第3章 トリコロール来日

「お待たせにゃ」
 わたしとゆうきがプリパラに着くと、ちょうどみぃが到着したところだった。
「あとはさなえだね」
「れみは来ないにゃ?」
「今日は親戚の子供さんつれてサファリパークだって」
「だったら近いから、寄ればいいのに」
「男の子の兄弟らいしよ。ダンプリよりはキュウレンジャーが好きみたい」
「そういえば、今日はあそこで戦隊ヒーローショーやるってポスターが駅にあったような…」

 そんな話をしていると、わたしたちの目の前の柱の陰からさなえがぴょこんと顔を出した。
「あら?」
「あ、さなえ、いたんだ」
「柱のところで待ってたんだけど、みんな遅いな、って思ってたら声がしたから」
 いや、普通、入口から見て死角の側で待たないと思うけど…

 全員集まったし、中に入ろう。
「とりあえず、動こうか」
「準備運動にゃ?」
「いや、その動くじゃなくて、移動…」
 ゆうきがみぃにツッコミを入れる。

 新メンバーの二人、なかなかお茶目というか、大丈夫か?

 わたし達が歩いていると、にのがいた。6人で話をしながら歩いている。
「あ、あみさん。ちゃっす!」
「こんにちは。今日はにのさんは仲間と一緒なんだね」
「はいっす。学校のチア部のメンバーで、この、ちあ子のやってるヘアサロンの手伝いに行くところっす」
「予約で一杯だっての」
「へぇ」
「あ、そうそう。にのはこの前、シオン先輩とペアライブしたっす」
「え?三人じゃなくて二人でライブ?」
「最近は二人でもライブできるようになったみたいっす。マルっす」
「シオンさんに会えたんだ。良かったね。ということは、レオナさんたちも?」
「ドロシー先輩とレオナ先輩はもんじゃ焼きの屋台をしているっす」
「にの、行くよ」
 チア部のコたちが声をかける。
「あ、ごめん。引き止めちゃったね」

「レオナさん達のもんじゃ焼き、食べに行きたいな」
「おいしそうにゃ」
「じゃ、れみも来れる時にみんなで屋台探そうよ」
「賛成!楽しみ!」
「何が楽しみガァル?」
 突然、足元から声がする。
「あ、ガァルル!久しぶり!」

 以前、地下パラを教えてくれたガァルルだった。
 確か、あのあとアロマゲドンに参入してガァルマゲドンというチームを作ったんだっけ。
「ガァルル、あろま達と一緒にパラジュクを追放されて、たまたまここに来たガァル。でも、おかげであみたちに会えたガァル」
「れみは今日いないけどね」
「あみも仲間、増えたガァル?」
「みぃにゃ。よろしくにゃん」
「はじめまして。アタシはさなえ」
「さなえ、もしかして、バックダンサーだったガァル?」
「え?なぜそれを…」
「ガァルマゲドンのライブで一緒にいたガァル」
「確かに、ガァルマゲドンのライブのバックダンサーをしたことはあるけど…」
「ガァルル、ライブの時、大きくなる。はじめましてじゃないガァル」
「あなた、ガァルマゲドンのガァルル?」
「そうガァル」
「アタシのこと覚えていてくれたんですね!嬉しいです!」
 話が一段落したところで、わたしは先刻のガァルルの言葉で気になったことを訊いた。
「ところで、ガァルル、あろまさんたちと追放って言ったよね」
「ガァルマゲドンのせいで、パラジュクが爆発して、追放されたガァル」
「あみ、ちゃんと新聞読んでるにゃ?先週、パラジュクのプリパラで大きな爆発事故があったにゃ」
「そういえば、事故のため、少なくとも半年は閉館とかって話聞いたなぁ」
「…うそ?」
 じゃ、いつかパラジュクでライブというわたしの野望は…
「爆発事故って、あろまさんたちは無事だったの?」
「メカ姉ぇが暴発して、プリパラのタワーが倒壊したけど、けが人はいなかったガァル」
「不幸中の幸いだね」
「あろまたちは、もうすぐ来るガァル。小悪魔を呼びにいってるガァル」
「小悪魔?」
「最近友達になったミーチルのことガァル」

「あーっ!あみちゃんたちなの!久しぶりなのー!」
 わたし達が話していると、元気な声とともにみかんが走り寄ってきた。その後ろに二人。あろまと多分ミーチルってコ。
 うーむ、小悪魔というイメージじゃないなぁ…もっと、尊大というか何というか…
 ミーチルがわたしの視線に気づいた。
「何を見ておる、無礼者!わらわはプー大陸の姫、ミーチルじゃ」
 ミーチルは、そう言いながらわたしの顔を覗き込む。
「見える。見えるぞよ。そなたの力、かなりのものじゃ。そなたとわらわが力を合わせればプー大陸浮上も近いぞよ!」
「は、はぁ…」
「出来る出来る出来る出来る出来る出来る・・・」
 ミーチルは出来るを連呼しながら去っていった。ガァルマゲドンもあわてて後を追う。

「相変わらず、すごくキャラの濃いコが多いなぁ」
「でも、ああいう人がプリパラを盛り上げてくれるんだよね」
「みぃたちも頑張らなくちゃにゃ」
 そんな話をしていると、突然、鈴の音が聞こえた。
「あれ?鈴?」
 ふと見ると、見るからに地獄のイメージのコーデのコがこちらを見ている。どちらかというと、あろまに小悪魔としてついているのはこのコのほうが似合いそうだ。

「壁にミミ子あり…」
「あの…何かご用ですか?」
 聞けば、このコはもともとは風紀委員長として地獄耳を生かして取り締まりをしていたところ、ゆいのライブで幼い頃のアイドルへの夢を思い出し、地獄アイドルとしてデビューしたらしい。そして、先日わたし達がプリパラ盛り上げ企画の話をしていたのを地獄耳でキャッチしたとのことだった。
「こちらへ」
 ミミ子に案内されたのはブランド「リッチヴィーナス」のショップ。さすがにセレブブランドなので入るのは初めてだった。

 店のオーナーが出てくる。ど派手なオバサンかと思いきや、美形の多分わたしよりも若いコだった。
「私は華園しゅうか。アイドルタイム・イズ・マネー。手短に要件をお話ししますわ」
 ミミ子から得た情報で、わたし達がゲストを呼んで盛り上げる企画を知り、プリパリからトリコロールを呼ぶことを運営に提案したとのことだった。
「救世主の神アイドルとプリパリ最高のチームのセッションでプリパラを盛り上げてもらわんと困るんだみゃあ」
 しゅうかは時々名古屋訛りが出る。後で知ったことだけど、セインツのみあさんの妹で、各地のグランプリを制しているらしい。
「すでに、ひびきさんはOKしてくれていますわ」
「そうですか。ぜひそのイベント、成功させましょう!しゅうかさん、ありがとうございます!」
 あのひびきさんを動かせるなんて、さすがはセインツメンバーの妹さんだなぁ。って、ひびきさんには会ったことないんだけど。

 数日後。わたし達はトリコロールの三人と会った。今日はイベントの打ち合わせだ。
 リッチヴィーナスの店舗の2階の応接室でわたし達が待っていると、トリコロールの3人が入ってきた。

 確かに、ひびきさんって、宝塚歌劇の男役みたいでカッコいいなぁ…
「はじめまして。マドモアゼルあみ。それにチームメイトの皆さん」
 スマートにわたし達と握手を交わす。なんか、すごくサマになっている。
「久しぶりだね。新しいお友達もいるんだね。よろしくね」
 ファルルも続けて握手する。そして、ふわりも続く。
 わたし達は緊張して、
「よろしくお願いします…」
 と返すのがやっとだった。

 わたし達は席に着いた。おいしそうな紅茶が出された。
 なぜかヤギの着ぐるみ姿の執事さんが配膳してくれている。
「面白い着ぐるみですね。楽しそう!」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
 執事さんは顔色一つ変えずに一礼し、退室した。

「あみさん、ゆうきさん、れみさんはファルルの恩人だってね」
「こちらこそ、ファルルさんにはお世話になっています」
 答えながら、ひびきさんを見て、ふと思ったことを訊いてみた。
「ひびきさん、怪盗ジーニアスってご存知ですか?」
「えっ?」

 ガシャーン!

 なぜかひびきさんはティーカップを落としてしまった。
「あ、ごめんなさい!急に変なこときいて」
「いや…失礼した。あなたの服が汚れなくて良かった」
「わたし、怪盗ジーニアスに会ったことがあるんです。ひびきさんと背格好が近かったので、ひびきさんだったら怪盗役も似合うかなって思って…」
「ま、まぁ、僕ほどの俳優ならこなせないことはないが…安藤!安藤はいるか?」
 ひびきさんに応えて、どこからともなくさっきの執事さんが現れてカップを片付け、新しい紅茶を用意する。この人が安藤さんなんだな。
 なぜかふわりとファルルはクスクス笑っている。ひびきさん、少し紅潮してるみたい。
「まほちゃんは怪盗だって何だってできるよね」
「埴輪とかね」
「埴輪?」
 ふわりの台詞にゆうきが訊く。
「ほら、初めてプリパラデビューする時とか、私たちのライブ見る時、私たちに手持ちのコーデとかをリクエストできるじゃない?」
「うん。わたし、いきなりだったから、らぁらさんに練習着でライブしてもらうことになっちゃって」
 わたしは初めてプリパラに来た時のことを思い出した。
「ひびきさんを指名した人が持っていたのが関西限定の埴輪ドレスでね」
「あ、わたしも持ってます。それ。あの面白いデザインのやつですよね」
「まほちゃん、あれ着て、あじみさんとみれぃと一緒に『パニックラビリンス』やったんだよ」
「…イメージ違いすぎて想像できない」

 世間話はそのくらいにして、ジョイントライブの打ち合わせが始まった。
「では、このあとのジョイントライブは、まずはそれぞれでライブして、最後は8人でランウェイですね」
「わたし達のコーデはどうしましょう?」
「メガドレインで以前作ったものでライブしてたよね」
 ファルルが言ったのは即席でボトムスを皆変えたかっこいい系チームコーデのことだった。
「あ、確かにあれはいいかもしれませんね」
「でも、みぃたちはどうするにゃ?あれは3人のコーデにゃ」

 ガシャーン!

 紅茶を飲みながら話を聞いていたひびきさんがまたカップを落とした。
「あれ?ひびきさん、どうしたにゃ?みぃ、変なこと言ったかにゃ?」
 みぃが心配そうに聞く。ひびきさんの顔色がますます悪くなる。
「大丈夫にゃ?安藤さん呼んだらいいかにゃ?」
 呼ぶまでもなく安藤さんがひびきさんを連れ出した。
「大丈夫ですか、ひびき様」
「う…プリンセスファルルの恩人の神アイドルの仲間でなければつまみ出すところだが…」
「最近はコインで登録すれば、語尾が付けられるようでございますからね」
「油断した。一般客アイドルは語尾がないと思っていた」
「語尾カットフォンを用意いたしました」
「すまんな」

「ひびきさん、どうしたのかな?ライブできるかな?」
「大丈夫。まほちゃんは語尾アレルギーだから、みぃちゃんの「にゃ」で発作が出ただけだから」
「えっ?悪いことしたっちゃったにゃ…」
「いや、心配はいらないよ。僕には語尾カットフォンがある。もう大丈夫」
「語尾カットフォンをつけると、ひびきさんには語尾が聞こえなくなるの」
 ふわりが解説しながらひびきの横へ行く。
「もう大丈夫なちゅ?心配したなちゅ」
 ふわりがわざと語尾をつけて話かけるが、ひびきさんは平気だった。
「ね?」
「あ、でも、ふわりさんの「なちゅ」語尾の話し方、かわいい!それ、定番にしませんか?」
「いや、それは勘弁してくれ…」
 ひびきさんのツッコミにみんな爆笑した。

 とりあえず、さなえはゆうきとおそろいにしてみた。
「そういえば、あたしのボトムスは別案のコーデのものだったよね」
「うん」
「さなえのトップスをそのコーデのものにしたらどうかな」
 試しにやってみる。
「あ、けっこういいかも」
「みぃはさなえとトップスをおそろいにして、ボトムスはれみとおそろいにしてみるとか」
 試しにやってみる。
 意外とバランスの取れたチームコーデになったかもしれない。
「決まりだね」

 ここで、わたしはトリコロールに頼みたいことを言ってみた。
「あの、第2幕なんだけど、ランウェイを第3幕にして、各チームのメンバー1対1のペアライブを2曲はどうかなって思うんだけど」
「へぇ、楽しそうね。でも、2曲?」
「うちの新メンバー、まだ経験浅いので、トリコロールのメンバーとペアライブしたら、いい経験になるかと思って」
「えーっ?」
「えーっ!」
 みぃとさなえがハモって驚く。
「なるほど。それだと二人、度胸がつくだろうね。私も先輩面できなくなるかもね」
 れみが賛成する。
「じゃ、私は髪型が近いからさなえちゃんとやりたいな」
 と、ふわり。
「私が映画で使ったコーデ、良かったら使う?」
「えっ?いいんですか?そんな大事なもの」
「コーデも着てあげたほうが喜ぶと思うよ」
「では、ありがたくお借りします」
 パルプスコーデの色違いだけど、ピンクで可愛い。ちょっと羨ましいなぁ…

「みぃはどうすればいいにゃ?」
 ふと見ると、ひびきさんの椅子にはひびきさんの人形が置いてあるだけで本人はいなかった。
 よく見ると、人形はコーデチケを持っていた。
「ひびき様は他の用で先ほど失礼しました。コーデはお貸ししますので、ファルル様とライブなさるようにとのことでございます」
 安藤さんが言う。さては、みぃの語尾を警戒して逃げちゃったのかな?

 とりあえず、この日は段取りが決定したところでお開きとなった。

 そして、いよいよ当日。わたし達はライブ会場へ移動していた。
「どうしよう…緊張するにゃ…」
 みぃが緊張のあまり元気を無くしている。
 ちょっと無理させすぎちゃったかな?
 そんなことを思いながら、ショップ近くを歩いていると、バトポンワンピ姿のバックダンサーのコが駆け寄ってきた。
「みぃとさなえだよね!久しぶり!」
「あ、久しぶり。ごめんにゃ。急に抜けちゃって」
「そんな暗いトーンで言わないでよ〜悪いことしてるんじゃないし」
「あ、暗かったにゃ?」
「二人は私たちの希望の星なんだよ。神アイドルにスカウトされてデビューして、がんばって、ついにはトリコロールとジョイントやるまでになったんだよ」
「・・・」
「私たちってなかなかデビューへの一歩を踏み出せないのに、思い切って道を切り開いてくれたのが嬉しいんだよ」
「えっ…」
「私、みぃやさなえの出てるライブ、チェックしてるよ。もちろん今日も全力で応援するよ」
「ありがとう。うれしいにゃ。元気もらったにゃ」
 みぃの瞳の輝きが一気に増した。
「アタシもがんばっちゃうぞー!」
 さなえもエンジンがかかった。
「みぃ、もう大丈夫だね」
 わたしが声をかける。
「もちろんにゃ。一人でも応援してくれる人がいるなら、全力で輝くのがアイドルにゃ!」
「みぃが珍しく、いいこと言った…」
 れみがコメントをはさむ。
「れみ、ひどいにゃー・・・」

 でも、これで完全に緊張がほぐれた。
 あとは全力でライブするだけだ。
「さっきのコのおかげだね」
「じゃ、今度5人でサインを寄せ書きしてあのコにあげようか」
 ゆうきが提案する。
「あ、それいいね!でも、私、よくよく考えたら、サイン考えてないわ」
 れみがつっこむ。
「ははは、言い出しておきながら、あたしもサインないなぁ…」
「ていうか、誰かサイン考えてる人いる?」
 わたしが訊いてみる。実はわたしも3年間、サインなんて考えてなかったよ。

 次の作戦会議はサイン検討会だな…


今回のプリチケ
  
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