第37章 思い出いっぱい作ろう -Day1・大阪-

「いや、そっちやない!」
 あみが思わずスマホの画面にツッコミを入れた途端、背後から声がかかった。
「あみちゃん?どうしたの?れみちゃんとM1に出るためにツッコミの練習してたとか?」
「あ、モモカさん!いや、このニュースの見出しがね…」
 あみが見せたニュースサイトには「岸田総理、『増税メガネ』の揶揄に「レーシックにするか」と反論」とある。実際、増税に対する不平で、総理が眼鏡をかけていることに国民は不満を持っているわけではない。
「確かに、漫才みたいな記事だね」
「まぁ、これがトップニュースなら、まだ日本は平和だよね。ウクライナだけじゃなくてパレスチナでまで戦争になりそうだし、世界は大変だよ」
「…あみちゃん、プリマジと食べ物以外のニュースも見てたんだね」
 確かにプリマジと食べ物とガンプラくらいしか普段は話をしていないな。
「じゃ、平和なうちにプリマジしようよ」
 モモカさんはそう言いながら髪をほどいた。
「あみちゃんとデュオするし、イメチェンでいこうかな」
「おお!髪下ろしてもかわいい!何をしようか」
「ホーリィモノクロームがあるから、ミルキーレモンを逆パートとかどうかな」
「いいよ!それもアリだよね」

 あみはライブの後、帰路についた。とみとれみが作戦会議に来ることになっている。
 歩き出してすぐ、れみがあみの方へ向かってくるのが見える。
「ははは。帰る前に合流しちゃったね」
「では、一緒に行きましょう」
 二人が到着し、お茶を用意していると、とみが到着した。
「いらっしゃい!」
 声をかけたあみがとみのスカートの裾のあたりを見て、
「あれ?何か緑色のものが…げっ!カメムシ!」
 今年は全国的に大発生したとニュースになっているだけに、最近、やたらと見かける。
 あみはすかさずティッシュを手に、
「屁をこくまえに捕獲!」
 とつまむ。そして、窓の外へ追放しようとすると、
「あれ?いない」
 あみは再びとみの方に向き直り、
「さては裏に…そこだっ!」
 あみはとみのスカートをめくり上げて、スカートの裏に逃げたカメムシを捕獲した。
「…あみ…」
 とみは顔を赤くしてぷるぷると震えている。
「ごめんごめん」
 あみは謝りつつ、れみに
「まさか、今の撮ったりしてないよね」
「さすがに、リーダーにスカートめくられてる後輩を晒したりはしませんよ」
「そんなことしたら、ジャニーズ事務所みたいに謝罪会見ものだよ」
 最近、大手芸能事務所のジャニーズ事務所で、亡くなった社長が多くの所属タレントに長年セクハラしていたという謝罪会見のニュースが連日報じられ、社名も変更になるということで話題になっていた。
「いや、あんな大手とウチじゃ性質違うし」
 実際、スカートに匂いをつけられる前にカメムシを追放しようとした先輩という場面なのだから、とみも恥ずかしかったものの怒っているわけではない。
「でも、本当だったら確かにあたし達のユニット名にもあみの頭文字も入ってるから、ジャニーズ事務所みたいに名前変えなきゃ、ってなるのかな」
「名前変える以前の問題として、チーム解散まであと少しですよ」
 れみが話題を引き戻す。あみもプリマジ運営に内定し、れみも劇団への参加が決定したのだ。それぞれの活動のため、ユニット解散の時は刻一刻と迫っていた。
「方針決めてからも結構活動してるから実感ないけど、そうだよね」
 あみが急に立ち上がった。
「今まで協力してくれたゲストさん達にも声かけて、後悔のない思い出作りのプリマジをしたい!」
「ですね」
「じゃ、わたし、プリマジで告知ライブしよう!」

 あみは私服のままステージに立った。
「皆さんに、大切なお話があります」
 あみは語り始めた。
「今日のトップスは、以前フォロワーさんに似顔絵を描いてもらった時に着ていた大切なものです。
 わたしは、色々な人と知り合えて、様々な交流があって、支えられてここまでやってきました。
 そして、わたしはもうすぐ運営のお手伝いにまわり、一線を退くことになりました。
 そのために明後日、わたしはれみ、とみと一緒に大阪のプリマジに行きます。
 一緒に最後の思い出作りに参加してくれる人がいたら、声をかけてください!声をかけてくれた人全員とプリマジライブしたいと思います!」

 そして、最後の思い出作り大会当日。
 JR三ノ宮駅に集まった三人はただならぬ混雑を目にした。
「今日、平日だよね」
「あっ、事故でダイヤが乱れてるみたいですね」
「じゃ、このまま阪急で梅田まで出ようか」
「そうですね。でも、思い出作り大会会場はなんばの方が近いから、阪神で奈良方面が楽なのに、なぜJRで行こうと思ったんですか?」
「ふっふっふ…」
 あみが鞄を開けると、プリマジセット以外になぜかガンプラのランナーが入っている。
「グランフロントで、今日までガンダムのイベント展示があるんだよ。ちょっと寄って行きたかったから」

 そんな訳で、三人は阪急で梅田に来た。そして、JR大阪駅方面の歩道橋に上がる。
「あ、あれ、まだあるんだ」
 あみが歩道橋脇にある換気塔を指さす。
「昔、叔父さんがアレを「新マンのビルガモ」って呼んでたんだけど」
「新マンのビルガモ?」
「うん。『帰ってきたウルトラマン』に出てくるあのギョロ目煙突みたいなロボットの怪獣の事で、昔は帰ってきたウルトラマンの名前が知られてなかったから、新マンって言ってたらしいんだよね」
「ウルトラマンジャックだったっけ」
 とみがそう言いながらビルガモを検索した。金色のギョロ目のロボット怪獣の画像が出てくる。
「微妙に似てない…というか、全然違う気がする…」
 そこで、あみが
「新マンのビルガモ!」と書いてそれをバックにしたれみの写真をアップした。
 三人はそのままグランフロント大阪のビルに入っていく。正面にシャア専用ザクのオブジェが見えてきた。
「あそこだね」
 三人がオブジェの所に来ると、そこから階下の広場でやっているイベント会場が見渡せる。
「メイン会場は下のようですね」
 三人は階段に向かう。途中にちょっとしたスペースがあり、ポストのようなものと係員がいるテーブルがある。
「これこれ」
 あみはポストに駈け寄る。そして、鞄から取り出したランナーを入れて、係員からエコバックを受け取った。
「ランナーのリサイクルだよ」
 エコバックの中にはイベントパンフの他に黒いガンプラが入っている。
「黒いガンダムですか?」
「これはエコプラ。回収したランナーからリサイクルされたキットなんだよ」
「ということは、さっきあみが入れたランナーが誰かのコレになるんだね」
 そんな話をしながら三人は展示会場に降りた。
 会場の真ん中で大きなビームサーベルが光っているのだが、よく見るとプラモデルのランナーを積み上げて作られたものだった。
「色々と使い道あるんだね」

 一通り展示を見た三人は駅に戻り、地下鉄でなんばへ移動した。
 会場に指定したステージではまつりが彼女専用のショコラティエコーデでプリマジをしていた。
「あっ、あみちゃん達!こんにちは」
「こんにちは」
「そういえば、今日は思い出作りするって言ってたよね。これ使って」
 まつりがれみに渡したのはショコラティエコーデだった。
「いいんですか?ありがとうございます!」
「じゃ、あたしがこれでデュオかな」
 とみはみゃむカラーのショコラティエコーデを持っている。
「じゃ、ゲストさん来るまで、自分たちのライブもしよう」

 れみととみの二人がライブしている間に、まず、おいらんさんが来てくれた。
「ありがとうございます!」
「私、私服ミックスですけど…」
「じゃ、わたしもこのままミックスま私服でデュオしましょうか」
 そして、打ち合わせ中にも声がかかる。
「お久しぶりですね」
「あえんちゃさん!わざわざ四国から来てくれたんですか?嬉しい!」
「あみさん、こてつくんコーデを買ったけど、機器の故障でアップできないって書いてましたよね。私のスペーストラベラーと宇宙テーマはどうですか?」
「うんうん。じゃ、青い宇宙ライブですね!」

 あみが連続デュオを終えて楽屋に戻ってきた。
「一旦休憩!そうそう。今日集合する前に近所のセブンイレブンで珍しい果物買ってきたんだ」
「果物ですか?」
「うん。レジの正面のグミとかドライフルーツとか引っかけてる棚に『誰も知らない果実・キラスピカの実』ってのがあったんだ」
 あみが取り出した袋を見て、
「空想果実グミと書いてありますね…架空のフルーツ風味のグミのようですね」
「えっ?超マイナーな実のドライフルーツだと思ってた」
「あ、でも、おいしいことはおいしいよ」
 とみが一つつまんで感想を述べる。そこへ
「こんにちは」
 次に来たのはいなりさんだった。
「さっきの写真の所、バルタン星人が潜んでなかったですか?」
「え?ネタ通じました?」
 いなりさんにはビルガモネタが通じたようだった。確かにビルガモにはバルタン星人が乗っていた。
「今週のコーデの色違いを持ってきましたよ」
「プリンセスデュオですね!」

 プリンセスデュオを終えて楽屋にあみが戻ってきた。
「あと、1曲か2曲くらいかな」
「そうですね」
「今日来れないって言ってくれた人もいるし、あたしやれみとのステージもあってもいいし、最後は3人で第2回の告知やる?」
「そうだね」
 そんな話をしていると、クレアさんが楽屋に来た。
「こんにちは。思い出イベント、まだ間に合いますか?」
「もちろん!じゃ、わたしとれみでひめめとお揃いの3人曲はどう?」
「4人曲はないし、あたしは現役継続だから、応援で」
「そうですか。それでは…」
 クレアさんが言いかけると、
「わたし、今日は連続でやってるし、れみがセンターでいいかな」
「では、そういうことでいきましょう」
 三人でライブをした後で、ふとクレアさんが言う。
「でも、せっかくそれぞれのコーデなのに、三人曲は全員同じ振り付けの曲が多くて残念ですね」
「確かに。でも、このコーデとかマーチングとかだと同じ振り付けでいいかも」
 あみが取り出したのはアメリカンダイナーブルーコーデだ。
「あれ?そのボトムス…?」
 クレアさんが驚いたように見る。ボトムスのカードは殆ど透明でカードは赤っぽい印刷が薄くついている。
「あ、これ、トラブルでうまくカードが出来なかったやつだけど、一応使えるみたいなんですよ。赤い半透明のボトムスが出たら笑うね、って読み込ませたら、普通に機能してたんです」
「確かに読み込みのQRコードは色が赤いだけで一応付いてますね」
「じゃ、最後にとらいあんぐる☆ART三人で、アメリカンダイナーライブ、やりますね」
「それなら、私はライブ見てから帰るとしましょう」
 クレアさんはモニター前のベンチに向かって歩きだした。

「やはり、思い出作りの最後は三人でやらなきゃね」
 あみの言葉に二人は頷き、三人はステージに向かった。
「あみ、第二回の告知も忘れちゃだめですよ」
「あ、そうそう、れみ、ありがとう」
「さてはクレアさんとのライブの間に忘れてたな!」
「え、いや、その…」
 とみのツッコミにタジタジなあみをれみは観音様のような表情で見ていた。


今回のフォト
                                         
今回のソロ・デュオ・チームユニット

あみ&モモカさん


あみ


まつり


れみ&とみ


あみ&おいらんさん


あみ&あえんちゃさん


あみ&いなりさん


クレアさん&れみ&あみ


あみ&とみ&れみ


参考:大阪駅前換気塔画像
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