第12章 トモダチ100人できるかな・パート2
さて、これが神アイドルを目指すというサクセスストーリーならここでエンドロールが出るんだろうけど…
わたし達3人はライブ受付で、モニターでドリームシアターの中継を見ていた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「見て、5人でライブしてる!」
「本当だ。5人ライブ対応になったんだね」
「さっそくやってみようよ」
「いいけど、あとの二人はどうしよう」
「トモチケで呼んでみようか」
「ひさしぶり」
らぁら達が来てくれた。メンバーは揃った。
「ドリームシアターライブ、スイッチオン!」
5人でのライブだと、メンバーアピールは二人ずつになる。まぁ、歌の尺が変わるわけではないし。
そして、サイリウムチェンジのタイミングになると、目の前で羽根のようなものがルーレットのように回る。
「サイリウムエアリー!」
え、何これ?
全員の背中に光る羽根がついた。そして5人はステージ上空に舞い上がった。
わたし達、飛んでる?
気持ちいい。わたしは客席に手をふりながらひとしきり飛んで歌い終えた。
さすがは料金倍だわ…。最高の気分だ。
わたし達3人は、らぁら達と別れてショップの方へ向かった。
売り場にハート型のアイテムが陳列されている。
「これ、何だろう?」
「これはサイリウムチャームでーす」
めが姉ぇさんの説明では、プリパラでのライブで発生するパワーを溜めて、これを使ってコーデチェンジすると、売り場に見本のあるサイリウムドレスでライブできるとのことだった。
「すごいキラキラだね」
「羽根がついてる」
展示されてるのは確かにすごいドレスだった。
「ねぇ、あみ」
れみが言う。
「神アイドルになったお祝いに、これ、プレゼントしようか」
「え、お祝いだったらあたしも半分出すよ」
「えー、それは悪いってば。みんなで買ってみんなで使おうよ」
そんなわけで、わたし達はチャームを買って、ライブ会場に持っていった。
会場では天使のコーデを着たコが歌っていた。
「あ、あれ最近出来たブランドだよね。シルキーハート」
「歌ってるのはこの前プリパラTVでデビューライブしていたコだよね。確か、みかんちゃん」
「かわいいなぁ。本当に天使みたい」
ライブを見終わると、チャームが光った。
「あ、チャームが光った!」
「なんだろう。あ、説明書によると、ライブパワーが溜まると光るらしいよ」
「やったね!じゃ、さっそく試してみようよ」
わたしは早速、チャームを使ってコーデチェンジしてみた。
あのキラキラのドレスが…って、
「あれ?」
私が着ているのは水色のワンピースだった。さっき見たドレスよりはかなり地味だ。
「あ、よく読むと、あのドレスは七回分ライブパワーためないとダメみたい。回数によって、だんだんゴージャスになるみたいね」
「おっ、全く溜めなくても使えるみたいだよ」
ゆうきが試してみると、赤いワンピースだった。そして、そのコーデは、更に靴下もなかった。
「でも、あみの場合、肌がこむぎ色だから、逆に露出の多い赤のほうが健康的でカワイイかもね」
「うーん、それ、喜んでいいのか怒っていいのか、どうなんだろう…」
次の日、わたしは予定よりかなり早く時間があいたのでプリパラに来た。ふとパーラーに目をやると、昨日見た天使アイドル、みかんがいた。一緒にいる悪魔のコーデのコは確か、あろまってコだったはず。二人でデュオライブしてるのを見たことがある。
よく見ると、みかんが全米ホットドッグ早食いチャンピオンが白旗をあげるほどの勢いで肉まんを食べている。その様子を見て、わたし達の持った天使みたいというイメージは、音を立てて砕け散ったような気がした。
「ん?」
あろまがわたしの視線に気づいた。
「あ、こんにちは。あみっていいます。あろまさんとみかんさんですよね。この前プリパラTVで見ましたよ」
わたしはとりあえず挨拶する。
あろまはわたしをまじまじと見た。なんだろう…?
「あみとやら、汝、この前、神アイドルになっていた者であるな」
「え、どうして知っているんですか?」
「我はア・ローマ預言書により何でも知っているのである」
「たまたま、あみちゃんが神アイドルになった時のライブ見てたなの!」
横からみかんが種明かしをする。
「デビ…、と、とにかく、わが「アロマゲドン」の戦力となるか見極めてやろうぞ」
え…一体どうなるの?
「あろまは、一緒にライブしようって言ってるなの!」
みかんが通訳する。そういうことね。
「わたしで良ければ、ぜひ!」
「デビデビデビ…もちろんである」
「よろしく、えーんじぇるーん」
ライブは滞りなく終わって、わたしとアロマゲドンの二人は戻ってきた。
ちょうど、ゆうきたちが到着していた。
「そうか、汝はすでにチーム結成済みであったな。なかなかいいライブができたので、またライブしてやっても良いぞ」
「あろまは、またライブしようねって言ってるなの!」
「われらアロマゲドンのライバルとして頑張れるよう、呪ってやるのである」
「応援するって言ってるなの。あなた達に天の祝福を、なのー!」
アロマゲドンの二人と別れて、わたしはもとのチームメイトに合流した。
「トモダチ百人計画、進んでるみたいね」
「殆ど荒行みたいだけど、楽しいからね。でも、いちばん落ち着くのはやっぱりこの3人だよ」
「私達はあみにとって、港みたいなものなんだね」
「では、帰港したところで、ライブしようか」
ライブの後、わたし達3人は駅前でクレープを食べながら雑談していた。
「実際どう?神アイドルになってみて」
「うーん、実際のところ実感ないなぁ。結構神アイドルクラスのコは他にもいるしね」
そう。わたし達はあくまでテーマパークの常連として神アイドル「級」であって、プロの神アイドルではないわけで。
「まぁ、例えて言うなら…」
私は街頭ビジョンを指差した。ちょうど画面では部活として学校のPRをする「スクールアイドル」の全国大会の中継をしており、9人組の女の子が歌を披露していた。
「あのコ達はいわば甲子園で活躍する高校野球みたいなもので、この前崖登りしてた人は芸能学校で鍛えて、仕事でやってるから、プロ野球選手みたいなものじゃない」
「うんうん」
「それに比べると、わたし達って、テーマパークで楽しく歌ってるだけだから、さっきの野球で例えるなら、放課後、友達の家で野球盤やってる高校生みたいなものだよね」
「野球盤って…」
「ボードゲームだよね。ボールが下に落ちる「消える魔球」とかのついたやつ」
「せめて三角ベースぐらいはしないと」
「とにかく、同世代でも、アイドル活動の生活に占める比重が全然違うって言いたいわけ。プリパラでも、らぁらさんとか、本家のアイドルは大変なんだろうけど」
「ねぇ、見て」
れみがビジョンを見て言う。さっき歌っていた9人のステージ後の様子がリポートされていた。
「あの人たち、『ミューズ』ってグループ名なんだって。母校が廃校の危機にあるから受験者募集PRのために出場したんだって!」
「へぇ、グループ名も似てるし、そんな理由ならますます応援したくなるね」
「本格的にやってるみたいだし、いい線いけそうだね。少なくとも、わたし達がこのまま出て行っても絶対勝てないよね」
「そりゃ、あの人たちって、プリパラチェンジじゃなくて、素であんな美人揃いだもんね」
「とりあえず、全国大会って言ってるけど、わたし達もこの人たちに「いいね」送れるのかな」
れみがスマホを触り始めた。
「あ、ここのサイトから投票できるみたい。じゃ、あの人たちに投票しておくね」
「うーむ、世の中には色々なアイドルがいるなぁ」
「そういえば、あみ。最近はユニット活動が増えたけど、トモダチ100人に挑戦はどのくらい進んだの?」
「さっきもそうだけど、時々やってるよ。この前はたまたま声かけたコがトモチケ切れてて、「せめて妹だけでも」ってことで、妹さんとライブしたりとかね。今は61人だよ」
「ふーん、けっこう行ったね。でも、さすがに百人は難しいんじゃない?」
「実は、最近凄いシステムが入ったんだ。トモチケ交換所っていうんだけど、そこにトモチケを預けたら、すでに預かってるトモチケがもらえて、ホログラメーション録画合成で、そのコがいなくてもライブできるっていうスグレモノなんだ」
「すごいのできたね」
「まぁ、一緒にライブした感覚を共有できないのが残念だから、手持ち無沙汰の時に時々試しただけだけどね。だから、うち何人かには会ったことないんだ」
「あ、ごめん。そろそろ予備校行くわ」
時計を見てから、ゆうきが去った。わたしはれみとプリパラへ向かった。
「せっかくだから、ゆうきのピンチヒッターをトモチケ交換所でスカウトしようか」
れみが提案する。新システムだから興味あるみたい。
「じゃ、行ってみよう」
交換所には4枚のトモチケがあった。
れみがその中の一枚に目を留めた。
「あ、この髪型、この色だとすごくかわいいね」
「じゃ、このコをスカウトしよう」
わたしは自分のトモチケを一枚入れて、そのトモチケを手にした。
わたし達のライブが終わって出てくると、ドリームシアターのライブ中の映像が出ていた。
「あれ?わたし?」
ツインテールのコと一緒にドリームシアターで出場しているのはさっき入れたトモチケのコーデを着たわたしだった。厳密にはわたしのホログラメーション録画だけど。
「交換所であみのトモチケをスカウトしてくれたんじゃない?」
「へへへ、なんか光栄だな」
わたしはウキウキした気分で交換所を見た。すると、その、センターのコのトモチケが一枚だけだった。よく見ると、そのコと一緒にいる他の3人はさっきわたし達が見たトモチケのコ達だ。
どうやら、あのコ、一枚で四枚と交換したらしい。確かに等価交換とは明記されていないけど…ツワモノだ。あのコ。
でもまぁ、せっかくわたしのトモチケを使ってくれたんだし、わたしはそのトモチケを自分のものと交換した。いつかメンバーが足りない時に使わせてもらうね。
それから暫くして。
わたしは交換所で珍しいコーデや髪型のコのトモチケを見つけてはライブしたりしているうちに、そろそろ目標が近いところまできたので、トモチケ手帳を開いて数えてみた。
もちろん、直接パキったコも多い。色々なコがいたなぁ。友達のトモチケを間違ってくれそうになったコとか。で、数えた結果は。
あと2枚で達成だわ…
そこで、わたしは大願成就を目指してプリパラに出かけた。そして、チームを組めそうな人を探した。記念すべき百人目のコとは、交換所ではなく、直接パキって一緒にライブしたいし。
「あれ?お久しぶり!」
獲物を狙うハンターのように探そうとしながら、逆に声をかけられた。
振り向いてみたけど…誰だっけ?この二人組…ちょうど二人なのに思い出せない。
「こんにちは。えっと…」
「あ、私は初めましてですよ。ただ、うちの相方があなたを見つけて」
「クリスマス前に、そこにいたみんなでライブしたよね」
「あ、髪型変わってるから一瞬判らなかったけど、どっちのトモチケ交換するか迷って、結局両方交換したよね」
「思い出してくれたみたいね」
ちょうど、二人ばかりその近辺を通りかかった。
「あのコたち誘おうか」
「あの時みたいにね」
「大トモチケ交換会ですね。ぜひ参加させてください」
そして、そのメンバーでライブをすることになった。
「実は、わたし、今日で百人とのトモチケすることができました!記念ライブです」
「すっごーい。おめでとうございます!」
「そんなライブに参加できて光栄です」
「じゃ、ここに5人だからドリームシアターでやろうか」
「あ、でもあたしは遠慮するわ」
久しぶりのコが辞退を申し出る。
「あたしは百人目じゃないし、それ以上に、そんな記念ライブなら、客席でしっかり見たいから」
「そっか」
「あたしの代わりにこれはどうかな」
そのコは、わたしのトモチケ手帳から一枚のトモチケを取り出した。
「これは…」
思い出した。マリオネットミューというブランドが立ち上がった時のキャンペーンで手に入れた、らぁらとパキって眠りについたときのファルルのトモチケのレプリカだ。
「今なら、ホログラメーション録画でチームメイトにできるんじゃない?」
「そうか、昔のファルルなら確かにはじめましてかも。コレクションアイテムとして持ってただけで、使ってなかった」
「じゃ、しかと見届けさせてね」
「じゃ、応援お願いね」
こうしてトモダチ百人達成記念ライブは幕を開けた。
実際よくよく考えたら、あと2人のところで3人+αと交換したので、目標をあっさり超えてしまった。まぁ、百人は通過点なので、これからも増えるといいなぁ。
別の日。この日はゆうきもれみも都合が悪かった。わたしは一人で受付に向かった。
ふと見ると、向こうでわたしに手を振ってくれるコがいた。かつてわたしにトモダチ百人を決意させ、年越しライブもしたコだ。
「わぁ、久しぶりだね!」
「元気してた?」
「うん。チーム結成したり、いつの間にか神アイドルになったり」
「これからチャームのコーデでライブするんだけど、初めてでよく判らなくって」
「あ、わたし、使ったことあるから教えてあげる。ここを押して…っと」
そのコが着たのはわたしの時と同じ水色のワンピースだった。
「あ、ライブパワーをいっぱい溜めないと、完全なドレスにならないみたいよ」
「そうなんだ。でも、このワンピも綺麗な色だからいいね」
「わたしも最初はそれだったよ」
「そういえば、チーム作ったって言ってたけど、今日は一人?」
ふと、その問いを聞くと、『キン肉マン』で団体戦を次に対戦するチームのリーダーが一人で視察していて、仲間はどうしたと聞かれた時に、あっと驚くチームを用意すると答えるシーンを思い出した。
そして、既存の人気キャラをスカウトしてきてあっと驚かせる。それならわたしも…。
「うん。ちょっと都合がつかなくて。でも、交換所であっと驚くチームをスカウトしてドリシアライブするよ」
「それは楽しみね。ライブ終わったら見に行くね」
わたしは交換所へ行った。そこでチームになりそうなトモチケは…
あまりこれは、というトモチケがなかった。
「げっ…これじゃチーム組めないよ」
とはいえ、あっと驚くライブを宣言した以上、なんとかしなければ…
ふと、わたしは交換所の片隅に目をやった。初プレイやコーデがない時に出来るレッスン着のままのトモチケが数枚ある。
そうそう。わたしも初めはこうだったな。
あっ。
閃いた!5人で合わせのコーデでライブする方法。
「確かに、あっと驚いたわ。まさか、コーデを一切スキャンせずに全員レッスン着でドリシアやるなんてね」
「はは、レッスン着もカワイイのに、トモチケ交換所に溜まってたりするからね。リハーサルみたいで面白いかなって思って」
「そうね。今日はさっきのチャームコーデのトモチケしかないけど、交換しようよ。今度会う時までには、レッスン着のトモチケ作っておくからね」
「いやいや、一発ネタだから、お気遣いなく」
わたし達は顔を見合わせて笑った。
今回のプリチケ
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