Dr.エッグマン・ロボトニックは国立中央図書館に来ていた。ここは保管図書の数は国内随一なのはもちろんだが、
エッグマンが求めているのは一般向けのものではなく、閲覧や貸出しが禁止、制限されている閉架図書の中の一冊。

予め警備システムに細工を仕掛け、夜間に侵入した。彼のハッキングの技術は、昨日大統領がいつ歯を磨いたという情報さえ掌握する。
国の情報など好きなように閲覧可能だ。
しかしデータベース上に記録がなければ、いくら侵入しても見つかるはずがない。ここにその探し物があるらしい手がかりを得て、わざわざ出向いて来たのだ。

エッグマンは最近になって再度、カオス及びナックルズ族について調べ直している。祖父もかつて研究していたことでもあり、
エメラルドの起源に迫ることが力の真の利用法の解明につながると踏んだのだ。
関連してナックルズ族の盛衰について調査しているうちに、気になることがでてきたのだ。

勢力分布図をまとめてみると空白地帯が認められた。最大勢力を誇ったときにも、そこだけ不自然にぽっかりと穴が空いている。
確かにただ勢力内なだけで足を踏み入れなかった可能性は否定できない、にしてもただの平地にして拠点を繋ぐ直線状にある。
避けて通る理由が解明できない。

「しかしこの天才科学者・ドクターエッグマン様が空白地帯の秘密を見事暴いて見せようぞ。」

かつて他を寄せ付けない軍事力を誇った戦闘民族、ナックルズ族すら遠ざける何かがある。可能性を秘めた未知の領域。
それを突き止め利用することができれば、世界征服への道のりをぐっと縮めることが出来る。そう睨んで本腰をあげて乗り出してきた。

エッグマンが探しているのは、ウルフドッグ族、という少数民族に関係する民族資料。暗闇の図書館から手持ちのペンライトの明りのみで探し出す。
膨大な資料を一つ一つあたるのは骨だったが、エッグマンはそれを執念で遂行する。

「あったぞ、これだわぃ。」
「なるほど、それを探していたのか。」

見つけたと同時に背後から声。凍りつくような電気が背中を走った。見つかった。しかもこの男がいることに全く気付けなかった。警備の人間が来てしまった か。
暗闇に低く広く響く声。
だが冷静にかつ高速で頭を回転させれば、目的はすでに達成、目標物入手、声の遠さからまだ捕らえられる事は無い。ここは脱出することを優先する。
モービルに乗り込むと同時に回れ右して逃走を図る。空中を行く機体は小回り良く人の足より速い。

「その資料が欲しければくれてやる。いや、図書館だけに貸し出しだ。」

男が声を上げる。下らない冗談をと感じたが、追跡される心配は無いとこのとき確信した。

「負け惜しみを。じゃがそう言うのならば遠慮なく借りてゆくぞ。返却期限なしでの。」

最初の発言からも、しばらくこちらの様子を伺っていたことが明らかだった。それどころかこの日に侵入することすら承知のうえでこの場にいた可能性がある。
一体何の理由で、それは今の関心の外だ。エッグマンはまんまと資料を盗み出した。その背表紙にはこう書かれていた。
「The Ethnic Minorities and its Bloody Cultures」。イリデ・ロッソ・リッチオ著、と。

この資料に書かれた一族に着目したのには、古代からの地形変化を計算した結果現代にも存在する、
いや正確には最近まで存在した、彼らの住処が空白地帯と一致したことからだった。
とはいえウルフドッグ族が古代にナックルズ族と同時に存在し、彼らを退けたのかは定かではない。
とにかく何か関連性が無いかしらみつぶすつもりだ。謎が多いほどエッグマンにとって探究心がそそられる良い研究材料である。

基地に帰還しさっそく解析に取り掛かる。持ち帰った資料でさえウルフドッグ族の記述はほんの僅か、すぐに判明したのは簡単な身体的特徴。

「成人で身長約一メートル。体毛は銀ないし白、くせがある。耳はやや長めで正面部分がほとんど下を向いている。
狼犬の名をつけられているが、口先はそれほど尖っていない・・・」

読みながらデータを打ち込んでいく。するとメインモニターに映る球体が見る間に形を変えていく。
大方吊り目で鋭い顔つき、無駄の無い体、身に纏うものは非常に軽装でそれぞれナイフを二本所持し、腰巻のベルトに左側、背中側に据えている。
情報を得る度人型へ成長を遂げる。

粗方のデータを入力し終えモニターに映るそれは見事にウルフドッグ族の特徴を再現していた。その中に佇む彼、もしくは彼女は虚ろな目をして、
背景の余白と体の白さが溶け込み儚げな姿に映っている。

画面を見つめて、唸る。どこか、何かで見覚えがある顔だった。それも最近見たばかりの。記憶を探り、ついに頭の電球が「ピン」と点灯した。

「ハンターの動乱のニュース映像で一瞬映りこんでおった奴に似ておる。もしや・・・」

ソニックやテイルスが駆けつけたことでいやに印象に残っている。すぐに機器からその映像記録を呼び出したった今作成したモデルとを照合させる。
結果適合率87.659%。非常に高確率。これは映像に映るこの人物こそがウルフドッグ族であることを示唆していた。

今から十年前にウルフドッグ族は消失した。
無論その前後の出来事を詳細に調査し、全滅の危機を逃れた個体がいないか探るつもりではあったが、
ひょっとするとその手間が省けるかもしれない。
エッグマンはまた違う端末へ移動するとそれを鮮やかな手さばきで起動処理を済ませ、一機のロボットを呼び出した。

Eシリーズの最新ナンバー「1000000S-MillionS-」、その一号機:コードネーム「ヴェンタス-VENTUS-」。
青を基調とした重厚なボディ、その肩に「M1S」とペイントされている箇所のすぐ下を開くと出入力端子が現れる。

端末とをつなぐケーブルを差し込み、アクセスコードを打ち終えると今度はウルフドッグに関するデータを次々とその機体のメモリーへ転送する。
最後にエンターキーを打つ。するとヴェンタスは目を覚ました。エッグマンは側へ近寄る。

「目覚めはどうかな、ワシがお前を造ったDr.エッグマン様じゃぞい。」

ヴェンタスは周囲の状況を見渡した。やがて視点はエッグマンに定まり、返事の代わりにコンピューターが出す処理音をカチカチ言わせる。

「さっそくじゃが最初のミッションじゃ。お前のメモリーに登録されておる『ウルフドッグ』をここへ連れてきてほしい。なるたけ迅速にの。」

モーター音と共にヴェンタスは地面を踏みしめ外へつながる通路を歩き出した。150kg超の機体が出す大きな足音は一歩一歩遠ざかってゆく。

見送りもせずにエッグマンは資料の解析作業に戻っていた。しかし中々それらしいものが出てこない。
多種多様な民族の風変わりな習慣や儀式などについてまとめられたこの本は、タイトルにあるようにそのほとんどがグロテスクであったが、
ウルフドッグについてまとめて書かれている箇所が見当たらない。先程の背格好の記述にしても、他民族の項目内に比較資料の扱いで載っていた程度であった。

何か恣意的なものを感じずにはいられない。この作者は、偶然手に取った者の目にはただの野蛮な民族の紹介本と映るように編集をしている。
知る人のみこの本の価値と利用法がわかる程度に手がかりをちりばめ、一般の目に触れないようにわざとエグイ表現を多用する題材の中にカモフラージュさせて いる。
そう認識するほどに徐々に自らの血が滾ってくるのが抑えられなくなってきた。

研究者というのは謎とされる領域を穿り回すことを生業としているのだ。同時に意図的に隠された事柄にも敏感である。

隠される理由、意図、目的、作者の考えや作者自身の素性、編集者に出版社、調査が必要な関連事項が山のように積みあがっていく。
実に飽きない研究素材である。エッグマンはひたすら文面に目を走らせ研究に没頭してゆく。





































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    卵のオッサン。懲りないオッサン。盗むオッサン。調べるオッサン。
    冗談とシリアスの出来るすごい使いやすいキャラだ。後の活躍の場も広いぞ。