「9条に根ざした国家」に転換を
井上ひさし講演会 開かれる

 12月16日、長崎県9条の会と9条フェスタ実行委員会の主催で、9条の会の呼びかけ人の一人である井上ひさしさんの講演会が開かれ、約800人が参加しました。

 井上さんは「聖地ナガサキから見た九条」と題して講演し、いま日本が平和国家へ転換する3つの選択肢として、永世中立国、無防備地区の構築、EUのようなアジア連合の中核になることを挙げました。たとえば10年かけて医学立国をめざし、世界の人々に役立つ国になれば他国から攻撃をされないし、「世界の要人が日本の病院に入院すれば、人質にもなる」とユーモアたっぷりに語りました。そして人類史上初めて核戦争を体験したヒロシマ・ナガサキから発信して、政府に環境・平和・9条に根ざした国家を目標とさせ、同じ考えを持つ世界の人々と連携すべきだと訴えました。

 講演の後、県下の9条の会の代表が幟や横断幕を持って壇上に上がり、活動報告やそれぞれの9条に対する思いを述べました。現在、県内の9条の会は33に達しています。

【講演要旨】
 9条のモデルは言うまでもなく「戦争放棄に関する条約(パリ不戦条約」(1928年制定)にある。
 第一次大戦は半年で終わるだろうという予想を超えて、大戦争となり、一般市民も巻き込まれた。戦後、ブリアン仏外相がケロッグ米国務長官に、両国間の争いごとは話し合いで解決するという米仏不戦条約案を提唱した。ケロッグは二国間の条約では不安定なのでこれを国際連盟の下で一般条約とすることを各国に呼びかけた。国際紛争の解決はすべて平和的手段によるものとし、一切の武力使用禁止したパリ不戦条約だ(両者は1929年にノーベル平和賞を受けた)。内容はほとんど9条と同じ。これひとつとっても日本国憲法をアメリカが押し付けたというのはナンセンスだ。

 「憲法守れ」という立場で頑張ってきたが、いまや日本は5指にはいる軍事大国になってしまった。自衛隊25万人+在日米軍5万人を人口で割ると0・25%で中国(人口13・5億人に軍人230万)を抑えて第1位。平和憲法を持つ国で軍人密度が世界一というおかしさがある。
「守れ」だけでは憲法や「9条」を守れなくなってきている。平和をつくり出す一歩を歩みださねばならない。

 日本が平和をつくり出す方向へ転換する方法は3つ考えられる。

1.永世中立
 永世中立国は現在、スイス、オーストリア、リヒテンシュタイン、トルクメニスタンの4ヶ国。その要件とは、戦争を仕掛けない、戦争に参加しない、そしてその態度を他国に認めてもらうこと。それには大きな努力を必要とする。
 スイスでは国連のヨーロッパ本部、世界保健機構WHO本部、国際サッカー連盟本部や平和に関する会議を自国に招致してその費用を出している。オーストリアは国際原子力機構IAEAの本部を置いている。これも一種の安全保障(自衛のための軍隊を持っているが)。
 日本が永世中立国になるなら10年かけて医学立国をめざすのもいいだろう。世界の人々に役立つ国になればで他国からの攻撃をされないし、世界の要人が日本の病院に入院するようになれば、人質にもなる。

2.無防備地区
 これはジュネーブ条約に基づくもので多くの国々は1970年代に批准している。日本は2004年にようやく批准した。無防備地区の条件は、固定された軍事施設がない、職業軍人を置かない、半数の住民が不戦の意思を表明すること。これは空間的に戦争をしない地域を住民がつくるということ。宣言された地区に攻撃を加えると国際法違反となる。
 第二次大戦中、パリ、ローマとマニラは無防備都市だった。ナチスドイツは「抵抗」を受けることなく、人を殺すことなくパリに「入城」した。日本の重慶への無差別爆撃を皮切りに戦時国際法違反が次々と起っている。ゲルニカ然り、原爆投下然りである。本当はいずれも裁かれなければならなかった。
 日本では20近くの自治体で住民が運動を進めている。日常の中で、9条が生きる地域をつくってことは意義があるのではないか。

3.アジア連合
 現在、27ヶ国が結集するEU(欧州連合)は大きな影響力を持ち、国内総生産や商品貿易額、サービス貿易額(観光収入)で世界のトップを占める。また貨幣発行権という国家主権をEUにあずけ、統一通貨ユーロが信頼性を高めている。
 日本は過去の清算をきちんとしてアジアで平和をつくり出す準備をしていくことも必要ではないか。EU、アメリカ、アジア連合の3極構造で世界の平和を守っていくこともいいかもしれない。

 憲法前文の「日本国民は・・・・政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないよう決意し、ここに主権が国民にあることを宣言し、この憲法を確定する」を言い換えると「戦争を起こす主体は政府であり、それを止められるのは主権を持っている国民しかいない」ということだ。

 核戦争のひどさを知っている日本国民。それを生かして、戦争が起らないようにしていく生き方ができるはず。各国で同じことを考えている人がいっぱいいる。その原点を保持して世界と一緒に生きていこう。

 いま世界中で大問題が起きている。現実に合わせる生きる時代はもう終わった。ヒロシマ・ナガサキという史上初の核戦争の体験をベースに世界の人たちが納得する日本独特の価値観を掲げて各国にいる同じ考えの人たちと手を携えていこう。
 日本が国の目標を「環境・平和・9条国家」とする宣言をし、そこにゆっくり近づいていくということになれば、「国際社会において名誉ある地位をしめる」ことになるだろう。