メキシコを「震源地」とする新型インフルエンザの感染が世界中に広がる様相を見せています。世界保健機関は4月30日、世界的流行の警戒水準を「5」に引き上げました。「ヒトからヒトへの感染が少なくとも2つの国で確認され、収束の兆候がなく 世界的な大流行が差し迫っている段階」といいます。日本でも「感染症の予防及び感染症の患者に対する法律」や検疫法に基づいて、「水際」でのウイルス侵入に全力を挙げています。
しかし、いくら民間空港や船舶の検疫を強化しても米軍関係者には適用されません。日米地位協定によって日本の検疫を受けずに入出国できることになっているからです。米兵と軍属及びその家族の数さえ、日本政府はリアルタイムに把握することはできません。
4月30日、佐世保平和委員会と原水協は佐世保市に対して、市民の安全を守るために米軍関係者の検疫強化を要請しました。
山下千秋さん(佐世保原水協理事長)は、「国が水際作戦を強化しているときに、米兵が検疫なしで入国するとなれば、佐世保から新型ウイルスが侵入する可能性がある」と強調し、(1)米軍関係者も水際対策の対象とすること、(2)地位協定9条に、検疫については国内法を適用することを明記するよう改定を政府に求めることを要請しました。
末竹健志副市長が応対し、「96年の日米合同委員会の取り決めで米軍関係者には米軍の法律に基づく検疫措置がとられる」としたうえで、米軍からは「新型ウイルスに対しては米国本土と同じ措置をとる」という回答があったこと、市基地政策局と佐世保基地広報官の間で連絡態勢を整えたことを明らかにしました。また渉外関係主要都道県知事連絡会として、検疫に対する国内法の適用を政府に要望していると述べました。
96年の「人、動物及び植物の検疫に関する合意」では、植物に関しては「合衆国軍隊と日本国政府の権限ある者とが共同して行」うことを定めています。しかし人間の検疫に関しては基地内では「合衆国軍隊の医官は必要なときには、……検疫措置を行う」としています。また民間港・空港では、米軍医官が必要なしと判断すれば日本の検疫を受けずに済みます。
しかも米軍医官は入港艦船と事前に無線で連絡を取り、異常がなければ検査をしないのが日常のようで、日本の民間空港で行なっているような強制検疫が実施されなければ意味がありません。
ドイツでは検疫に関して、「人間、動物及び植物の伝染病の予防及び駆除並びに植物の害虫の繁殖の予防及び駆除に関するドイツの法規と手続は、軍隊と軍属に適用される」と地位協定に明記しています。(ドイツにおけるNATO軍地位協定の補足協定第54条)
そもそもドイツでは基地の使用について、別段の規定がある場合を除き、国内法を原則適用することが明記されています。日本では逆に米軍の行動を特別に保障する例外規定を設け、それでも米軍は国内法を無視するといった由々しき事態になっています。
日本の主権と国民の安全を守るために日米地位協定の改定は待ったなしです。
(2009年5月1日)
佐世保市長 朝長則男 様
新型インフルフエンザから市民の安全を守ることの申し入れ
2009年4月30日
原水爆禁止佐世保協議会 理事長 山下千秋
佐世保市平和委員会 会長 篠崎義彦
メキシコやアメリカで感染が広がっていた豚インフルエンザについて、世界保健機関(WHO)が、人同士の感染が広がっている「フェーズ4」に達したと発表しました。
これを受け、日本政府はこれらの地域での新型インフルエンザの発生を宣言し、水際対策の強化などを決めました。
日本政府も対策本部を設置し、今年二月に決めた「行動計画」や「指針」にもとづいてウイルスの侵入を水際で防止する、検疫対策の強化などを決めました。
国内での感染が確認されていない現段階では、検疫など水際対策を万全にすることが最も重要です。
この点で、懸念されるのが、米軍関係者の入出国が検疫なしに可能とされている問題です。
佐世保市においては、米軍基地に所属する多数の米軍人、軍属、家族が検疫なしに出入国しています。また諸外国において作戦、訓練などに参加した米軍関係者などが「休養や補給」目的でもって多数佐世保にきています。しかし、こうした人々に対して、日本国の法令にもとづいた検疫は行われていません。これらを考えるとき、日本人関係の「水際対策」を万全にやったとしても、これらの米軍関係者への検疫体制が欠落しては、新型のウイルスの侵入を水際で防止することはできません。
佐世保市当局も様々な安全対策を講じられようとしていますが、米軍関係の検疫は、日本の行政の管轄外であることを考慮すると、最も重要な安全・安心対策の一つです。米軍関係の検疫についてただちに特別の体制をとる必要があります。
同時に、米軍関係の検疫を、事実上日本行政の管轄外とする地位協定の見直しも、改めて求めるべきです。
以上のような趣旨から以下要望を申し入れます。
要望事項
人、動物及び植物の検疫に関する日米合同委員会合意(仮訳)
平成8年12月2日 外務省
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第5条及び第9条の実施上、以下に掲げる検疫の手続を適用する。
A.人の検疫
(1)合衆国の船舶又は航空機とは、合衆国及び合衆国以外の船舶又は航空機で、合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運行されるもの、すなわち、合衆国公有船舶、合衆国公有航空機、合衆国被用船舶及び合衆国被用航空機をいう。一部用船契約によるものは、含まない。
(2)合衆国に提供された施設及び区域から日本国に入国する合衆国の船舶又は航空機は、乗船者又は搭乗者の国籍又は地位にかかわらず合衆国軍隊の実施する検疫手続の適用を受ける。
(A)合衆国軍隊の医務部は、合衆国軍隊の実施する検疫業務について責任を負う。
(B)合衆国軍隊は、合衆国に提供された施設及び区域に係る港及び飛行場ごとに、一又は二以上の者(士官である必要はない。)を検疫官として任命する。所轄の日本国の検疫所長(検疫所の支所又は出張所の長を含む。)は、任命された検疫官の氏名、階級及び所属について通報を受ける。
(C)合衆国軍隊の医官は必要なときには、前記の各港又は各飛行場において検疫措置を行う。
(D)合衆国軍隊の検疫官は、検疫伝染病の患者若しくはその死体又はペストに感染した若しくはそのおそれのあるねずみ族を船内又は機内において発見したときは、直ちに所轄の日本国の検疫所長に通報する。
(E)合衆国軍隊の検疫官は、当該船舶又は航空機を介して検疫伝染病が日本国に持ち込まれるおそれがないか、又はほとんどないと認めたときは、あらかじめ所轄の日本国の検疫所長が署名し、委託した検疫済証又は仮検疫済証に所要事項を記載し、担当検疫官の欄に書名の上、当該船舶又は航空機の長に交付する。合衆国軍隊の検疫官は、仮検疫済証を交付したときは、所轄の日本国の検疫所長に通報する。
(3)合衆国の船舶又は航空機が、合衆国に提供されていない港又は飛行場に着くときは、日本国の当該船舶又は航空機を介して検疫伝染病が持ち込まれるおそれがない旨の証明書を提出したときは、検疫済証の交付を受けることができる。
(A)合衆国の船舶又は航空機は、検疫の検査及び許可において優先的な取扱いを受けることができる。
(B)合衆国の船舶又は航空機が、合衆国に提供された施設及び区域以外の港又は飛行場に入るときは、当該船舶又は航空機の長は、検疫に先立って所轄の日本国の検疫所長に通報を行う。
(4)合衆国の船舶は、日本国において最初に港に入港したときから検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けるまでの間、検疫信号を掲げる。
(5)合衆国の船舶又は航空機に検疫伝染病が存在し検疫措置が必要となるときは、合衆国軍隊が、所轄の日本国の検疫所長と協議の上、当該措置を実施することができる。
(6)民間の船舶又は航空機により日本国に入国する合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族が、命令により移動中であるときは、その者の要請により、日本国の検疫当局による許可において優先的な取扱いを受けることができる。
(7)合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族が乗船又は搭乗している民間の船舶又は航空機に検疫伝染病が存在し、それらの者に対して検疫措置が必要となるときは、所轄の日本国の検疫所長は、合衆国軍隊に対し、実施した検疫措置を通報する。
(動物、植物については略)