ハンターズベッドはいま戦場と化している。
GUNの自律行動タイプの戦略兵器・ハンターシリーズをどこよりも多く備え「狩人達の寝床」と呼称されるこの基地は、
そのハンターたちの異常行動により破壊されている。

このことをいち早く知ったマイルス・テイルス・パウアーは暴動の鎮圧助力へ乗り出した。
ガレージから颯爽と飛び出したトルネード号は一路現場へ。そこには凄惨な光景が広がっている。
GUN自身が制圧にビートルなどの軍隊を送り込んだのだが、仲間同士で傷つけあっている戦いは見ていてとても痛ましい。

テイルスは鎮圧に助力すべく空中から射撃して加勢した。
確実に一体ずつ倒していくのだが、飛行機というのは揚力を得るために常に動き続けなくてはならないので、
地上への攻撃には旋回を繰り返す必要性が出てくる。
一体倒して回ってきてからまた一体倒す。これでは効率が悪い。

それを認識したテイルスは操縦席の速度計のすぐ下にあるボタンを押した。二足歩行メカ・サイクロンへ変形するスイッチ。
地上に降り立てば旋回はいらない。サイクロン時に使える武器も強力だ。足を止めることで多少リスクが伴うものの一刻も事態を収束させたい。
着地する手ごろな空き地を見つけホバーリングを利用し降り立った。

敵は多い。地上に降りあちこちから爆発音、金属同士が軋り合う嫌な音、火薬にオイルや燃料の類が出す煙、臭い、熱がし、
それらが嫌にでも感性を刺激する。それらがここは戦場だと強く強く実感させる。破壊されるか、最後まで機能していられるか。
テイルスはなるべくビートルの近くで彼らが破壊されてしまわないようにサポートするよう勤めた。
頭数で押されてしまうと手に負えなくなりそうだったからだ。広範囲をカバーし奮闘した。

健闘を続けるテイルスの視界に見慣れない人物が映った。
陽光を反射して輝く銀の髪を靡かせて、その人物は単身で機械の軍勢に飛び込み、手にしていたナイフだけで次々となぎ倒していく。
素早く、しなやかな動作で敵の間を通り抜けていくといつの間にか機体には鋭い切れ目が入っている。
外殻の支えを失った体は自重に耐えられず中身をむき出しにして崩れてゆく。
攻撃の際体をターンさせ、伸縮を繰り返す手の動きが振り付けのよう。

それは戦場をステージに据えた舞踏。回避時に反ったり屈んだりを繰り返す姿が情熱的で綺麗だ。

その人はテイルスの側に降り立った。音もなくふわりと、しとやかにかつ、たおやかに立ち上がる。
時間の流れがゆっくりに感じられるほど、その様子は優雅で綺麗だった。

「そこの狐」
「は、はい!?」

話しかけられて我に返った。すっかり魅入っていたから驚きついでに声がうわずってしまった。

「その機械、さっき空を飛んでいたな」
「ぅうん!」

彼女の口調は意外と厳しかった。それも手伝ってか体が強張った。そんなテイルスの様子に構わず彼女は続けた。

「私をあそこまで運んで欲しい」

そう言って指差したのは中央管制塔。

「ハンターたちを操っている奴がそこにいる」

きっとその人はこの騒動を起こした張本人だろう。これが本当であればいち早く鎮めることが出来る。テイルスは考えた。
先ほどの彼女の姿―ハンター相手に戦っていた様子―を思えば、この人も暴動を止めに来たと容易に推察できる。
テイルスは彼女を引き入れ一気に飛び立った。


後で考えてみれば、なぜ管制塔で暴動を行っていたのか疑問を持つべきだった。
軍の施設に外部からの侵入は考えづらいし、内部からだとつまり軍の関係者に反乱を起こした者がいることになる。


管制塔付近はより多くハンターが集まっていて、攻撃も激しい。まるで本丸を死守する兵士のよう。だがこれで彼女の言葉はほぼ裏付けられる。

「しっかり掴まってて!」

トルネード号は右へ左へ大きく機体を揺らし降下を開始した。両翼を細かに操り僅かな動きだけで弾をかわす。テイルスの操縦は完璧だ。
無駄のない滑翔は隼を思わせる。
だが最後には操縦桿を目一杯引いた。あまりの弾幕に接近できない。トルネード号は一度急上昇する。

「これ以上は近寄れないよ。」

複葉機は建物上空での旋回を余儀なくされた。後一歩のところ、そこからが危険なのだ。それでも彼女の目は真下を見ていた。

「十分だ、ここでいい」

言うや否や彼女は飛び降りた。躊躇いの無い後姿が一瞬、よく見知った人と重なって見えた。でも彼女は、ソニックじゃない。
あわてて下を覗き見る。彼女は空中でも上手く姿勢を変えながら、弾幕をかわし向こうへ消えた。

機体を急速旋回させ、もう一度突っ込む。攻撃を一点に集中し敵を払いのけて着地点を作りながら砲弾をかわし、
地面との衝突間際でサイクロンへ変形、ホバーリングを全開に する。
着地の衝撃は全身を襲ったが、何とか無事上手くいった。そして包囲を破るため砲撃に入ろうかと顔を上げたときには、機械たちは全て鋭い傷口を露にしてい た。
先に降り立った彼女の仕業だ。彼女が入ったと思われる中への入り口を向く。

この先に暴動を起こした大本がいる。意を決し乗り込んだ。

「よ、テイルス。」
「あれ、ソニック?」

以外なことに建物の中にはソニックがいた。

「なんでここにいるの?」
「テイルスに用があってな、最初は工房に行ったんだ。そしたらちょうどトルネードで出て行くところだったから。」

追いかけて来て、辿り着いたここで大事になっていたのでテイルスと同じくGUNの助太刀をしていた。
するとテイルスがまた飛行を始めこの建物へ向かっていたのが見えて、ハンターたちが上に気を取られていた間に先回りしたとのこと。
ソニックの他に知らないヒトがもう一人いる。

「そっか。でもちょっと待ってね、行かなきゃなんないところがあるから。」
「この中に何かあるのか?」
「ハンターを操っている人物がいるんだよ。さっき女の人から教えてもらったんだ。そうそうソニック、来たときに見なかった?あの人も先に入って行った んだけど。」

二人とも唸るだけなのでテイルスは髪が長くて白い人だよと付け足すと、急に目の色が変わった。

「吊り目の狼か!?」
「え?うん、確かに吊り目だったね。」
「ナイフを使っていただろ。」
「うん、まぁそうだけど、知り合い?」

二人は何かを示し合わせるように頷き、その後ソニックが話し始めた。

「実はソイツのこと関連でテイルスの所に来たんだ。もう一度どうしても会わないといけなくてな。
でもそういうことなら手間が省けるぜ。この中にいるんなら早く追いかけようぜ。」

三人は館内へ駆け出した。

内部は以外にも静かだった。
依然として外から砲撃、爆発は響いてくるが、それ以外の音はない。無音だ。監視カメラ、照明、扉、ガラス、コンクリートの壁、誰も呼吸していない。
そしてコンピューターもだった。三人は中央司令室に来たのだが、そこはすでに機械のほとんどがひどく壊されていた。人は一人もいない。
壁を覆いつくすモニター群のうち数機だけがかろうじて生きていた。

「見ろよ、ハンターの動きが止まってるぜ。」

外を映し出すモニターを見てソニックと一緒にいた、ソニックよりも一回り背の高いヒトが言った。彼らは不自然に腕を上げ静止していた。
構えに入った状態だ。そして無抵抗のままビートルによって吹き飛ばされた。

「どうしたんだろう。」
「きっと操ってた奴がいなくなったんだろう。たぶんさっきの女がよ。」

この部屋を荒らしたのだ。そしてここにいた犯人を追いかけて別のところへ向かった。自分たちは一足遅かったのだ。
ここからハンターを操っていたのに違いない。残骸の部屋から何か手がかりがないか見渡してみた。
画面に白い影が映った。

「あの女だ!」
「ここの屋上みたいだぜ。」

彼女は誰かを追いかけているらしい。もっともその誰かは画面に映っておらず、彼女が何かを目標に見て走っているだけだった。
三人はすぐに彼女のいるところへ向かう。

屋上では彼女がひとり、空を見上げていた。視線を追うと空中に浮かぶ点があった。乗り物。何かの機械。上から声が降ってくる。

「人の楽しみを邪魔しやがって。いいか、俺はずっと苛々してたんだ!低脳連中から指図されるのを我慢していたんだよ。
ようやく暴れていいと許しが出たって言うのにテメェが出車馬りゃがって、まだ半分も済んでねぇんだよ!」
「知ったことか。いいから降りて来い。今なら命までは奪わない」

彼女は抑揚なく言い返した。激昂する男は更に声を張り上げる。

「ふざけんな、誰がのこのこ降りるかってんだ。次に会ったらこんなんじゃ済まさねぇ、あばよ。」

男の乗る丸い飛行機体は高度を上げここを去ろうとした。そのとき女は手にしていたナイフを素早く投げた。移動する機体にそれは突き刺さった。
しかしそれだけでは飛行機体を落とせなかった。男は喚いたが逃げ続ける。

「逃がさない」

女は屋上から飛び降りた。走って追うつもりかと思いきや、次にはエアバイクに乗って現れた。一階の格納庫にあったらしいそれを彼女は拝借したようだ。
彼女らは見る間に遠ざかって行った。

「俺たちも追うぞ!」

ソニックがそう言い、応じてテイルスがすぐにトルネードへ変形しようとしたとき、中のギアが軋み、割れる大きな音がしたかと思うと操縦席が地面に叩き付け られた。
ずん、と大きな衝撃と音。

「サイクロンが壊れちゃったよ。」

テイルスは弱弱しく言い明けた。右の脚部の付け根から折れ、本体が地面に衝突したのだ。
原因は先ほどの急降下からの着地。あのときにかなりのダメージを負ったため再変形時に歪んだパーツが砕けてしまった。
ソニックは焦燥していて、テイルスと女の方を交互に見た。その様子を見て背の高いハリネズミが言う。

「諦めな。もうどこへ行ったかわからない。」

女の姿は遠すぎて見えなくなっていた。ソニックは悔しそうに向こうを見つめる。テイルスは申し訳なさそうな顔をした。
ソニックの同行者は落ち着いて周りの様子を見た。

「まずはその機体、トルネードだって?を直しに行こうぜ。ソニック、あいつを追いかけるのは最初考えた通り、地道にでいいだろ。」

観念したソニックは小さくうなずいた。

「でもこれ、工房に戻らないと直せないよ。」

しかしここからでは工房はとても遠かった。飛べない飛行機を運んで行けるような距離ではない。

「大丈夫だ。もっと近いところにいい場所がある。」

事も無げにグリーンのハリネズミは言う。じゃあどこ、とテイルスは問う。

「俺ん家だ。」
「お前ん家に飛行機入れるガレージなんてあったか?」
「あるある。昔と違って今はデカイ家になってんだよ。」
「じゃあ大丈夫そうだね。申し訳ないけどあなたのガレージを借りるね。」

一行は一路、レインボータウンを目指すことになった。



































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    テイルスのターン。好きなキャラTop3の一角で文章描いてて楽しかった。
    何というか一番共感できるから。次の話はソニックから離れたところへ。