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 隣の席から手を取って

 3

 混乱でぼんやりしていた意識が覚醒する頃には、裸に剥かれて抱き締められていた。もちろん間々田くんも全裸だ。
 こういうところでも仕事が速い、とか、またおかしな感慨を抱いた。
 あったかい人肌に包まれるのは、凄く気持ちが良い。素肌の感触を懐かしく思った私は、元カレとかなりご無沙汰だったことに今さら思い至った。
 あいつにとって私はもう女じゃなく、ただの邪魔なお荷物だったんだろう。
 屈辱的な事実に気づいて少しだけやるせない気持ちになったけど、不思議と胸は痛まない。触れ合う間々田くんの身体から優しい気持ちが伝わってきて、元カレの存在が凄く遠くなっていた。
「ねえ……本当にいいの?」
 間々田くんの胸に額をすりつけて、とまどいを口にする。
 少し身体を離して私の顔を覗き込んだ彼は、ちょっと不機嫌そうに眉を寄せた。
「何がですか。今さら嫌だとか言われても止めませんけど」
「そ、そうじゃなくて。こんな女に好きとか言っちゃってさ。しかも私、昨日失恋したばっかりなんだよ?」
 傷心のアラサー女にそんな情熱的なことを言ったら、すぐに落ちてしまう。冗談なんて通用しないくらいがっちり食らいつかれて、後戻りできなくなってもいいのだろうか。
 私の問いかけに一瞬気まずそうな顔をした間々田くんは、深く息を吐いてパッと笑みを浮かべた。
「彬子さんが弱っているところに付け込むのは俺もずるいと思います。でもそれであなたが手に入るなら、卑怯でもなんでもいいです」
「え、や……」
 そういうことを聞きたかったわけじゃない。けど、想像していたよりもずっと深い愛情を向けられ、私は何も言えなくなった。
 顔が熱くなりすぎてビリビリする。とっさに手で顔を隠そうとしたけど、先まわりした彼が手の甲に唇を押し当てた。
「好きです。全部、俺にください」
「間々田くん」
 まっすぐな愛情表現に、私の気持ちも高ぶっていく。ぽーっとなりながら彼を見つめて名前を呼ぶと、言葉を遮るように人差し指を唇の上に当てられた。
「名前で呼んで」
「あ……わ、渉くん……?」
 慣れないせいで、おそるおそる彼の名を声に出す。間々田くんは子供みたいに顔をくしゃくしゃにして、二ッと笑った。
 初めて見た表情に、胸の鼓動が加速していく。
 こんな顔もするんだ……って、だからまずいってばー!
 心の奥からどんどん溢れてくる愛おしい気持ちを抑えるために、ギュッと目をつぶる。合わせて引き結んだ唇に、柔らかい温もりがそっと触れた。
 何度も何度も、啄むように触れては離れる。間近に感じる間々田くんの気配と吐息で、キスされているとわかった。
 さっき彼にもっと凄いことをしたくせに、キスくらいでごちゃごちゃ言うなって感じだけど、やっぱり緊張してしまう。
 息苦しさを感じて少しだけ口を開けると、すかさず間々田くんの舌が中に入ってきた。
「んぁっ」
 隙間をこじ開けるように深く舌を挿し入れられ、思わず喘ぐ。彼は普段のちょっとぼんやりした態度からは想像できないほど大胆に舌を絡めて、私の唇を吸った。
 どうしよう、気持ち良い……。
 思っていたよりもキスが上手くて、クラクラしてくる。すっかり彼のペースに乗せられた私は、いつの間にか夢中で唇を合わせていた。
 キスを続けながら、お互いの身体を確かめるように撫で合う。
 私がおずおずと背中へ腕をまわす間に、間々田くんはためらいなく胸の膨らみに触れ、お腹に臍、足の付け根へと手を這わせた。
 やっぱり仕事が速い、と思ったのは内緒。
 彼は指先で割れ目を開いて、中の襞の間を撫で上げる。もう外に溢れるくらい潤っているそこは、彼を呑み込もうと蜜を滴らせながらひくついた。
 びっくりしたようにパッと顔を離した間々田くんは、私の秘部を探りながら顔を覗き込んでくる。
「うわ、ここ凄いトロトロ。もしかして、俺の舐めながら感じちゃいました?」
 思わず身体が強張る。口でするのが好きなわけじゃないけど、悶える間々田くんの姿に興奮していたのは事実だった。
「そ、そんなこと、あるわけないでしょ」
「ふうん。まあ、えっちな彬子さんも好きなんで、嬉しいですけど」
 否定したはずなのに、あっさりと流される。自分でも白々しいのはわかっていたから信じてもらえなくてもしかたないけど、こういうことをしている時の間々田くんはちょっといじわるだ。
 恥ずかしさから、つい睨んでしまう。間々田くんは何を思ったのか、とろけるような笑みをみせて「可愛い」とささやいた。
 そんな言葉は元カレにも言われたことがない。目が悪いんじゃないのかと心配になったところで、襞をなぞっていた指が中に入ってきた。
「あ、いっ……!」
 久しぶりのせいか、しっかり濡れていてもピリッと痛みが走る。私が身をすくめたのに気づいて、間々田くんはハッと目を見開いた。
「え……彬子さん、慣れてない?」
「ち、違う。けど、しばらくしてなかったから。……その、お互い仕事が忙しくて、なかなか時間が合わなかったし。長く付き合っててそういう雰囲気になりにくかったっていうか」
 もっともらしい言い訳をぼそぼそと並べる。自分でもさっき気づいたばかりだけど、セックスレスに陥っていたと告げるのはみっともなくて居たたまれない。
 確かに会う時間は減っていたけど、結局その原因も元カレの心が離れていたせいなんだろう。別の女と浮気をする暇はあったのだから。
 でも、間々田くんには見栄を張っておきたかった。
「ごめん、彬子さん」
「えっ」
 彼の口から出た唐突な謝罪に、今度は私が目を剥いた。
 間々田くんは気まずそうに、私の胸へ顔を埋める。
「こういうことをするのが久しぶりって聞いて、ちょっと嬉しいです。前の奴があなたより仕事を優先していたことは許せないし、彬子さんが寂しい思いをさせられていたのもわかっているけど、俺だけのものって感じがしてたまらない」
 いつもの彼からは想像できない強すぎる独占欲を向けられ、また胸の奥がざわめいた。
「間々田くん……」
「名前で」
 つい癖で苗字を口にすると、すかさず指摘された。
「あ、うん。渉くん」
「くん、いらない」
「……渉」
 間々田くん……じゃなくて渉は、言い直した私を見つめて嬉しそうに微笑む。ごまかしようがないくらい心臓がドキドキして、頬が熱くなった。
「これからは俺がずっと傍にいます。寂しくなんてさせません。いっぱい気持ち良くなってください」
 まっすぐな彼の想いに、ぽかんとしてしまう。はじめから疑っていたわけじゃないけど「これから、ずっと」なんて言われたことに驚いた。
 嬉しく思うのと同時に、不安も湧き上がる。年上で、アラサーのがけっぷちで、元カレに見向きもされなくなった私が渉の隣にいて、本当にいいのだろうか。
 ためらいを言葉にするより速く、胸の先に痛みと紙一重の鋭い快感が走った。
「あんっ」
 反射的に強張った身体に、ピリピリした痺れが広がっていく。驚いて見れば、渉が膨らみの先端に舌を這わせていた。
 彼はそこを強めに吸い、舌先で突いて、ゆるく噛む。ご無沙汰な私にその刺激は強すぎて、身をよじりながら声を上げた。
 乳首をいたぶるのに合わせて、何かを探すように中の指が動かされる。溢れる蜜がかき混ぜられて、クチュクチュと水音が立った。
「あ、あ、それ……気持ち、良い……」
 うわ言のように私の口から喘ぎが漏れる。一旦、胸への刺激を止めた渉は、ふっと微笑んだ。
「両方されるの、好きなんだ」
「う……」
 暗に「いやらしい」と言われた気がして口を閉ざした。彼の指摘のとおり、私は胸と中を一緒にいじられるとすぐに良くなってしまう。
 無意識とはいえ弱点を自分から晒したことが悔しくて恥ずかしくて、私は顔を背けた。
 上から悩ましげな溜息が降ってくる。
「彬子さんさー、さっきは俺のことあんなにエロく責めてたのに、自分がされるのは恥ずかしいとか、なんなの」
 なんなのって言われても、こういう性格なんだからしかたない。
 不満げな渉の様子に、何がまずいのか頭を悩ませた。
 年上だし、昨日まで彼氏がいたんだし、いきなり手で慰めてあげるとか言ったり、口でしちゃったりするから、床上手のイケイケでリードしてもらえると思っていたのに話が違う……とか?
 さっきまでの私の行動は、そう思われてもしかたないくらいいやらしかった。
 あれは雰囲気に呑まれたというか、介抱してくれたことへのお礼がいきすぎたというか。とにかく普段はあんなこと絶対にしない。
 弁解したくて渉を見上げたけど、彼はギュッと眉を寄せ、絞り出すような声で「ああもう、可愛すぎる」と漏らした。
 さっきよりも大げさな褒め言葉を向けられ、唖然とする。しかも嫌そうな表情で。
 ……えーと、どういうこと?
 繋がらない彼の発言と態度に混乱していると、また胸の膨らみを舐められた。
「ひゃっ」
 ぼーっとしていたせいで、突然の刺激に身体が跳ね上がる。驚いて身を固くする私にかまわず、渉は激しく乳首を吸い立てて、秘部の奥に入れたままの指をちょっと乱暴に抜き挿しした。
 震えるほど強い快感が駆け抜け、大きく仰け反る。拡げられることに慣れはじめた内側が、彼の指を切なく締めつけた。
「あっ、あ、あーっ……だめぇ、渉……良すぎる、からぁっ」
 恥ずかしくて抑えたいのに、指の動きにつられて声が溢れてしまう。絶え間なくなぶられる膨らみからも、気持ち良い感覚が響いていた。
 全身がギュッと強張り、痙攣し出す。最後が迫っていることに気づいた私は、ブルブルと首を横に振った。
「やぁ……イッちゃ、ぅ」
 強引に高みへと押し上げるように指が深くまで入り込み、強く胸の先を噛まれる。痛みと快感が一気に押し寄せ、バチッと弾けた。
「い、あっ、あぁ……っ!」
 きつく閉じた瞼の裏にパッと閃光が広がった。力みすぎて震えていた身体が限界を超え、がくんと脱力する。
 白い光に包まれたまま、瞼を上げることもできずに荒い呼吸をくり返す。絶頂の余韻でぼーっとしていた私は、渉が身を起こしたことに気がついた。

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