1.「ミサイル防衛」対応型への工事開始
1隻目の「こんごう」は06年11月10日頃に三菱長崎造船所に接岸し、「特別改造工事」に入りました。
改造工事で接岸したイージス護衛艦こんごう。背後の2隻は新型イージス護衛艦。(06年11月)
06年7月の北朝鮮の弾道ミサイル発射、10月の核実験を受け、「こんごう」の改修工事が3ヶ月早められることになりました。当初計画では08年3月までに、改修工事と日米共同の迎撃実験を終了させる予定でした。しかし政府・防衛庁は北朝鮮情勢を踏まえできるだけ早い前倒し調達を米軍に要求し、3ヶ月前倒しになったものです。残り3隻についてはいまのところ計画通りとなっています。
改造工事ではイージスシステムをベースライン4からベースライン7(フェイズ1)に変更し、BMD3.6戦闘システムを搭載します。購入するSM3は各艦につき9発で、うち各1発は日米合同の発射テストに使われます。
07年5月下旬には試運転などで出入りが激しくなりました。6月15日頃から長崎港の中央錨地に船尾を港口に向けて停泊していました。
長崎新聞は、三菱重工長崎が6月18・19日の両日の午後7時半から午前0時まで、長崎港で護衛艦のレーダー試験を行なうことを報道しました。プロペラ機を飛行させ、レーダーで捕捉できるかを試験するものです。記事には「護衛艦」としか記していませんが、おそらく「こんごう」と思われます。
「ミサイル防衛対応型」への特別改造工事の進むイージス護衛艦「こんごう」。
迎撃ミサイル発射口でクレーン作業を行なっていた(8月9日)。
8月9日頃にはVLS発射口でクレーンを使った作業が見られました。その後も入出港を繰り返し、07年8月22日には長崎港を離れています。この間、米国が日本に共有させる「秘密軍事情報」の保護措置を米国基準と同等にする「日米軍事情報包括保護協定(ジーソミア)」が締結されました。米国はその早期締結に向けた圧力をかけ、米側から弾道ミサイル迎撃に不可欠なソフトウエアや複数の重要部品、さらに取扱説明書などの提供が1ヶ月にわたって滞るという「事件」も起きています。
2.米海軍のミサイル迎撃試験に参加
10月4日にSM3発射テストのために佐世保を出港し、10月15日にハワイに到着しました。
10月12日、防衛省はイージス護衛艦「こんごう」の迎撃ミサイル発射試験を12月中旬にハワイ沖で実施することを発表しました。長崎新聞も、11月上旬にハワイ沖で米海軍による迎撃ミサイルSM3発射試験に参加して米軍の標的を追尾・捕捉する訓練を行うこと、その後、ハワイの米軍基地でSM3を1発を搭載して、12月17日からの週に迎撃試験(JFTM1)を行うこと、米軍がハワイ・カウアイ島の太平洋ミサイル評価施設から発射する標的ミサイルを数百キロ離れたハワイ沖の海上から、「こんごう」がレーダーでミサイルを探知してSM3を発射し、高度100キロ以上の大気圏外での迎撃を試みること、迎撃に失敗しても、新型イージスシステム全体の有効性が認められれば、現地でSM3を搭載して帰国することなどを報道しました。
11月7日、ハワイ・カウアイ島沖で米軍の弾道ミサイル迎撃実験(FTM-13)が行われました。
標的用の弾道ミサイルは太平洋ミサイル評価施設から相次いで2発を打ち上げられ、巡洋艦レイク・エリーのイージス戦闘システムがそれを追跡、約2分後に迎撃ミサイルSM3を2発発射、約2分後に高度100マイル(160キロ)の大気圏外で弾頭の切り離されていないミサイル本体のまま撃墜したといいます。11月7日、ハワイ・カウアイ島沖で米軍の弾道ミサイル迎撃実験(FTM-13「こんごう」は演習の一環として標的ミサイルを確認・追跡しました。続いて迎撃ミサイル(SM3ブロック1A)の発射シミュレーションを行ない、数分後に模擬迎撃に成功したということです。
11月15日、標的ミサイルを追跡する演習が行われました。ハワイ・カウアイ島のバーキング・サンズにある太平洋ミサイル評価施設から標的ミサイルが発射されると、すぐに「こんごう」は弾道ミサイル防衛システム(BMDS3.6)を利用して、標的を確認、追跡しました。つづいて迎撃ミサイル(SM3ブロック1A)の発射シミュレーションが行われ、装置は計画通りに動き、太平洋上空で数分後に模擬迎撃に「成功」したと報じられています。
3.「こんごう」が初めての迎撃試験を実施 コードネーム:星のキジ
左:カウアイ島から発射される標的ミサイル 右:「こんごう」が発射するSM3
(写真は米ミサイル防衛庁のホームページ)
12月18日午前7時過ぎ、「ミサイル防衛」対応型に改造された海自イージス護衛艦「こんごう」の初めて迎撃テスト(JFTM1)が行われ、標的ミサイルの「迎撃」に成功しました。
午前7時05分、ハワイ・カウアイ島の太平洋ミサイル評価施設から標的となる中距離弾道ミサイルが打ち上げられ、「こんごう」は発射と同時に弾道ミサイル防衛システム(BMDS3.6)を利用して、標的を確認、追跡しました。7時8分に発射モードに入り、迎撃ミサイル「SM3」(ブロック1A型)を発射しました。その約3分後、太平洋の高度100マイル(160km)の大気圏外で標的に命中、破壊しました。
標的ミサイルは北朝鮮が保有するノドンを想定した、「発射後にミサイルの推進部分と弾頭部分が分離する」ものだったと報じられています。しかし標的のデータがどの程度まで伝わっていたのか、抜き打ちだったのか否か、「迎撃」の程度は明らかとなっていません。(08年の「ちょうかい」の実験失敗の際に、「こんごう」では標的の発射時刻が予め伝えられていたことが判明した。)
その後、08年1月4日、「こんごう」は帰国し、佐世保基地に「実戦配備」されました。その後、3月26日の海上自衛隊艦船の大規模再編に伴って、「こんごう」は定係港は佐世保のまま、所属は横須賀基地に変更となりました。
4.こんごうのSM3搭載数は2発か?(2008年3月まで)
米会計監査院が行った、Block 2006(06年1月〜07年12月)の間のミサイル防衛のアセスメント報告(GAO-08-506T及びGAO-08-608T)に次のような記載があります(Page 5の脚注)。
The program upgraded all planned ships, but fielded three fewer Aegis BMD Standard Missile-3s (SM-3) than planned because the missiles were delayed into 2008 to accommodate an unanticipated requirement to deliver three missiles to Japan.
この文章は、予定外にも3発のSM3を日本に提供したために、07年末(Block 2006の期限)までの米イージス艦へのSM3搭載数が計画より3発少なくなったと指摘しています。
これは、もともと日本へのSM3提供は08年3月の予定でしが、北朝鮮のミサイル発射を受けて、久間防衛庁長官(当時)が前倒し配備を要請、その結果、3ヶ月早められたという経緯を示すものです。
したがって現時点では日本には3発が提供され、うち1発をハワイ沖での迎撃実験に使用した結果、現在は2発を搭載しているとみることができます。
5.こんごうが初のBMD警備に
洞爺湖サミットの警備から横須賀基地に戻った「こんごう」
洞爺湖サミットの警備の一環として「こんごう」が初めてBMD警備に出動したと見られます。
産経新聞(08年6月29日付)は、「7月7〜9日の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)警備のため、防衛省・自衛隊がテロ対処を目的に創設した陸上自衛隊・中央即応集団を初めて投入することが28日、分かった。北朝鮮からの弾道ミサイル攻撃などに備えるため、迎撃能力を備えた海上自衛隊のイージス艦も、北海道周辺の日本海側に訓練名目で派遣する方針だ」「イージス艦が撃ち漏らした場合は、航空自衛隊の八雲分屯基地に配備した対航空機・巡航ミサイル用の迎撃ミサイル(PAC2)を活用し、2段階での迎撃態勢を敷く」と報道しています。
いみじくも北朝鮮が「核計画の申告」書を提出したことで、朝鮮半島非核化に向けた重要なステップが歩み出され、核・ミサイル、拉致、過去の清算という日朝間の諸懸案を包括的に解決する兆しが見え始めている時期だけに、このような挑発的行為はまさに国益を損なうことにつながるものといえるでしょう。