序章 追憶〜違和感

 神奈川県某所。
 あみは仲間のゆうき、れみと共にこの世界へ転送されてきた。
 かつて、三人を含めたあみの仲間たちは何らかのトラブルによりこの世界に飛ばされ、ここで知り合った新たな仲間と共にプリ☆チャンでライブを配信していた。

 この世界では多くのアイドルが自分たちのライブを配信していて、あみたちのチャンネルは、しばしば他のチームからゲストを招いてにぎやかにライブを配信していた。
 そんな折、とうかさんというプリ☆チャンアイドルが「プリ☆チャン思い出係」を立ち上げ、思い出に残る大人数ライブメドレーを配信するので、参加者を募集するという情報がタイムラインで流れてきたのだった。
「面白そうな企画があるね」
「でも、参加者多数のため、チームからのエントリーは三人までに変更させていただきますとありますね」
「うーん、ウチは12人いるし、今ここにいる3人で応募してみようか」

 しかし、参加OKの返事が届いた直後、世界のバグが修正され、あみたちは一旦元の世界に戻ったのだが、フォロチケの絆の力で、なんとかこの世界に再来したのだった。
「えっと、会場は…」
 会場を探していると、以前ゲストで参加してもらったあつさんがいた。
「あつさん、お久しぶりです」
「あみさんもとうかさんの企画に?」
「ええ」
「会場はこの道をまっすぐですよ。私はちょっと寄るところがあるので、また後ほど」
「ありがとうございました」

 あみたちが会場に着くと、たくさんの参加者が来ていた。
「あれ?あみさん?」
「むさのまるさん!お久しぶり」
「最近は沖縄で活動してたからね。まさか神奈川で会うなんてびっくりですよ」
「へえ、沖縄に。まぁ、今日は楽しみましょうね」
「そうですね」

 さすがに、知り合いはなかなか見つからない。と、人込みの中にひなさんを見つけた。
 ひなさんもチームで参加のようだ。ジョイントライブで見かけたメンバーもいる。
「こんなちは」
「あ、こんにちは」
「しかし、参加者多いですね」
「多くの人と繋がることができて、プリ☆チャンやってて良かったなって思いますよ」
「ですよね」
 そんな話をしていると、かなと似た髪型のコが手にカゴを下げて近づいて来た。
「私はとうか達と思い出係やってるあもっていいます。今日のプログラムをどうぞ」
 あみたちはあもさんからプログラムを受け取った。
「ひなさん達は前半ですね…わたし達は…最後の曲だ!」
「フィナーレですね!がんばってくださいね」

 そして、メドレーライブが始まった。だんだん出番が近づいてくる。
「よろしくお願いしますね」
 さすがにフィナーレのセンターは主催者のとうかさん本人だった。

 ライブの楽しいひととき…ずっと続いてほしいような時間…

 その曲に混ざってあみの耳に入ってきたのは…

 ピピピ、ピピピ、ピピピピピピピピ…

 目覚まし時計の音だった。

「ん、んん。またあの時の夢見てたみたい…」
 あみは先日、ライブ大会のあと、配信を見る前に元の世界に戻ってきてしまったせいで、時々、当日のことを夢に見るのだった。

「えっと、今日はプリズムストーンでプリパラアイドルのゆいちゃんが炊飯器のタッキーと疑似結婚式を挙げるイベントのライブビューイングがあるんだよね」
 あみは鏡の前で、髪をトレードマークのおだんごツインにまとめながら、
「ゆうきもれみも今日は来れないんだよね。残念」
 などと言いながら、支度をして出かけていった。

 その一部始終を見ていた者がいた。
「あのチュッピ、かなりのマジを持ってそうだぞ。恩を売っておくのも悪くないぞ」
 猫っぽい少女だ。
「この天才みゃむ様に不可能はないんだぞ」

 さて、あみは三宮駅から近くビルの3階へ上がって行った。ここにプリズムストーンの神戸店がある。
「着いたけど…店員のめが姉ぇさんの姿が見えないな…」
 ライブビューイングの用意でもしているのか、めが姉ぇさんがいない。

「あ、あみちゃん?」
 どこからか、プリチャンアイドルのみらいの声が聞こえた。
「みらいさん?」
「今は、声しか届けられないけど、私、すべての世界からめが姉ぇさんが消えたから、色々な世界を回っているんだ」
「そうなんだ。それで、めが姉ぇさんがいないんだね」

 突然、あみは軽い眩暈に襲われた。ほんの一瞬のような気がする。
「あれ?」
 みらいの声はもう聞こえない。そして、店のレジにはめが姉ぇさんがいる。
「事件は解決したみたいね。さっきの眩暈はそのせいかな…」

 ふと、あみは気が付いた。わたし、何しに来たんだっけ?
 あみは店頭に貼られているポスターを見た。プリマジスタのジェニファーのポスターだ。
「プリマジってのが始まるんだよね。ま、わたしには関係ないか…」
 あみはそのままプリズムストーンを出た。そして、向かいの電気屋を抜けて、エレベータの下ボタンを押し、エレベータが6階に上がってくるのを待った。

 エレベータを降りると、クレープ屋からいい匂いが流れてきた。
「おいしそうだけど、明日、健康診断の再検査だから我慢我慢」
 あみは名残惜しそうにクレープ屋の前を通り、地下鉄海岸線のハーバーランド駅に向かった。
 駅の手前にお手洗いがある。あみは鏡の前で下ろしたストレートのロングヘアが跳ねていないか確認しながら、ふと思い出した。

 朝、おだんごヘアで三宮に向かった記憶がある。でも、普通にハーバーランドに来ている記憶がある。そもそもあの髪型で異世界に行ったのは5年前のはずなのに、先週まで異世界にいた記憶がある。

「一体、わたしの頭の中はどうなってるの?」

 あみはとりあえず自宅に戻った。幸い自宅に変化はない。しかし、パソコンを開くと…
「どういうこと?」
 とうかさん達の5年前の動画がアップされている。そして、次の動画はあみの後輩のまいとかなが出ている動画だ。
「デビュー5周年を記念して、駆け出しの頃先輩たちと踊った曲を二人で踊ります!」
 二人にあったのは先月のような気がするが、二人は5年目のトップクラスのデュオになっいてる。

 あみは水でも飲んで落ち着こうとした時に、出会ってしまった。魔法使いに。


今回のフォト
 
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