第2章 新キャラをスカウトしよう

「なんか、あっさり復帰しちゃったね」
「うん」
「今後はひっそりと活動しようね」
 さすがに、あれだけ大騒ぎして引退して、もう復帰ってのは恥ずかしい。
「じゃ、せっかく延びた1年だし、目標を決めようか」
 ゆうきが前向きな提案をする。
「とりあえず、ゆいさんの依頼でプリパラを盛り上げるのは大前提として…」
 わたしが言いかけると、れみが、
「そういえば、あみのやり残した事って何がある?」
「そうねぇ…一度くらい聖地パラジュクでライブしたいな。あとは、この前の卒業ランウェイでそれ以上の事をしちゃったからいいんだけど、ドリームパレードかな」
「よし、パラジュクはともかく、ドリームパレードはここでやってもいいかもね」
「プリパラアイドルのコーデの色違いで同じ曲をやるとか」
「ドリシアの舞台のあるステージをあえて私服でやってみるとか」
「テーマを決めたランウェイとかも面白そう」
「ゲスト呼ぶとかは?」
「すでにわたし達がゲスト扱いな気も…」
 色々と案は出る。三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものだ。
 しかし、れみがツッコミを入れた。
「でも、ドリームパレードもランウェイも3人では出来ないから、助っ人も探さないとね」

 …3人では出来ない…

 れみの台詞を耳にした途端、わたしの頭の中で何かがキラッと光ったような気がした。
「新キャラ」
 わたしはほぼ無意識にそう言った。
「新キャラ?」
「そう。続編には新キャラがつきものじゃない?」
「でも、どうするの?まさかオーディションややるわけにもいかないでしょ?」
「うん。ちょっと考えるね」
 わたしたちはそんな話をしながら歩いていた。
 ちょうど、ショップの近くを通った時、バックダンサーのコたちがショップ裏の通路の方へ歩いていくのが見えた。
「そういえば、あのバックダンサーさん達って何人くらいいるのかな?」
「さぁ、各ステージに5人ほどいるし、交代要員も要るからけっこういるかも」
「交代要員といえば、ヤギがステージにいたことあったよね」
「そうそう。『地球が恋する歌うたい』をやった時だっけ」
 その時だった。肩にドンと何かが当たった。
「?」
「にゃっ、ごめんなさいにゃ!」
 わたしのこむぎ肌よりこんがり日焼けしたコだった。バトポンワンピを着ているし、バックダンサーさんの一人だろう。
「にゃにゃー!ライブに遅れるにゃ!ホント、ごめんなさいにゃ!」
 バックダンサーさんは猫みたいなしゃべり方でそう言うと、パタパタとショップ裏の通路へ走り去って行った。

「あら?」
 ふと、足元を見ると、プリチケが落ちていた。パキっていない長いままのプリチケで、おそらく初めてのプリチケのようだ。
「さっきのバックダンサーさんのだよね?」
「もしかしたら、本当は客としてアイドルもやりたいのかな」
「かもね。届けてあげよう」
 わたしはそう言いながら通路の奥へ進んだ。
「ライブに遅れるとか言ってたし、もういないかもね」
「でも、特徴あるコだったし、なんとかなるって!」
「名前もわかったしね」
 プリチケには「みぃ」と名前が書いてあった。

 通路の奥は意外と広かった。
「げっ、迷子になりそう…」
 その時、わたし達の横を誰かが高速で走りぬけた。
「あのコ、すごく足速いね」
「ななみさんやみかんちゃんに匹敵する早さだね」
 と、そのコが止まり、振り向いた。
「あれ、ここ何処っす?」
「裏方の通路だと思いますけど…」
 一応、わたしが答える。
「ちゃっす。虹色にのっす」
「はじめまして。あみです」
「友達のゆいに助っ人頼まれてアイドルデビューしたっす。でも、来る途中に探していた先輩を見かけて、追いかけようとしたら見失ったっす。バツっす」
「え?ゆいさんのお友達?」
「あ、もしかして、この前ゆい達とライブした神アイドルの人っすか?」
「ええ」
「ということは、シオン先輩の居場所も知っているっすか?」
「ドレッシングパフェのシオンさん?一緒にライブしたことはあるけど、居場所までは知らないなぁ」
「そうっすか。ひし形っす…」
 にのは気持ちを形で表現するタイプなのかな?でも、ひし形ってどんな気持ちなんだろう?
 それにしても、ゆいの友達でシオンの後輩って、世間狭いなぁ。
「ところで、あみさんはなぜこんな所にいるっすか?にのと一緒で道に迷ったっすか?」
「バックダンサーさんの落し物を拾ったから届けに行こうとしていただけだよ」
「優しいっすね。マル、いや、二重マルっす!」
「にのさんは道に迷ったの?」
「どっちへ行けば表通りに戻れるっすかね」
「わたしたちは表通りから来たから、こっちへまっすぐかな」
「わかったっす。あたした!」

 にのはわたし達が来た道を表通りに向かって去っていった。
「体育会系の元気なコだったね」
「でも、あみ、かなり有名人になっちゃったね」
「うう、嬉しいやら恥ずかしいやら…でも、とりあえず、落し物を届けよう」
「にのさんと話してる間にライブしてたら、逆に会えるかもね」

 わたしたちはバックダンサー控え室の扉をノックし、中に入った。
「失礼しまーす」
 中には何人かのバックダンサーさんがいた。そして、みぃもいた。

 みぃはわたし達に気づくと、
「あ、お客さん!ここはスタッフオンリーにゃ。表に書いてなかったかにゃ?」
「みぃさんに会いに来たんですよ」
「なんでみぃの名前知ってるにゃ?…って、ああ!さっきの人にゃ!」
「みぃ、どうしたの?」
 なんとなくお姉さんっぽい雰囲気のバックダンサーさんが来る。そして、わたしを見ると顔色が変わる。
「ああ、あなた様は!」

 え?わたし何かした?

「あなた様はもしや、かつてはアイドル百人斬りと称して百人のアイドルを狩り尽くした後、ファルル様のために奇跡を起こしプリパラを平定し、ついには女神ジャニスをも実力で従えて天界に君臨し、私たちのプリパラを救うため再び地上に降臨したという究極の救世主様では?」
 おいおい、どこまで尾鰭がついてるんだ?

 それを聞いて、みぃの顔から血の気が引くのがわかる。色黒だからわかりにくいが、真っ青になっている。
「ごめんなさい…見逃してくださいにゃ…」
 みぃは気の毒なくらい震えている。
「めが姉ぇさんにバレたらクビになるにゃ…でも、その前にきっと粛清されるにゃ…」
 ちょっと待ってよ…何をどうすればここまで誤解されるんだ?

「あの、わたし達、みぃさんに落し物を届けに来ただけなんですけど…」
「へ?」
 二人のダンサーさんは拍子抜けした声をハモらせる。
「それに、確かに百人のコとパキって一緒にライブしたり、眠りについたファルルさんをらぁらさんが助けた時にお手伝いをしたり、ジャニス様が一時活動休止の時のランウェイライブに参加してくれたことはあるけど、わたしは普通の大学生ですよ」
「ねぇ」
 背後からゆうきが声をかける。
「あたし、笑い堪えるの限界なんだけど」
 それをきっかけに、わたし達5人は爆笑した。
「誰よ、そこまで尾鰭ついた噂流したの!」

「あ、そうそう。これ、落としてたよ」
 わたしは拾ったプリチケをみぃに返す。
「あ、みぃのプリチケにゃ!」
「あれ、みぃってば、客としてライブしたことあるんだ」
 話に加わっていたコがのぞきこむ。
「はじめは色々なコたちとステージに立つのが楽しかったにゃ」
 みぃはそう話し始めた。
「でも、輝いているお客さんたちを見てたら、みぃも輝きたくなったにゃ」
「あ、わかる。わたしもゆうきも、プリパラTVで輝いてるコを見てプリパラに来たから」
「本当にゃ?」
「うん」

 そこでわたしは直感した。
「ねぇ、わたし達と一緒にステージに立たない?」
「え?みぃをバックダンサーに指名してくれるのかにゃ?」
「ちょっと違うけど、あと、それから…」
 わたしはもう一人のダンサーさんの方を向き、
「よければ、あなたも一緒に」
「アタシも?」
「そう。5人でドリームシアターに!」

「え、でもドリシアにはバックダンサーは…って、えっ?まさか…」
「そのまさか。アイドルとして、わたし達と一緒にやってみない?」
 わたしはそこまで言ってから振り向く。
「ゆうき、れみ、どうかな?」
「あみは思いついたら止まらないからね。さっき新しい仲間欲しいって言ってたから、ほぼ予想通りだし。いいんじゃない」
 ゆうきはれみ参入の時、拗ねたからちょっと心配したけど、大丈夫みたいでひと安心。
「私は楽しそうだし歓迎するけど、迷惑じゃない?みぃさんと、えっと…」
「あ、アタシ、さなえです。なんだか怒涛の展開で自己紹介の機会逸してたけど」
「本当にみぃでいいにゃ?会えただけでも家族に自慢できるのに、一緒にライブなんて…すごすぎにゃ」
「このコだけだと危なっかしいし、アタシもご一緒させてください」

「じゃ、どんなコーデでやろうか?わたしたちはメガドレインで作ったのを使う予定だったんだけど」
「アタシたちは今回はバトポンワンピのままいきます。それで、ライブの成否によって仲間に入れてくれるかどうかを判断してください」
 まぁ、テーマパークで楽しむ友達という関係なんて、フィーリングだけでいいと思うけど…
「じゃ、形だけはオーディションってことでいこうか。そのほうが気持ちの整理がつくかな」
「よろしくお願いします」
「ところで、プリパラは好き?」
「もちろんです」
「もちろんにゃ」
「じゃ、大丈夫。一緒にライブ、楽しもうね」

 さて、いよいよエントリーしたけど、今日は比較的混んでいた。
 わたし達はジュースを買ってきて、みんなで飲みながら雑談をしていた。
「緊張してきたにゃ…」
「普段どおりやればいいよ」
「そういえば、さなえさんって、歳いくつ?」
 もしかしたら、お姉さんかもしれない。
「え、高3です」
 うそ、年下?わたしがちょっと驚いていると、ゆうきが、
「あたしと同い年だね!」
「そうなんですか?」
「うん。あみとれみは1つ上」
「それも、私とあみは誕生日も一緒なんだ」
 れみが補足する。
「いいにゃー、若いコは」
 みぃがコメントする…えっ?若いって…
「みぃは21歳にゃ」
 姉と同い年だ…どうみてもみぃとさなえの年齢が逆のほうが納得いくんだけどなぁ…
「でも、歳は上でも、アイドルとしては後輩にゃ」
「まぁ、いままでも無礼講だったから、あまり年齢とか先輩後輩関係なく、楽しくやりたいな」
「そういえば、高校のアイドル部って、先輩後輩禁止のところも多いみたいだね」
「前に大会の中継見て投票したことあったね」
 れみが回想する。
「ちょうど、今、大会の決勝トーナメントやってるはずにゃ」
「あ、そうなんだ」
 れみがスマホのワンセグをつけると、確かに大会の中継を放送していた。
「あっ!このチームにゃ。みぃは、このチームが「私達、輝きたい!」って言ったのを聞いて、デビューライブにチャレンジしたんにゃ」
「そうなんだ。じゃ、今年はここに投票しようか」
 れみがワンセグを使っているので、わたしが自分のスマホで投票サイトを開く。
「えーっと、「来年、統廃合により学校がなくなるので、母校の名前を歴史に刻むため参加」だって。なんか、毎回背負ってるものがすごいなぁ…」
 わたしは感心しつつ投票した。
 すると、ちょうどライブの順番がまわってきた。
「もう、ライブの時間ですか?」
 れみはあわてて残りのジュースを飲み干した。さぁ、出番だ。

「がんばっちゃうぞ!」
 と、さなえ。
「がんばるにゃん!」
 と、みぃ。

 さぁ、いよいよライブだ。

 ライブ終了後。
「で、やってみてどうだった?」
 わたしは4人に聞く。
「普通に楽しかったよ」
 と、ゆうき。
「だね。それに、これからライブを重ねれば、もっと楽しくなると思う」
 と、れみ。
「じゃ、合格…ですか?」
 そう訊く二人にわたしは微笑みで返す。
「ま、最初からわかっていたけど…これからもよろしくね!」

 こうして、わたし達に新しい仲間が加わることになった。


今回のプリチケ

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