第23章 シュララ

「あれ?」
 今日はゆうきと一緒にプリパラに到着した。そしてゲートをくぐったところで珍しいものを見た。
「あれって、昔のファルルだよね?」
「ミニファルルが大きくなったのかな?」

 どう見てもファルルみたいなコが4人連れ立って歩いていた。

 わたし達はれみに合流して、そのファルルたちの話をした。
「え?私もさっきそこでファルルだと思って声をかけたらペェルルってコだった。別人みたいね」
 わたしは、その話に夢中で、つい、スタンプラリーの台紙を手に持ったままだったことに気づいた。
 最近、プリパラに来る度にスタンプがもらえるスタンプラリーをしているので、わたしも挑戦していた。丁度、次回来ればプレゼントゲットだった。
「そういえば、何がもらえるんだっけ?」
「えーっと、新しい髪形にチェンジって書いてあるね」
「もしかして、その景品がファルルもどきなのかも」
「じゃ、次はあみがファルルになるのかな?」

 結論から言うと、わたしの髪型はファルルもどきにはならなかった。

 髪型チェンジしたら、全然違う髪形だった。
「なんか、違うみたいね」
「だね。まぁ、せっかくだから、しばらくこのままでいようかな」

 そんな話をしながら、わたし達はショップに来た。そこに、見慣れないアイテムが売られていた。
「ボーカルドール育成キット?」
 ロゼットパクトという丸いコンパクトのようなものとキラキラの砂のようなものの入った小瓶がセットになっている。
 説明書によると、この小瓶の中にはプリチケにこめられた想いの成分で、これをロゼットパクトに入れるとボーカルドールが生まれるらしい。そして、普通はファルルと同じボーカルドールが生まれるけど、時々は別のボーカルドールが生まれるらしい。
「どうやら、あのファルルそっくりのコたちはこれで生まれたみたいね」
「間違いなくこれだね」
「なんか、レアなコが生まれることもあるみたいね」
 それを聞いて、わたしの脳裏にはとあるスマホアプリが浮かんだ。ひたすら原木に生えてくるなめこを収穫するというものだ。
「なめこを栽培してると時々お化けみたいな白いきのこ…マサルだっけ、とかが混ざって生えるみたいなものかな」
「なんでそんな例えを…要するに、前に会ったガァルルみたいなものでしょ」
「うーん、的確すぎる例えだ」
「面白そうだし、わたし達もやってみようか」
「そうだね」

 さっそく、わたしは買ってきたロゼットパクトにキラキラの成分を注いだ。パクトの中には小部屋があり、その中でキラキラの粒子が凝集して、赤ちゃんが現れた。赤ちゃんは部屋の中をハイハイしたり、こちらを見てにっこり笑ったりしている。
「わぁ、かわいい!」
 パクトにはボタンがついていて、色々操作ができるようになっていた。壁紙や家具も変更できるみたいだ。
 わたし達は色々と部屋の模様替えをしてみた。そして、赤ちゃんが一番喜んだ部屋に決めた。
「この子の名前はどうしよう?」
 れみが聞く。わたしは説明書を見た。
「なになに?説明によると、一応、名前はついてるけど、わたし達でつけてもいいみたい」
「どうするの?」
「名前を変えるのもかわいそうだし、本人から聞いた名前でいいと思う」
「そうだね」
「わたし、あみ。キミの名前は何かな?」
 わたしはパクトの窓ごしに赤ちゃんに話しかけてみた。
「…シュララ…」
「え、名前はシュララなの?」
 赤ちゃんはにっこり笑った。この子の名前はシュララだ。
「そういえば、この子、何を食べるんだろう?」
「ミルクでしょ。ここにそれっぽいボタンあるよ」
 ゆうきがボタンを押すと、ロゼットパクトの窓の中が廊下になった。いったいどういう構造なんだろう?
 シュララが廊下をハイハイで進む。しばらく進むと床に芋虫が這っている。
「あっ、あぶない!」
 シュララは芋虫をジャンプで飛び越してその先の哺乳瓶を取って飲んだ。そして、1本では足りないのか、更にハイハイで先に進む。今度は哺乳瓶がクマのぬいぐるみの上にある。シュララは軽々とジャンプして哺乳瓶をゲットした。すごい運動能力だなぁ…
 シュララもお腹いっぱいになったようなので、わたしはシュララの部屋のカーテンを閉めて、パクトの蓋を閉じた。

 次の日。わたしたちはプリパラ内のパーラーで集合した。例の徳用肉まん1人分を3人で分けながらガールズトーク。
「ところで、あみ。シュララの様子はどう?」
「起きてるかな?」
 わたしはパクトの蓋を開けた。
「あれ?」
 なぜか、ドレッシングパフェのマネージャーのウサギさんが部屋にいた。
「なんでウサギさんが?」
「たまたま来たら、いい部屋だったので休んでいたウサ。ごめんウサ」
 ウサギさんは去っていった。
「で?シュララはどこ?」
 どうしよう。シュララがいない!
「どこ行っちゃったんだろ?」
「大丈夫かなぁ…」

 わたしたちが心配していると、シュララがクッションを持って帰ってきた。
「あのね、お散歩行ったら、おみやげもらったよ」
「シュララ!心配したよ!」
 わたしはシュララを叱った。
「ごめんなさい…」
「もう、勝手に出て行ってはダメだよ」
「はい…」
 安心すると、涙が出てきた。

 シュララはそんなわたしたちを見て、
「いっしょに遊ぼう!」

 ロゼットパクトから光が出て、わたし達は光に包まれた。

 わたし達は気がつくと、広場にいた。遠くにプリパリらしき街が見える。
「ここ、どこ?」
 どうやら、ロゼットパクトの中の世界のようだ。広場には風船のついた籠があり、籠の中にシュララがちょこんと座っていた。
 そして、その横には空気入れがあった。

 わたし達は空気入れで風船に空気を入れてみた。すると、シュララを乗せた籠をぶら下げたまま、風船は高く遠い空へ揚った。
 シュララは嬉しそうに笑って手を振っている。

 でもこれ、不思議な空間だから、単なる遊びだけど、リアルでやると児童虐待の疑いで児童相談所の人が来そうな遊びだなぁ…

 それから数日後、わたしがパクトを開けた時だった。
「あれ?キラキラしている?」

 シュララの周りに光の粒子がキラキラと舞っている。そして、シュララは光に包まれる。
 光の中からボーカルドールが現れた。ファルルとは違う、ピンク色の髪をツインテールにまとめたボーカルドールだった。
「あのね…あみちゃん、さみしいけど…プリパラにかえらなきゃなの」
 成長したシュララはそう言った。成長したボーカルドールはプリパラでデビューするためにプリパラへ帰っていく。
「あたしのトモチケもらってほしいな。こんどプリパラでライブするときは、きっとあたしも呼んでね。待ってるからね!バイバイ!」
 そう言うと、シュララはトモチケを残して光の中に消えていった。

 わたしは、しばらくの間、空になったパクトを見てぼーっとしていた。
 ほんの数日なのに、何だろう、この嬉しいような淋しいような切ないような気持ちは…

 わたしは我にかえるとすぐにゆうきたちに連絡した。
「えっ、シュララが?」
「でもまぁ、無事にプリパラデビューできて良かったね」
 わたしたちは、さっそくシュララに会いにプリパラに向かった。

「シュララ、どこ?」
 ファルルみたいなコは何人か見かけたけど、シュララの姿は見当たらない。やっとツインテールのレアなボーカルドールを見かけたけど、青い髪だったので別人だった。

「あみさーん!」
 遠くから声がかかった。声のしたほうを見ると、いつかの助っ人さんがいた。

「あ、おひさしぶり!」
「さっき、そこであみさんを探しているボーカルドールを見かけたから」
「え、本当?ありがとうございます!」
 わたし達は助っ人さんの先導で角を曲がって、シュララに再会した。
「あみちゃん!」
「シュララ!」
 わたしとシュララはハグした。
「へぇ、シュララ、大きくなったね」
「せっかくだから、みんなでドリシアでライブしようよ」
「え?私も?」
「何度か参加してくれてるし、シュララと会わせてくれたし、ぜひ!」

 こうして、わたしは自分が育てたボーカルドールと一緒にライブすることができた。
 一生の思い出になるライブになったと思う。

 …まぁ、その後も、時々一緒にライブする機会はあったけどね。


今回のプリチケ
 
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