き立ってきた。
電車から飛び降り、駅を出て、下町商 店街を突っ切り先を急ぐ。はやる気持ちが抑えきれない。

「すっご~い大きぃ~~。」

近くまで辿り着いて、見上げて感嘆の声を上げる。天にも届きそうなその高さに圧倒された。
ここプリズムが世界最大を名乗るのは何も建物の背が高いからというだけではない。敷地面積としても他に類を見ない大規模な商業面積で、
ショッピングや飲食 店といった基本的な施設のほかにもテーマパークやアミューズメント、ジム、シアター、カジノ、リラクゼーション、スパ、
他にもホテルやらの宿泊施設まで と極めつけには医療設備も、一つずつ挙げていったらきりが無いほどこの中にひしめき合い軒を連ねている。

あらゆるジャンルの娯楽や商売を取り揃えており、それぞれの専門で特色を示すその様はまさに「分光」の名に相応しい。

オープン初日ということもあって、館内は自分たちと同様に一目見ようと集まった人でごった返していた。離れ離れにならないようにクリームとしっかり手を繋 いだ。
人の間を抜けてショップまで辿り着くのにも苦労をさせられる。
ひたすらに大きいはずなのにこれほど混み合っているとなると、一体どのくらいの人数が買い物 に来ているのかなんて想像つかない。

押し合い圧し合い揉みくちゃにされそうになりながらも何店舗か見て、買い物して回った。どれもこれも真新しく刺激に満ち溢れていた。
巡る間はうきうきが止 まらない。
だがさすがにしばらくして疲労感のほうが上回ってきた。ここまでの人の多さは未だかつて体験したことはない。疲れた。

幾つもある建物たちとの間にある道は屋根が架けられていてアーケードになっていた。レインボーシティではにわか雨がよく降る。
それはまとまった量を降り終 えるとすぐに止みまた太陽が顔を覗かせるので、虹が架かることが多い。ここの地名の由来。
天井を設けているのにはいちいち雨宿りの必要をなくすためにある。
白い天井は太陽光を半透過させ程よい具合に輝き、通り全体をやわらかい光で明るく包み込んでいる。

道の三叉路で中央に丸の花壇を据えた場所にベンチがある。天井も中央を丸くして高くなっていた。二人はそこで休憩することにした。

「すごい人の数ね。もう疲れちゃったわ。」
「広くて、お店もたくさんあって、迷子になってしまいそうです。」

現在開放されているのは本館とそれに隣接する別館の何棟かであるが、建設途中の箇所全てが完成すれば今の倍を上回る広さになる。
このままでも十二分に ショッピングは楽しめるのに、そこまで大きくする必要あるのかな、なんて考えたりする。中を周った感想を二人で述べ合った。
花壇を囲うベンチに着きお店で買ったポテトパイをほおばりながらおしゃべりをし始める。
それから買ったものを取り出し、それいいね、これ可愛いね、などと 疲れたと言いながら二人はとても上機嫌。
広さに物を言わせた商品の豊富さはわがままな女の子二人を満足させるだけの品揃えをしていた。

しばらく二人でそうして盛り上がっていたが、どよめきが上がって、通りの向こうに人だかりが出来ていた。
なにかイベントがあるのかと思い立ち上がり二 人でそこへ向かった。しかし近づくにつれそれが楽しいこととは違うのだと感じた。
周りの人間がなにか不安そうな面持ちで向こうを見ている。胸騒ぎがして、 両手を無理やり差し込み人を掻き分け徐々にその場所へ。

そこには、ソニックがいた。隣に彼より一回り大きいハリネズミのヒトがいて、二人は大きな青いロボットと対峙していた。

「ロボット向けのオイルショップはまだ開店してないぜ、残念だったな。」
「ここは俺の街だ。この辺で好き勝手できるのは昔っから俺一人だけと決まってんのさ。」

キョロキョロと何かを探しているような素振りを見せるそのロボの右肩には丸メガネの髭面がペイントされていた。
なるほどエッグマンロボが現れて、こうして ソニックが立ち向かっているのだ。

「ソニックー!」
「っ、エミー・・・」

ソニックがこうゆうところに居るのは意外だと思いながらも彼に会えるなんてツイてると考え手を振り応援する。
邪魔してはいけないから今は側に寄れないのが 残念だが、ソニックならすぐにやっつけて終わらせてくれるだろう。
当の本人は渋い顔をした。なによ、折角会えたんだから笑顔を返しなさいよ。

「そう思うでしょ、クリーム?」

呼びかけて返事が返って来ないことでやっとクリームとはぐれたことを知った。
夢中で人を掻き分けているとき、そういえば手を繋いでいなかった。
はっとしてすぐ探そうとして踵を返す。その際側を通る人とぶつかってしまった。狭いところで急に動くからだ。

「っと、ごめんなさい・・・。」

顔を上げ姿を見るとその女のヒトは色白でびっくりするぐらい綺麗だった。
靡く緩いパーマの髪に息を呑む。キリッとした強い目に圧倒される。透き通る肌に吸 い込まれる。
心奪われた。そこからエミーを引き戻したのは、彼の怒号。見惚れてからほんの刹那。

「エミー!危ない!!」

彼のほうを見て、彼が見上げているほうを見て、そしてさっきのロボットが自分目がけて降ってくるのが見えた。避ける―間に合わない―
とっさに目をつぶってしまう。次に体に衝撃を感じたのは、しかし横からだった。
目を開けて、ロボットの後姿が映る。今の一瞬であの位置から移動したようだ。視界の端には真っ白に輝く髪が見え、さっきの女のヒトが助けてくれたと理解す る。
今は彼女の腕の中にいる。人だかりはロボを中心に散開した。

「すまない、巻き込んだ」

小声でそう呟いた。振り返ったロボが追撃を仕掛けてくる。エミーを抱えたまま回避する彼女。ちらりとソニックに目をやったのが見えた。
その次には思い切り放り投げられてしまった。

「受け取れ!」
「!」

キャッチしてくれたのはソニックだった。最初から彼に向かって自分を放り、その後彼女はその場から駆け出した。すぐにロボがその後を追う。
初めから彼女が 標的であったようだ。群集を飛び越えアーケードの先へ消えていく。

「追跡はこの『奔りのアーティスト』に任せなぁ!」

ヘンな言葉を残して隣にいたハリネズミが更に追いかける。とても速い足であっという間に消えてしまった。

彼女は結局何者だったのだろう。エッグマンに付け狙われる妖麗な狼、抱えられたり投げられたりと頭がグルングルンしてて余計なんだかわからない。

ソニックを見れば同じく彼も向こうを見つめていた。下から覗く角度。そういえば冷静に考えてみて今自分は憧れの彼の腕で抱きかかえられているのだ。

「ソニックぅ~。」
「エ、エミーっ抱きつくなって!」

ここぞとばかりにぎゅぅっと抱きついてやる。普段出来ない分余計に強く。すぐ地面に下ろされてしまったが。

「ねぇソニック、さっきの何だったの?」
「わからない。とりあえずアイツ、スフィアが追いかけてるから任せよう。」
「お友達?」
「ああ。」

後方から少年の声がエミーの名を呼ぶ。良く知った狐の少年の。

「エミー、大丈夫だった?」
「テイルスもいたんだ。」

クリームも群集の中から出てきて合流した。そしてここでお互いのいきさつを話した。

「トルネードの部品を買いに、ね。そういうことだったの。」
「どうしたの?」
「ソニックがこうゆうところに来てるのってなんかヘンな感じしない?」

世界を又にかける冒険野朗が話題のショッピングモールへ颯爽と買い物にやってきた。普段の彼の振る舞いを考えるとどこと無く滑稽に思えたのだ。
それは二人も共感してくれて、ソニックだけが不服そうに口を尖らせていた。私と一緒に来るのであればお似合いなのよ。
人混みはいつの間にか平静さを取り戻し店は元の賑わいを見せる。

「とりあえず俺たちは戻るか。テイルス、足りないものはもう無いか?」
「大丈夫。ここのお店ってすごいね、こんなの普通手に入らないよ。」

テイルスもここの品揃えの多さ、そして専門性に少し興奮気味だ。外への通路の途中で見る出口へ向かう人々の顔もまたとても満足げであった。

「エッグマンが関わってくると、また大事になるのかしら。」

エミーたちも、ソニックたちにくっついてスフィアの家へ行くことにした。出来るだけ長く彼の側に居たいのが第一だが、少しでも助けになりたいと願って同行 を決めた。





















































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    エミーの女の子らしさを表現するのに苦労する。どうも硬い文章でいけないな、自分。
    女性キャラの扱いが当面の課題か。