第8章 新しい出会い
ハイセンスコーデ入荷キャンペーンが終わる頃、わたしはついにトップアイドルにランクアップした。
肩書きに「こくみんてきアイドル」とはあるものの、あまり実感わかないなぁ。
実際、プリパラ内のわたしと実際のわたしは見た目も違うから、わたしがプリパラTVに出てるコと同一人物だと知ってる人はゆうきくらいだし。
とはいえ、プリパラ内では少しは影響があるみたいだった。
ちょうど、誰かと一緒にライブしようと、受付に行くと、ちょうどエントリーしようとしているコがいたので、軽い気持ちで声をかけてみると、
「えっ?私ですか?私まだデビュークラスに上がったばかりですよ」
おそろしく恐縮されてしまった。こちらは色々なコと楽しくライブしたいだけなのに。
「別に気にしてないですよ」
「いいんですか、でも、本当に弱くてごめんなさい」
「別にドラゴン退治に行くわけでも、バスケットボールか何かで試合するわけでもないし、大丈夫だよ」
ブキガミならいざしらず、プリパラだし。
「本当にいいんですか?」
「気にせず楽しくライブしましょう」
なんか、誘うのにも気を使うなぁ。
いっそ、ゆうきとわたしと3人でユニットやってくれる子いないかな。
その時、一人のコがプリパラに入ってきた。どうもここに来るのは初めてみたいだった。
栗色のショートの髪に緑色の瞳のコだ。
「あのー、すみません」
そのコが声をかけてきた。
「私、初めてなんですけど、よくシステムが判らなくて」
「あ、じゃあ一緒に受付行きますか」
わたし達は受付に来た。
「えっと、名前は「れみ」誕生日は2月の…」
あら?わたしと同じ誕生日!
「名前も1文字違いで誕生日も同じなんてすごい偶然!」
れみも驚きながら喜んだ。
「はい、あなたのマネージャーの卵でーす」
めが姉ぇさんから渡された卵は黄色い猫耳の卵だった。
「へぇ、色は反対だけど、同じ猫耳の卵だね」
わたしも卵を見せた。
「運命の出会いかもね」
れみが笑った。
「ねぇ、あみ。私、こんなの用意してきたんだけど」
れみが持っていたのはショップの公式ウェブサイトで配布しているクーポンだった。
昔、プリズムショーという、ランウェイを歩く代わりにフィギュアスケートでジャンプを決めるファッションショーが流行った時のレンタル衣装を借りれるというものだった。
「ほら、ここに制服っぽいのあるでしょ。AKB48みたいに制服でライブとか面白そうだと思わない?」
「へぇ、面白そうね。わたしの友達呼んで、3人でやってみようか」
わたしはゆうきに電話してみた。今日は予備校に行く日だけど、ちょっと時間があって近くにいるからすぐ来れるとのことだった。
「よし。3人でライブできそうだよ」
わたしはれみに報告した。
「楽しみだね。でも、大丈夫かな?」
「何が?」
「この制服、スカート短いよね。客席からパンツ見えたりしないかな?」
「これまでの衣装はスカートの場合、丈の短いスパッツがセットで付いてるけどね。これもそうなんじゃないかな」
「あ、そりゃそうかも。昔はこれ着てジャンプとかしてたんだもんね」
「確かに、このスカート丈でジャンプするのに無防備なわけないか」
「あ、話は変わるけど、あみの髪型って、真後ろの普通のポニーテールだけど、初めてのプリパラチェンジの時に選ぶ髪形はサイドポニーだった気がするんだけど」
「髪型とか色とか瞳の色とかはライブでランクを上げると色々変更できるよ。わたしは最初サイドポニーだったけど、色々試して、たまたま今はこの髪型なんだ」
「なるほどね。私はこの髪型、動きやすくて気に入ってるから、今度瞳をピンクとかにしてみようかな」
「れみちゃん色白だから似合うかも!」
「そうかな。じゃ、今度試してみるね」
そんな話をしてるところへゆうきが到着した。
「あみ、お待たせー。あら?」
ゆうきはわたしの隣に座っているれみに気づいた。
「あみ、この子が私達と一緒にライブしてくれる子?」
ゆうきの表情が一瞬曇った。
「あみ、この子は?」
わたしが答える前にれみが答えた。
「私、れみ。これからあみとライブするんだ。よろしくね」
ん?なんか空気がおかしい。
「…やっぱり、もう予備校行く!」
ゆうきはそう言うと、背中を向けて走り出した。
「ゆうき!」
「あの…私、何か悪いこと言ったのかな?」
「ゆうきはわたしとユニットを組んでるの。多分、わたしが勝手にあなたとのユニットを作ったと思ったんじゃないかな」
「そうだったんだ…」
「あ、まずは追いかけないと。あの子、足怪我してリハビリ中だから、走るのダメなんだ」
「大変!じゃ、私も!」
だが、すでにゆうきの姿は見当たらない。
「どこだろう?」
「私、あっちも探すね」
わたし達は手分けしてゆうきを追った。
姿が見えない。あの足で必死に走ったに違いない。
どこ?どこにいるの?
わたしはまわりの店の中も覗きながら走り続けた。
***
その頃、れみの目の前にはゆうきがしゃがみこんで足をさすっていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、あなた、さっきの…」
「失礼いたしましたっ!」
れみは勢いよく頭を下げた。
「えっ?」
「私、あなたがあみさんの相方さんとは知らず、単なる助っ人の方だと思って失礼なことを」
「えーっと、どういう事です?」
「私、今日始めてプリパラに来たんですけど、あみさんに親切にしてもらって、一緒にライブしてくれるって言ってくれたんです」
「あ、なるほど。あみって、自分だけわかってて、肝心な事を最初に言わないんだよね」
「ほんと、失礼しました」
「いえいえ、こっちこそごめんなさい。はぁ、あたしって大人げないね」
「え?」
「ちょっとヤキモチやいちゃった」
「無理もないですね。あみさんって面倒見いいですしね」
そこまで言って、れみははっとした。
「あ、あみさんに連絡しなきゃ。まだゆうきさんを探してますよ!」
***
「ふぇーー、走ったよぉ」
わたしは連絡を受けて、ようやく二人のところに合流した。
「ちゃんと説明してくれなかった罰よ」
ゆうきが笑いながら言う。
れみが声をはさむ。
「あの、ゆうきさん、予備校って駅前のところ?」
「うん…げっ!時間やばいかも!」
「私、今日自転車で来てるから送りますよ。足、痛いんでしょ」
「いいの?」
「うん。せっかく出会えたんだし、あなたとも友達になりたいから」
「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えます。その代わり、次に会うときは、今度こそ3人でライブしようね」
「うん。約束ね」
「約束だよ」
ゆうきはれみに送られて予備校へ向かった。
…って、わたし一人で取り残されてるじゃないの!
今回のプリチケ
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