第11章 大会に挑戦
その日、わたし達はカフェでお茶をしながら、なぜか昔の話で盛り上がっていた。
「でね、セインツなりきりライブってイベントがあって」
「はじめは私がなるさん、あみがみあさん、ゆうきがあいらさんをやる予定だったんだ」
「ふむふむ」
「でも、実際はいろいろあって、私はあいらさん、あみがなるさん、ゆうきがみあさんをやったんだ」
「へぇ、面白いことやってたんだね。でも、みあがいっちばーん!だよ」
「?」
いきなり、ジュースと一緒にコメントが返ってきた。
「あ、あなた、もしかして…」
ゆうきがウェイトレスさんを見て顔色が変わった。
「よく気付いたね。本人だよ」
「みあさん!」
「パパラジュクのバイトだけじゃお小遣い足りなくてね。ここで単発バイト」
「そうなんですか」
伝説の神アイドルでも、結構大変なんだなぁ…
「ここのプリパラはアイドルタイムが貯まりやすくていいね」
「確かに、来るだけでライブ1回分ですからね。パパラジュクは違うんですか?」
「向こうはなかなか貯まらなくて、まだ1回しかライブしてないんだ。ここではせっかく1回分あるから、ライブはしたいんだけど」
みあさんはわたし達を見る。
「メジャークラス2人、トップクラス2人、神クラス1人…なかなかのチームね。神ってことは…」
みあさんはちょっと考えて、
「もしかして、初めてパラダイスコーデを光らせたっていう…」
「あ、実はそうなんです」
「じゃ、みあとペアライブしよ。キミとならいっちばーん☆なライブが出来そう!」
え、伝説の神アイドルのオファー?これは是非チャレンジしたい!
わたし達がライブの受付に向かおうと外へ出ると、誰かが空を飛んでいた。
「あれって、時の精霊?」
「でも、髪の色違うよ?」
わたし達の声に気付いたのか、飛んでいた時の精霊らしきコがこちらを見て降りてきた。
「私は夜を受け持つ時の精霊、ガァララ」
ガァララはみぃの前へ歩いてきた。
「もしかして、パックがあなたの夢、食べた?」
ガァララの話では、時の精霊は昼がファララ、夜はガァララが担当していて、どちらかが起きている時はもう片方は眠るため、古代から夜はガァララとパック二人きりだったという。
パックは誰もいない時にしか起きていられないガァララのために、夢を食べてジュエルにすることで、ガァララを昼間に起きていられるようにしていたらしい。
「ごめんなさい」
「大丈夫にゃ。みんなのおかげで、もっと大きな夢になったから結果オーライにゃ」
「許してくれる…?」
「もちろんにゃ。それに、事情聞いたら怒る気もなくなったにゃ」
「ありがとう。でも、もう夢を食べることはなくなるよ」
「というと?」
「ゆい達が古代プリパラへ行って、時のシステムを変えてくれたの」
「なるほど。それで、今ここにいれるって事か」
「だから、今からファララと一緒にライブしに行くんだ。しゅうかも見てくれるんだよ!ガァラるんるん♪」
ガァララはそう言うとどこかへ飛び去った。
「みぃの夢喪失事件の真相はそういう事だったんだね」
「そういえば、しゅうかって言ってたけど、リッチヴィーナスの店長さんのことかな」
「顔広い人だなぁ」
「あ、しゅうかはあたしの妹だよ」
「えっ!あ、そういえば、その話、聞いたことがあったかも」
それにしても、姉妹でプリパラって多いなぁ、そういえばわたしもか。そもそも女神様からして姉妹だったな。
時の精霊そろい踏みのライブの陰で、わたし達もライブをした。逆に、このタイミングでなければ、伝説の神アイドルとのライブなんて、大騒ぎになってたかもしれない。
わたし達はライブを終えてみあさんと別れた。
「そういえば、タイムガーデン開放ってどうなったんだっけ?」
「みぃも普通にタイムガーデン経験したから気にしてなかったにゃ」
「あたしもエスコート付きで体験したしね。あみはひびきさんのエスコートで2回目体験したんだっけ」
「今は大会アンコール企画やってるみたいね」
れみだけが情報を仕入れていた。
「今度のファイナル大会を前に、過去4回の大会にチャレンジできるみたいよ」
「ファイナルはあみが出るとして、それぞれがアンコールを一つずつチャレンジするのはどう?」
「それ、いいかも!」
わたし達はさっそく大会アンコールライブにエントリーしようとした。
「現在、大会アンコールライブは、ファララ様不在のためできませーん。システムでーす」
なぜかいきなり、めが姉ぇさんに拒否されてしまった。
「どういうことですか?」
「緊急事態が発生していまーす」
わたし達はモニターのニュースの画面を見た。
「これ、映画とかじゃなくて…?」
「本物のニュース?」
画面にはパパラジュクのプリパラの映像が出ていた。
「あれ、みぃの夢を食べた奴にゃ?」
パパラジュクの一部が破壊され、巨大な怪獣が氷漬けになっている。
その怪獣は確かにパックに似ている。しかし、よく見ると、別の意匠も見受けられる。
「あれは…時計塔?」
「大変なことになってるよ!」
れみがスマホのニュースサイトを表示させた。
ガァララが昼間に起きていられるようになり、二人ぼっちではなくなったことを悲しんだパックが暴走し、時計塔と融合して怪獣化し、そのまま氷漬けになったらしい。
「大変なのはこの先!」
氷漬けの時計塔の中にらぁらが取り込まれ、眠りについてしまったらしい。そして、それを解除するには、ライブのパワーを送って時計の針を12時まで進める必要があるとのことだった。
「それじゃ、みんなでいっぱいライブをすれば」
「それが、みれぃさん、そふぃさん、トリコロールといった名だたるメンバーでも12時に届かなかったって書いてるよ」
「じゃ、わたし達もライブパワーを送れるのかな。らぁらさんにはものすごくお世話になってるし」
「せいぜい2秒くらいにはなるかもね」
「たとえ2秒だけでも!全員でライブ、行っくよー!」
わたしたちはドリームシアターに向かった。
ライブ終了後にニュース画面を見ると、針がぐんぐん進んでいる。ちょうど、同じ頃にジュリィ、ジャニスの両女神が降臨してデュオライブをして針がぐいぐい進んでいるのだった。
「良かった。もうすぐ12時まで行きそうだね」
「じゃ、あのうちの2秒は私たちの貢献ってことにしておこうか」
わたし達の貢献はどのくらいだったかはわからないけど、とりあえず、12時に…
「え?」
針が逆戻りをはじめた。
「ああー、みぃたちの2秒が消えちゃうにゃー!」
「いや、そういう問題では…」
「とりあえず、アタシたちにできることは…」
「お徳用肉まん買って、食べながら待つかな」
「あみ…」
「あ、一人2個だと1個足りないか。あれ、9個入りだよね」
「ツッコミどころはそこじゃなーい!」
とはいえ、他にすることもないので、わたし達は肉まんを食べながらニュースを見ていた。
「えーん…なんで言いだしっぺなのにわたしが1個なの?」
「じゃんけんで負けたからでしょ!」
「あ、アタシ、最近ちょっと太り気味だから1個でいいよ。あみ、アタシの1個あげようか」
「ありがと!さなえ、愛してる!」
ニュースでは、突破口を開くため、神アイドルの三人ユニットのライブが必要という話になったものの、そらみスマイルはセンター不在、セインツはみあしか残っていない。一般客の神クラスでは…それこそ数秒分のライブパワーだろう。そもそも、うちは2番手のゆうきですらトップクラスのパーフェクトアイドルになったばかりだ。
そして、その事態をなんとかするため、ゴッドアイドルの称号に挑戦する者を集うと言っていた。
ゴッドアイドルというのは、神アイドルに匹敵する称号で、すべてのプリチケをかけてライブし、女神の裁定を受けて合格すれば与えられる。ただし、すべてのプリチケをかけるため、失敗は引退を意味する。
「ドレッシングパフェが挑戦するんだって!」
「人気チームなのに、負けたら引退にゃ?」
「あの人達の実力は半端ないよ。多分、難なくクリアすると思うよ」
そう。わたし達はかつて、ドレッシングパフェとパラダイスコーデをめぐって競演したから判る。なんか、安心して判定ライブを観れる。
曲が始まる。
「えっ?新曲だ!」
普通は手堅く定番曲でいきそうなものだけど、そんな妥協は許されないのかもしれない。そもそも、シオンさん達がそんな妥協をするとも思えないけど。
結果としては、思った以上に大変そうだったけど、ゴッドアイドルの称号獲得はうまくいったようだった。
「良かった!」
そして、ドレッシングパフェが切り開いた突破口から、ゆいたちが時計塔の中に突入したところで、TVはCMになった。
「え?ここでCM?」
「この商品、逆に恨まれて売れなくなりそうだね」
CMが終わるとちょうど時計塔の窓かららぁらが救出されていた。しかし、中にゆいたちが残ったまま、再び時計塔は凍り始めていた。
「どうなるんだろう?」
わたし達はテレビの画面を見ることしかできない。
しばらくすると、そらみスマイルとドレッシングパフェの6人ユニット、そらみドレッシングがステージに上がり、ライブを始めた。
客席も大合唱となっていた。
♪いつものおはようでさえ…
わたし達も、つい声を合わせて歌い始めた。そこかしこから歌声が聞こえる。おそらく、各地のプリパラにいるみんなが歌っているのだろう。
歌が進むにつれ、時計塔から色とりどりの光が放たれる。古代から時計塔に封じられてきた夢のジュエルが輝きを取り戻している。やがて、無数のジュエルはカラフルな光の奔流となって空に溢れる。
「綺麗・・・・・・」
わたしとゆうきの声がハモった。
そういえば、あの時もそうだった。わたし達二人はデパートのエレベータ前のモニターで初めてサイリウムコーデを見て、そのキラキラに心を奪われた。
♪初めてのドキドキ思い出して 何もかも輝いて無敵にだってなれた
歌詞に4年間の思い出が重なる。すべてが愛おしい。いつまでも歌っていたい…
歌が終われば、時計塔は全ての夢を開放し、パックも元に戻ったようだった。
さて、事態も収拾がつき、大会アンコールライブも再び解禁されたようだった。
「よーし、最初はアタシね。がんばっちゃうぞ!イェーイ!」
さなえが最初にチャレンジする。メンバーは…
「ファイナルに備えて、あみは毎回メンバーで、あとは交代でやろうか」
「だね。4連続ライブできるの、あみくらいだしね」
「じゃ、最初のバックはみぃが行くにゃ!」
さなえをセンターにタイムガーデンに行く。時のヘアアクセ大会の課題曲は『チクタク・Magicaる・アイドルタイム!』だ。
サイリウムタイムに入るとなんと、全員サイリウムチェンジした。さすがはタイムガーデン。
ライブが終わると、突然上空にファララが現れ、そのまま巨大なアイドルウォッチ型オブジェのある祭壇へ飛ぶ。
ファララが時のヘアアクセをオブジェに格納し、スーパーアイドルタイムが始まる。これまではセンター一人になるところだけど、3人のまま、今度は全員で踊り、一緒に祭壇への階段を登った。
「次は私の番。第2回はスカート大会だったっけ」
れみが会場へ向かう。
「バックはあみとあたしだね。コーデはどうしようか」
ゆうきがれみに聞く。
「あみがメガドレインで作った着ぐるみっぽいコーデが3種類あったよね」
「そういえばあったね」
「あれでやりたいな。トラさんの、すごくかわいくて気に入ってるんだ」
「じゃ、あたしはウサギさんのにしよう」
「というわけで、あみはネコさんだね。じゃ、行こうか」
「・・・鬼ですか、アンタら」
ライブ直後に着ぐるみ系って…
そして、ライブが始まる。
「…あれ?」
「この課題曲って…」
曲は『Believe My Dream!』だった。
「トップス大会の曲だよね」
「順番は開催順じゃないんだ…」
「とにかく行くよ!」
「OK!」
「で、順番からいくと次はあたしかな。で、バックはさなえとあみ」
「ゆうき、連続だけど大丈夫?」
「まぁ、あみよりは体力残ってるよ」
そりゃそうだ。わたしは1回大会やって、連続して着ぐるみで2回目やって3連続だ。
「あたしはコーデはこれにしようかな。あみの曰く付きのコーデの色違い」
「まさか、クイーンハート系のこと?あれは昔、なかなか揃わなくて、「プリパラクラブ」に入会して貰ったんだよね」
「それで曰く付きって大袈裟にゃ?」
「実はね…」
「言わなくていいよぉ…」
「えー、聞きたいにゃ」
「チームメイトに秘密は駄目だよ」
そう言われると仕方ないなぁ…
「プリパラクラブで貰ったコーデ、ミルコレ用だったんだけど、スキャンミスで、トップスが練習着のままだったんだよね…」
そう。いかにも着替え中に慌てて出てきましたって感じで、すごく恥ずかしかったんだ。
ゆうきの持っているのはその色違いのピンク系のものだった。
「この色、可愛いでしょ」
「ゆうきって、「クールビューティー、それが私」みたいなキャッチフレーズが似合いそうなのに、可愛いコーデが好きだよね」
「そだねー。でも、その決め台詞、かっこいいな。今度使ってみようかな」
「あ、でも、アタシ、クイーンハート系は持ってないよ」
さなえが言う。
「じゃ、ドリシアの色違いのピンクってお題にする?」
「それでいこうか」
「さて、課題曲はどれが来るかな?」
課題曲は『あっちゃこっちゃゲーム』だった。スカート大会の曲だ。
「ということは、みぃはシューズ大会にゃ」
「課題曲は『Miss.プリオネア』だね」
「あの曲、このコーデをお揃いで着たらカッコいいと思うにゃ」
「これって、ル・セリアナの制服だっけ」
「そうそう。何とかってプリズムショーの選手が通ってた学校だったっけ」
「あそこ、名門校だったから、あみがどの選手のことを言ってるのかはわからないけど、その通りにゃ」
ル・セリアナは多くのプリズムスターを輩出した学校なので、有名選手が何人もいる。最近でこそ、ひと頃のプリズムショーブームも去り、それほど話題にならないけど、プリズムライブ全盛期は制服の凛々しさもあって、受験希望者が多かったという話も聞いたことがある。
「確かにいいかも!」
ということで、コーデを揃えてエントリーしたものの…
「あれ…?」
課題曲は『Believe My Dream!』だった。
「どういうこと?」
戸惑うわたし達にめが姉ぇさんが、
「参加する大会は全くのランダムでーす。システムでーす」
…結局、みぃがセンターで、シューズ大会になるまで3曲やって、ようやく各大会を終えた。
「もうくたくた」
「でも、やりきったにゃ…とはいえ、限界にゃ」
れみもみぃも大会3連続はきつい。でも、わたしは…
「あみ、生きてる?」
真っ白に燃え尽きて、長椅子で横たわっていた。
「ぷしゅー」
自然と気が抜ける。
「なんか、くらげ状態のそふぃさんみたい」
「今日はこれで終わって、ファイナル大会は次の機会にしよう」
そして、翌週。わたし達はファイナル大会にチャレンジするべく集合した。
「メンバーはやはり、ゆうきとれみかな」
「付き合い長いしね」
「コーデはどうしよう」
「朝、昼、夜のコーデ、けっこうみんなバラバラには持ってるけど、揃うかな」
「どれどれ」
「アタシのはこれかな」
「夜のワンピだけないか…」
そこへ、なぜか姉が入ってきた。
「せっかく一時帰国したと思ったら、家に居ないし。やっぱりここにいたか」
「お姉ちゃん?」
「あ、くみさんだ。おひさしぶりです」
「まさか、妹の窮地を救う救世主になるとはね」
「どういうこと?」
「夜のワンピ、持ってるから」
「!」
結果として、わたし達は朝、昼、夜のコーデでファイナル大会に出場した。
課題曲を終えると、ファララが現れる。ここまではこれまでの大会と同じ感じだけど、ファララが振り返り、手招きしながら飛ぶ後に金色に輝くらせん階段が現れる。
わたしたち3人はその階段を駆け上がり、ゲートをくぐった。
そこは、さっきまでのタイムガーデンとさほど違わない場所だった。
「2階?」
スーパーアイドルタイムに入ると、わたし達のコーデはファンタジードリームコーデに変わる。ただし、ヘアアクセはない。
最後の階段の先でファララがファンタジードリームヘアアクセを出して、コーデが完成した。
大会、クリアだ。
「おめでとう」
「せっかくだから、ゲットしたコーデで記念ペアライブしたらどうかな」
「じゃ、あみがファンタジードリームコーデで、時のコーデは・・・」
「3回ライブしたみぃでいいんじゃない」
「でも、ファンタジードリームコーデは、貢献者のお姉ちゃんにも使ってほしいな」
わたし達がそんな話をしていると、わたしが初めてトモチケ交換した一般客のコがやってきた。
「あ、あみさん!またファイナルライブやりますか?」
このコはわたしの前のファイナルライブに参加してくれたっけ。でも、なぜファイナルライブ?」
「だって、ここのプリパラ、来月で閉店でしょ?」
「ええええぇぇーーーーっ!」
最近はネットチャンネルでライブを配信するスタイルが流行り、テーマパークでライブというスタイルではなくなってきており、閉店する所が増えているらしい。
「だから、あみさんなら、きっと思い出になるライブを考えてるのかなと思って、友達連れて来たんだけど」
「あ、はじめまして」
「えっ?あなた…まさか」
昔すれ違い通信したのに挨拶できなかったコ?
「えっ?初対面…ですよね」
「昔、すれ違い通信とか交換所で交換したことなかったですか?」
「えっ、ちょっと待って…あ、本当!」
「ここに8人いて、二人はミルキーハートサイリウムコーデとパラダイスコーデ、うちのメンバーは四季のコーデもあるし、わたしが神ドレスで、お姉ちゃんがファンタジードリームコーデで大会賞品ランウェイはどうかな」
「なるほど。それだと全員サイリウムタイムで光るし、面白そう!」
「歴代プライズコーデライブだね」
こうして、わたし達の最後のイベントラッシュが幕を開けたのだった。
今回のプリチケ
前へ・表紙へ・次へ