第21章 卒業旅行
「どうぞ」
あみはプリマジスタジオのカウンターにいるタントちゃんからコーデカードを受け取った。みゃむやチムムが着ているMC服だ。
「いいの?」
「今、キャンペーンでプレゼントしています!」
「そうなんだ。ありがとう」
あみは礼を言った後、そのコーデカードを手に歩いていると、みゃむが向こうから来るのが見えた。
「あっ、みゃむちゃん!」
「おう、あみか!いいところに来てくれたんだぞ!」
「どうしたの?」
「チムムが急に体調崩して、この後のMCが出来なくなったんだぞ」
「えー、大変!」
「この大魔法使いみゃむ様並みに人の姿でMCやるのは大変なんだぞ」
「そっか…」
「で、今日は特に大切な収録があるから、穴あけられないから、代わりのMCを探してたんだ!あみ!みゃむ様と一緒にMCしてくれないか?」
「わたし、普通の人間…チュッピだっけだけどいいの?」
「えりさやゆうりもチュッピだけど時々MCやってるから問題ないんだぞ」
そうか、せんぱいプリマジスタもやってたっけ、MC。
「わたしで務まるならいいけど…誰のプリマジ?」
「フルアヘッドって知ってるか?」
「時々プリマジスタの総選挙やってるショップだよね。わたしもエントリーしたことあるよ」
あみはエントリーするものの、あ、この人知り合いだ、このミックスコーデかわいい、きのうわたしに入れてくれた人だ、などと投票しまくり、結果、適当な得票数で終わっている。
「今日はその第4回総選挙の優勝プリマジスタのお披露目なんだぞ。しかもMCの後、バックダンサーとして一緒にステージに上がることになっているんだぞ」
「えー、そんなすごい人…」
緊張しながら楽屋に入ると…
「あれ?あみさん?」
「みか♪さん?」
そういえば、わたしも投票したっけ…あみはそのことを思い出していた。
「あみさんも投票してくれてましたね。ありがとうございました」
「すごいなぁ、優勝おめでとうございます」
「何と言っても、このみゃむ様を差し置いて大魔法使いコーデを使うとは…」
「いずれにしても、わたし、チムムに代わってMCがんばるね!」
そして、次のプリマジスタは…
「今日はよろしくお願いします」
初めて見るプリマジスタだったが…
「あれ?チムムお休みなんですか?」
「わたし、代わりのMCのあみといいます」
「メモルミデンです…って、え?」
メモルミデンさんは名乗った後で急に態度が変わった。
「あみさん、ですか?もしかして、MAGI☆Pを知っていますか」
「ええ、ラヴィットさんやムテキさん達ともご一緒したことありますよ」
「やっぱり!」
どうやら、アルメガさんがとみに話していた後輩というのはこの人のようだ。
「実は、アルメガからあみさんの賑やかライブの話聞いて、やってみたくて4人声かけてきてたんです」
控えにはまつり、れもん、そして、なんとひめめもいる!
「賑やかライブ、面白そうなので、プリマジチェックで参加します」
ひめめのプリマジチェックはみるきのものに近かったが、ひめめ専用にアレンジされていた。
「ちなみに、もう一人はこのみゃむ様だぞ」
「あみさんもどうです?この曲、6人バージョンもありますよ」
「じゃあ、ぜひ。MC服じゃなく、今日フレンドポイントで買ったコーデで参加しますね」
思いがけず、話に聞いていた新たなプリマジスタのメモルミデンさんやひめめと一緒のステージに立てることになった。
いっそ、運営に入って、裏方やりながら時々ステージに立つのもいいかも…
あみの中で、その考えがどんどん大きくなっていった。
あみは、一線を退く選択肢をなんとなく検証しながら、れみ、とみと落ち合う約束になっていたカフェに向かった。
カフェには既に二人が到着していた。
「お、来た来た」
「お待たせー」
「あみ、今度、旅行に行こうって話になったんだけど」
とみが切り出す。
「旅行?」
「ええ、まぁ、卒業旅行といいますか…」
れみの出した単語にあみは驚いた。
「卒業旅行!なんでわたしが運営に入ろうか悩んでること判ったの?しかも、卒業前提…」
今度は二人が驚く番だった。
「あみ、そうなの?」
「え?」
「卒業旅行って、私のことだったんですが…」
れみが口火を切った。
「私も、あまね様みたいにちょっと演劇やってみたいなって思ってまして」
そういえば、この前、焼きそば食べながらあまね様の演劇見て、何か考え事してたけど、本当はこの事だったのか!
「で、プリマジする機会がぐんと減るから、三人の思い出作りと卒業記念ライブフェスのセトリ作るヒントを探しに、旅行なんてどうかなって話してたんだ」
とみが言う。先日の初音さん達とのセッションでライブイベントの組み立ての過程が楽しかったので、とみはイベントをやろうとしているのだろう。
「でも、あみもそうなると、事実上とらいあんぐる☆ARTはユニットとしては活動休止ですね」
「なおさら三人の思い出作り、必要になったね」
とみが少し淋しそうにつぶやいた。
結局、三人は比較的近い香川県への旅行に決めた。たまたまキャンセル空きを見つけ、準備はOKだ。れみの運転するレンタカーは淡路島を南下している。
「そういえば、大きな観音様ってもう無くなったんだっけ」
「無くなりましたね」
「以前、インター降りたところの工場で買ったたこ煎餅、すごくおいしかったんだよね」
「観音様もたこ煎餅もついでにダヴィデ像のある道の駅も、ずっと前に過ぎてます」
「観覧車のあるサービスエリア過ぎてちょっといった辺りだっけ」
「ですね。もう南あわじ市に入っているからもうすぐ四国ですよ」
言っているうちに車の前に鳴門大橋が見えてきた。
「橋からうず潮見えるかな」
「てか、今見えてるけど、れみは運転中だから無理かな。ごめんね」
「私は前に大塚美術館に行った時、バスの窓から見ましたよ。まあ、今横目でちらっと見ましたが」
「大きなうず潮だったね」
「そういえば、大塚美術館ってどんな絵があるの?」
「世界の名画がたくさんありますよ。ただし、現物ではなく、陶板に実物大で焼き付けたレプリカなんですけど」
「実物大の大きな絵を一度に観れるってことか。次の機会があれば寄ってみたいかも」
そんな話をしながら、車は高松道に入り進んでいく。
「次の津田の松原サービスエリアで昼食にしましょうか」
「せっかくの香川だし、さぬきうどん、あるかな」
「ここ、さぬき市ですからね。あると思いますよ」
サービスエリアの入り口に笠をかぶって錫杖を持った大きな像が立っている。
「おお、ダヴィデじゃないけど笠子地蔵の像がある!」
「本当だ!あとであそこで写真撮ろうよ!」
はしゃぐとみとあみに冷静にれみがつっこむ。
「ここは四国です。あれは笠子地蔵じゃなくお遍路さんでしょう。像になるということはお大師さんかもしれませんが」
その冷静なれみが、今度はとみと四角い穴の開いた卵型のオブジェをはさんで穴を覗きながら
「やっほー」
などと言いつつ遊んでいたりする。よく見ると向こうの緑地には公園の秘密基地遊具みたいなオレンジ色のオブジェもあるようだが。
「ほら、早く行かないと席もうどんも無くなるよ?」
食い気の勝るあみがこの場面では引率係になっていた。
「うーむ、お遍路さんやうどんにライブのヒントはないか」
「プリパラではうどんコーデあったけどね…」
食事を終え、車は宿泊地であるレオマの森を目指していたのだが…
「すみません。行き過ぎてしまったようです」
「そうなの?」
「標識では「まんのう公園」ってあるけど、地図見ると確かに行き過ぎてるね」
「せっかくだから、その公園に寄ってみましょう」
れみがそう言って、そのまま標識通りに公園の駐車場に車を停めた。
「わぁ、かっこいい竜のオブジェがある!」
あみととみは喜々として公園に向かった。入口の横には銀色の大きくリアルな竜の顔があり、正面にはかわいくキャラクター化した竜のオブジェもあった。
「うーん、地図見るために停めるつもりだったんですけど…まあいいか」
れみも後に続く。
公園の中にも竜の形の植栽や竜の像などがいくつもある。
「竜の公園がなんでここにあるのかな?」
「竜をテーマのライブは…無理か」
「チャイナだとこないだ八重さんとやったばかりだもんね」
そんな事を話しながら奥へ進むと、「昇竜の滝」という看板のある滝があった。
「なるほど」
「それで竜なんだ!」
こうして、寄り道はしたものの、無時三人の車は目的地のレオマの森のホテルに着いた。
「おお!さっそく温泉の温水プールに行こう!」
このホテルには温水プールがあり、水着のまま入るジャグジーやカラフルな入浴剤の入った三色の風呂桶などもある。三人はチェックインするとすぐ水着に着替えた。
「そういえば、プリマジでは水着コーデ無いよね」
「プリパラやプリチャンまでは水着ライブあったのにね」
プールとは別に、男女別の普通の露天風呂もあるので、三人はひとしきりプールで遊んだ後は体を洗ってから浴衣に着替え、夕食バイキングに向かった。
泳いだ後のあみ達が昼にも食べたはずのさぬきうどんはもとより、様々な食材を恐ろしい勢いで食べたのは言うまでもない。
「うどんの他にお寿司もある!」
「そういえば、お寿司のコーデはあったよね」
「あっちにはお肉や魚もありますね」
そして、これからの事を含めてガールズトーク…のつもりが、満腹でふかふかの大きな布団に寝転がると、全員ぐっすりと眠ってしまったのだった。
一泊して、翌日は目の前の遊園地へ向かう。駐車場から長いエスカレーターで上がって行くと、黄色い鳥のマスコットのオブジェが出迎えてくれる。
「ペディーとポーリーという名前のようですね」
「可愛い!一緒に写真撮ろう!」
休日の遊園地は結構混雑していた。
「うーん、どれも並んでるね」
「あ、メリーゴーランドは結構列捌けるの早そう」
「パンフにはカルーセルは大型で一度に90人乗れますって書いてあるよ」
「そういえばカルーセルって名前のコーデはこれモチーフだよね」
「ライブの候補の一つかな」
いくつかのアトラクションを楽しんだら、そろそろ昼ご飯時だ。
「あそこにフードコートみたいなコーナーがあるよ」
「おお、香川名物骨付き鳥ってのがあるみたいだけど…売り切れだ」
「じゃ、いっそ帰りに近くのサービスエリアで骨付き鳥探してみますか」
「だね」
「もうすぐパレードあるみたいだし、見に行きましょう」
「うん、行こうよ」
れみの提案にとみが頷く。
パレードはフロートに乗ったペディー達キャラクターの他に、花をモチーフにしたダンサーさんが踊っている。
「花の妖精さんの衣装、どれもかわいいね」
「すずらんも桜もあるし、わたし達も花のコーデのライブは絶対入れたいね」
「そうですね」
こうして、遊園地を満喫した3人は高速に乗った最初のサービスエリアに着くと、真っ先に食堂のメニューを見た。
「あった!骨付き鳥!」
3人は骨付き鳥を食べながら、遊園地のパンフを取り出し、旅の思い出を振り返っていた。
「うさぎの飛行機も面白かったよね」
「私は外周を回る機関車で、最後のトンネルのところが良かったですね」
「あれはいい意味でびっくりだったね」
「手を振ってくれたゴリラ、アル・ゴードンさんというみたいですね」
「あれ?」
「あみ、どうしたの?」
「この、アンコールワットみたいなの、あったっけ?」
「えっ、こっちにも別のエリアあったの?」
「うわー、気付かなかった!残念!」
「でも、いつか、3人で、思い出を辿りながら、また旅行に来て、その時はここも見ましょう」
「そうだね」
「絶対、また何年後かに一緒に来ようね」
家に帰るまでが旅行というけれど、終わる前から次回の話をするあみ達なのだった。
今回のフォト
今回のチームユニット
みゃむ&あみ&みか♪さん
あみ&れもん/まつり&メモルミデンさん/ひめめ&みゃむ
前へ・表紙へ・次へ