第1部 プリパラデビュー編
第1章 デビュー
あのデパートでの一件から数日後、わたしはひとりで買い物をしていた。
ふと、普段と違う道で帰ろうとした時、わたしは見つけてしまった。
プリパラへの入り口。
一度、下見してみようかな。わたしは、恐る恐る中へ入ってみた。
めが姉ぇと名乗った赤い縁の眼鏡をかけたスタッフの女性の案内で、テーマパークの中へ入ると・・・
いつの間にか、わたしはダンスレッスンをするような格好になっていた。白いTシャツにピンクのショーパン。ピンクの靴底の白い運動靴。
レッスン着もかわいいなぁ。体が軽くなった気がする。
ふと、鏡を見る。髪はいつのまにか右側でサイドポニーにまとめられ、顔も自分じゃないくらいかわいくなっている。
「これが・・・わたし?」
わたしは鏡の前でしばし呆然としていた。
「こんにちは!」
突然、背後から大きな声で声をかけられ、わたしは一瞬飛び上がった。
そこには、薄紫の長い髪を左右でツインテールに束ねた子がいた。ツインテールが大きくて対々(トイトイ)テールとでもいうべきかな。
「あたし、らぁら。プリパラは初めて?」
「え、あ、はい」
「それじゃ、あたしが案内するね。かしこま☆」
なんとなく、このらぁらというコに半ば引きずられるようにライブ会場へ到着。
「はじめは、私達のライブを見てね。何かコーデを持っていたら貸してみて」
いきなり来たのだから、わたしは何も持っていなかった。
「じゃ、このまま行くね。かしこま☆」
・・・「かしこま☆」というのがこのコの口癖らしい。
さて、わたしはステージの前に座って、らぁらの登場を待った。
らぁらとあと二人。三人の女の子がステージに立った。
三人ともレッスン着のままだ。このまま行くってそういう事?
あとの二人も合わせてレッスン着のままやってくれてるって、悪いことしたなぁ。やっぱり、周到に用意してから来るべきだったかな?
ステージが進み、らぁらが
「サイリウムチェーンジ!」
と叫ぶと、らぁらのレッスン着が以前見たキラキラのサイリウムコーデに変わる。
コーデなしでもこの演出は出来るんだな・・・
ステージが終わって、らぁらが戻ってきた。
「次はプリズムストーンショップへ行くよ。そこでコーデを買うんだよ」
プリズムストーンショップへ行くと、2種類のコーデが並んでいる。
ひとつはキャンディアラモードというブランドタグのついたポップなタンクトップとチビTシャツ。
もう一つはいかにもアイドル衣装っぽいスカート。こちらのブランドはトゥインクルリボン。
「今日の入荷はこの二つかぁ。どちらかを選ぶんだよ。今日はあなたにプレゼントするよ」
「え、いいの」
「オッケーのかしこま☆」
「ありがとう」
わたしは、とりあえずスカートの方を選んだ。多分、こっちのほうがレッスン着からイメージ変わりそうだし。
らぁらたちの写真にスカートが描かれたプリチケが出来上がる。
「それじゃ、今度は・・・えっと?」
「あ、わたしはあみ。ここまでしてもらったのに名前言ってなかったね。ごめんなさい」
「それじゃ、今度はあみちゃんがライブしてみない?」
「え・・・ええぇーーーーっ?」
いや、心の準備が・・・レッスンだってやってないし・・・
「プリパラは好きぷり?」
突然、背後から声がかかった。さっきらぁらと一緒にステージにいた黄色い髪の子だった。
「ぽっぷ、すてっぷ、げっちゅー。みれぃぷり。プリパラは好きぷり?」
重ねて同じ質問が来る。
「あ、はい。」
「それなら大丈夫ぷり。一緒に行くぷり」
わたしはらぁら、みれぃに引きずられるようにライブをエントリーした。
いよいよステージの入り口だ。
「コーデの数だけプリチケをスキャンしてね」
ガイダンスにしたがい、さっきのスカートの描かれたプリチケについているQRコードをスキャンする。
「プリパラチェーンジ!」
突然、足元がせりあがり、ぐんぐん上がっていく。その中でレッスン着のショーパンがアイドルスカートに変化した。
そして、上昇が止まると、わたしたちはステージの上にいた。
らぁら、みれぃはレッスン着のままだ。わたしに合わせてくれてるのかな?他にバックダンサーの子が数人。
これだけのメンバーでステージをするんだ。失敗はできないなぁ。
そして、目の前には大勢の観客が色とりどりのサイリウムを持ってステージ開始を待っている。
ドクン、ドクン・・・
緊張が高まっていく。一応、聞いたことがあり知っている曲は選んだ。
でも、歌えるのかな?
まぁ、ここはテーマパークで、プロってわけじゃないなら、カラオケに来てると思えば・・・
一か八か見よう見真似で。
イントロがはじまった。横目でらぁらの動きを伺いながら踊ってみる。体が自然に動く?
いける。多分いけそう。
♪おしゃれなあの子マネするより・・・♪
歌詞を見ないでも歌える。ある程度まではシステムがサポートしてくれるのかな。
楽しい。歌うのが楽しい。
歌いながら、らぁら、みれぃがアピールポーズを決める。
最後はわたし。
自分でも信じられないくらいに大胆にポーズを決めた。
そして、中央の円形ステージへ続くランウェイを歩く。
「メイキングドラマ、スイッチオン!」
円形ステージに着くと、ホログラメーションを使った演出が始まる。
「ダンスと」
「ランウェイと」
「歌でめざせ!」
巨大な銅像の前でわたしたちはポーズを決めた。
「レッツゴー!プリパラ!」
そして、ついに、この時が来た。
「サイリウムチェーンジ!」
ステージ全体が暗くなり、わたしの服がサイリウムコーデに変わって光を放つ。
意外と熱かったり眩しかったりはしない。わたしは高揚感の中で歌い、踊った。
気持ち、いい・・・っ!
ライブが終わった。
と、いきなりわたしたちの円形ステージがせり上がり始めた。
「結果発表!」
えっ?何?
「ぐんぐん伸びろーっ」
ステージがどんどん上がっていく。
「ライブ中にもらった「いいね」の分だけ伸びるぷり」
みれぃが教えてくれる。よく見ると、隣のステージも伸びている。
隣のステージの上昇が止まって、しばらくするとわたしたちのステージの上昇が止まり、頭上に花火が上がった。
えっ?1位?
ビギナーズラックなのかよく判らないけれど、とりあえず、この時間にライブした中ではいちばん多くいいねを集められたってこと。
実は、あとの二人は将来、パラジュクで神アイドルとなる「そらみスマイル」という3人ユニットのメンバーだったんだけど、それはまた別の話。
確かにここに来るまでに、ファン第一号を名乗るコとか、らぁらに挨拶していくコが何人かいたし、すごい人なんだろうことはわかるけど。
わたしは興奮も覚めやらぬまま、ショップへ向かった。靴が二つ入荷している。どちらが今のスカートに合うかな・・・と見ていたら、てんとう虫をイメージした柄の靴下のついた靴には「レア」という札がついている。
滅多に入荷しないならこっちにしておこうとも思ったけど、スカートと同じブランドの靴を選んだ。後悔しないよね。多分。
コーデを選び終わるとプリチケが出てきた。三人の記念写真とさっき選んだ靴が印刷されている。そして、上の三分の一くらいに切れ目があり、そこにはわたしが写っている。
「トモチケをパキるぷり」
みれぃが自分の上のパーツを差し出している。わたしも自分のチケットを曲げる。
パキっ。
音を立てて上下のパーツが分離した。この上部がトモチケ。これを交換する。
「次はこのマジカルピエロコーデで参加するぷり」
トモチケにはキャンディアラモードのマジカルピエロコーデを一揃い着ているみれぃが載っている。
「すごい。わたしもコーデを集めないと。次は靴も使えるし」
「がんばれぷり。でも、シューズはせっかく使っても、プリチケの写真では写らないこともあるぷり」
「ええーっ?せっかくなのに!」
みれぃと話をしていたら、らぁらもやって来た。
「ああーっ!みれぃだけパキってずるい!」
「早いもの勝ちぷり」
「あみー、次はあたしともパキってね」
「もちろん。えっと、こんな時は「かしこま」って言えばいいのかな?」
「うん。約束だよ」
こうして、わたしはデビューした。
今回のプリチケ
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