第4章 先輩〜不具合

「うーむ…」
 あみは手元にあるコーデリストを見ながら考えていた。
「フルコーデ揃ったものは残り少ないなぁ…」

 そこで、レアリティの低い私服系を中心に、色々ミックスコーデを考えていた。
 ちょうど、みゃむが遊びに来ていたので相談もできる。
「これなんかかっこいいかも…でも、ちょっと地味すぎるかな?」
「じゃ、シューズをステージ系にしたら飾りがつくからいいんじゃないか?」
「なるほどね…」
「この組み合わせはそのままでいい感じだと思うぞ」
「そう?じゃ、これ決定ね」
 これはこれで結構楽しい作業だ。結局4種類のミックスコーデが完成した。

 こうして、暫くはミックスコーデを楽しんでいたのだが、あみはその日は久しぶりに揃ったコーデを用意して出かけた。
「んふ、んふ、んっふっふ♪」
 鼻唄を歌いながらいつもの道を歩くと噴水広場に出る。そこにいる人物とあみは目が合った。
「あの…陽比野まつりさん…ですか?」
「はい…あ、あなた、もしかして」
「はい。みゃむちゃんにお世話になっているあみです」
「あの子、私がプリマジするって決心するまでに、色々声かけまくってたとは聞いていたんだけどね」
「ははは…それで誘いに乗ったクチだから、同期だね」
「そうだね。これからもよろしくね。あ、そうそう。これ食べる?」
 まつりは猫の形をした飴を取り出してあみに渡した。
「わぁ、かわいい!食べるの勿体ないね」
「そのにゃんこ飴、うちで飴職人の修行してる幼馴染が作ったものなの。食べてあげてね」
「そうなんだ。もちろん!おいしくいただきますね」
 二人の会話を聞いていた、噴水脇に座っていた人物が会話に入るべく立ち上がった。
 あみは、この人物がさっきまで見ていた雑誌に載っていた人物だと気付くまで、少し時間がかかってしまった。
「あ、雑誌で見かけた、プリマジスタの…」
「弥生ひな」
「ひな先輩は去年の大会で準優勝した凄い先輩だから、トレーニングのアドバイスを聞いていたんだ」
「えっ?わたしも聞いていいですか?」
「もちろん!でも、最後に勝つのは弥生ひなっしょ」
 凄い自信だが、それを納得させるだけの風格がある。
「そういえば」
「何でしょう、先輩?」
「あみをどこかで見た気がしてたんだけど、思い出した」
「えっ?」
「この論評じゃん」
 ひながスマホで見せてくれた所に、漆黒の明星というハンドルネームの人がプリマジステージの論評を書いている。
「なんか、忍者みたいな言葉遣いなんですけど…」
 しかし、その論評は的確だ。その漆黒の明星さんがあみのプリマジについてもコメントを書いてくれていた。
「なになに、今のところ、まだ目立った活躍はないが、ステージを楽しんでいるのがひしひしと伝わるでござる。拙者としてもこれからが楽しみでござるよ、だって」
「がんばらなきゃじゃん、あみ」
 ひなはそう言ってウインクした。

 あみはその後ステージを二曲こなしたのだが、いつも以上に気合が入るのを感じた。
 初めは飴のカロリー消費で2曲のつもりが、それ以上に熱い何かがあみの中に宿っていた。

 その数日後。
 あみはプリマジに行くのとは違う道を通っていて、店先のガチャを見た。
「あっ、キン消し、まだ続いてたんだ…」
 以前、プリチャン仲間のれみ達と東京でロングホーントレインのバッファローマン、モンゴルマンのセットとザ・ニンジャを出したっけ。
「れみはレオパルドンが好きだったな…」
 と言いながらよく見ると、当時話題にしたノーズフェンシングでマンモスマンにノックアウトされるレオパルドンがラインナップされていた。
「出るまで回して、久しぶりにれみに写真送ろうかな…」
 ケビンマスク、プリズマンを経て、目当てのノーズフェンシングが出た。
 あみはなんとなく、キン消しをネット検索してみたら…
「キメ消し?ああ、鬼滅の刃の消しゴム人形も出てるのか…ローソン限定?」
 あみはさっそくローソンに行ってみたが売っていなかった。
「ローソンで先行販売…あ、これ、二か月以上前の記事だ…今は他にも売っている店あるのか」
 あみは近くのHMVに行ってみた。アパレルショップの上の階なので盲点なのか、ここでは売り切れずにキメ消しが売られていた。
「伊之助とかは出なかったけど、炭次郎と禰豆子と胡蝶さんと富岡さん…まぁまぁいい引きかな」

 寄り道を終えて、そろそろプリマジに行くことにする。
「うーん、今日は何を着ようかな…」
 あみはコーデのカードを並べながら考えていた。
 そして、ふと気付く。
「ネオンチェッカー、組み合わせを変えたら、キン消しみたいにピンク一色になるな…」
 単色の消しゴム人形ばかり見たせいで、あみの思考回路は単色モードになっていた。
 街角ランウェイでピンク一色にしてみたのだが、いざ、ステージに立つ前のコーデチェンジをしようとすると…
「あれ?」
 トップスがカードを入れても反応しない。そして、そのままステージが始まってしまった。

 しかし、災難はそれだけではなかった。ステージが終わっても、コーデカードが出てこない。
「ワッチャが集まらなかったのかな?」
 すると、タントちゃん達が慌てた様子で舞台袖に集まり、壁にある蓋を開けて中にあるユニットを取り出した。
「インクリボン切れね」
「交換しなくちゃ」
「カード読み取りのセンサーカメラの感度もチェックしないとね」

 暫くすると、タントちゃんがカードを持ってきてくれた。
「ごめんね。お待たせしました」

 結局、トラブル対応のため、次にライブしようとしているプリマジスタのコを待たせる結果になってしまった。
「すみません。お待たせしてしまって」
「いえ、でも災難でしたね」
 初めて会うコなのに、なぜかどこかで会ったような気がする。あみはつい話を続ける。
「ワッペンパーカー、かわいいですよね。でも、雑誌の着こなしにあったニット帽持ってなくて」
「私も自分流のアレンジですけどね。ちょっと着せられてる感あるかも…」
「でも、似合ってますよ」
「ありがとう。えっと…」
「あ、わたし、あみっていいます」
「にぱです。お互いがんばりましょうね」
「はい。またお会いした時はよろしくです」

 にぱさんはそのままステージに向かった。
 あみはそのステージをモニターで見ながら、
「今日はトラブルに見舞われたけど、そのおかげでにぱさんと知り合えたし、結果オーライかな」
 そう呟くのだった。


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今回のゲストさん

まつり


ひな


にぱさん


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