第3章 スプリングツアー

 心地よく走る車の助手席の窓から景色を見ていたあみがスマホのカメラを車外に向けた。
「何か撮ったんですか?」
 運転席かられみが問いかける。れみは昔からのあみの親友で、一緒にプリマジスタのユニットを組んで、こうして時々一緒に長距離のドライブをしている。
「うん。桃太郎みたいなキャラの梅干しの広告が見えたから、グーグルレンズでキャラの名前調べようかなって」
「いよいよ目的地に近づいてきましたからね。梅干しの看板はあるでしょうね」
「だね。うーん、画像検索、ヒットしないか…絵本の桃太郎とかが出てくる」
「紀州南光梅とかで検索したらどうですか?」
「あ、画像ヒットした!梅太郎だって」

 そもそも、二人はなぜ和歌山県をドライブしているかというと…
 数日前、あみはれみから久しぶりの電話を受けた。
「お久しぶりです。次の休みに遊びにでも行きませんか」
「いいね。どこ行く?」
「久しぶりにドライブでもしますか?」
「ドライブ…あ、じゃ、和歌山方面はどう?」
「なぜに和歌山…」
「ほら、前に四国行った時、お土産に瀬戸内オリーブうどんって買ったでしょ」
「ああ、あの黄緑色のうどんですね。意外とおいしかったです」
「この前、ネットで和歌山の梅うどんっての見たんだ。ピンクのうどん!」
「確かにおいしそうではありますが…あみって、もしかして」
「え、何?」
「子供の頃、ひやむぎ食べる時、ピンクや黄緑の麺を必死で探したりしてたんじゃないですか?」
「今でもやってるよ?て言うか、それで興味持ったのかも…」

 そんな理由で旅立ったので、目的地は土産物屋や道の駅ということになる。
「あっ、近くに道の駅「イノブータンランド」ってのがあるみたい!」
「面白そうですね。寄ってみましょう」
 そして、到着したのだが…
「えっと…」
「ここで間違いないですよね…」
 イノブータン王国という看板はあるものの、この日は休業中の移住案内所と休憩室、自動販売機があるだけだった。
 二人は自販機でジュースを買って休憩所で座って飲んだ。
「イノブータン王国、どうなったのかな」
「調べてみましょう」
「どう?」
「イノブタのレース大会やイノブタを使った料理を食べられるお店は近くにあるみたいですが…あと、少し先の道向かいにイノブータン大王像がありますね」
「後で行ってみようか。折角だし」
「あ、全然関係ないですけど、この隣の記事」
「ん?」
「芸能動画ニュースですけど、最近、このアイプリバース絡みのが多いですね」
 あみはギクッとした。実はアイプリデビューしたんだけど、まだバズリウムチェンジも出来ていない。れみには話せないか…
まだ当面は「ひみつのアイプリ」でいよう。
「…そ、そだねー」
「この人、確か、ルビーラズリってトップデュオの人ですね」
「そんな人いたんだ…」
 上には上がいるのだなぁ。
 赤髪のラスボスのような佇まいのアイプリが語りかけている。
「今度、アイプリバースでスプリングツアーイベントが開催される。皆の参加を待っている!」
 イベント…わたし等の実力では…などとあみが考えていると…
「大切なのは技術じゃない。全力で楽しむことだ!」
 そう言われると、なんとなく参加してみようかなという気にもなるな…
「あみ?何か考え事ですか?」
「え?あ、うん。イノブータン大王像ってどんなのかなって…」
 慌てて取り繕う。
「そうですね。近くですし行ってみましょう」

「…えっと」
「ここのはずですが」
 着いた場所は周りに草の生えた空き地で、車を一旦停めるようなスペースだった。
「あ、あれだ!」
 空き地の海側の端に釣り竿を持ったイノブータン大王の石像があった。
「かわいい!」
「確かにかわいいですが、大王様に対していささか失礼ですよ」
「台座に救命胴衣の正しい着用の啓発文が載ってるね。きっと国民を守る優しい王様なんだろうね」
「そうかもしれませんね」
「そうなると、イノブタ料理も気になるね」
「なんでこの流れで食べる方へ話が行くんですか!」
「とはいえ、案内所も休みだったし、やはり今回の旅は梅うどんだね」
「せっかくだから大王像と写真でも撮りましょうか」
「だね。でも、二人で自撮りだと、釣り竿が長すぎて全部は入らないね」
「大王の身長より長い竿ですからね」

 その後、二人は旅の帰りに立ち寄ったここの隣の道の駅で等身大の色付きのイノブータン大王、王妃の間に座れるフォトスポットを見つけることになったのだが。

 そんな旅で買い込んできた梅うどんを食べて、あみは立ち上がった。
「スプリングツアー、参加してみようかな」

 あみはバースインし、最近気に入っているハッピーチアコーデにコーデチェンジした。
 アイムゥについて行くと、いつもの広場ではなくツアー広場に到着した。広場にいるアイプリ達は皆ツアーTシャツとツアー限定アクセを付けている。

「いらっしゃい」
 声の方を見ると…
「えっ?ルビーラズリの人!」
「私はサクラ。よろしく」
「わたしはあみです。よろしくお願いします!」
 いきなりラスボス級の人物に声をかけられ驚いていると、
「ツアーアイテムのコーデはルーレットで手に入る。私とライブしてみるか?」
「えっ?いいんですか?」
「君と私はアイプリが好きな友達同士だ。思い切り楽しもう」
 うーん、人格者だ。あみはサクラとライブし、限定アクセを手に入れた。

「あれ?あみちゃん来てたんだ」
「みつきちゃん?」
「一緒にライブしようか」
「お願いします!」


 こうして、ツアーアイテムを手に入れたのだが、さっそく着てみたいのが人情というもの。
「バースインし直して着替えてくるね」
「うん。待ってる」

 あみが着替えて戻ってくると、ひまりも来ていた。
「じゃ、みんなでツアーを楽しもう!」



「楽しいね!私、今、最高にスマイルしてるかも!」
 そう言って微笑むひまりを見て、自分たちまで思わずスマイルするあみ達だった。



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