第9章 伝説のパラダイスコーデ

 先日の一件もあり、三人の都合がつけば、ゆうき、れみと3人でライブをするようになった。
 まぁ、なかなか3人揃うことはあまりないんだけど、イベントには調整して参加した。

 最初に挑んだイベントは、課題曲を連続クリアして、伝説のパラダイスコーデを手に入れるというものだった。
「これは絶対ゲットしたいよね。伝説のコーデなんだって」
「なになに…募集要項。6人でエントリーだって」
「えっ、あと3人足りないよ」

 その時、「3人足りない」がハモった気がした。
 振り返ると、そこでも3人組が同じような会話をしていた。
 髪を束ねたコとピンクと水色の髪の双子だった。
「千載一遇!伝説のコーデを手に入れるチャンス!」
「だから、シオン、3人足りないんだってば」
「少数精鋭!数のハンデは実力でカバーすれば良いではないか」

 この人たちって、確かドレッシングパフェ。以前、ゆうきとTVで見かけたグループだ。

「あ、こんにちは。ドレッシングパフェさんですよね」
「そうだよ。あ、サインはあとでね。今、イベントのメンバー集めで忙しいんだ」
 双子の水色の髪のコが答える。確かドロシーさんだっけ。チャンスだ。
「もし良かったら、わたしたち3人いますよ」
「笑止千万!誰でも良いわけではないのだ」
 髪を束ねたコが言う。確か、この人は囲碁王者のシオンさんだっけ。
 その時、双子のもう一人、レオナさんがわたしのほうを見た。
「君、ランクアップ停止中だね」
「あ、はい」
 システムでは、一定のランクまで上がると、次のランクまでの表示が「アイドルランクはまだまだ続くよ」というメッセージになり、極端なランクアップはできなくなっている。
 確かに、一気に神アイドルになろうとして住み込みでライブして体壊す人が出てもいけないだろうし。わたしもここのところライブをやりすぎて、この前はじめてランク停止になってしまい、現在停止中だった。
 運転免許と違って、ライブはできるんだけど。

「シオン、この人たち実力ありそうだよ。組むのもいいかも」
「一期一会!確かにここで出会ったのも何かの縁。お前たちの実力、見極めさせてもらう」
「ま、ボクたちにはかなわないまでも、足引っ張らないって判ったら、入れてやってもいいよ」
「ドロシー、失礼だよ」

 そんなこんなで、わたし達はドレッシングパフェに合流するためにライブで実力を示すことになった。
「本番前から真剣勝負になっちゃったね」
「でも、がんばるしかないよ」
「だね。曲はどうしよう?」
 曲については、わたしには考えがあった。
「『チェンジ・マイ・ワールド』でいこう」
「それって…」
「そう。ドレッシングパフェの持ち歌だよ。でも、これをクリアしないと、少なくともシオンさんはわたし達を認めてくれないと思う」
「かもね。じゃ、それで全力で行こう!」

 そして、わたし達はライブをやりきった。
「ぐんぐん伸びろー」
 ステージが上昇し続ける。お願いだから止まらないで!

 頭上で花火が上がる。とりあえず1位は取れた!

「どうでしたか、わたし達のライブ」
「正々堂々!私たちの持ち歌で勝負に出るその心意気、見事だ」
「ということは…?」
「一致団結!共にパラダイスコーデに挑もう!」
「やったぁ!」
「ま、ボクがいればもうゲットしたも同然だけどね」
 ドロシーがわたし達のほうを見て、最高の表情を作った。
「マックス光線!ね、ボクの事、好きになったでしょ?」
「確かに、その表情もすごくカワイイし、お肌も綺麗だし、女の人にしか見えませんね」
「えっ?」
 ドロシーが一瞬凍った。
「弟はレオナの方!もう、ボクの色気がわからないなんて、やっぱり、キミ達とは一緒には組めないよ」

 げっ!しまった!

 そこへ、レオナが助け舟を出してくれた。
「ドロシー、リラックス。この人たちは間違った情報を聞いてても、ドロシーが女の子だって判ったんだよ」
「えっ、あ、そうか。ごめんごめん。やっぱり一緒に組めるのはこの人たちだね、レオナ」
「うん。ドロシーがそう言うなら」
 そう言いつつ、レオナがこちらに目配せしてくれる。
 この人がいなかったら、わたし達は絶対ドレッシングパフェと共演なんて出来なかったと思う。

 イベントに向けての準備で、前日、わたし達は集合した。
「時間厳守!時間どおりに全員揃ったな。では、レッスン室にレッツイゴー」

 さて、わたし達6人はレッスン室にやってきた。なにせ、6人ライブなので、課題曲の振り付けも初めてのものだ。
 普段はわたし達はシステムのサポートがあるので、レッスン室に来るのは初めてだった。

 レッスン室にはサングラスを額に載せたすみれ色のウサギのぬいぐるみがいた。あのそふぃさんを発掘し、ドレッシングパフェを育て上げた伝説級のマネージャーって噂だ。
「よし。びしびし行くウサ!」

 課題曲『ハロハロフレンズ』のレッスンが始まった。
 一度通したけど、なんとなくしっくりこない。
「よし、もう一度、ステップを確認しながら通すよ」
 そして、何度か通してみる。
「うむ。ちょっとストップするウサ」
 ウサギさんが急にレッスンを止めた。
「ちょっとここの連携がぎこちないウサ。それと、歌詞の「泣いて」のところの泣きまねの振り付けがわざとらし過ぎウサ。あみチームはフォーメーションを変えてみるウサ」
「はい。ウサギ先生」
「そうウサね。あみチームはセンターをあみからゆうきに変更ウサ。それから、れみがゆうきのポジション。あみはれみのポジションでやってみるウサ」
 すると、泣きまねを含め、全体のダンスがさっきよりスムーズに流れた。
 ウサギさんの指導は的確だった。そういえば、アンパンマンに出てくる学校のみみ先生も眼鏡のウサギだったな。眼鏡ウサギには指導者の素質があるのかな?
 さすがにこのレッスンでの努力によって培われたドレッシングパフェの実力は本物だった。今回のレッスンは、殆ど、わたし達が合わせられるよう調整する感じだった。

 そして、イベント当日。
「さぁ、行きましょう!」
「テンション、マックス!」
「リラックス〜」
「レッツ・イゴー!」

 特訓の成果もあり、わたし達6人は軽々とパラダイスコーデをゲットすることができた。
 フォーメーションの変更も功を奏したようだ。
「やったね」
「いいライブだったね」
「切磋琢磨!次に会う時は我々はライバル同士。お互いに頑張ろう。イゴ、よろしく!」
「ドレッシングパフェの皆さん、ありがとうございました。そして、ウサギさんも」

 こうして、手に入れたパラダイスコーデのレアリティは「CR(サイリウムレア)」なので、サイリウムチェンジの時はそのまま光るはず。
 わたし達はカフェでプリパラTVを見ていた。パラダイスコーデをゲットできたチームはわたし達の他に何チームかあったんだけど、ちょうど、パラダイスコーデの三人組が歌っていた。
 センターのコの瞳がどアップになった。そして、
「サイリウムチェーンジ!」

「…あれ?」

 サイリウムチェンジになっても、パラダイスコーデが光っていない。

「あら、故障かな?光らないね?」
 わたしの問いに、背後から答えが返ってくる。
「故障じゃないぷり」
 みれぃだった。
「あ、みれぃさん。お久しぶりです。ところで、故障じゃないってどういう事ですか?」
「パラダイスコーデは簡単には光らないぷり。あのセインツですら光らせたことは無かったぷり」

「大変、大変!」
 らぁらが入ってきた。
「ファルルが眠りについちゃったんだって。で、めが兄ぃさんに聞いたら、今度の『かがやき!ネクストアイドルグランプリ』でパラダイスコーデを光らせれば目覚めるかもしれないんだって」
「それは難題ぷりね」
「どうしよぉ〜」

「ファルルって、あのプリチケから生まれたボーカルドールのファルル様の事?」
「あ、あのお姫様みたいな」
「とにかく、わたし達もエントリーしよう。パラダイスコーデはあるんだから、一か八か光るよう頑張ってみよう?」
「だね」

「ねぇねぇ」
 らぁらがこっちを見る。
「あみちゃん達、ドロシーたちとパラダイスコーデをゲットしたんだよね」
「え、うん」
「じゃ、今度はあたし達そらみスマイルと6人でエントリーしたらどうかな。2チームで一気にファルルに気持ちを届けたら、コーデが光るかも!」
「…確かに、6人エントリーはダメとは書いてないぷり。あみちゃん達はどうするぷり?一緒にチャレンジするなら、そふぃには私から話をしておくぷり」
「もちろん、その話、乗ります!」
「じゃ、決まりね」
 締めたのは…
「そふぃ?いつの間に…」

 どうやら、くらげ状態で漂ってきていて、今レッドフラッシュを食べたようだった。

「とりあえず…みんなでがんばるぷり」
「かしこま☆」

 さて、わたし達6人はレッスン室にやってきた。特訓して、なにがなんでもパラダイスコーデを光らせないと!

 レッスン室にはそらみスマイルのマネージャーのクマさんがいた。見た目はかわいいマスコットなのに、言動は妙にオッサンっぽい。
「クママママ、クーママ、クマ…」
「クマクマうるさいぷりー!」
「クマさん、しゃらーっぷ!」
 変な鼻歌をみれぃ、らぁらに同時に怒られている。
 敏腕マネージャーって噂の割には、大丈夫か?と聞きたくなる佇まいだ。

 しかし、クマさんもレッスンの指導の時は別人のようにちゃんとしてた。やっぱり一応はプロなんだなぁ…

 そして、いよいよイベント当日。
 わたし達6人はプリチケをスキャンする。
 システムが読み込みを始めた。
 緊張のせいか、読み込みが長く感じられる。
「パプリカ学園校則。読み込み中に焦ってはならない」
 わたしの心を見透かしたようにみれぃの声がする。
「そんな校則あるんですか?」
「冗談ぷり。ちょっとは落ち着いたぷり?」
「ありがとうございます。がんばりましょう」
 それにみんなで答える。
「かしこま!」
「かしこま!」
「か〜し〜こ〜ま〜り…」
「かしこま☆」
 読み込みが完了した。いよいよライブだ。

 ライブが始まり、曲のクライマックスが近づく。

 果たして、光るか?

 そらみスマイルと違い、わたしはファルル様に会ったことはない。
 絆は無くてもこれから作ればいい。会いたい、会ってみたい。その気持ちをぶつけてみよう。

 6人の目が合った。いよいよだ。
 わたし達は一瞬心の中で頷き合った。
「サイリウムチェーンジ!」
 6人の声が重なった。そして…

 パラダイスコーデが美しい輝きを放つ。
 光った!

 わたし達だけじゃない。客席で見ていた、先のイベントでゲットしたパラダイスコーデを着たコたちのコーデも反応して光っている。
 想いよ、とどけ!

「プリズムボイス!」
 そこにいる全員の歌声が輝きだす。

 そして、ライブが終わった。

 わたし達はファルル様が眠っているという部屋を訪れた。

 ベッドに腰掛けているのは黄緑色の髪のコ。ファルル様だ。どうやら、目覚めることが出来たらしい。
「ファルル!良かった!」
 らぁらがファルルに駆け寄った。でも、ここにいるファルル様はわたしが以前TVで見たファルル様とは少し違っていた。
 両サイドでカールした髪はもっと強く巻いて固まりのようになっていたし、瞳にも今のような生気はなかった気がする。

「ファルルはプリチケから生まれたでちゅ」
 ファルルの傍にいた一角獣のぬいぐるみ、ユニコンが説明する。
「ファルルは初めてトモダチとして接してくれたらぁらとトモチケをパキりたくて、自分の本体であるプリチケをパキってしまい、眠りについたでちゅ」

 話を総合すると、パラダイスコーデが光り、その光の効果で、みんなが奇跡を起こす歌声であるプリズムボイスを発生させ、それらが共鳴したことで奇跡が起き、ファルルはボーカルドールから一人の女の子として覚醒したとみるのが妥当なようだ。

「良かったですね。ファルル様。はじめまして」
「ありがとう、あみちゃん、ゆうきちゃん、れみちゃん」
「えっ?なぜわたし達の名前を?」
「聞こえたの。みんなの声が…」

 そう言って、ファルル様は6枚のプリチケを取り出し、一気にパキった。

 しかし、ファルル様は眠りにつくことはなく、わたし達全員とトモチケを交換してくれた。

「そういえば…」
 らぁらがこっちを見る。
「あみちゃん、なんでファルルだけ「様」なの?」
「この前、らぁらさんみたいな髪色の小学生がそう呼んでるのを見かけたから、そういう人なのかなって…」
「多分、それ、のんだ…あたしの妹…」
「ファルルでいいよ、あみちゃん」
 ファルルが笑いながら言う。

 なんにせよ、一件落着。

 そんなこともあり、わたし達は3人はかなり結束していた。初めての時はいきなり大変だったのが嘘みたいに。
 これからは3人でがんぱっていこう!

 レッツ、プリパラ!

(第1部 完)



今回のプリチケ
 
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