第3章 いっしょにプリパラ

 9月になり、夏休みも終わった。
 そんなある日、電話が鳴った。

「もしもし」
「あみ、ちょっといいかな」
 ゆうきからだった。
「漸く歩けるようになったよ。もう車椅子も松葉杖もいらないって」
「おめでとう!」
「まだ経過観察はあるんだけどねぇ」

 よし、では、計画通り誘ってみよう。
「ゆうき、じゃ、快気祝いに次の土曜日に…」
「遊園地行こう!乗りたいジェットコースターあるんだ」
「え、あ、うん…」
 そうきたか。
「どうかした?」
「ん?なんでもないよ。行こう」
「あ、土曜は朝、ちょっと医者に行かなきゃなんだ」
「じゃ、いつものうどん屋で早めにランチしてから行こうか」
「うん。楽しみ〜♪」

 ま、いいか。行きたいところへ行くのがいいよね。

「ごちそうさまでした」
 土曜日の昼前。わたしとゆうきはうどんを食べ終わった。
 この店はお茶受けに個包装の小梅をくれるんだけど、いつも持って帰っておやつに食べることにしている。
 わたし達は小梅をポケットに入れて店を出た。

 遊園地が近づいてきたのに、なぜか人通りが少ない。何かがおかしい気がする。
 そして、遊園地入り口の張り紙を見て呆然となった。
「当園は8月末にて閉園いたしました。長らくのご愛顧まことにありがとうございました」

「先月でなくなっちゃったんだね…」
「最近はUSJとかディズニーランド以外の小さな遊園地がどんどんなくなるよね…」
「ゆうき、せっかくだし、この近くのサファリパークにでも行ってみる?ここはまだやってるみたいよ」
「あ、車で動物見るやつね。いいよ」

 実は、サファリパークに向かう途中にプリパラへの入り口がある。
「あ、そうそう。ゆうき、7月にデパートのエレベータで見たの覚えてる?」
「プリパラだっけ?キラキラの衣装が綺麗だったよね」
「わたし、この前行ってきたんだ」
「え、どうだった?」
「楽しかったよ。この近くだし、寄ってみる?」
「うん。面白そう!」

 とうとう、二人でプリパラにやってきた。
 二人はレッスン着姿のアイドルになっていた。
 ゆうきは山吹色のセミロングの髪に空色の瞳になっていた。
「お互い、別人みたいね」
「でも、特徴は残ってるよ」
 そんな話をしながら、テーマパーク内を散策する。
「すごい、すごい!大きな噴水もある!」
 ゆうきは大喜びだ。
「せっかくだから、まずは一度、ライブを見ないとね」
「じゃ、わたし、らぁらさん達に頼んでみるね」
「らぁらさん?」
「ここで知り合ったんだけど、すごいライブをする人たちだよ」

 わたし達はらぁらを探しに向かった。前回会った場所にはいなかった。
 まわりを見回すと、知った顔をみかけた。ショップの近くにいた二人のコの片方に見覚えがある。
 ゆうきに髪型が似ているので覚えていた。
 以前、らぁらといたときにらぁらと挨拶を交わしたコの中の一人だ。確か、らぁらのファン第1号の栄子さんだったかな。
「あの、すみません。栄子さん…でしたっけ」
「残念ながら違います」
 そのリアクションに隣のロングヘアのコが笑う。
「のどか、笑わないでよ」
「だって3回目だもん」
 わたしには何が何だかよくわからない。
「あ、ごめんなさい。あたし、にいなって言うんだけど、どうも、その栄子って人とよく間違えられるんだ」
「それも、今日だけで3回目」
 のどかと呼ばれたロングヘアのコが補足する。

「そうなんですか、ごめんなさい」
 とりあえず、人違いしたことは謝ろう。
「ま、間違えられたのも何かの縁。栄子さんにどんな用だったの?」
「わたし、らぁらさんを探してて、栄子さん、らぁらさんと親しいみたいだから」
「なるほどね。あたしは見かけなかったけど…」
 にいなはあたりを見回した。金髪ショートのクールでスパイシーなコが歩いてくる以外人影はない。
「あ、彼女なら知ってるかも」
 にいなはそのクールでスパイシーなコを見て言った。怖い人じゃなければいいけど…

「なぎさ、ちょっといいかな?」
 にいなが声をかける。知り合いらしい。
「どしたの?あ、何々?新しいトモダチ?」
「うーん、今、知り合ったばかりの人たちだけど…らぁらさんを探してるんだって」
「あ、らぁらさんなら、ちょっと前に向こうの控え室に入っていくのを見かけたなぁ」
「あ、そうなんですか。ありがとございます」
「いいよいいよ。たまたま見かけただけだし。あ、あたし、なぎさ」
「わたしはあみです」
「ゆうきです」
「今度会ったらパキって一緒にライブしようね!早く行かないと、らぁらさん、どっか行っちゃうよ?」
「あ、そうですね。ありがとうございました!」
 怖いどころか気さくな人だったなぁ…

 控室に行くと、らぁらが座っていた。
「あ、こんにちは!」
「今日は友達連れてきたよ」
「ゆうきです。よろしくお願いします」
「あたし、らぁら。よろしくのかしこま☆」

「このコ、初めてだから、らぁらさん達のライブ一緒に見せてもらおうと思ったんだけど…」
 わたしは部屋を見回した。奥で赤い髪の人がくらげのように横になっているだけで、他に誰もいない。
「あの、みれぃさんは?」
「みれぃは今、レッドフラッシュを取りにいってるんだ」
「レッドフラッシュ?」
「梅干のことなんだけどね。あそこにいるそふぃさんは、ライブの前にレッドフラッシュを食べないといけないんだ」

 そふぃさんって、わたしが初めて見たライブでらぁらと一緒にいた一人で、クールな実力派アイドルだったはず。このくらげ状態の人とは別人だよね?

「レッドフラッシュ…どこ?…ぷしゅ〜」
 くらげ状態の人が一瞬起き上がり、そう言うと、またもとの体勢に戻った。

 あ、そういえば…
 わたしはポケットの中から、うどん屋で貰った小梅を取り出した。
「あの、これで良ければ、食べますか?」
「いいの?ありがと〜」

 くらげ状態の人が小梅を口に含むと、一瞬閃光が走った…気がした。
「いい子にしてたかしら?小鳥ちゃんたち」

 そこには紛れもない、あのそふぃさんがそこにいた。
「話は聞かせてもらったわ。喜んで力を貸すわ。あみちゃん、みれぃの代わりに入って。さ、ライブをするわよ」
「ええーっ?みれぃは?」
 らぁらがびっくりして訊く。
「大丈夫よ。みれぃが戻るまでに1回くらいライブは出来るはず。2連続ライブも出来ないようじゃ、神アイドルにはなれないわよ」
「あ、あはは…かしこま…」

 もはや、ゆうきは話についていっていないようだった。
「とりあえず、ライブ観てて。なんか、わたしも出ることになったから」
「え、あ…」
「大丈夫。わたし、前に来た時も歌ったから」

 とにかく、みれぃが戻るまでにライブをすることになった。

 エントリーしようとした時、スタッフのめが姉ぇさんが、
「あみさんは、あと1回のライブでデビュークラスに上がります」
「ということは、今回でわたしもデビューできるんですか?」
「今日はらぁらさんがセンターですので、あみさんにはいいねは入りません。デビューできません。システムでーす」
 がっくり。でも、まぁ、ゆうきが観てるし、がんばってライブしてこよう。

 ライブを終えてわたしたちはゆうきの所へ戻った。
「すごかったね。ライブ。1位おめでとう!結果発表の花火もきれかったし!」
 ゆうきが興奮気味に出迎えてくれる。
「ぷしゅ〜〜」
 突然、隣にいたそふぃが再びくらげのようになってしまった。小梅1個ではこれが限界だったみたい。
「大丈夫です…か?」
 手を貸そうとした瞬間、ピンクの法被を着た体格のいい女の人がどこからともなく現れて、そふぃを抱きとめていた。
「あとのことは親衛隊に任せるちゃんこ!」
 そふぃには親衛隊と呼ばれるファンの人たちがいて、フォローしてもらっているらしい。

 ちょうど、そこへみれぃがレッドフラッシュを持って戻ってきた。
 そふぃが復活し、これからライブってことになるはず。

 らぁらが、コーデのチケを取り出した。
「あ、あたしの着ていたワンピースをランクアップしたんだけど、ゆうきちゃんにプレゼントするね」
「え、あ、ありがとうございます!」
 ちなみに、ランクアップというのは、入荷する服の代わりに、今着ている服を仕立て直してもらうサービス。
 見た目は変わらないんだけど、ちょっとオーダーメイドな分着心地がよくなるし、「いいね」も多く貰える。
 今回の場合はらぁらに合わせて仕立ててるんだったら、元の既製服と変わらないのかな?
「大丈夫。めが姉ぇさんに言って、ゆうきちゃん用にしてもらってるから」
 確かに、プリパラチェンジするから、体格のデータも判るのか。けっこうすごいシステムかも。

 らぁらが行ってしまった後で、ゆうきとわたしはプリズムストーンショップの前に来た。いくつかの衣装が展示されている。
「あ、あの時の食虫植物・・・じゃなかった、花束の衣装、色違いもあるんだ」
「カエルちゃんのワッペンのついた服、かわいい!」
 そんな話をしながら、ウインドーショッピングを楽しむ。
「今度来る時は一緒にライブしようね」

 目的は達成したはず。なのに、デビュー目前で足ふみとなってしまった。
「んー、でもなんかちょっと不完全燃焼だなぁ」
 わたしはつい口に出してしまった。
「え?やっぱりサファリパークに行きたかった?時間まだあるし、つきあうよ」
「あ、それもそうだけど、今日のライブはバックダンサーだったからね」
「私のデビューの時はセンターで歌っていいよ」
「さすがにデビューの時はまずいって。でも、一緒にステージに立ちたいね」
「うん」
「じゃ、サファリパーク行く?」
「だね。実は私も行きたかったんだ。サファリパーク」
 わたし達は、そこで顔を見合わせて笑った。


今回のプリチケ

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