第29章 あけまして、それから、誕生日おめでとう
「あけおめー!」
「ことよろー!」
「レッツ、初詣!」
わたし達は、れみの戻ってくる時間に合わせて初詣に集合した。まずは3人で近所の神社にお参りをする。
今年も楽しい1年になりますように。
まず、お参りを済ませると、いよいよお楽しみの時間。屋台にはこういうとき限定の食べ物がいっぱい。焼きとうもろこし、フランクフルト、イカの姿焼き…
中でも、ここの神社の屋台では、毎年行列のできるベビーカステラ屋があり、それがおいしい!
わたし達はそれぞれに買ってきた焼きとうもろこしとかを食べながら列に並ぶ。
「そういえばさ」
ゆうきが切り出す。
「あみって、結局クリスマス前に何枚トモチケ交換したの?」
「間接パキりで、本人に後から会った人とか、トライアングルとは別にのんちゃんとか、そういうの含めたら4人かな。あと、交換所で1枚」
「ということは…」
ゆうきは嬉しそうだが、れみの顔はひきつっている。
「目標達成だから、あたしの勝ち!ベビーカステラはれみのおごりね」
「ぐむー、負けた…」
あんたら、ホンマに賭けとったんかい!
「あみは胴元みたいなものだからどっちにしてもおごろうって話だったから負けたら3人分なのよね…」
「だったら、逆に千円の大袋にして3人で分けようよ。小袋3個より安くて量はそんなに変わらないよ?」
れみが気の毒なのでわたしが提案する。
「おお!女神降臨!」
「このカステラ、時々当たりがあるんだよね」
そう。ここのベビーカステラは、あまりに客の回転が速いせいか、時々奥まで焼けてなくて、中がクリームみたいなものがある。でも、それが本当にクリーム入りスイーツみたいですごくおいしかったりする。だから、わたしとゆうきはそれを「当たり」と呼んでいた。
「ふーん。そんなのがあるんだ?」
と言いながら、れみがカステラを一つ口に入れる。
「あ…いきなり当たりだわ」
「わぁ、じゃ今年はラッキーな一年になりそうだね!」
「これで一年分の運を使い果たしたんじゃなければいいんだけどね…」
「じゃ、そろそろプリパラへ『ニューイヤー新春ライブ』やりに行きますか」
「なんか重複表現なライブだなぁ…」
「とにかく、ライブの後は、近くにおいしい串カツ屋さんあるから、そこで新年会だから、ここまでのカロリーをライブで消費だね」
「…あみ、まだ食べる気?」
「ていうか、私の取れる時間、ぎりぎりまでのプロデュースだね…まぁ、こんな楽しいお正月は久しぶりだから感謝してる」
「というわけで、新年会は串カツで決定!大丈夫。店は先週のうちに予約しておいたから」
「こらこら、問答無用のつもりだったんかい!」
実際、楽しさと勢いで、わたしは正月早々食べ過ぎてしまった。ちょっとカロリー消費しないと…
何かと理由をつけて、中一日でまたライブをやりにきた。とりあえず、メガドレインで作った新作でも試そうか、とライブ受付に向かうと、
「あの、失礼ですが、あみさんですか?」
全く知らない人が声をかけてきた。
「はい…そうですが」
「この前、トモチケを交換所に入れてましたよね。大切に使わせてもらっています。ありがとうございます」
最近、わたしのトモチケを使って何度かいいねを送ってくれた人って、あの常連さんっぽい人かな?
「あ、多分わたしもお世話になってかと思います…このトモチケ…かな?」
わたしは思い当たるトモチケを出しながら言うと、
「あ、そうです。せっかくなんで、ぜひ一緒にライブしてやってください…このコと」
その人の後ろに隠れるようにしていたコがこくんと小さく会釈した。後ろに一人いたんだ…ていうか、この人、単なる付き添いの人?
ただ、実際ライブすると、常連さんだけに実力は確かだった。ライブの時だけスイッチが入るコなのかな。
「ありがとうございました。ライブでもコーデの貸し借りでも何でも、また見かけたら声かけてやってくださいね」
ライブ後、付き添いの人がそう言って、二人は帰っていった。もしかしたら、あのコを最強のアイドルに育てるのが生きがいみたいな人かもね。
最近はメガドレインで好評だったコーデのカラバリを作って3色のコーデでライブしたり、リアルクローズ系コーデで合わせたり、チームでの活動が増えたせいで、なんとなく、自分のトモチケがたまってきた。
「交換所、今日はトモチケあまりないなぁ…」
有効活用しようかと思ったけど、それもかなわず。とりあえず、何枚かのトモチケを交換所に入れて帰ろうとしたときだった。
ガサガサという音が聞こえたかと思うと、何か大きな動物が茂みから飛び出してきた。
「きゃっ!」
わたしは咄嗟に避けた。よく見ると、浅黒く日焼けした女の子だった。
「おまえ、のん 違う」
サパンナで育った野生児みたいなコだな…でも、のんちゃんの知り合いみたい。
「のんちゃんの知り合い?」
「あたい ペッパー。のん の トモダチ」
「わたしはあみ。よろしくね」
「おまえ、のん 知ってるか?」
「うん。何度か一緒にライブしたことはあるけど」
「じゃ おまえ トモダチ。ペロピタ!」
ペッパーは自分の人差し指をペロリと舐めて、わたしの額に唾をつけた。一瞬驚いたけど、これがこのコの国の挨拶なのかな。
わたしは恐る恐る自分の指を舐め、ペッパーに同じことをした。
「ペロピタ…これでいいのかな?」
すると、ペッパーは笑って
「おまえ いいやつ。ニク 食うか?」
ペッパーはどこからともなく骨付き肉を出してきた。
そういえば、今日は2月9日。肉の日なのかな?
どうしよう…もらったほうがいいのかな?と考えていると、
「そこにかしこまりなさーい!」
凛とした声が響き、わたし達はついかしこまってしまった。
緑色の髪のコがそこにいた。
「ペッパー、のんは見つかりました?」
「のん いなかった。でも トモダチ みつけた」
「あ、あみです。なんかいきがかりで…」
「頭が高ーい!」
「え、す、すみません!」
なぜか、ついかしこまってしまう。
「わたくしは、ちり。のん、ペッパーとチーム「ノンシュガー」で活動しておりますの」
「のんちゃんのチームメイトの人たちでしたか」
「まぁ、ペッパーが認めたのなら、この者にのんの代役をやっていただきましょう」
ほとんど成り行きで、この人たちとライブすることになった。まぁ、一応、トライアングルの衣装なら持っているし、いい機会かな。
それにしても、のんちゃんのチームメイトって個性がすごいなぁ。
ライブを無事終えたあと、わたしは帰ろうとプリパラを出ようとした。ちょうど、ちりが一緒になった。
「いいライブでしたね。そうそう。確か、あなたたちの挨拶はこうでしたよね」
わたしはちりの額に
「ペロピタ」
途端にちりの表情が変わった。
「ひいっ!ちりしゃん、ちりしゃん!」
ちりはいきなり水芸を始めて、器用に額を洗う。
「そこにかしこまりなさーい!そんな汚らわしい挨拶をするのはペッパーだけですわ!」
「ひいっ!ごめんなさい…」
わたしはまた、ついかしこまってしまった。
そして、そのまま一緒にプリパラを出た。
わたしの隣には淡い茶色の髪の小学生の女の子がいた。
「はわわ…初対面の、それも年上の方に失礼なことばかり…申し訳ございませんでしたぁ…」
その女の子、ちりはいきなり土下座してわたしに謝る。プリパラの中と外で性格完全に変わるんだ、このコ…先日の常連のコ以上だ。
「あ、そんなにかしこまらないでね。せっかく知り合えたんだし」
わたしはちりにトモチケを差し出した。
「はわわ…こんな私と本当にトモチケ、パキってもらえますか?」
「もちろん!ぜひお願いします。あ、こちらこそごめんなさい。ペロピタの件」
「あの、思い出したくないです…その話」
「それもそうか、ごめんね。確かにあの挨拶はペッパーちゃんたちサパンナの人くらいしかしないよね」
「ですね」
ちりが笑う。このコが笑うのをやっと見た気がする。
そういえば、うやむやになったけど、ペッパーがくれるって言ってた骨付きの肉、ちょっと食べてみたかったな…
そんなことを考えながら歩いていると、ゆうきにばったり出会った。
「あ、あみ!」
「予備校帰り?」
「うん。クレープでも食べに行く?」
「うん。行く行く!」
「ははは、食べる話は断らないね」
わたしたち二人はクレープを食べながら雑談をした。
「でね、そのちりってコがプリパラの中と外で全然違ってて…」
今日の顛末で盛り上がる。
「へぇ、すごいね。あたしも会ってみたいな。のんちゃんのチームの人たち」
「あと、性格といえば、この前言ってた時々いいねを送ってくれる謎の常連さんに初めて会ったんだ」
「どんなコだった?」
「イメージ通りの百戦錬磨みたいな人と一緒にいたおとなしそうなコだった」
わたしはその時のプリチケを見せた。
「あら、この時の入荷コーデ、セーラーコーデのヘアアクセだ!」
「そうだね。どうしたの?」
「このコーデって男の子と女の子のデザインがあるんだけど、適当に組み合わせたらボーイッシュからガーリィまで色々できそうかなと思って」
「なるほどね」
「もう少しで両方揃いそうなんだけど、そのヘアアクセ、まだだったんだ」
「じゃ、わたしも入荷狙おうかな」
というわけで、わたしはライブをしにやってきた。この前のトモチケは無事誰かに使ってもらえたようだった。
そして、そのうちの二人からいいねが送られていた。
わたしは交換所でその二人のトモチケを探し出して交換し、ライブしていいねを送った。ただ、残念ながらセーラーコーデは入荷しなかった。
「あぁ、残念」
「何が残念?」
れみだった。
「あ、来てたんだ」
「さっき来たところだけどね」
「れみはセーラーコーデ何か持ってる?」
「んー、いくつかあったなぁ。なんで?」
「ゆうきが何か思いついたみたいだけど、自力でコンプできてないらしいから、私も狙ったんだけど」
「じゃ、次回は3人で持ってる分を持って集合しようか」
「だね。うまく揃うとゆうきも喜ぶね」
「あ、れみ、ちょうど足りない部分だよ、それ」
「3人寄ればなんとやら。コーデ、揃ったね。よかったね、ゆうき」
「うん。それは良かったけど、ちょっと段取りが…」
「え?」
「実は、二人の誕生日が近いから、誕生日にこれのミックスでチームコーデにしてライブするってサプライズをしようと思ったんだけど…」
「サプライズじゃなくなっちゃったってわけか」
「あたし、メガドレインもないから、チームコーデを自分で作るにはこれかなって思ったんだけど」
「あ、でも、このアイデア面白いから、やっちゃおうよ」
「え?もうするの?」
「わたし、昔、ドリシアでバースデーケーキのコーデを手に入れたけど、誕生日の後だったんでずっとしまってあったんだ」
「え?今年の誕生日は?」
「へへ、使うの忘れてた」
「じゃ、バースデーライブはケーキのコーデでやるとして、チームコーデはさっそくやろうよ」
「当日はコーデに似たケーキ探してパーティーしなきゃね」
というわけで、2案のバースデーライブ、どちらもすることになった。まぁ、れみとわたし、二人分だからいいよね。
今回のプリチケ
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