第5章 夢を取り戻せ
今日はまた5人全員が集まれる日。今日こそ屋台のもんじゃ焼きを食べようと、わたしは意気揚々とプリパラに来た。
すでにれみが来ている。
「れみ、おはよう。早いね」
「あみ、おはよう。私も来たところだけどね」
挨拶を交わしている間にゆうきも到着。
「おはよう。今日はもんじゃ食べにいくんだっけ」
「うん。なんで?」
「あみが早く来てるから、食べ物絡みの日だったかなと」
「ひどーい!」
待ち合わせの時間が近づき、そして過ぎていった。
「さなえたち、遅いね」
「今日は柱の裏にもいないみたいね」
暫くすると、さなえがみぃの手を引いて到着した。
「ごめん。遅れちゃった」
それはいいんだけど、みぃの様子がおかしい。
「あれ?みぃ、元気なくない?」
「そうかな。もんじゃ焼き食べるって約束だからってさなえに連れて来られたけど、普通だよ」
…ん?語尾がない。それに、みぃの瞳には星の形の模様があるけど、星が輝いていない。
「なんか、変だよ。今日はあたしと、あみと、三人でタイムガーデンでライブするんじゃないの?」
ゆうきの問いかけにも、
「え?そんな事言ったっけ?、そっち方面はあまり興味ないんだけど」
さなえの話だと、プリパラへの興味を完全に失った感じで、連れてくるのが精一杯だったという。遅刻の原因もそれだった。
「まぁ、気分が乗らない時もあるだろうし、今日はとりあえず、もんじゃ食べたら一旦解散しよう」
わたしはこう提案した。あとでさなえと個別に話をしたほうが良さそうだ。
「あれ?おーい、あみ!」
誰かが向こうで呼んでいる。ドロシーだった。もんじゃ屋台だった。レオナも屋台の中にいる。
「ドロシーさん、レオナさん、お久しぶりです」
「にのから噂は聞いてるよ。プリパラを盛り上げるために復帰して新メンバーを加えてやってるそうじゃん」
「そちらが新メンバーさんかな」
「さなえです。はじめまして」
「みぃです」
「キミ、元気ないね。でも、ボクたちのもんじゃ焼き食べたら元気百倍テンションマックスだよ!」
ドロシーがみぃの前にもんじゃを出す。わたしたちの方はレオナが出してくれた。
「おいしい!」
わたしたちのテンションが上がった。みぃもこの時は嬉しそうだった。
しかし、ライブの話になると、みぃは黙ってしまう。
「みぃ、何かあった?何でも相談乗るよ?」
「いや、アイドルとか、どうでもいいだけで。ここのもんじゃ焼きはおいしいから楽しんでるよ」
「でも、わたしたちの中で一番アイドルの夢を持ってたの、みぃだよ?」
そう。わたしはゆうきの怪我の快気祝いにテーマパークへ遊びに行こう、という理由で来たわけだし。
「そうね。あたしはあみに誘われてたまたま二人でここへ遊びにきたのがきっかけだし」
「私は軽い興味本位で来て、入口でまごついていたらあみに導かれて…」
「アタシなんて、バイトでバックダンサーしてたらあみにスカウトされて…」
…なんか、わたしがみんなを洗脳して集めてるみたいな言われ方だな…
「でも、みぃだけは、アイドルとして輝きたいという夢を持って、バックダンサーで下積みしていて、あみのスカウトに自分から飛び込んでいったはずなんだよね」
「そうだっけ?さなえにつきあっただけじゃなかったっけ」
「もしかして…」
みぃを見てレオナが言う。
「何か知ってるんですか?レオナさん」
「この前、屋台に来たお客さんが言ってたんだけど…」
レオナの話では、最近、女の子のアイドルへの夢を食べる魔物がプリパラを徘徊しており、夢を食べられた女の子はプリパラを去っていくという噂が広まっているらしい。プリパラの活気がなくなり、ダンプリのほうが流行っているのはそのせいだというのだ。
「でも、リッチヴィーナスの店長のしゅうかさんは目標をすべて達成してしまうから、食べられる夢がなくて魔物を退散させたらしいって言ってた人もいたよ」
うん、あの人ならやりかねない。噂は本当で、みぃは夢を食べられたのに違いない。
「どうすれば、夢を取り戻させることができるんだろ?」
「ミーチルさんに目の前で『出来る!』を連呼してもらうとか」
「それ、下手すると余計に沈まないか?」
「あ、あの…」
レオナが口をはさむ。
「この前のお客さん、夢を食べられたけど、ゆいちゃんに夢を取り戻させてもらったって言ってたよ」
「それ、貴重な情報です。レオナさん、ありがとう!」
「ごちそうさまでした!」
わたし達はもんじゃを食べ終わると、ゆいを探して走った。ちょうど、今、らぁらとペアライブしているようだったので出待ちすることにした。
「あ、あみちゃん、お久しぶりのかしこま☆」
「お久しぶりのゆめかわ☆」
わたしは事情を二人に説明した。
「多分、それ、パックの仕業だよ」
その魔物はパックというマスコットらしい。ゆいの夢を食べに現れたこともあるけど、ゆいの夢は大きすぎて食べきれず諦めて去っていったことがあるそうだ。
「みぃちゃん、ユメ思い出して!」
ゆいの瞳が七色に輝きはじめる。それに呼応するかのようにみぃの瞳の星が輝き始める。
いけるかも…
そう思った瞬間、
「ちゃっす!レオナ先輩達に聞いて探したっすよ」
突然、にのが走ってきた。
「一体何が…?」
「にの、自分の夢を取り戻すためにガァララ塔に行ったっす」
にのの話では、その魔物に食べられた夢はジュエルになってガァララ塔という塔に集められていて、にのはヒーローアイドルになるという夢を食べられていたらしい。にのは塔に集められたジュエルの中から、自分の夢と可能な限りのジュエルを取り戻してきたとのことだった。
「この事をドロシー先輩に報告したら、このジュエルをあみさんの仲間に届けるように言われたっす」
にのは手にしたジュエルを見せてくれた。それはみぃの夢からできたジュエルだった。
ジュエルはみぃの中に吸い込まれていった。
一瞬、みぃの瞳が七色に輝き、胸のあたりからハート型の光が走った。
「みぃの夢、戻ったにゃ!みんな、ありがとにゃ!」
「良かった!」
「じゃ、早速タイムガーデンにエントリーする?」
「それは今度でいいにゃ」
「えっ?夢、戻ったんじゃないの?」
「なんか、今まで以上に夢いっぱいの気分にゃ」
どうやら、ゆいに増幅された夢が元のジュエルから還元された夢に上乗せされて、夢が大きくなったようだった。
「せっかく5人いるし、夢いっぱいの気分だから、今日はドリシア三昧やりたいにゃ!」
「ドリシア三昧?」
「例えば、四季の大会ステージ4連続とか、テーマを決めてライブとかにゃ。3色のコーデを分けて着てもいいにゃ」
「確かに面白そうだね。夏はアドベンチャーコーデ、全員持ってたっけ?」
「あるね」
「秋はわたしはオムライスコーデ持ってるけど…ゆうきは無かったよね」
「うどんコーデならあるけど」
「アタシはいちごチョコあるし、みんな食べ物コーデはどう?」
「それもアリにゃ。冬はセレパラ歌劇団とお揃いコーデが…みぃは持ってないにゃ」
「あえて全員、雰囲気は近いけど別なコーデを探すとか」
「あ、それ面白そう!」
「でも、一つ条件があります」
急にれみが口をはさむ。
「これはセンターはあみで、スカート必須ね」
「えーっ!復讐?」
「え?何のこと?」
さなえがわけがわからず訊く。
「じゃ、スパイ系、さなえに譲ろうか」
「?」
さなえが不得要領の表情のまま、議題は次へ。
「春は背景各地のコーデにするにゃ。みぃはエジプトがいいにゃ」
「アタシはプリパリにしようかな」
「れみはUSペー持ってたよね。じゃ、あたしは南極だね」
「わたしは…どこが残ってるかな?あ、中国か。いいよ。わたし中国やるね」
「他には、お揃いコーデのライブもするにゃ」
「童謡メドレーをパプリカ学園やアボカド学園の小学部の制服でやるとか」
「…特定の層以外は引かないか、それ?」
「えっ、かわいいにゃ!それやりたいにゃ!」
「センターは言いだしっぺのれみだね」
わたしがすかさず逆襲する。
「それと、ドリシアの基本だし、トモチケこうかんコーデで「パキら〜ろ」をするのはどうかな」
続けて無難な提案もしてみる。
「あみ、何言ってるにゃ?」
「え?わたし、変な事言った?」
「それは1曲目で最初から決まってるにゃ。みぃは2曲目からの話をしているにゃ」
ああそうですか…
「でも、そんなにライブできるかな?」
さなえが我に返ったように言う。すると、それまでわたし達の話を聞いていたゆいが、
「ユメがんばって!みんなが笑顔のプリパラにするのが私の夢だから、ユメ応援するよ!」
ゆいの瞳がまた七色に輝き始める。そして、それに反応するかのようにわたし達の瞳が七色に輝く。
「出来る出来る出来る…」
わたし達はミーチルのように「出来る」を連呼しながら、ドリシアのエントリーに向かったのだった。
「さすがにちょっと疲れたね…」
わたし達はドリシア三昧を終えて控え室でお茶を入れた。
「そういえば、れみの言ってた事ってハイキックの事?」
「まぁね。前はれみがセンターだったんだ」
「あのスカートだと丸見えだもんね」
「まぁ、だから無難な黒いスパッツの衣装選んだんだけどね」
「でも」
みぃが話に入ってくる。
「さなえへのプレゼントはあみのパンチラ特等席だけではないにゃ」
みぃ、その言い方はやめて…さすがに恥ずかしいわ。
「え?まだ何かあるの?」
「これにゃ」
「これって…!」
バースデーケーキのコーデだった。
「さなえは誕生日近いにゃ。ラストはさなえがセンターでバースデーライブにゃ」
「最初が教室の場面だから、バックの4人はパプリカ学園の中学部の制服にする?」
「さっきの小学生はさすがに無理があったか…」
「さなえはバックダンサー時代からのトモダチにゃ。誕生日のお祝いするにゃ」
「みぃ、よくよく考えたら、今日は疲れてるし、誕生日当日で良かったんじゃない?」
「あ、それもそうにゃ…ごめんにゃ」
「あ、アタシはいいよ。逆に今だからサプライズになったし。当日全員集まれるかわからないし」
「それじゃ、もう1曲、楽しんでこようか」
「だね」
こうして、わたし達は再びドリシアのエントリーに向かったのだった。
今回のプリチケ
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