第9章 パラジュク遠征

「おおーっ?」
 わたしはネットのニュースサイトの記事一覧を見て思わず声を上げた。
 相撲巡業で横綱が起こした騒動の続報や、スケート選手の来月のオリンピックにかける意気込みのインタビュー、リニア新幹線工事の談合疑惑、阪神淡路大震災追悼特集、と来て、働き方改革法案の骨子解説の手前にその記事はあった。
「(エンタメ)パラジュクのプリパラ再オープンを記念し、クイズ大会」
 開いてみても表題程度の内容の記事だったけど、わたしにとってはそれだけでも十分だった。これで、パラジュクのステージに挑戦できる!
 しかし、関係ないけど、国の重要政策の記事のニュースランキングがこんなに下の方で大丈夫なんだろうか?

 わたしは早速、チームのメンバーにパラジュク遠征の話を振った。
「受験中のゆうきは無理として、行ける人は?」
「第3週だったら、あたし行けるよ」
 意外にも、ゆうきが手を挙げた。
「ちょっと下宿に憧れて、関東の大学も受ける事にしててね。試験のために東京に居るから」
「そういえば、さなえは受験の話とか全然してないけど?」
「アタシの学校、大学附属だから」
 何となくわかっていたけど、さなえは優等生だ。だからバイトとかも堂々と出来るのか。
「アタシは課外活動の一環って事なら大丈夫だよ」
「みぃはいつでもOKにゃ」
「となれば、後は私か。バイトのシフト、相談しなきゃね。多分、大丈夫だけど、結論は明日かな」

 最終的に、わたし達のパラジュク遠征の日程は決まった。

 早朝の新幹線の駅のホームにゆうきを除く四人が集合した。手にはコンビニの袋。
「自由席は後ろ3両だって」
「1号車から3号車にゃ」
「座れるかな?」
「新大阪で降りる人が多いから、最悪でもそこで座れるはずだって」
「しかし、駅弁じゃなくコンビニ弁当かぁ」
「私たちの財政力で朝食に千円はね」
「実際、千円でおやつやジュースも買えたにゃ」
「確かに、昨日ディスカウントのドラッグストアーでおやつとジュース買ったお釣りでこのお弁当買えたね」

 列車が到着するアナウンスが流れた。
「わぁー!N700系にゃ!せっかくだから、1号車に乗るにゃ!」
「みぃ、あんたまさか鉄…」
「電車、大好きにゃ」
 ともあれ、わたし達は1号車に乗った。二人掛けの空席が一つ。周りには出張っぽいサラリーマンとかが一人二人座っていた。ちょうど、空いた二人掛けの前に座っていたサラリーマンが、
「良かったら、ここ使い。椅子回したら四人で座れるやろ?」
「いいんですか?」
「ちょうどスマホの電池減ってきてな」
 サラリーマンの視線の先には通路側に一人いるだけの三人掛けの席があり、窓の下には電源のコンセントがある。
「ありがとうございます!」
 わたし達は声を揃えてお礼を言った。
 こうして、楽しい列車の旅になったんだけど、よく見ると、わたしの横の窓の下にも電源コンセントがあった。きっと、わたし達が気を使わないように忖度してくれたんだろうな。

 東京では、全員行きたいところがバラバラなので午前中は自由行動で13時にパラジュク駅集合にした。
「みぃはスカイツリーに行きたいから都営線にゃ」
「行列すごく並ぶんじゃない?」
「今からなら下の店とかが開く前に着くから、それほど並ばないはずにゃ。あみとれみはそのまま山手線に乗り換えて新橋で降りた後は、ゆりかもめに乗るにゃ」
 れみはお台場のテレビ局へ行きたいらしい。ちなみにわたしは実物大のガンダムを見たいんだった。みぃが鉄道に詳しいので助かる。
「さなえはどこへ行くにゃ?」
「アタシは東京の祖父母に挨拶。会うの中学生の時以来なんだ」
「じゃ、行き方は大丈夫にゃ」
「うん。最初は山手線だからあみ達と一緒だよ」

 わたし達はみぃと別れて山手線のホームに来た。ドラマで見たことのある電車が出発したところだった。
「あーぁ、乗り遅れちゃった」
 と言っている間に次の電車が来た。
「え?もう?」
 その列車には、ガールズバンドのラッピング広告が描かれていた。
「わたし達がこんな風に広告に載ったら面白いよね」
「ないない。所詮は野球盤だし」
 れみの懐かしいネタからの切り返しにわたしが笑うと、さなえは不思議そうに
「野球盤?」
 わたしはネタの解説をした。そして、ちょうど新橋駅に到着したのでさなえと別れて電車を降りた。

 新橋の駅を出ると、SLが置いてある広場があり、網目のような模様のビルが見える。
「あ、ここってよくニュースでサラリーマンがインタビューされてる場所だよね」
「インタビューっぽい写真撮ろうか」

 写真を撮ってから我に帰る。ゆりかもめの乗り場が無いということは、反対側の出口から出てしまったということになる。

 わたし達はゆりかもめの乗り場を探し、列車に乗った。ゆりかもめは自動運転なので運転席がなく、正面の窓から東京タワーやレインボーブリッジへ続くループした線路なんかが見える。おかげで目的の駅まで全く退屈しないで来れた。
 駅を出ると、自由の女神が立っているのが見える。
「れみがドリシアで踊ったバックに自由の女神あったよね」
「あれはUSぺーの大きなやつだけどね。でも、あれの前で写真撮ろうか」

 このように脱線を繰り返しながら、テレビ局の前に来た。ここでれみと別れてわたしは先に進んだ。
 テレビ局から少し行くと、すぐに白い巨体が現れる。ユニコーンガンダムだ。真っ白なボディに額の一本角。まさに神話の一角獣そのものだ。よく見ると、見物人は正面の一ヶ所にたむろしてカメラを構えている。わたしもそこへ行ってみる。隣のいかにも出張のついでに寄ったサラリーマンって感じの人が、
「姉さん、あと二分やで。カメラ急ぎや」
「え?あ、はい」
 わたしは言われるままカメラを向けた。
 突然、ガンダムの膝のパーツが開くと、次々と装甲が展開し、開いたところが赤く光る。そして、額の角が開いて、いわゆるガンダムっぽい形になった。
「すごい!」

 わたしは自由行動開始から15分で目的を果たしてしまった。せっかくだから、一駅歩いて帰ることにした。その方向に、仮面ライダーとかのロケに使われた場所があるはず。
 ちょうど観覧車の所に来ると、その場所が遠くに見える。歩くのも疲れるし、ここで妥協しよう。わたしは観覧車のあるビルに入ってみた。
 吹き抜けに女神の噴水のある綺麗なモールだった。そして、そこにあったのは…
「プリパラ?」
 なんと、ここにもプリパラがあった。わたしは交換所でメンバーを現地調達し、準備運動がてらライブを一曲こなした。そして、いざパラジュクへ。

 パラジュクの駅へは集合時間より早く到着した。まだ誰も来ていなかった。と、メールが来た。
「おばあちゃんの長話で電車乗り遅れました。ごめんなさい。遅刻します」
「迷子になったにゃ。間に合わないにゃ」
「勉強疲れで居眠りしました。今からホテル出ます。ごめんなさい」
 どいつもこいつも!まともなのはれみだけか?
 れみから返信の写しが届いた。
「はわゎ、みんなのメールで気づいたけど、こんな時間?今すぐ向かいます」
 コイツが一番重症やないか!
 さなえから返信があった。
「あみ、これ以上迷子にならないよう、一旦先に行って下さい。プリパラ、ちょっと駅から距離あるはずです」

 わたしは仕方なく、一人であこがれの地へ向かった。みんなで一緒に行くはずだったのに。

 わたしはプリズムストーンショップの中に入った。
「あれ?あみちゃん!ユメ久しぶり。まさかパラジュクで会うなんてユメびっくり!」
 店に入ったところでゆいに会った。わたしはまず、プリパラに入った。
 エントリーしようとしたけど、見に来ただけっぽい外国の人とすれ違っただけで他にチームを組めそうな人は見当たらない。交換所にはかなりのトモチケがある。わたしはパラジュクのロゴ付きで複数入っているトモチケを選んだ。ロゴ付きのトモチケ、わたしみたいな遠征組は記念や土産で持ち帰る可能性が高いし、複数ということはここの常連さんのはず。どうせなら本場のコと共演したかったし。
 そして、コーデはこの店に出品された3DSコーデを選んだ。本場のアイドルの一品物はいい記念になるし。

 さて、下見を終えたわたしは仲間を迎えに駅に戻った。さすがに今度は全員揃った。
「遠征ライブの後でランチの予定だったけど、先にランチだね」
 わたし達は「パパのパスタ」というイタリアンレストランでミートソースを食べて、今度こそみんな一緒にパラジュクのプリパラに入った。
「お久しぶりです」
 誰かが声をかけてきた。
「シュララ?」
「仕事でここのプリパラに来てたら、あみちゃんを見かけたってめが姉ぇさんが教えてくれたの」
「じゃ、一緒にみんなでランウェイしない?」
「めが姉ぇさん入れても7人だよ?」
「お姉ちゃんのトモチケがあるから、ホログラメーションで何とか」
 思いがけず、総出のランウェイをパラジュクで出来た。
「いよいよだね」

 わたしはこの時のために新しいチームコーデを作っていた。今からそれを着てパラジュクでドリシアをする。爆発事故で一時はどうなる事かと思ったけど。

 諦めかけていた夢が叶う瞬間だ。

 さて、目的を果たして、東京駅まで戻った。そして、土産を探しつつ駅の中を歩いていた。
「そういえば、駅の中にもプリパラがあるらしいよ」
「あ、本当だ」
 目の前にプリズムストーンショップがあり、らぁらがいた。
「あみちゃん、今日はありがとうのかしこま☆」
「え?」
「あたしの実家でミートソース食べてくれたんでしょ?」
 あのお店、らぁらの実家だったんだ…
「すごくおいしかった!」

 さて、そろそろ時間だ。まず、ゆうきと別れる。
「明日の受験もがんばってね」
「今日元気もらったから、きっと頑張れる!」
「明日は寝坊しちゃ駄目だよ」

 わたし達も帰路につく。財政的に新幹線ではなく夜行バス。多分、みんな爆睡だろうなぁ。


今回のプリチケ
  
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