プロローグ

 きらきら、というよりは、ぎらぎらと晴れたある7月の日曜日。

 わたしは、デパートで車椅子を押しながらウインドーショッピングを楽しんでいた。
 去年のクリスマスにはゆうき、今目の前で車椅子に座っている子、と一緒にデパートの2階から駅に続く歩道橋を歩いたっけ。歩道橋には電飾が施され、キラキラしていて、ゆうきはとても喜んでいた。この子、キラキラが大好きだから。
 ゆうきはわたしのいちばん仲のいいトモダチ。わたしより後輩なんだけど、気にせず自然体で喋るようにしてる。敬語で話されても、ねぇ。
 彼女は先月、転倒して足を挫いてしまい、幸いたいした怪我ではなかったんだけど、今は念のため車椅子に座っている。
「あみ、ごめんね。今日は付き合わせちゃって」
「いいよ、わたしも楽しんでるから」
 あ、あみっていうのはわたしの名前。でも、そろそろおなかも空いたし提案してみる。
「そろそろお昼にしよっか。うどんでいい?」
「うどーん、うどん♪」
 ゆうきはうどんが好きだ。もちろん、わたしもうどん、好きだけど。
「じゃ、エレベータだね。どこかな・・・?」
「ごめんね。もう歩けるんだけど、長距離はまだちょっときついから」
「いいって、いいって」

 わたしたちがエレベータの近くに来た時、近くにあったテレビのモニターをなんとなく見てみた。
 モニターでは、真っ赤な大輪の花が胸の真ん中にある花束のような衣装を着た女の子がステージの上で歌っていた。
「あみ、あれ何かな?」
「うーん、そういえば、お腹の真ん中に真っ赤な食虫植物の花がついた怪獣がいたような・・・『ウルトラマンタロウ』だったかな?」
「いや、そうじゃなくて」
「うん、それとは違って、あの服はかわいいよね」
「だから、そういう意味じゃなくて、何の番組かなって訊いたの!」
「あ、そっか。なになに、プリパラTV。女の子は誰でもデビューできるアイドルテーマパーク、だって」
「ふぅん」
 この時は、わたし達がこのステージに立つことなど、想像だにしていなかった。わたしなんてアイドルには程遠いだろうしね。

 不意に、テレビ画面は歌っている女の子にズームインし、瞳がどアップになった。
「サイリウムチェーンジ!」
 突然、彼女の衣装が色とりどりの電飾が施されたものに変わり、キラキラと輝きを放った。
「綺麗・・・・・・」

 わたしたちは画面に釘付けになった。ゆうきの瞳もキラキラと輝いている。
 無理もない。彼女はキラキラだけでなく、歌とダンスを見るのも好きなんだ。昔、二人でおもちゃ屋に行ったとき、シルバニアファミリーのCMが流れているモニターで、お姉さんとショコラウサギがダンスする動画が流れているのを見て、
「あはは、これ楽しい!」
 と言い、ダンスが終わるまで立ち止まって見ていたようなコなのだ。

 ステージが終わると、わたしたちは向き合って、
「すごかったね」
「綺麗だったね」
 気がつくと、エレベータは行ってしまっていた。

「あ」

 慌ててわたしは再びエレベータの呼びボタンを押した。
「エレベータをスルーしちゃったね」
「あはは。あ、そうそう、今思い出した!」
「何を?」
「確かアストロモンスだわ。食虫植物の怪獣の名前」
「いや、誰も訊いてないし」

 ふと、思った。今度、快気祝いにゆうきをそのテーマパークに連れて行ったら喜ぶかな?


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