隣の席から手を取って 4 さっきは私が彼をイカせたし、今はそのお返しをするみたいに彼が私を良くしてくれた。本音を言えばまだ足りないけど、渉は先に一度抜いてしまったから、ここで終わりなのかもしれない。 続きを望めないことに、貪欲な身体が震える。お腹の奥の疼きをごまかそうと無意識に足をすり合わせたところで、両方の膝頭を掴まれた。 「わた、る?」 ゆるゆると目を開け、足元に視線を送る。私の両足を大きく開かせた彼は、間に身体を据えて、足の付け根を覗き込んだ。 「こんなに濡れてキラキラして。珠のように綺麗な女の子ですね」 渉はさっきの私の真似をして、恥ずかしい場所を褒め称える。 「やっ、やだ。やめっ」 思わずキッと睨みつけると、してやったりと言わんばかりの笑みを返された。 「ね、茶化されたら嫌でしょ。まあ彬子さんのここは本当に綺麗だから、嘘ではないですけど。かじりつきたくなるくらい色っぽくて、ドキドキします」 かじるって……まさか。 うっとりとした彼の言葉と注がれる視線で、次に何をされるのかわかってしまった。思わず頬が引きつる。 「あ、あの、ありがとう。凄く気持ち良かった。もう充分だから、今日はいいよ。渉も私に付き合わされて疲れたでしょ?」 内心で焦っていることを悟られないように、さりげなく終わりを促す。 笑みを浮かべて雰囲気を和ませつつ、枕の方に這いずって身を引いたのだけど、足首を掴まれて無理矢理引き戻された。 「なんで逃げるんですか。やっぱり俺じゃダメ?」 淡々とした物言いとは裏腹に、渉の目に不穏な影が映る。嫌な寒気を感じて、私は慌てて首を横に振った。 「違う、の。渉が嫌なんじゃなくて、そこを見られるのは苦手っていうか」 しどろもどろに言い訳をすると、彼は不思議そうな表情で首をかしげた。 「え。でも、セックスの経験はあるんですよね。指でいじられるのもかなり好きみたいだし」 あけすけな渉の言葉に、ぐっと喉が詰まる。 確かにそこそこの経験はあるし触られるのも好きだけど、他のやり方……まじまじと見られたり、キスされたり、舐められたりするのは遠慮したかった。 「彬子さん」 ちょっと低い声で名前を呼ばれ、睨まれる。 「うぅ」 言い逃れが許されない雰囲気を感じて、ぽつりぽつりと真実を告げた。 私の話を聞き終えた渉は、ますますわからない顔というをして眉を寄せる。 「……どうしても嫌だって言うならしませんけど、なんで? 彬子さんは俺のを口でしてくれたのに」 「い、嫌っていうより、慣れてなくて、少し怖いの、かも」 「はい?」 私が突然、弱々しいことを言い出したからか、彼は唖然として目を瞠った。 「あ、だ、だってあんまりされたことないし。男の人と違って隠れてるから汚れやすいと思うし」 元カレの気が向いた時に、何度かされたことはある。でも慣れなくて緊張していたせいか嫌悪感が先に立ってしまい、あまり良くなかった。 追及されるまま全てを白状すると、渉は大げさに肩を落として溜息をついた。 「そんなの相手がヘタクソだっただけでしょう。しかもちゃんとしたセックスもできないくせに、彬子さんを貶めて泣かせて……腹立つ」 凄く怒っているらしい渉は眉間に深い皺を刻んで、元カレをばっさりと切り捨てた。 ずっとバカにされていたわけじゃないと説明した方がいいのか悩む。実際、元カレは私を放って若い女と浮気するような奴だったけど、関係が円満な頃もあったから。 でも別れた男のフォローをするなんて変な感じだ。 もうこの先会うことはないだろうし、あいつが誰にどう思われようと知ったことじゃない……と思いはじめたところで、急に両足を持ち上げられた。 「えっ!?」 びっくりして足を戻そうとしたけど、膝の裏を押さえられているせいで叶わない。おむつを換える時の赤ちゃんみたいな格好にされて、私は腕で顔を覆い隠した。 「やっ、やだってばぁっ!」 「大丈夫。怖がらないで。俺がちゃんと気持ち良くしますから」 渉の優しい声が届くのと同時に、割れ目の上に柔らかくて温かいものが触れる。その慣れない感触が彼の唇からもたらされているのは間違いない。 反射的に身を縮めた私をなだめるように、渉の舌が秘部全体をそっと撫でた。 一度昇り詰めたおかげで滴る蜜と彼の唾液が混ざり合い、かすかな水音を立てる。ひたすら優しく触れてくる舌がもどかしいような疼きを生み出し、私はぶるりと震えた。 「う、あ……」 「ちょっとは良いみたいですね」 渉は足の付け根に顔を埋めたまま、ふっと笑う。彼の吐息が秘部に当たることで、今されていることをまざまざと突きつけられた。 「あ、やだ。しゃべらないで」 本当は息も止めておいてほしいけど、そこまで無茶は言えない。 もう一度小さく笑った渉は、割れ目の溝をペロリと舐め上げた。 「じゃあ、彬子さんが手でここを広げていてくれます?」 「へ、なんで……?」 唐突なお願いに目を瞬かせる。いったい何が「じゃあ」なのか。 「えーっと、彬子さんの手を見ると、しゃべるのも忘れるくらい興奮するから?」 今、適当に考えたとしか思えない、こじつけっぽい理由を挙げられ唖然とした。というか、渉が手フェチだということをすっかり忘れていた。 「それ……見たいだけでしょ」 腕を除けて、呆れ顔を彼に向ける。上目遣いで私を見上げた渉は、きらっきらの笑顔でうなずいた。 「はい。あと一緒に指も舐めたいです」 そんな爽やかな表情で堂々と卑猥なことを言われても困る。しかもちょっとヘンタイっぽい。 「絶対やだ」 即、却下すると、渉は拗ねたように口を尖らせた。 「それじゃ、ここがどんなふうになっているか、いちいち説明しながらするからいいです」 「何それ!」 要求を呑まない私に対するあてつけだろうけど、意味がわからない。私の足の間からぐっと身を乗り出した彼は、眉を八の字にして目をうるうるさせている。 「だからお願い、彬子さん」 「って、なんでそんなに口でしたがるの。そんなに手が好きなら、手を繋いで普通にしたらいいじゃない」 手を繋ぎながら……なんて凄くラブラブな感じで恥ずかしいけど、自分で割れ目を広げて一緒に舐められるよりははるかにマシだ。 私から疑問を向けられ、渉は思案顔で首をかたむけた。 「んー。それは確かに魅力的だし、あとで絶対にしますけど、今は舐められて良くなってる彬子さんが見たいんですよね。で、一緒に手も味わいたい。それに口でされるのが気持ち良いって教えてあげたい。前の奴よりも誰よりも、俺が一番良いって思わせたいというか……」 「わ、わかった。わかったから」 途切れなく溢れる彼の想いを、慌てて遮る。 そこまで好きでいてくれることは本当に嬉しい。けど、かなり恥ずかしい。 たぶん今、私は真っ赤になっているんだろう。首から上が熱くて、耳の奥がどくどくと脈打っていた。 彼の顔を見続けていられずに、目をそらす。 渉は押さえていた足を元に戻して、私の右手を秘部へと導いた。 「はい、どうぞ」 「……ほんとにするの?」 「さっき、わかったって言いましたよね。あ、反対の手は太腿の裏を掴んで、足が閉じないようにして」 抵抗する余地がないほど嬉しそうに念押しされ、何も言えなくなった。 今まで気づいていなかったけど、渉はけっこう強引な性格らしい。あととっくに知っていたけど、本気でフェチいきすぎてる。 呆れ混じりの投げ遣りな気持ちになった私は、彼が望むまま足を大きく開き、右手の指で割れ目を広げた。 新たな快楽を期待した身体は、私の意志なんておかまいなしで滴をこぼし、ヒクヒクと震える。渉が息を呑む音がはっきり聞こえた。 「ああ、凄く綺麗だ……彬子さん」 わざわざ確認しなくても、彼の視線が注がれているのを感じる。 「や、やだ。あんまり、見ないで」 見たいと乞われてしたことなのに、見るなというのはおかしいとわかっているけど、恥ずかしすぎてそう言わずにはいられなかった。 チュッと音を立てて、渉が吸いついてくる。開かれた襞と彼の唇が触れ合った瞬間、私の口から喘ぎが漏れた。 「……ぁ」 気持ち良いような、怖いような、ゾクゾクした痺れが湧き上がる。渉は形を確かめるようにゆっくりと舌を這わせて、一番敏感な突起に吸いついた。 瞬間、ビリッと激しい感覚が突き抜けた。 彼は勝手に跳ねる腰を片手で押さえつけ、なぶられて膨らんだ肉芽に舌先をぐりぐりと押しつける。硬すぎず、柔らかすぎない感触に、私は大きく頭を振った。 「あっ、あ、いや……だめぇ、渉……っ!」 信じられない速さで体内の熱が上がっていく。舐められている場所からは痛みを伴った激しい快感が響いていた。 とっさにベッドを蹴って刺激から逃れようとしたけど、渉の手に止められる。気持ちが良すぎて、苦しくて、目に涙が浮いた。 「んあぁ、熱い、よ……も、やぁっ」 突起の表面を撫でられるたびに、秘部がビリビリと痺れてわななく。外から与えられる快楽が大きくなるに従い、内側も熱を求めて収縮をくり返した。 欲しい。彼の熱情が。 涙をこぼし、だらしなく喘ぎながら、私は本能的に腰を震わせた。 「あ、もう、もう入れて……中に、ほし……渉の」 熱に浮かされ、激しい鼓動の音に耳を塞がれて、自分でも何を言っているのかはっきりわからない。ただ彼が欲しいと夢中でくり返していると、顔を上げた渉が乱暴に口元を拭った。 「彬子さん、ずるい。またそうやって俺のこと煽りまくって。もう一回イカせるつもりだったのに」 ……また、ってなんだろう。 よくわからないことを言う彼に疑問を感じたけど、熱くほてる身体に引きずられて、思考が散り散りになっていく。 渉はちょっとムッとしながらベッドの下へ手を伸ばし、取り上げたコンビニの袋の中から小さな箱を出して、残りをまた床に放った。 彼の手の中にある見慣れたパッケージの中身が、避妊具だということはもちろんわかってる。なければ困るんだし、あった方が絶対に良いんだけど、渉がそれを用意していたことに驚いた。 でもなんで買ってきたまま袋に入れっぱなし……? 以前の使い残しではなさそうだし、いつか使うつもりで買ったにしても放置しておくってどうなんだろう。 些細なことだけど、しっくりしない展開に頭を悩ませていると、準備を終えたらしい渉が覆いかぶさってきた。 触れ合う肌に不思議な安心感を覚える。無意識に渉へ向けた右手に、彼の左手が重ねられた。 しっかりと指を絡めて、ほうっと溜息をつく。 手にこだわる彼の気持ちがわかったような気がした。本当にほんのちょっとだけ。 秘部に待ち望んでいたものが当たる。思わず身を固くした私の頬に、渉は優しいキスをくれた。 「いきますね」 ささやくような宣言に続いて、割れ目の溝が押し開かれていく。 「あっ、渉……」 ちゃんと濡れているから抵抗はないけど、入り口が限界まで広げられているせいでピリッと痛む。繋いだ手に力を込めると、同じくらいの強さで握り返された。 「……彬子さん」 凄く興奮しているらしく、渉の声がかすれてる。一度落ち着いたはずの彼のものは、はじめに見た時よりも張り詰めていて、私の内側をさいなんだ。 ゆっくりと奥まで進んで、これ以上は無理だというところでお互いの下腹部がぴたりと重なった。ありえないくらい深くまで彼が入り込んでいる。 「うー……ちょっと、大きすぎるってばぁ。もうっ」 そんなことを言われたって渉も困るだろうけど、ぎちぎちで苦しくて、文句を言わずにはいられない。 彼は少しだけ申し訳なさそうに眉を寄せたあと「すみません。でも慣れて」と返し、腰を揺すりはじめた。 ちょっと動かされるだけでも隙間なく粘膜をこすられ、甘苦しい感覚が広がる。一番奥を小突かれるたびに、お腹と腰の間がぞくりと震えた。 僅かに引きつれるような痛みを感じるけど、それ以上に気持ち良くてたまらない。快楽に呑まれた私は、恥ずかしいのも忘れて彼の動きに同調していた。 「はぁっ、あ、いいっ……あぁ、渉、気持ちい……!」 「あ、俺も……凄く、いい」 同じくらい溺れているらしい渉が、荒い呼吸をつきながら、がつがつと腰を打ちつけてくる。 私たちが交わるはしたない水音に混じって、安っぽいパイプベッドの軋む音が室内に響いていた。 激しい快感に晒され、もう目を開けていられない。 きつく眉を寄せて仰け反り、重なっている手を強く握り締める。たぶん渉の手の甲に爪が食い込んでるだろうけど、そんなことにかまう余裕はなかった。 「やあぁ……また、イク……あ、だめぇ、もうっ」 夢中で首を横に振り、最後を告げる。 最奥へ荒々しく突き入れられたのをきっかけに、私は限界を超えた。 「ひぁっ、あ、あぁっ、んんー……っ!!」 言葉にならない叫びが喉の奥から迸り、ガクガクと全身が痙攣する。 溜まりきった感覚が弾けて朦朧としたのも束の間、続けて内側から湧き上がる震えに意識を引き戻された。 「やっ、いやあ、イッたからぁ! 待って、やめてぇっ」 昇り詰めたばかりの身体をさらに責められるのは、気持ち良いより苦しさが勝る。 ぼろぼろと涙をこぼし、無理だ、限界だと言っているのに、彼は止めるどころか、ますます抽送の速度を上げた。 「はぁ、は、ごめ……ごめん、彬子さ……止まんな」 ぐちょぐちょというか、ぶちゅぶちゅというか、とにかく繋がり合う場所から凄い音がしている。謝るくらいなら止めろ、と叫びたいけど、喘ぎで喉を塞がれ言葉にならなかった。 「んあっ、あぁぁーっ!」 また達した身体がビクビク跳ねる。 結局、何度も何度もイカされ本気で泣き出しても、渉は私の身体を離さなかった。 3 ← → 5 |