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京都訴訟も勝訴確定
京都訴訟で厚生省は上告期限の11月21日になっても上告せず、原告の高安九郎さんの勝訴が確定しました。厚生省は5連続の敗訴に加えて、「上告できなかった」ことで認定制度の見直しは必至となります。以下、原告・弁護団・ネットワークの声明文を掲載します。
声 明
大阪高等裁判所第三民事部(岡部崇明裁判長係)が、京都原爆訴訟について、二〇〇〇年(平成一二年)一一月七日に言い渡した被爆者である高安九郎さん(ペンネーム・七四歳)の原爆症認定申請を却下した厚生大臣の処分の取消しを認める、高安さん勝訴の判決が、上告されることなく、本日確定しました。
私たちはまず、この判決が、広範な市民による全国的な裁判支援のおかげであることに改めて感謝致します。
同時に、高安さんの主治医が当初から認め、また高安さんが求めた、自らの症状が、原爆の放射線に起因するとの事実の認定を一五年にもわたり違法・不当にも引き延してきた国、厚生大臣に対し、まず第一に謝罪を求めます。
さらに、厚生大臣に対し、判決に基づき、直ちに高安さんを原爆症と認定することを求めます。
私たちは、今回の判決には次のような意義があると考えます。
まず、第一に、この判決は、五五年以上の長期にわたって苦しんできた高安さんの白血球減少症の症状について、事実経過をつぶさに直視し、その原爆起因性を認めています。これは、極めて当然の判断であるとはいえ、厚生大臣に認定を申請して以来、すでに一五年を経過した高安さんの願いに真正面から応えたものであり、高安さんの原爆による被害の一部を回復するものです。
また、第二に、この判決は、厚生大臣が、現在の原爆症認定の拠り所としている「DS八六」の問題点についても指摘し、厚生大臣が運用している現行の原爆症認定のあり方を厳しく批判しています。
先に本年七月一八日に出された長崎原爆松谷訴訟の最高裁判所判決に引き続くこの判決の内容は、厚生大臣がその認定制度運用のよりどころとしている「DS八六」の問題点が巌しく指摘され、厚生大臣が行っている現行の原爆症の認定行政を、被爆者の立場に立ち、根本的な転換を行うことを求めています。
私たちは、厚生大臣が先の最高裁判所の判決及びこの判決で指摘された現行の原爆症の認定制度の違法な運用を直ちに改め、被爆者の実態を正しく反映した認定制度への根本的転換を行うことを求めます。
さらに、東京の東(あずま)原爆訴訟、札幌の安井原爆訴訟等の同様の裁判、異議申立てについても、直ちに原爆症と認定することを求めます。
私たちは、過去の被爆者に対する十分な国家補償の実現がなければ、「ノーモア・ヒバクシャ」の真の実現はできないのみか、「戦後」はまだ終わっていないと考えています。
私たちは、これまでいただいた多くのご支援に心から感謝するとともに、厚生大臣が、国家補償の見地にたって、被爆者の被爆実態を正しく反映した認定制度を確立することを求めて、さらに多くの国民とともに運動を進めることを決意するものです。
二〇〇〇年(平成一二年)一一月二二日
京都原爆訴訟 原告 高安九郎
京都原爆訴訟弁護団
京都原爆訴訟支援ネット
11月7日、京都原爆症認定訴訟の大阪高裁判決が出され、厚生大臣の控訴を棄却し、高安九郎さん(ペンネーム)が京都地裁にひきつづいて勝訴しました。再び厚生省は断罪されました。しかし判決は、損害賠償請求については認めませんでした。以下、判決文の骨子と弁護団の声明文を掲載します。
判決主文
一 控訴人厚生大臣の本件控訴(原子爆弾被爆者医療認定申請却下処分を取り消すとの一審判決に対する控訴部分)を棄却する。
二 原判決中、控訴人国に対して金銭の支払いを命じた部分を取り消す。
三 被控訴人の控訴人国に対する請求(金銭請求部分)を棄却する。
四 訴訟費用は、一、二審を通じて、被控訴人と控訴人厚生大臣との間に生じた分は控訴人厚生大臣の負担とし、被控訴人と控訴人国との間に生じた分は、被控訴人の負担とする。
判決の骨子
一 本件は、広島に投下された原子爆弾の被爆者(昭和四二年ころ被爆者健康手帳の交付を受けている)で、原爆医療法五条の健康管理手当の支給を受けてている被控訴人が、医療特別手当の支給を受けるため、厚生大臣に対し、同法八条一項に基づき、被控話人の肝機能障害及び白血球減少症が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の認定の申請をしたのに対し、厚生大臣がこれを却下したため、被控訴人が、右却下処分の取消しと、この違法な処分によって損害を被ったとして損害賠償を求める事件である。
二 法八条一項に基づく認定をするには、被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)のほか、現に医療を要する負傷又は疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであること(放射線起因性)を要すると解される。
一審は放射線起因性につき、行政処分の取消し請求をする被処分者が、当該疾病が原爆放射線に起因する可能性他の原因によるよりも相対的に高いことを証明した場合は、行政庁が、原爆放射線以外の原因によるとの確か定的な立証をしない限り、放射線起因性があるとの認定をしなければならない、としている。
しかしながら、行政処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は、特別の定めがない限り、通常の民事訴訟における場合と異なるものではなく、高度の蓋然性を証明することを要すると解すべきである。
三 本件において、推定被曝放射線量並びに医学的知見に基づいて検討するに、被控訴人につき、高度の蓋然性をもって、白血球減少症については放射線起因性が認められる(肝機能障害については認められない)から、認定申請を却下した本件処分には違法があり、取り消しを免れない。
したがって、却下処分取消に対する控訴は理由がない、
四 しかしながら、本件申請を却下した昭和六〇年当時の知見によれば、本件申請を却下したことにつき、過失があるとは認められず、不法行為責任があるとはいえない。
したがって、損害賠償請求を認容した原判決を取り消して、右請求を棄却する(なお、却下処分が取り消されることにより、申請時である昭和六〇年からの医療特別手当の支給がなされることになる)。
声 明
大阪高等裁判所第三民事部(岡部崇明裁判長係)は、本日、京都原爆訴訟について、京都地方裁判所の一審判決に続いて、被爆者である高安九郎さん(ペンネーム・七四歳)の原爆症認定申請を却下した厚生大臣の処分の取消しを認める、高安さん勝訴の判決を下しました。
私たちはこの勝訴判決が、広範な市民による全国的な裁判支援のおかげであることにまず感謝申し上げます。
このような多くの市民に支えられ、約二年にわたる控訴審の審理を経て下されたこの判決は、次のように、極めて重要な意義を持つものです。
まず、第一に、この判決は、五〇年以上の長期にわたって苦しんできた高安さんの白血球減少症の症状について、事実経過をつぶさに直視し、その原爆起因性を認めています。これは、極めて当然の判断であるとはいえ、厚生大臣に認定を申請して以来、すでに一五年を経過した高安さんの願いに真正面から応えたものとして、それ自体高く評価できるものです。
また、第二に、この判決は、厚生大臣が、現在の原爆症認定の拠り所としている「DS八六」の問題点についても指摘し、厚生大臣が運用している現行の原爆症認定のあり方を実質的に批判しています。
厚生大臣が行っている現行の原爆症の認定は、認定申請者の被爆地点の爆心地からの距離に基づいて、「DS八六」といわれる放射線推定式に基づいて申請者の被曝線量を推定し、これと申請者の病名を照らし合わせた基準表にあてはめて、推定した線量が基準表の線量に満たないときは認定しないという極めてゆがめられた判断を行っています。このため、多くの被爆者が認定申請を不当に拒否され、認定申請自体をあきらめる被爆者も少なくありません。この判決は、このような現行の認定制度の違法性を指摘する内容になっており、高齢化し、種々の疾病に悩む多くの被爆者を励ますものです。
原爆症の認定については、すでに本年七月一八日の長崎原爆松谷訴訟の最高裁判所判決のなかで、厚生大臣がその認定制度運用のよりどころとしている「DS八六」の問題点が巌しく指摘され、厚生大臣の判断の違法せいがこれまた厳しく指摘されています。今回の判決は、この最高裁判所の判決に引き続き、厚生大臣の原爆症の認定の違法性を指摘したもので重要な意義を持つ内容になっています。
私たちは、まず、国及び厚生大臣が、今回の判決の内容を厳粛に受けとめ、直ちに上告を行うことなく、高安九郎さんの症状を原爆症と認定することを求めます。
また、先の最高裁判所の判決及びこの判決で指摘された現行の原爆症の認定制度の違法な運用を直ちに改め、被爆者の実態を正しく反映した認定制度への根本的転換をはかるべきです。
さらに、東京の東(あずま)原爆訴訟、札幌の安井原爆訴訟等の同様の裁判、異議申立てについても、直ちに原爆症と認定すべきです。
私たちは、過去の被爆者に対する十分な国家補償の実現がなければ、「ノーモア・ヒバクシャ」の真の実現はできないのみか、「戦後」はまだ終わっていないと考えています。
私たちは、これまでいただいた多くのご支援に心から感謝するとともに、厚生大臣が、国家補償の見地にたって、被爆者の被爆実態を正しく反映した認定制度を確立することを求めて、さらに多くの国民とともに運動を進めることを決意するものです。
二〇〇〇年(平成一二年)一一月七日
京都原爆訴訟 原告 高安九郎
京都原爆訴訟弁護団
京都原爆訴訟支援ネット