第11章 神アイドル誕生!

 わたしはその日はたまたま、れみと一緒になった。
「そういえば、あみのランクってどこまで行ってたっけ。トップアイドルだよね」
「いつの間にかね。今のランクは「パーフェクトアイドル」だよ」
「それって、神アイドルの手前だよね。すごいな」
「相変わらず実感ないけどね」
「でも、すごい肩書きだね」
「なんか完璧超人みたいだよね」
「ぱーふぇくとちょうじん?」
「『キン肉マン』に出てくる神に最も近い超人の一団なんだ」
「確かに、神の手前でパーフェクトってのは一緒だね。あ、そういえば見たことある。ボスが剣道の防具付けてるんじゃない?」
「そうそう。で、この完璧超人、試合に負けたらその剣道着のボスに自害を薦められてみんな自殺するって設定があって」
「何それ?でもさ、あみもライブ後の「ぐんぐん伸びろー!」で1位取れなかったら…」
「剣道着姿のアイドルが「自害せよ」ってやってくる?嫌だよそんなの!」

 そんな話をしながら、わたし達はプリズムストーンショップに入った。そして、壁のポスターに目が行った。
「あら、あのポスターって…」
「セインツかな」

 セインツというのは少し前に活動していた「神アイドル」あいらさん、みあさん、なるさんの3人ユニット。
 そういえば最近見ないなぁ。

 わたし達はそのポスターを見た。
「なになに、セインツなりきりコンテスト?」
「伝説のユニット、セインツのコスプレでライブできるんだって」
「面白そうね。ゆうきも来れたら参加できるね」
「あ、ここに参加要領のパンフあるよ」
「これ貰って帰ってゆうきと相談しようか」
「だね」

 わたしとれみは駅前の商店街に向かった。ここに来ると、甘いにおいが漂ってくる。
 カウンターのクレープ屋があり、前のベンチでクレープを食べてる人がいるんだった。不思議なことに、いつ通っても誰かがクレープを食べている。
 いや、おいしいから、不思議ってわけでもないけど。
「甘いにおいがする〜」
「あみ、電灯に向かう蛾じゃないんだから、ふらふら店に行ってどうするの!」
「でも、ちょうど空いてるベンチあるから、食べながら待とうよ」
「ま、いいけどね。誘われたからには奢ってもらおうかな」
「そんなぁ〜」
「冗談冗談。ベンチ空いてるうちに食べよ」
 わたしはジェラート入りのチョコバナナのクレープ、れみはいちごとホイップクリームにチョコのかかったクレープを注文した。
「いただきまーす」
 クレープを食べ始めると、わたしの携帯が鳴った。
「もしもし、あ、ゆうき?予備校終わった?今、駅前のクレープ屋さんに居るから寄ってね。うん、またあとで」
 話をしていると、ジェラートがとけ始めた。早く食べないと手がベタベタになっちゃう!わたしは大急ぎでクレープを平らげた。

 クレープを食べ終わると、ゆうきが到着した。
「お待たせ。あ、れみ、クレープ食べてるんだ。あたしも食べようかな。勉強してお腹すいたから、ソーセージのおかずクレープにしようっと」
「あ、それもいいね。わたしもそれ食べようかな」
「ちょっと、あみ、あんたさっき…」
「あはは・・・」
「もう、食べてばっかりだと太るよ。曲がりなりにもトップアイドルなんだから。ほら、テレビのあの人みてごらんよ」
 れみが街頭ビジョンを指差した。街頭ビジョンでは女の人が崖登りをしていた。よく見ると、昔オーディション見学の時に見た人だ。星宮いちごさん。
「アイドル活動は体力勝負ってことだね。じゃ、食べてパワーアップ!」
「いや、れみの言ってる趣旨は違うと思うよ」
 ゆうきがつっこむ。
 まぁ、実際プリパラチェンジすれば元の体型は影響ないけどね。

「そういえば、今日は何の集まりだっけ?」
 ゆうきが訊く。確かに今日の本題に入っていない。
「あ、これこれ。面白そうじゃない?」
 わたしはパンフを取り出した。
「へぇ、セインツなりきりかぁ。3人で分担決めなきゃね」
「誰が誰をやればいいかな」
「とりあえず、あみはみあさん担当ね」
「え、なんで?」
「名前似てるし。ランクも一番上だし。ほら、みあさんってよく「いっちばーん!」ってやってるじゃない?」
「あ、そうか。あれってハルク・ホーガンのパロディーだよね」
「多分、ていうか絶対違うと思う」
 すかさず、ゆうきがつっこむ。
「ところで、ハルク・ホーガンって?」
 れみが聞いてくる。
「昔活躍したプロレスラーでね、アックスボンバーってこう曲げた腕でバチコーンとやる技で相手を倒して「イチバーン!」ってやるわけ」
 わたしはゆうきに寸止めでアックスボンバーのマネをしながら説明する。
「え?日本語?外国の人かと思った」
「外国人だけど、日本語で言ってる動画を見たことあるんだ。アントニオ猪木と試合したことあるらしいし、来日した時の動画だったのかも」
「え?国会議員とプロレス?」
「あの人、議員になる前はプロレスラーだったんだよ」

「まぁ、プロレスの話は置いといて…あみはみあさんで決定だね。前に結成式で会った人にもみあさんの髪型似合いそうって言われてたし。そうなると、ピンク髪ってことでれみがなるさんやって、あたしがあいらさんかな」
 ゆうきがやや強引に話を戻す。
「うん、それでもいいけど、私、あいらさんやりたいな。実はファンなんだ」
「それなら早く言ってよ。じゃ、れみがあいらさんで決定ね」

 そして、いざイベントにエントリーする。
 ライブをクリアすれば、あいらさん、みあさん、なるさんの順にセインツのコーデとなりきりトモチケがゲットできるらしい。
 つまり、トモチケでエントリーする人はいいが、センターはコーデもキャラメイクも自力でやる必要があるってことだ。
 わたし達がみあさんのステージまでクリアした時にゆうきが重大なことに気づいた。
「あみ、よく考えたら、あたし、ランクが届かないからなるさんの髪型使えない!」
「あっ…」
「どうしよう」
「こうなったら、とりあえず、今度はゆうきのアカウントでみあさんステージをもう一度攻略しよう」
「あみならなるさんに自力でなれるし、それしかないかな」
「ここはひとつパーフェクトアイドルのわたしに任せなさーい!」

 結局、いちばん初めに設定した「あいら→ゆうき、みあ→あみ、なる→れみ」のキャスティングと全く別のキャスティングでなりきりライブすることになったのでした。

 そして、数日後、わたしは、ランクアップにリーチがかかった。ただ、今はイベントもなく、普通のライブで神アイドルになりそうだ。
 せっかくだったら、先日のなりきりライブとか、大きな節目で華々しくランクアップしたかったな…
「だったら、特別なライブをみんなで考えようか」
「例えば?」
「そうだね…あ、そういえば、あみってみあさんみたいなウェーブの髪型使えるよね」
「うん。ラインナップにあったと思う」
「前に似合いそうって話があったのに、なりきりライブはなるさんの髪型にしたじゃない。髪型リベンジライブはどうかな」
「あ、面白いかも」

 そして、髪型リベンジライブが終了した。

「ランクアップおめでとうございます。神クラス「ぜったいアイドル」になりました」
 と、普通にアナウンス。目指してきた神アイドルになったにしては、けっこうあっけないものだった。とはいえ…

「おめでとう!」
 ゆうきとれみはわたしに飛びついてハグしてくれた。
「とうとうわが『レアみゅーず』から神アイドル誕生だね」

 まぁ、手作り感満載のスペシャルライブだったけど、こういうのもいいかな。


今回のプリチケ
 
前へ表紙へ次へ