第6章 トモダチ100人できるかな

 先日手に入れたカエルちゃんコーデはプロモーションアイテムなので共用できる。
 わたしはゆうきに話をふった。
「カエルちゃんコーデ手に入ったから、またおそろいライブしようよ」
「へぇ、このコーデの貸し借りできるのをゲットできたんだ。楽しみ♪」
「それとね、今度はプリチケにライブ中の写真が入るようになったんだよ。しかも、ライブで示される目標をクリアするとクマさんの顔の透かしが入るんだって」
「うーん、透かしはあってもなくてもいいけど記念になりそうね。これまでの集合写真も捨てがたいけど」
「あ、ガチャを回してプリチケ2枚にすれぱ、これまでのような集合写真も出るみたい。ヘアアクセも手に入るし、今後はライブ回数を半分にしてプリチケ2枚にしようかなと思ってる」
「確かに、忙しい時にもコーデ集めは捗るかもね」
「せっかくだから、わたし達もユニット名とか欲しいな」
「どんなのにするの?」

 言い出したものの、いざ、ユニット名となると思いつかない。
 ななみさんの「ピンクアクトレス」はイメージカラーだけど、他のユニットはどうだろう?

 ちょうどその時、プリパラTVで最近デビューしたというユニットが出ていた。
 なんでも囲碁で頂点を極めたシオンさんというチャンピオンが新たな挑戦として作ったアイドルユニットらしい。
「この人たちは「ドレッシングパフェ」ってユニットみたいね」
「どういうネーミングなのかな?」
 わたし達の会話が通じたかのように、メンバーのMCでネーミングの説明をしていた。
 シオンさんが何故か四字熟語をやたらと織り交ぜながら話していた内容によると、
 姉弟の双子ドロシー、レオナ、そしてシオンの頭文字が入っているとのことだった。
「え、あの双子の人、片方、男の人なんだ?」
「ということは、一人称が「ボク」の水色の髪の人だよね。どう見ても女の子みたいだね」
 その感想が適切かどうかは、この時はまだわたし達にはわからなかった。

「そういえば、らぁらさんたちの「そらみスマイル」もメンバーの頭文字なんだよね」
「ゆうきとあみで…うーん、なんだろう?」

 ふと、ゆうきの着ている服のロゴを見る。
「AMUSE」
 あっ!
「それだわ、アミューズ!」
「確かに「あみ」「ゆう」ズだね」
「表記はひらがなでも面白いかも」

 でも、せっかくのユニットのお披露目はもう少し後になることを、まだわたし達は知らなかった。

 ***

 その日の晩、ゆうきは家でテレビをつけながら家族で夕食を食べていた。
 テレビでプリパラTVをやっていた。
「あ、プリパラTVだ」
「へぇ、アイドル体験のできるテーマパークねぇ」
 お母さんがテレビを見て言う。でも、その口調から伝わる雰囲気はゆうきのそれとは違っていた。でも、ゆうきはそれに気づかなかった。
「ここ、すごいんだよ」
 お母さんの表情が変わった。いやな予感・・・
「こういうところへ行ったの?」
「あ、この前、あみちゃんが快気祝いに見に行こうって連れて行ってくれたことがあるんだ。前にデパートのテレビで見て、面白そうだねって話してたこと覚えてくれてたみたいでさ」
「こういう、カラオケとかゲームセンターとかに行ったらダメって言ってるでしょ。まぁ、お友達とたまに行くくらいなら息抜きにはいいかもしれないけど」
「大丈夫だって。話の種に見に行っただけだし。でも、あみちゃんと一緒だし楽しかったよ」
「あのね、ゆうき。この不景気なご時勢、ちゃんと就職出来なかった時、こういうお金のかかる遊びの習慣があるとつらいのよ。今はしっかり勉強して、生活の基盤を確保してから、身の丈に合う範囲で趣味を見つければいいの」
「はーい…とりあえず宿題しに部屋戻る。ごちそうさま」

 やばいやばい。結構行ってることバレたら絶対禁止される。ちょっとほとぼりが冷めるまでひっそりしてよう。
 でも、あみ、怒るかな…せっかくユニット名まで決めたのに・・・どうしよう?

 ***

 次の日。
 急にゆうきに呼び出されたわたしは待ち合わせの場所に急いだ。
「どうしたの?急に」
「ごめん、プリパラのこと、お母さんにバレちゃった」
「えっ?」
「だから、たまーにこっそり行く程度になりそうなんだ」
「えーっ?」

 まぁ、足もまだリハビリ中だし、ゆうきのお母さん、厳しいからなぁ。

「そこでお願いなんだけど」
 ゆうきは自分のプリチケをわたしに手渡した。
「没収される前に預かってほしいの」
「うん、いいけど。時々、これでゆうきのコーデもいくつか確保しておこうか?」
「助かる。せっかくユニット名まで考えたのにごめんね。ほとぼりがさめたらまた一緒にライブしてね」

 そんなわけで、わたしはその日、始まってもいない「あみゅーず」再興のため、プリパラに来た。
 すると、先日のイベント報酬の特別なサイリウムコーデを着たコがこちらに向かってくる。見慣れないコだ。
「こんにちは。もし良かったら、あたしとライブしませんか?」
 初めて、一般客で初対面のコがライブに誘ってくれた!わたしはドキドキしながら、
「もちろん。わたしでよければ喜んで!」
「あたし、この近くの会場でアイドルオーディションとか受けてたんだけど、最近こっちへ来たんだ。あなたは受けたことある?」
 そういえば、昔、コンビニのスタンプラリーの粗品でそのオーディション会場の観覧チケット貰って見に行ったことがある。
「うん、見に行ったことはあるよ。赤い大きなリボンのコが合格してた。確か…」
「星宮いちごちゃんかな。有名な子よ」
「あ、そうそう。いちごちゃん」
 そんなことを話しながら、わたし達はライブし、トモチケをパキった。
 別の日には、ななみさんに再会し、ななみさんはたまたま居合わせたサイドポニーのコを誘って、三人でサイドポニーの髪型おそろいライブをした。
 新しいトモダチが出来るのってすごくうれしい。

 秋には文化祭とかハロウィンとか、お祭りライブも多く、わたしはけっこうな数のライブをこなした。
 気がつくと、アイドルランクも上がり、わたしはとうとうメジャークラスに昇格した。
 昇格記念に髪型を変えてみたりした。まだちょっと違和感あるけど、慣れるかな?

 ある日のこと。
 ライブのあと、時間があったので、もう一度ライブしようと受付に戻ってくると、割と経験つんでそうなかわいい感じのコが先客として並んでいた。
 そのコが振り返り、
「あ、せっかくだから一緒にライブする?」
「嬉しい。喜んで」
 多分、実力はかなりわたしより上かと思ったけど、気さくに誘ってくれた。なんか嬉しいな。
 今度、わたしも誰かを誘ってみようかな。

 ふと、童謡の一節が浮かんだ。

 一年生になったら 友達100人できるかな♪

 また別の日、私服っぽいコーデのコが受付近くを歩いていた。
 私は思い切ってそのコに声をかけてみた。
「よかったら、わたしとライブしませんか?」
 そのコは一瞬きょとんとしていたけど、ぱっと笑顔になった。
「うん。身内の仲間としかライブしたことなかったから嬉しいです。ぜひやりましょう」

 こんな感じでトモチケが少しずつ増えるのが嬉しい。
 もちろん、ゆうきがなんとか時間を見つけてプリパラに来れるときはゆうきとのライブを最優先にするけどね。

 いつしか、秋も終わり、街にはクリスマスの飾りが出ている。ハロウィンが終わるといきなり街はクリスマスになる。十一月の立場って一体どうなるのだろう。

 その日わたしとゆうきはプリパラの近くのコンビニの前を通りかかった。
「からあげクンでも食べようよ」
「いいよ」
 ゆうきも快諾したので、わたしたちは店に入った。そして、ふと棚を見た。
「あっ、コアラのマーチを2つ買うとプリチケプレゼントだって!」
 結果、わたし達はからあげクンではなくコアラのマーチを買い食いしながら歩いている。
「どう?そろそろプリパラに復帰できそう?」
「念のため、もうちょっとかな。今日は時間少しはあるけど、ライブする時間はちょっとないかな…」
 その時だった。
「武器をくれ!」
 プリパラの隣のRPGっぽいゲームの店から声が聞こえた。
 ふと、わたしはプリチケの裏を見た。体格に不釣合いな巨大な銃を持った女の子の絵が描いてある。
「あ、このプリチケの裏で遊べるみたい」
「なになに、『ブキガミ』プレイヤーは武器神(ぶきがみ)となって、3人の冒険者に武器を与えて巨大なモンスターを退治します」
「ちょっと面白そうかも。ちょうど空き時間で出来そうだね。一回やってみようか」
「うん」
 わたしは手持ちのカードの絵のとおり、モモって女の子に銃を持たせた。
「このコ、「モモ」だけに服がピンクだね」
「そういうものなんじゃないかな。あたしのキャラは「アオ」だって」
 ゆうきのカードの裏には青い服の剣士が描かれていた。
 あと一人居合わせた人のキャラはイケメンの槍使いだった。
 そして、三毛猫みたいな模様の蝙蝠みたいな小動物が現れた。ナビをしてくれるキャラクターだ。

 クエストが始まった。
 いきなり、巨大なハンマーを持った海賊みたいなお姉さんが現れた。
「え?」
 一瞬、敵かと思ったけど、この人は助っ人さんとのことだった。
 それにしても、やたらと女の子に巨大武器持って戦わせるって、ブラック企業みたいな神だなぁ…
 
 4人の前に突然ドラゴンが現れた。
 ゆうきのアオが切りつける。今度はわたしのモモが…
 狙いを定めたつもりが、急所を外してしまった。
 ドラゴンが怒った!どうしよう〜〜
「落ち着いて狙うんだ!」
 槍使いさんとハンマー使いさんがアドバイスしてくれつつ的確にドラゴンを攻撃する。
 ドラゴンが反撃してくる!
 とりあえずなんとかしのいだ!
 ようし、今度こそ!
 わたしのモモは慎重に狙いを定めて撃った!今度は命中!
 ドラゴン退治は成功だ!

 わたし達はドラゴンを退治して景品をもらった。ナビの蝙蝠キャラをかたどったヘアアクセだった。
 残念ながら三毛猫柄ではなく、なぜか牛柄だったけど。
「なぜに牛柄…でもカワイイからいいか」
「あたしのは当たり障りの無い紫一色だわ」
「あれ?この紫のコって…どこかで見たことが…」
「そうなの?」
「あ、思い出した。この前、昔の限定コーデが手に入る「アンコールライブ」をやってみたときに、この紫のコのコーデが入荷して、面白いから選んだんだった」
「でも、着てるところを見たことないよ」
「ちょっと着るの恥ずかしいデザインだったから」
「うーん、逆に見てみたいゾ。そのコーデ」
 そんな話をしていると、横から手が出た。さっきの槍使いのプレイヤーさんだ。
「俺が持ってても使わんから、よければどうぞ」
「ありがとうございます」
 貰ったのは虎柄だった。一体何色あるんだろう…? 

 クリスマスには、今年も、わたしたちが初めてプリパラTVを目にしたデパートの前の歩道橋がちょっとしたイルミネーションになっていた。
 わたしはゆうきとキラキラの歩道橋を歩いていた。
「あみ、今度の日曜日、プリパラに行けそうなんだけど」
「あ、それじゃ一緒に行こうよ」

 次の日、ゆうきへのちょっと遅いクリスマスプレゼントに、コーデをゲットしなきゃ、とわたしはライブ受付に向かった。
 ゆうきの分と自分の分でライブを2回こなして戻ってくると、二人組が順番待ちをしていた。もしかして、2回ライブで待たせてしまったかな?
「あ、ごめんなさい、待たせてしまいましたか?」
「え、大丈夫ですよ」
「すみませんね。友達のつきそいの下見と練習のつもりで始めたら、結構夢中になってしまって…」
「へぇ、ご苦労様です。私もこの子のつきそいだけど、ついて来ているだけでステージなんて全然」
 ライブするのは後ろにいるコのようだ。わたしはそのコにトモチケを差し出した。
「待たせちゃってすみませんでした。お詫びにメンバーの穴ができたらお手伝いさせてください」
「これも何かの縁ね。明日も来れる?」
「うん。買い物ついでに来る予定だけど」
「じゃ、時間が合えば一緒にライブしようよ」

 なんか、待たせちゃったコとライブの約束するなんて、こっちがクリスマスプレゼントもらったみたい。

 そして、翌日。わたしは買い物を早々に済ませてプリパラに到着した。何人かのコが受付待ちしていたけど、昨日のコはまだ来ていないみたいだ。
 その時、誰かがプリパラに入ってきた。昨日のコではない。ただ、他のコ以上に気合の入っていそうなコだった。
「良かった。ここは人がいる!」
 聞けば、仲間を募ってライブしようと隣町のプリパラに行ったら、誰もいなかったので、ここへ来てみたとのことだった。
 そんなわけで、居合わせたコたちで交代でライブしようという話になった。わたしは、その発起人のコとライブすることになった。
「コーデはどうしよう?」
 わたしの手持ちで今回使えそうなのは、文化祭でゲットした大きな宝石のワンピとキャンディアラモードのワンピだった。ただ、文化祭のものはもともとワンピのみだし、もう一着はセットの靴がなかなか入荷せず靴がない。
「どうしよう、靴がないなぁ」
 すると、発起人のコが、
「そのコーデの靴なら、あたしのプリパスに入ってたと思う。ちょっと待って…うん、あるわ。貸してあげるよ」
 …この人、女神か何かなんだろうか。

 ライブをして戻ってくると、昨日のコも受付に来ていた。
「あ、こんにちは。お待たせしました」
「会うたびに「お待たせ」って言ってるね」
「そうだね。ごめんね」
「あ、別に怒ってないよ」
「じゃ、さっそくライブしようか」
 と、話をしていると、
「あ、あたしもいいかな?」
 さっきのみんなでライブの時にいて、その時は別のコたちと組んでたコがこちらへ来た。
「もちろん!大歓迎だよ」
 わたし達はそう答えて、三人でライブ会場へ向かった。
「あ、トモチケどれにする?」
 わたしはそのコにトモチケ手帳を見せた。
「うーん、どうしようかな。特にこれとこれがカワイイんだけど迷うなぁ」
「じゃ、2枚づつ交換しようか」
「うん。じゃ、こっち使って、これはまた次の機会に」

 本当にトモダチ100人めざしてみようかな。


今回のプリチケ
    
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