序章 旅立ち
れみはエンジンを止めた。
「無事、到着です」
「おつかれー!」
助手席であみがねぎらう。今二人の乗ったレンタカーは伊勢シーパラダイスの駐車場に停車した。
話は数日前に遡る。
あみは事務所引っ越しに伴い、プリマジスタとしての活動は休止状態になり、本気で引退を考えていた時に、れみから旅行の誘いを受けたのだ。
「ゴールデンウィークに旅行に行きませんか」
「どこに?」
「伊勢志摩方面に行こうと思うんですけど。テレビでセイウチのショー見て、すごくかわいかったんです」
「んー、別にゴールデンウイーク、やることないし、いいよ」
「良かったです」
「で、どんな行程にする?」
「まずはメインの水族館でセイウチ見て、英虞湾の観光船に乗るのはどうですか?養殖真珠の見学もできるみたいですよ」
「楽しそう!晴れるといいね」
旅の当日。
「れみ、髪伸びたね」
「あみもおだんごじゃなくて髪下ろしたんですね」
「ははは、二人とも変わったね」
「レンタカーの運転が私ってところは変わりませんが」
そう。れみは運転免許を持っているのだ。
「出発しましょうか」
そんなこんなで目的地の水族館に着いた二人。しかし、その時二人は全く正反対の事を考えていた。あみはれみに引退を相談したいと思い、れみはプリマジをやってみたいと相談しようと思っていた。ただ、いつ切り出すかのタイミングが掴めず、とりあえず今は楽しむことにしていた。
クマノミの水槽の真ん中の所に子供が入って、クマノミと一緒に写真を撮っている親子の横を通り過ぎ、
「ねぇ、あみ」
「どうした?」
「ん…えっと…あ、あっちでチンアナゴの餌やり体験やってるみたいですよ」
れみは切り出しかけたものの、つい話をそらしてしまった。
二人はチンアナゴの水槽の横に立った。スポイトで餌を上から落とすと、砂から顔を出していたチンアナゴがにゅっと出てきて餌を食べると、また引っ込んで顔だけ出している。
「ふふ、かわいいね」
「右の子、ちょっと遠くでもすぐに餌に飛びつきますね。食欲旺盛であみみたいです」
「れみだって結構食べるくせに」
「そういえば、入ってすぐのところに伊勢うどんのお店がありましたね。昼食はそこにしましょうか」
「だね。セイウチのショー見たらすぐにランチだね。向かいの土産物屋さんで赤福餅も買わないと」
「うわ、大きなキバだね」
セイウチのショーはすごく間近で見ることができる。二頭のセイウチが「大きな栗の木の下で」に合わせて手拍子したり、ショーはすごく盛り上がった。
二人はその後、伊勢うどんを食べて、赤福餅を買い、水族館の反対側の海沿いの遊歩道に来た。
「食後の運動に少し歩きませんか」
「うん」
暫く歩くと、カエルの石像がいくつか並んだ所に来た、その場所から海を見ると、二つの岩がしめ縄で結ばれている。
「夫婦岩…」
「私たちもプリパラ、プリチャンの世界では、この岩みたいにパートナーでしたね」
「そうだね…」
この岩を見ていると、あみは心の中で何かが衝き動かされるのを感じた。これまで同床異夢のような気持ちでの旅路だったはずが、そうではなくなっていく。
それから約二時間後。二人は観光船の甲板にいた。海賊船を模したもので、海賊の人形が立っている。その前に行くと船の先頭だ。下を見ると女神像が見える。
潮風を受ける二人の前を一羽のカモメが翔んだ。それに合わせて二人の言葉が重なった。
「あみ」
「れみ」
「二人で一緒にプリマジしよう!」
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