第9章 グランドフェス1・破滅の予兆

「あみ、フルアヘッドって知ってます?」
「カードショップだっけ」
「そこ主催の総選挙イベントがあるみたいですよ」
「ふむふむ。マイフォトを投稿して「いいね」をたくさん集めるイベントね」
「あみ、参加したらどうですか?」
「うん。結果は期待してないけど、参加することに意義があるからね」
 あみは他の人とかぶらないようにミックスコーデで応募してみた。
 そして、投票サイトを見る。別に何人にいいねをしても制限はない。
「あ、この人も出てるのか」
「このミックスかわいい!」
 あみはポンポンと「いいね」を送っている。
「敵に塩を送り続けてどうするんです?」
 れみが思わずつっこんだ。
「そろそろ、朝食を買いにコンビニに出かけますよ」
 そう。昨日れみはあみの部屋に泊まって、コンビニに買い出しに行くところだったのだ。

「あみ、これじゃないですか?」
 れみがコンビニのお菓子売り場の端にかかったキャンディなどの袋を指さす。そこには「カヌレット」と書かれたカヌレ型の一口サイズのお菓子がある。前にあみが探しに行って売ってなかったと話していたものだ。
「うん。でもね、ローソンには今本物のカヌレがあるってCMやってたからね」
 あみはそう言いつつカヌレットを買い物かごに入れる。
「あ、これもかわいい!」
「いちごショートケーキ型のグミですか。へぇ、8個並べるとホールケーキ型になるようですね」
「それで7個入りだったらメーカーの社長ぶん殴られるだろうね」
「殴りはしないでしょうけど、少なくとも8個以上は入っていそうですよ」
 そんな話をしつつ、そのグミも買い物かごに入る。
「さてさて」
 あみは冷蔵スイーツコーナーに行き、カヌレを2つ買い物かごに入れる」
「あ、結局大きいのも買うんですね」
「そのために今日はローソンにしたんだもん」
「今日は目の前のセブンに入らないからおかしいと思ったんですよ」
 そう言うれみの台詞が耳に入っていないかのように、あみが隣の棚を見ている。
「おはようございます!てるひさん」
「ああ、あみさんも買い物?」
 メシマジスタを標榜するプリマジスタのてるひさんがカップ焼きそばのコーナーにいた。
 あみはてるひさんにれみを紹介する。
「てるひさんもカップ焼きそば好きなんですか?」
「そうですね」
「聞いてくださいよ。あみったら、私が病気している時に差し入れで、二玉入りの大きなペヤングソース焼きそばを持って来て、「無限に広がる焼きそばの大海原を独り占め」とか言って置いて行くんですよ」
 てるひさんは笑って、
「面白い事言うなぁ」

 その会話が聞こえたのか、3人に声がかかる。
「おはようございます」
「あ、エルザさんだ」
 ちょうど近くに宿泊していたエルザさんがコンビニに来たのだった。
「エルザさんも朝ごはんの買い出しですか?」
「いえ、私はホテルの朝食バイキングで済ませてきました」
「朝食にしてはお菓子ばかりの気が…」
 てるひさんがあみの買い物かごを見て言う。
「あ、デザートを先に確保したんですよ!わたしはせっかくてるひさんに会ったし、ウインナー焼きそば作ろうかな」
「ウインナーをレンチンしてカップ焼きそばに載せるとゴージャスなんですよ!てるひさんに教えてもらったんです!それから、そこの角の自販機にゴジラのジュース売ってるから、それ飲んで体力つけようかなと」
「毎日それやると、むちゃくちゃ体に悪そうかも…」
 エルザさんは若干引き気味に言う。
「あ、ゴジラジュースって、缶にゴジラの絵のついたエナジードリンクですよ」
 れみが補足する。
「えっ?赤っぽいけどゴジラの果汁入ってないの?」
 あみがれみに訊く。
「当たり前です。怪獣育ててる牧場なんてありません。そもそも果汁って…ゴジラは果物じゃないですよ」
「あの…」
 あみとれみの漫才にてるひさんが、
「それなら、ハードチェック合わせでプリマジしません?アタシ、この前「ハードチェックは健康に良い」ってハッシュタグ見かけたし」
「いいですね」
 結局、4人は一旦最寄りのあみの部屋に行き、ウインナー焼きそば&カヌレの朝食を取ってからプリマジに行くことにした。
「あ、エルザさん、私の分少し分けましょう。私にはちょっと多いので」
 れみが朝食を済ませたエルザさんに言う。
「私も味見程度で十分ですけど…」

 4人がプリマジに着くと、配信用に使用するUSBを挿せるブースが使用中だった。USBが無いところを見ると、恐らくたまたま手前にあったからそこを使用しているのだろう。
  そしてちょうどライブを終えたプリマジスタが出てきた。彼女はすぐさまコーデブックを開いているので、もう一曲ということだろうか。
「あの、すみません」
 あみがそのプリマジスタに声をかける。
「はい?」
「USB使いたいので、差し支えなければブースを交代していただけませんか?」
「別にかまいませんが…」
「ありがとうございます!お礼といっては何ですが」
 あみは自分のフレンドカードを出して、
「これ、差し上げます!」
 すると、そのプリマジスタは、
「では、せっかくですから交換ということで。よろしくお願いします」
 フレンドカードをあみに手渡してくれた。
「あえんちゃです」
 あえんちゃさんはハードチェックのフレンドカードをあみにくれたのだった。
「あっ、ちょうど今からハードチェック合わせでライブやる予定だったんですけど、一緒にどうですか?」
「これも何かの縁ですし、参加させてもらいますね」
「ありがとうございます!」

 あみとれみは当初それぞれ色違いデュオを二曲と考えていたのだが、五人になったので一緒にライブ可能になった。
「私とあみだけ色違いですが」
「まぁ、それはそれでアクセントとして」
「それじゃ、最高に楽しいプリマジにしよう!」

 ライブを終えて。
「このかわいいメンバーと共演できてアタシは楽しかったよ」
 てるひさんが嬉しそうに言うと、エルザさんも
「私も仕事柄、全国津々浦々へ行くけど、各地でライブするのは楽しみです」
「あ、あなたも遠征中だったんですか?」
 あえんちゃさんの返しにあみが
「あえんちゃさんも遠征?」
「はい。四国方面からなので、この後は神戸観光でもしようかなと。どこかオススメはありますか?」
「そうですね…ハーバーランドにはプリズムストーンショップもあるけど、肝心のポートタワーは工事中だし…」
「えっ?そうなんですか。ポートタワー見たかったのに残念」
 れみが代案を出す。
「北野方面はどうでしょう?素敵な異人館がたくさんあって女の子に人気のスポットですよ」
「へぇ、それ、いいかも!そっち方面で考えてみます。貴重な情報をありがとうございました!」

 解散後。
「そういえば、本家デュオと専属プリマジスタと一緒にライブする企画、今、エンカンターレがやってるみたいですよ」
「そういえば、あとの2つはやったけど、先輩チームだけ、あの頃はなかったよね」
「ちょうど、色違いペアコーデあるし、やっていこうか」
「いいですが、どっちのパートでいくんですか?」
「たいていはれみが男装パートだから、今回は逆にしよう」
「じゃ、それでいきますか」
 幸い、企画は先客がいない時間帯だったので、すぐにライブ可能だった。
「よろしくお願いします」
「おっ、今回はれみと色違いじゃん?」
「あみさんは私と色違いですか。楽しいプリマジになりそうですね」
 先輩たちも喜んで受け入れてくれた。
 結果、ひな先輩、専属のカレンさん、れみが女性パート、あまね様、専属のなつめさん、あみが男装パートになった。
「すごくゴージャスなプリマジになりますね!」

 そのゴージャスなプリマジからの帰り道。あみがれみに訊く。
「明後日からのラブエレメンツフェス、本当に今回もわたしでいいの?」
「場数が違いますからね」
「前日から練習してってことで、明日もわたしはプリマジに行くよ」
「がんばって」
「そういえば、グランドフェスじゃないんだね」
「確かにそうですね」
「ま、いいか」
「確かに総選挙の結果見てもランキング圏外でしょうし」
「でも、思ったよりたくさん「いいね」ついたから嬉しい!」

 翌日。あみはその「いいね」を胸にプリマジに向かった。そこにいたプリマジスタがあみを見て、
「あれ?前にお会いしたことありません?私、みか♪です」
「あ、確か去年のクリスマスに…」
「あの頃は一緒にプリマジできないね、って話してましたよね」
「じゃ、リベンジしませんか」
「今、おとめマーガレットの限定カラー持ってるんですけど」
「あ、ドキュメンタリーアニメのブルーレイについてるやつ?」
「はい」
「わたし、プリマジ専門誌についてた黄色ならありますよ。黄色と紫だと色が補色だからいい感じになるかも!」
「色違いのお揃いライブ!楽しそうですね!」

 実はその時、あみとみか♪さんのプリマジをその場のモニターで以外な人物が見ていた。
 その人物は、ステージを終えて解散したあみを見かけるとあみを呼び止めた。
「さっき一緒にいた方はお知り合いですか?」
「たまにお会いする方です。お知り合いの方ですか?」
「いえ、ブルーレイで作品見てくれた方だって思ったもので」
「わたしも見てます…って、その声、まさか!」
「気付かれちゃいましたね」
「声優のみりんさんですか?」
 ドキュメンタリーアニメであうるの役をした人だ。
「この前、ミムラちゃんとプリマジしてました?」
「え、あ、はい!」
「あの配信にいた子に似てるなと思ってました」
「憶えてていただいて滅茶苦茶光栄です!」
「私ともプリマジしてみます?スペーストラベラーコーデなら持っていますよ」
「わたしも色違いのアースを持ってます。ぜひお願いします!」
 あみは、れみが羨ましがるだろうなと思いながらみりんさんとのデュオを楽しんだ。

 そして、フェス当日。
 最初の課題曲はデュオ曲で、今度はあうる本人とのデュオになる。
 あみは会場の前であうるに合流した。
「あみ、ついにラブエレメンツコーデフェスが始まったね」
「うん!待ちに待ったラブエレメンツコーデフェス!ワクワクするなー!」
「あみと二人でやるプリマジ、最高のステージにしよう」
「うん!あうるちゃんとのステージ楽しみ!」
「一緒にデータを超えたプリマジを目指そう。コーデはどうする?」
「スペーストラベラーはどうかな。あうるちゃんはノーマルでわたしがマーズとか」
「いいけど、どうして?」
「実は、声優のみりんさんとスペーストラベラー合わせしたから」
「そのプリマジとの比較は面白いデータがとれそうだ」

 そして、曲が終わると、普段のフェスであればコーデメイツではなく、エレメンツの紋章からプリマジカードが出るはずなのだが…
「あれ?なぜかここにあるんだぞ?」
 ドローンからカードを中継するはずのみゃむの手にいつの間にかラブエレメンツコーデのプリマジカードがある。
「ま、いいか。プリマジカード、えいっ!」
 みゃむはあみにカードをパスした。

一曲目をこなした後で中継が入った。
「ジェニファーがサンシャインエレメンツコーデを着てプリマジする。ボクはその関係で会社に戻る」
「今日はありがとう!あうるちゃん。気を付けてね」

「あみ」
 れみが向こうから駆けてくる。
「まず一曲目クリアですね」
「応援に来てくれてたんだ」
「そりゃパートナーですしね」
「もうすぐジェニファーのプリマジ始まるよ」

 二人は中継を見ていた。サンシャインエレメンツコーデのジェニファーが剣舞を舞っている。
「やっぱり迫力が違うね」
「ですね…でも、なんだか様子が変じゃありませんか?」
「そうかな…って、何あれ?」
 突然サンシャインエレメンツが現れ、ジェニファーに同化する。そして、ジェニファーのエレメンツコーデの色が変化する。
「前に見かけたヘブンズコーデみたいな色になった?」
「ジェニファーが何か言ってますね…悲しみを消し去るって聞こえました」
「どういう事だろ?」

 突然、ジェニファーの持つ光の件の刃が光の矢になって貴賓席の方へ飛んだ。
「誰かに当たったよ」
「オメガ社の社長さんじゃないですか?」
「あうるちゃんのお父さんだっけ?大変だ!」

 しかし、大変なのはそれだけではなかった。
「あれ?コーデブックが?」
 コーデブックから光の奔流のようなものがジェニファーのいる方に流れていく。
「え?」
 そして、二人の服がピンクの初期服に戻った。
「あれ?ファッションランウェイの入り口じゃないよね、ここ」
「なのにコーデが初期化されましたね」
 ふたりはコーデブックを見て愕然となった。

 コーデのプリマジカードがことごとくブランクカードになっていた。ほんの数枚を除いて。
(続く)


今回のフォト
                  
今回のゲスト

ジェニファー


今回のデュオ・チームユニット

れみ/あみ&あえんちゃさん/にじのエルザさん&てるひさん


れみ&あみ/カレンさん&ひな/なつめさん&あまね


みか♪さん&あみ


みりんさん&あみ


あうる&あみ


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