第20章 ジョイントセッション

 ソースが焼けるいい匂いがした。
 とらいあんぐる☆ARTの三人は鉄板カウンターのお好み焼き屋でランチしていた。店の奥のL字に曲がった席にいた二人のサラリーマンが食べていた焼きそばがおいしそうだったので、三人も焼きそばを注文した。
 三人は手前の席に座った。調理する店の大将の斜め後ろの壁にテレビがあるのだが、いちばん大将に近いれみ以外からはテレビを見ながらとはならない角度だった。

「はい、おまちどうさま」
 大将が焼き立ての焼きそばをちりとりのような大きなヘラで三人の前に次々と置いて行く。そして、カウンターにあった刷毛の入ったソース容器と青のり、鰹粉の入った金属の振りかけ容器を三人の前に持って来てくれる。
「そういえば、この前のひめめ解放の賑やかライブの時にね…」
 とみが刷毛からぽたぽたとソースを焼きそばにかけながら話題を振る。
「うんうん、何かあったの?」
 あみが両手に青のりと鰹粉の振りかけ容器を左右それぞれに持ったまま続きを促す。
「アルメガさんが、後輩が入ったから今度紹介するって言ってたよ」
「そうなんだ、会うの楽しみ!」

 その時、れみはテレビの画面を眺めながら考え事をしていた。
「れみ、れみ!」
 あみの呼びかけにも一瞬反応できてなかった。
「え、あ、はい。なんでしょう?」
「どうしたの?って、あ、テレビで演劇の中継観てた?お、あまね様が出てる!」
 そういえば、あまねは演劇をメインにして、殆どプリマジをしていないんだっけ。それで、彼女のマナマナだったぱたのがれみのサポートをしてくれているのだ。

 三人はプリマジスタジオの楽屋に入った。
「そういえば、さっき、れみ何か考え込んでる感じだったけど、もしかして、あまね様の舞台見て…」
 とみの台詞にれみははっとした表情になった。
「あ、やっぱり、あまね様から連想して、ぱたのさんだけ人の姿にならないから一緒にプリマジできないな、とか考えてた?」
 れみは一瞬ずれたタイミングで、
「え、あ、そう、そんなんです…よく判りましたね」
 ちょっと不自然な感じだが、そういう事でいいかという感じにも取れる。
「だったら、代わりにチムムとプリマジするチム?」
 突然チムムが会話に入ってきた。
「クレアさんから今日のフレンド紹介でとみとれみの指名があったから呼びにきたチム。れみが望むなら、そのあと一緒にプリマジするチムよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいますね」
「あ、でも、チムムのやりたい曲は3人曲だから、あとでひなを呼んでくるチム」
「れみ、よかったね。ところで、クレアさん、わたしの指名はないの?」
「あみは先週指名があったからじゃないですか?」
「確かにそうだね。じゃ、わたし留守番してるから行ってらっしゃい」
 あみはチムムに連れていかれる二人を見送った。

 あみが一人で待っていると、眼鏡をかけたプリマジスタが声をかけてきた。
「はじめまして」
「え、あ!はじめまして!」
 あみが慌てて応える。
「あなた、さっきの三人ユニットで活動されてるんですよね」
「はい」
「先日、配信を見かけて楽しそうにプリマジされてるな、と思いまして」
「ありがとうございます」
「で、もし良かったら私たちのグループとセッションライブイベントを…」
 彼女は言いかけて、はっと我に返り、
「あ、申し遅れました!私は八重といいます。つい誘うのに夢中で…」
「いえいえ、お気になさらず!わたしはあみ。よろしくお願いしますね」
「ははは、こんなんだから初音におっちょこちょいだと言われるんですね…」
 そこへとみが帰ってきた。
「とみ!こちら、八重さん。わたし達とセッションライブしようって!」
「え、そうなの?あ、八重さん?はじめまして。とみです」
「打ち合わせをすぐにでもしたいけど、あと一人があそこなので」
 あみが指さすモニターでは、れみがチムム、ひなと三人でプリマジステージの最中だった。

 れみが楽屋に戻ってくるのを待って、三人は八重さんについて外に出た。外にはショートカットと長髪の二人のメンバーが待っていた。
「初音!セッションライブ、OK貰えたよ!」
「えっ?あ、うちのメンバーが急に声かけてすみませんね。でも、ご一緒できるなら楽しみですね」
 八重さんが声をかけたのはショートカットの子のほうだと思ったが、長髪の人物のほうが声をかけてきた。その声を聞いて、あみが驚いたように
「え?男の人?」
「白くんは男ですよ」
 代わりに八重さんが答える。
「そういえば、男性といえば、飴職人のトンマさんって人もプリマジしてましたね」
 あみはみゃむの説明しか聞いていないので、TrutHのメンバーの名前を正確に知らないのだ。
「TrutHの人、「トンマ」じゃなくて「とうま」だったと思います」
 初音さんと呼ばれていたショートカットの子が訂正する。
「あ、そうなんだ。最初にそう聞いたからそれで覚えてたわ…」
「名前といえば…あの、とりあえず、時計回りでいいから自己紹介しませんか?」
「そうですね…お互い初対面ですもんね」

 自己紹介を終えた6人はカフェに移動した。
「じゃ、まずはセトリを作っていきましょうか」
 八重さんが議題を出す。
「セトリ?」
 とみが小声でれみに訊く。
「セットリスト。どの曲をどの順番でというリストのことですよ」
「なるほど」
「最初は全員でやりたいよね」
「みんなで制服系はどうでしょう?」
「いいですね」
「次はデュオ曲でいきますか」
「うちのトップバッターはわたしが出るね」
 あみが名乗り出る。
「意表をついて、うちはしいろうを出そうか」
 白くんの提案にあみたち三人は「?」になる。
「ああ、しいろうはうちのマナマナです」
 初音さんがフォローする。
「でも、しいろう、白くんとのデュオはよくするけど…大丈夫かな」
「じゃ、二曲続けてでわたしとしいろうさんが出て、二曲目で白くんが加わるならどうかな」
「じゃ、そういうことで」
 このような感じで、セッションライブのセトリが出来ていった。

 そして、いよいよセッションライブイベント当日。制服コーデで六人は集合した。制服コーデといっても、男性の白くんはともかく、だれ一人として同じ形の制服コーデを選んでいなかった。
「見事に全員バラバラの制服コーデですね」
「まぁ、全員同じほうが制服っぽいかもしれないけど、これはこれで面白いですね」
「よし、じゃ、ライブいきましょう!」
 とみが号令をかける。あみがこのあと2連続なので、とみが全員ライブのセンターをすることにしたのだった。しかし、号令をかけたところで、
「あ、ちょっと待ってください」
 初音さんがストップをかける。
「私と八重はまだプリマジメイクしてないんですけど…」
「え?そうなの?」
 あみが驚く。
「初音さん、そのままでも十分に可愛いからそのままやると思ってました」
 れみも相槌を打つ。あみ達は中と外でメイクを変えていないが、そういえば、みるきやあまね様も別人みたいにメイクしてたっけ。
「たまには二人もそのままでいいんじゃない?」
 白くんが言う。
「途中でメイクするほうが変化で出て面白いかもね」
 あみが乗っかる。
「大丈夫かなぁ…」
 二人はやや心配そうだが、あみと白くんが問答無用で二人の背中を押す。
「ま、いいか」
 こうして、セッションライブが幕をあけた。

 2曲目はマナマナのしいろうさんとあみのデュオだ。
「しいろうさんがきゃろん型のマナマナ服なら、わたしはきゃろんちゃんの私服とお揃いのコーデにしようかな」
「いいよ。それでやろう!白くんみたいに楽しませてね」
「もちろん!楽しいデュオにしようね!」

 そして、曲が終わると、大急ぎでコーデチェンジだ。白くんとしいろうさんはお揃いで色違い。あみはひな先輩が着ていたコーデで、3人ともURコーデだ。
「ここで派手にいこう!」

 次はプリマジメイクした初音さんとれみのデュオだ。
「わぁ、初音さん、雰囲気変わりますね」
「ふふ、観客も楽しんでくれるといいんですけどね」
「コーデはプリマジの広告塔としてまつりさんが着ていたハートフェザーコーデの色違いライブ。中盤を二人で盛り上げましょう!」

 そして、次のフィナーレはとみと八重さんのネオンチャイナ合わせなのだが…
「ねぇ、急なんだけど、あみさんのチーム、ネオンチャイナで色違いとか出来ます?」
 八重さんがあみに訊く。
「ええ、3色持ってますけど」
「じゃ、フィナーレだし多人数ライブにしませんか?」
「いいですけど、大丈夫ですか?」
 そこで白くんが指摘する。
「でも、うちは八重だけしかコーデ持って来てないし、4人曲ってないよ」
「あ、そっか。どうしよう…」
 悩んでいると、突然、
「問題はない」
 そこにあうるが入ってきた。
「研究のために君たちのイベントを見ていた。ボクはネオンチャイナの限定カラーがあるから協力できる」
「おお!フィナーレにシークレットゲスト!これはすごいサプライズになるね!」

 そこに曲が終わってれみ達が戻ってきた。
「れみ、終わってすぐだけど、これに着替えて次もやるよ!」
「えっ?」
「フィナーレ、5人曲に変更するから」
「あ、そうなんですか?急いで着替えなくちゃですね」
「それで出来るって、れみさん、すごいね」
 驚く城くんに
「あ、あみと一緒にいたらこんなの毎度のことですからね」

 そして、すべての曲が終わった。
「じゃ、最後は各チームの代表であみと初音さん、挨拶MC、よろしくです」
 れみに押されて、あみは初音さんとステージに立った。
「今日はセッションライブイベント見てくれてありがと…」
 二人が声を揃えて言いかけると、客席から声がかかった。
「アンコール!アンコール!」
「えっ?」
 一瞬戸惑う初音さんに、あみが
「やっちゃう?」
「いいんですかね」
「もちろん!」
「あと、バタフライならありますけど」
「じゃ、わたしはお花のコーデがいいかな」
「よし、じゃ、アンコールデュオ」
「いっちゃおう!」
 二人はアンコールステージに立った。

 フェスはまだ終わらない。


今回のフォト
                       
今回のソロ・デュオ・チームユニット

チムム&れみ&ひな


とみ&八重さん/あみ&初音さん/れみ&白くん


初音さん&れみ


しいろうさん&あみ&白くん


しいろうさん&あみ


とみ/八重さん&あみ/あうる&れみ


初音さん&あみ


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