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 ガラスの靴の行方

 7
 王子とのダンスを終えたミュリエルは、やはりどことなく機嫌の悪いギュンターに連れ去られるようにして、王宮を後にした。
 もともと王宮主宰の舞踏会へ参加することに気後れしていたミュリエルは、早々に退出できてほっとしたが、ギュンターはこれで良かったのだろうかと不安にもなった。
(……彼は多分……本物の王族なのだし……)
 上手く表現できないもやもやが、胸の中にわだかまっている。
 どうして彼が王族なのかも、何故魔法使いなのかも、自分の元へ参じてくれた理由も、未だ全て霧の中。明確な答えを求める気持ちはあるが、尋ねて良いものなのかをミュリエルは判断できずにいた。
 王宮から、さして離れていない侯爵邸までは、ゆっくり進んでもすぐに着いてしまう。屋敷の前で開かれた扉を見たミュリエルは、こうして何も知らされぬまま、明日の朝にはここを出て行くのだろうと思った。
 ギュンターに手を引かれ馬車を降りたミュリエルは、屋敷とは違う方向に歩き出す彼に首を傾げた。
「ギュンター様?」
「早く戻ってきてしまったから、少し話をしよう。貴女にお見せしたい物もあるし」
 不思議には思ったものの、断る理由も無いので素直に頷く。
「……はい」
 ミュリエルは、まだ共にいられる事を単純に嬉しいと感じる反面、硬い表情をした彼に違和感を覚えた。
 屋敷の前にしつらえられた庭をぐるりと迂回すると、夕べギュンターと踊った石畳の中庭へと繋がっていた。昨日と同じように置かれたランタンの幻想的な明かりを目にしたミュリエルは、夢のようだった一時を思い出し短く息を吐いた。
 促され、ベンチへと腰掛ける。ギュンターは少し離れた位置にある石柱に背中を預け、こちらを見ていた。
「……ライナルトから、何か聞いた?」
 唐突な核心を突いた質問に、ミュリエルは目を見開き、ばっと顔を上げる。条件反射とはいえ「聞きました」と言わんばかりの反応を返してしまった事を恥じた。
「う……」
 居たたまれなさから赤面し、俯く。
 ミュリエルの考えを読んだらしいギュンターが、可笑しそうに肩を震わせた。
「いや、隠さなくても良い。私は君のそういう素直なところが好きなんだ」
「!」
 びくっと震えたミュリエルは、下を向いたまま強張った。頬が焼けるように熱い。強い鼓動のせいで身体全体が跳ねているような気がした。
「ふむ。ライナルトがどこまで話したかはさておき、最初から説明しようか」
 ギュンターはそう言うと、もたれていた石柱から離れミュリエルの前で正式な貴族礼を取った。
「初めてお目にかかります、レディ。我が名はグントラム・アウデンルート。北方都市アディンの領主にして、アウデンルート侯爵家当主にございます」
「……ご当主、様……?」
 彼が王族だと聞いた時から、ある程度、地位のある人だろうとは思っていたが、よもや侯爵本人とは思っていなかった。
 驚きでミュリエルが目を見張ると、ギュンターは苦笑してからベンチに腰掛け、頭の後ろで腕を組んだ。
「ああ。母は子供の頃に、父は私が16の時に他界して、兄弟も無いから、私が当主を勤めているんだ。それからギュンターというのは偽名ではなく、昔からの愛称なんだよ」
「そうでしたの……」
 位や環境は違えどギュンターの生い立ちに自分と似通ったところを見出したミュリエルは、幼くして親を亡くした彼に心を痛めた。
「……で、もともと王家の遠縁だったアウデンルート家の娘である母の元に、王弟である父が婿に入ったので、国王陛下が伯父上、王子殿下は従兄弟にあたる。まぁ、ライナルトはどちらかというと幼馴染に近いかな」
 確かにそう言われれば、舞踏会での国王の視線も、王子の気安さも納得できた。
 しかし王族の一員であり、領主である彼の立場では、魔法使いにはなれない。それに、遠方にいるはずのギュンターが農村に住まうミュリエルを尋ねた事も理解ができなかった。
「……ギュンター様は、魔法使いでは無いのですか?」
 ミュリエルの質問に、ギュンターは声を上げて快活に笑う。
「いかにも私は魔法使いでは無いし、実は精霊の声も聞く事ができない。嘘をついて申し訳無かった……騙されたと怒るかい?」
 今まで知らされていなかったとはいえ目上の者に謝罪されたミュリエルは、恐れ多くてぶんぶんと首を振った。
「いいえ。不満に思っているのでは無いのです。ただ……どうして、魔法使いなどと言われたのかと不思議なだけで」
「そうでも言わなければ、貴女を連れ出す事ができなかったからね。ミュリエル、私は大気に溶けているという精霊の声は判らないが、貴女を想いやる心優しい者たちの声は聞く事ができるのだよ」
「え?」
 聞き返したミュリエルに、ギュンターは優しく微笑む。
 折りしも庭園を吹き抜けた風が、梢を揺らしざわざわと音を立てた。
 これよりももっと穏やかな、耳慣れた葉擦れの音が脳裏に蘇る。緑の海の中に建つ小さな屋敷と、卑屈だった自分を見捨てる事無く、共にいてくれた暖かい笑顔たち……。
「……先ほども言ったが、早くに母を亡くした私は、当時家で働いていたメイドの一人を家族のように慕っていてね。勝手に母の代わりと思い込んでいた。しかし彼女には王都に住む老いた両親がいて、彼らが病を得たのを機に辞めてしまったんだ」
 誰かに話しているというよりは、独り言のようにとつとつと語られるギュンターの言葉を、ミュリエルはただ黙して聞いていた。
「父も他界し、当主になった私は彼女を探した。その頃とうに両親を看取っていた彼女は、王都で、ある伯爵家のメイド頭として働いていて、そこには私と同じように母を亡くした幼い娘がいるらしい。それで、私は彼女を呼び戻すのを諦めた」
「それは……」
「貴女と、ドリーンの事だ。ミュリエル」
「……!」
 知らなかった事実が次々と明かされていく。驚きすぎて言葉の出ないミュリエルは、呆然とギュンターを見つめた。
 そっと両手を包まれる。互いに手袋をしていても、ほんのりとした温もりを感じた。
「二月前、ドリーンから手紙が届いた。恥ずかしながら、それまで私は貴女たちが虐げられていた事を全く知らずにいてね。彼女からの手紙には、主人を救って欲しいと書かれていたんだ」
 時に厳しく優しい、慈愛に満ちたドリーンの姿が蘇る。子供の頃から母の代わりとして傍にいてくれた。本邸を追われた時も、不平一つ言わずについてきてくれた。
 長年勤めていても、主従を越える事無く規律に忠実な彼女が、無礼を承知でギュンターに助けを乞うた事に胸が締め付けられる。それはきっと、ドリーン本人ではなく、ただミュリエルの為だけに。
「後は貴女が見た通り。私はドリーンや他の使用人、村人たちから話を聞いて魔法使いになった。……ミュリエル、貴女は孤独などではない。これまでずっと皆の愛に包まれていたのだよ」
 そっと肩を抱き寄せられる。
 次々と浮かんでは消える皆の顔……嬉しくて、申し訳なくて、胸が苦しい。
「ドリーン……みんな……」
 湧き上がる感謝の気持ちと、肩に触れる温もりに涙をこぼし、ここにはいない人たちの名を口にする。二人だけの夜の庭でギュンターにもたれたミュリエルは、次々と溢れ出る雫を隠さず、ただ静かに泣き続けた。

 ひとしきり泣いた後、急に恥ずかしくなったミュリエルは、肩を抱いてくれているギュンターから離れる素振りを見せた。
 身じろぎした事に気付いたらしいギュンターが、こちらを覗きこむ。
「もう、平気?」
「はい。申し訳ありません、はしたなく泣いたりして……」
 謝罪の言葉を述べると、彼は気にしていない事を示す為か、微笑んで首を振った。
「構わないよ。ところで、私が貴女にお見せしたいものがあると言っていたのを、覚えているかい?」
「……ええ」
 ここに来る前、ギュンターがそんな事を言っていたのを思い出す。
 ミュリエルが不思議そうに首を傾けると、何かを企むように、にやりと笑ったギュンターが目を細めた。
「では、目を瞑って」
「目を?」
「そう。貴女の為に魔法使いになった私の、最後の魔術をお見せしよう」
 訳が判らないまま、ミュリエルはそっと目を閉じる。程なく、シャリという華奢な金属の擦れる音と、確かな重みを首に感じた。
 優しく瞼を撫でられたのに気付いて見下ろせば、そこには金のペンダントが掛けられていた。
「これは、まさか……」
 ミュリエルは震える手で鎖をたぐり寄せ、円盤状のトップを掌に載せた。刻まれているのは、生まれてから何度も目にしてきた唯一の図柄。裏にはジラメネス家の家訓が記してある。
 父から自分、そして義姉へと渡った紋章が、今ミュリエルの手の中にあった。
 信じられない思いでギュンターを見つめると、彼は照れくさそうに肩を竦め苦笑した。
「完全なる魔法と言いたいところだが、舞踏会の最中に、貴女の義姉上から取り返して来たんだ」
 彼が王宮で「用がある」と席を外したのを思い出したミュリエルは、はっとした。
「では、あの時に?」
「ああ。ライナルトに貴女の相手と、客の目を引くように頼んでね。……義姉上殿には予め招待状を送って置いたから、何をおいても参加するだろうし、王宮主宰の舞踏会には紋章を持参しなければならない。幸い私は遠方住まいだから、社交界に顔が知られていなかった。後は人目につかない所で少しの間、眠って頂いたのだよ」
 ギュンターは少し得意そうに一つ一つ種明かしをしていく。
 最後まで聞き終えたミュリエルは、紋章を握り締め、驚愕からわなわなと震えた。怒りにも似た強い悲しみが心に溢れる。
「何という事を……!」
 突然硬化したミュリエルの態度に、ギュンターは困惑した表情を浮かべ、瞳を瞬いた。
「ミュリエル……何故、怒るんだ? 乱暴を働いたつもりは無いが、義姉上殿を害した事を責めているのか?」
 見当違いの言葉にミュリエルは強く首を振り、ギュンターの手を取った。
「違いますっ! 私ごときの為に御身を危険に晒すなど……貴方に盗賊の真似事までさせてしまった事が辛いのです」
 自分に関わらなければ、彼が神に背く行為をする事も、この手が汚れる事も無かったのだと思うと悔しい。ミュリエルは今まで逃げ続けてきた自分自身が腹立たしくて仕方なかった。
 ギュンターはミュリエルの言い分に目を見張り、それからふっと微笑んだ。
「貴女は勘違いをしているらしい。その紋章を取り返したのは、私の為なのだよ」
「いいえ、いいえ……」
 優しい彼の言葉を、気遣いの為の嘘だと判断したミュリエルは目を瞑って首を振った。
「ふむ、本当の事なんだが……。ところで、ミュリエル。舞踏会はいかがだったかな? どなたか心奪われるような紳士はいたかい?」
「はい……?」
 これまでとは違う、わざとらしい程の明るい声音で、いきなり話題を変えたギュンターにミュリエルはきょとんとする。
 意図が判らず唖然とするミュリエルを、彼はぐっと引き寄せた。
 寄りかかっていた時よりも近づいたせいで、忘れかけていた胸の高鳴りが蘇った。
「貴女の美しさに見惚れている紳士が沢山いたね。どうだい、彼らの中にこれという人はいた?」
「い、いません。そんな……」
 紋章が手元に戻ってきても、家のごたごたが収まった訳ではない。ミュリエルがやっかいでお荷物な貴族の娘に変わりない以上、望んだところで相手が貰い受けてくれるとは思えなかった。
 それに、特別な一人を想う事を知ってしまったミュリエルには、他の人間が入り込む隙など無かった。
 ミュリエルは無意識に、ギュンターを見つめる。彼もまた、瞳にミュリエルの姿を映していた。
 ……しばしの静寂。
 流れ込むささやかな夜風が、音も無く草花とミュリエルの髪を揺らした。
「では……私が求婚する事を、許してくれるかい?」
「え……」
 理解の範疇を飛び越えた言葉に、ミュリエルはぼんやりと彼を見つめ返す。
 絡んだ視線の奥、彼の瞳が力強く光るのが見えた。
「ミュリエル、私は貴女を愛している。妻として我が領地に来て欲しい」
 一瞬、息が止まる。
 真っ直ぐに告げられた愛の告白。
 飾らないそのままの言葉に速く強く心臓が跳ねた。どんどん上がっていく熱は頬から耳まで伝播し、意識をも飲み込んでしまいそうだ。
 だが歓喜よりも驚きの勝ったミュリエルは、彼の想いを素直に信じられず、反射的に否定した。
「い、いいえ。いけません。そのような事……!」
 慌てて彼の傍から飛び退こうする。しかし逆に腕を掴まれ、強く抱き締められてしまった。
「どうして?」
 すぐ間近から届く声。ギュンターの腕の中に閉じ込められたミュリエルは、羞恥と驚愕から混乱し、無言で首を振り続けるしかできない。
 と、いつの間にか背中を離れていた彼の右手が、ミュリエルの顎を押し上げ上を向かされた。
 ばちっと重なった視線に息を呑む。こちらに向けられる強い瞳に顔を背けることさえできなかった。
「……私が強引だというのは、もう知っているね。納得できる理由を聞かない限り、諦めるつもりは無いよ」
「だ、だって……家の事がありますし。家格も、釣り合っているとは思えません。それに……私には、貴方に愛されるところなど……」
 拒否する為の理由を連ねているのに、受け入れてしまいたいと心が泣く。最後まで言い切れなかったミュリエルは、顔を歪めぎゅっと目を瞑った。
 ふわりと柔らかいものが唇に触れる。
 驚いて目を見開いたミュリエルは、離れていくギュンターの顔を見つめた。
「そんな風に泣きそうな顔で断られても、納得できないな……」
「あ……」
 形の良い彼の口元に目をやったミュリエルは、また一層鼓動が速くなったのを感じる。経験が無くとも、さっきのが口づけだというのは判った。
 無断でキスした事を悪いとは思っていないらしいギュンターは、相変わらず柔らかく微笑んでいた。
 多分、こういう事に慣れている彼には、恋愛初心者のミュリエルの気持ちなどお見通しなのだろう。ほんの少し、悔しいような、嬉しいような、複雑な気分になった。
「貴女の家の事なら、お継母上と義姉上に任せておきなさい。今までも何とかやっていたのだろうし、こちらに紋章がある以上、滅多な事はしないはずだ。家格などは気にしなくて良い。幸いうるさい事を言う者は貴女にも私にもいないのだからね。……それから、私がどれだけ貴女を愛しているかは、これから嫌というほど証明してあげるよ」
 どういう事かと尋ねる暇も無く、ミュリエルは肩を掴まれベンチの背もたれに押し付けられた。すかさず覆い被さったギュンターに唇を舐められる。
 さっきとは違い、目を開けたまま受けてしまった行為に飛び上がったミュリエルは、顔を背けて声を上げた。
「い、い、い、今すぐは困りますっ!!」
「そう。じゃあ、後からなら良いのだね」
「えっ……」
 頬に一つキスを落として、あっさりと引き下がったギュンターを見つめる。したり顔で笑う彼に、騙されたと気付いた。
 赤面しムッとしたミュリエルの前で、ギュンターが跪き手を伸べる。それは昨日と全く同じ光景。
「レディ、私と踊って下さいませんか?」
 悪びれない彼を、ぼんやりと見つめたミュリエルは、深く息を吐いた。
 自分でも言う通りギュンターは本当に強引だ。もしミュリエルが彼の愛を頑なに拒んだとしても、逃れられはしない気がした。 ……そして、捕らわれる事を望んでいる自分も確かに存在する。
 ミュリエルは静かに苦笑すると、差し出された手を取り立ち上がった。
「喜んで」
 寄り添った二人は礼を省き、淡い光に包まれた舞台へと滑り出す。曲の無い中庭で互いのリズムだけを頼りに、ミュリエルは足を運んだ。

 何度目かのターンの後、ミュリエルはそっとギュンターの横顔を見上げた。
「……夕べ、二人きりで会うのは最後かも知れないとおっしゃったのは、何故ですの?」
 彼が以前から想いを寄せてくれていたのだとして、自分の気持ちは知れていたのだから「最後」という発想になるのは、おかしいような気がする。
 そんなミュリエルの素朴な質問に遭ったギュンターは、少しだけ顔をしかめた。
「考えたくも無いが、もし、舞踏会で貴女に別の想い人ができていたなら、言葉通り最後になっただろうね」
「まぁ、そんな風に考えていたなんて……私の気持ちは気付いていらしたんでしょう?」
 冷静になってみれば、自分の態度は酷く判り易かっただろうと思う。想いが勝ちすぎて隠しきれていなかったのに、どうしてギュンターは別の想い人ができるかも知れないなどと考えたのか……。
「確かに気付いてはいたが、出自を気に病む貴女は自分から想いを告げてはくれぬだろうし、私は舞踏会が終わるまで言ってはいけないとドリーンに決められていたのだよ」
「ドリーンが?」
「ああ。貴女の気持ちが定まるまで待つように、と。……おかげで、想い合っていたとて末を誓った訳でもない。貴女が心変わりをしないという保証はどこにも無かった。それに、こう言ってはなんだが、ライナルトは実に惚れっぽい男でね。協力を頼むより他に無かったが、全く嫌な気分だったな」
 心底嫌そうに嫉妬心をさらけ出す彼を、ミュリエルは意外な心持ちで見た。自分より遥かに年上で色男然としたギュンターだが、実際は少し子供っぽいのかも知れない。
 ふと「あんな狭い男で良いの?」と言われた事を思い出したミュリエルは、一人苦笑した。
「まさか。殿下に見初められる事など、ありえませんわ」
 別れ際の王子の言葉を単なる社交辞令と決め付けたミュリエルは、静かに首を振った。
「いいや。こんなに美しい貴女を、あいつが気にかけないはずが無い。美しい女性であれば、馬まで口説く男だ」
 仮にも王子に向かって、そんな失礼な浮名をつけて良いのだろうか。それに、ギュンターが心配しすぎているだけな気がする。
 呆れつつも、そこまで想ってくれていた事に、ミュリエルは喜びを感じた。
 踊る為に重ねていた腕を振り解き、リードを無視して足を止めたミュリエルは、思い切りギュンターにしがみつく。驚いてこちらを見下ろした彼に合わせて、笑顔を向けた。
「大丈夫です。ガラスの靴は両方とも、ここに揃っておりますから」
 突然のミュリエルの行動にギュンターは一瞬ぽかんとしたものの、言わんとしている事に気付いたらしく、ふっと笑った。
「ミュリエル……」
 親切な魔法使いに救われ、共に生きていく事を決めた不幸な娘は、もう王子様に探して貰う必要も無い。例え相手が王子様でなくとも、物語りの結末は同じなのだから。
 丸い石舞台の中心。ランタンに照らされ長く伸びた二人の影がゆっくりと近づき、重なった。
 ……貴方を、愛しています。
 ミュリエルが生まれて初めて口にした愛の言葉は、夜空に溶け天へと昇っていった。

                                          End
   

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