ホームニュース一覧2013

核の飢餓〜核兵器がもたらす人類への脅威

 7月18日、米ラトガース大学のアラン・ロボック教授による公開セミナーが開かれました。主催は核兵器廃絶長崎連絡協議会。

 気候学を専門とするロボック氏は、核兵器による間接的影響について言及。大火災で生ずる大量の煙が太陽光を吸収し、地上の物体が砕け散って生ずる大量の塵が太陽光を反射し、地上に届く太陽光が極めて少なくなる。いわゆる「核の冬」が起こり、世界中の作物が枯れ、人類に多大な影響を与える。

●「核の冬」研究が核軍拡競争を終わらせた

 1983年に米・ソのそれぞれのグループが「核の冬」について同じ結論を出した。これがゴルバチョフに大きな影響を与え、1986年以降、ソ連の核兵器は減った。ゴルバチョフは「核兵器によって地球の命が滅ぶとを知ったことは、行動するうえで大きな刺激となった」と述べている。もちろん反核運動などの影響もあったが、「核の冬」理論が核軍拡競争を止めたとロボック氏は主張する。

●印パの限定核戦争でも深刻な被害

 インド・パキスタンはそれぞれ約100発の核兵器を持ってる。その半分ずつ(世界の保有量の0.03%)が使われたらどうなるか?直接の影響として2000万人が死亡し、これまでにない大きな気候変動が起こり深刻な被害が出る。500万トンの煙が立ち上り、太陽光で暖められ、成層圏まで達する。煙は地球を覆い、10年も留まる。これによって気温が1.2℃低下。また煙があることでオゾン層の破壊が進み、現在の紫外線レベル10が15に上がる。人間と生態系が危険な状況になる。

 一番大きなインパクトは農作物に対する影響。世界全体で米、小麦、トウモロコシの生産量が20%減少し、それが5年間、その後は10%減少が5年間続く。穀物を輸出していた国が輸出できなくなる。現在10億人が慢性的栄養不良で食糧輸入に頼っている。この供給ができないために10億人が飢餓となる。

 これらはモデル計算にすぎないが、1783〜84年のアイスランドのラカギル火山の大爆発によって気候が変動し、エジプトを中心に飢饉が発生。日本の天明の大飢饉の一因ともなった。

●米ロの核軍縮でも「核の冬」が起こり得る

 だが米ロが核戦争を起こした時、たとえ印パの30倍の量(世界の1%)の核弾頭が使われただけで気温は8℃も下がる。米ロ間の新戦略核削減条約が履行されても「核の冬」は十分起こり得る核兵器が残る。しかも計算がより正確になったことで従来の結果よりも長く続くことが判明。「核軍縮・廃絶のみが核による環境破壊の可能性を予防できる」とロボック氏は強調。

●「温暖化防止に原発」は愚かな選択肢

 ロボック氏は、地球温暖化に警鐘を鳴らす国連機関「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が近日刊行を予定している第5次報告書の筆頭著者でもある。この第5次報告書は「核の冬」に言及しているという。そして地球温暖化は太陽光・風力エネルギーで十分防ぐことができる。原発という選択肢は放射性廃棄物、テロ攻撃の対象、核兵器製造につながるなどの問題から愚かなことだと明言した。

(2013年7月20日)