第15章 オータムドリーム大会で取り返せ

 わたし達はカフェでお茶をしながら話をしていた。カフェから見える広場で、ピンクのおさげ髪で眼鏡をかけた小柄なコが、イーゼルを立てて絵を描いていた。
「風景画でも描いているのかな。もう芸術の秋かぁ」
「それにしては勢いがすごい気がするけど」
「まぁ、絵描きさんの話はいいとして、本題に入るよ」

 怪盗はドリチケを「預かる」って言った。
「ということは、天才と認められれば返ってくるのかな?」
「どうすればいいんだろう?」
「とりあえず、次のオータムドリーム大会で最高のパフォーマンスを見せるしかないね」

 まぁ、それ以上考えても何にもならないか、と思ったら、電話が鳴った。
「あ、ごめん電話だわ。あ、もしもし?お姉ちゃん!」
 姉からだった。姉は美術の先生になるため、プリパリに留学している。
「どうしたの?国際電話なんて」
「あみ、あんたさ、正月にあたしが帰省してる時にプリパラがどうとかって話してたよね」
「うん」
「今度、うちの先輩…まぁ、会った事もないないOBだけど、すごいコがプリパラに行くらしいよ」
「そうなんだ」
「見かけたら、話の種にライブの写メでも撮って送ってよ。とにかくすごいコらしいから。じゃね」
 それだけ言って電話が切れた。電話代節約のつもりだろうけど、せめてそのコの名前くらい言って欲しかった。

 わたしはふと、広場を見た。まさか、ね。姉より随分年上みたいだし、関係はないだろう。

 その後、ライブに行こうとすると、らぁら、みかん、ドロシーの3人が向こうから歩いてきた。
「らぁらさん!こんにちは」
「あ、あみちゃん。こんにちはのかしこま☆」
「珍しい顔ぶれですね」
「プリパラポリスとしてあじみ係長に召集されたなの」
 みかんから聞きなれない単語が出る。
「プリパラポリス?」
「最近、怪盗ジーニアスにコーデを奪われる事件が起きてるのは知ってる?」
「うん。というか、わたしも奪われたし」
「ええぇーっ?あみちゃんまで!」
 そこへドロシーが割って入る。
「でも、もう大丈夫。ボクたち優秀なアイドルがプリパラポリスになって怪盗を捕まえるんだから」

「それで、あじみ係長のところへ行くところなんだ」
「あじみ係長?」
「学校では美術の先生なんだけど、プリパラポリスの係長でもある人で、最近プリパリからこっちへ来たって言ってた」
 プリパリから来た美術の先生って…まさか?

 わたし達はらぁらたちと話しながら歩いていると、結局元のカフェ前の広場に戻ってきてしまった。
 すると、さっきの絵描きのコが筆を止めて振り返った。そして、怒涛の勢いでわたし達のところへ走ってきた。
「やっと来ターナー!ポンカンがあじみ係長ダ・ヴィンチ!プリパラポリスはそこに整列すルーベンス!」
 わたし達まで勢いに押されてつい整列してしまう。
「あれ?人数が多い気がすルノワール?あなたたちはダリ?」
「あ、わたし達はらぁらさん達の友達です」
「とにかく、怪盗ジーニアスをなんとかしな伊藤若冲!これをあげルネッサンス!あなたたちも捜査協力よろしクレヨン!」
 あじみ係長はわたし達にそう言いながら、問答無用の勢いでわたし達にプロモプリチケを持たせてくれた。
 そして、そのままの勢いで、
「プリパラポリス出動ダ・ヴィンチ!レッツ・ゴーギャン!ポアン、ポアン、ポアン…」
 自分でサイレンの口真似をしながら走り去っていく。らぁらたち3人もあわてて後に続いて走っていってしまった。

 わたし達3人はしばらく呆然としたまま広場に立っていた。
「何だったんだ?あの人…」
「見た目はおとなしそうな女の子なのに、言動がイメージと違いすぎるね」
「先生で係長ってことは偉い人なんだろうけど…」
「そういえば、プリチケ貰ったね」
「お礼を言う暇もなかったけど…」
 言いながらプリチケを見ると、ポリスの制服のコーデチケットだった。
「これ、わたし達が勝手に着るとまずくない?」
「だね。しばらくは使わないほうがいいかもね」

 そんな話をしていると、後ろから声がかかった。
「怪我はなかった?小鳥ちゃんたち」
「そふぃさん?どうしたんですか、その格好!」
 そふぃが何故か看護師の格好をして立っていた。レオナ、ふわりもいる。
「あじみ係長が暴走しているので、プリパラナースとして怪我人の救助をしてるんだけど、大丈夫だった?」
 レオナが説明する。レオナのナース服もスカートの女性用で、まさに白衣の天使って感じだけど、この人、男なんだよね。更にいえば、ナース服も色つきなので「白衣」でもないし。でも、見ているだけで癒されるくらい似合っていた。
「わたし達は話を聞いただけだから。あ、ドロシーさんはらぁらさん、みかんさんと一緒にポリスしていましたよ」

 プリパラナースの3人はプリパラポリスが消えた方へ去っていった。
 
「今日はずいぶんと色んなことが起きるね」
「そうだね」
 あ、姉が言ってたのは間違いなくあじみ係長のことだろうな。写真撮らせてもらえば良かったな。
 まぁ、あの勢いではどうすることもできなかったけど。

「ポアン、ポアン…」
 そうこうするうちにプリパラポリスの4人が戻ってきた。
「パトロール終了ダ・ヴィンチ!」

 そうだ。この人なら、コーデを取り返す方法を知っているかもしれない。
「あの、あじみ係長さん」
「ん?何か用葛飾北斎?」
「怪盗は天才のライブができるまでコーデを預かると言っていました。どうすればいいと思いますか?」
「ライブ気持ちが大ジオット!まずは初心にかえってミレー!」
「アドバイスありがとうございました」
「がんばってミケランジェロ!」
 あじみ係長はそう言って、またどこかへ走り去っていった。

 しゃべり方は独特だけど、そこは先生。アドバイスはもらえた。
 でも、そっちに気をとられて、写真は忘れてた。お姉ちゃん、ごめん。

「オータムドリーム大会にはどう挑もうか」
「あじみさんは初心にかえれって言ってたよね」
「初心…そういえば、初めはゆうきを連れてくる下見のつもりだったけど、どんどんハマって…」
「確かに、ライブ回数も髪型のバリエーションもダントツだもんね」
「そうそう。メジャーに上がったあとは嬉しくて、新しい髪形をどんどん試して」
「あ、それかも。あみは気分転換も兼ねて最新の髪型に変えて…」
「私は髪の色を戻してみるね」
 と、れみが話に乗ると、ゆうきは相槌を打ちつつも、
「だね。でもあたしは一度もイメチェンしてないな」
「ゆうきはセンターをちゃんとつとめたから、そのままでいいんじゃない?」
「あ、そうか、そうだね」

 方針は決まった。
「そういえば、サマードリーム大会の時に助っ人頼んだ人ってどうするの?」
「うーん、言われてみれば、たまたま会っただけで、連絡先聞いてなかったね」
「今回もらぁらさんたちに入ってもらうことになるかな」

 オータムドリーム大会のステージが始まった。
 今度はキッチンをイメージしたステージだった。
 ハリボテの玉ねぎの中から登場したり、色々な演出により、だんだんオムライスが作られていく。

 どんどん凝ってくるなぁ、ここの演出。

 そして、最大の見せ場は、バターの箱や牛乳パックで出来た階段を登り、玉子を焼いたフライパンの取っ手にジャンプしてオムライスを完成させる。
 緊張する・・・わたしは祈るように手を胸の前で合わせて、一段、一段と階段を登る。
 そしてジャンプ!

 着地成功。オムライスが完成した。

 引き続き、サイリウムエアリーを出し、5人で飛び立つ。あとは夏の時同様にベルを鳴らす。
 ライブ、大成功!
 月をイメージした秋のプリンセスのコーデをゲット。
 今度はちゃんと5人のドリチケだった。

 わたし達は控室に戻ってきた。
「あれ?」

 机の上にわたしの夏のドリチケとメモが置いてあった。
「おめでとう。君の才能は認めよう。怪盗ジーニアス」
 メモにはそう書かれていた。とりあえず、コーデは返してくれたようだ。

「怪盗ジーニアス…根っから悪い人でもないのかな?」


今回のプリチケ

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