第41章 ホワイトデー。ライブではなくドライブ?

 その日。あいはあみの寮に遊びに来ていた。れみが買い出しに行っている間に訪ねてきたのだ。
「この前、ニコチケで色違いコーデを着て連続ライブしてたよね」
「うん。あいは用事あって来れなかったんだよね」
「穴埋めってわけじゃないけど、今年のバレンタイン新色、やっと揃ったんだ」
「ははは、ギリギリ、ホワイトデーに間に合った感じだね」
「まぁ、水色だったり、ニーハイが白かったり、ホワイトデーでも良さそうだけどね」
「へぇ、二人でホワイトデーにペアライブですか」
 いつの間にか帰ってきたれみが言う。
「実はね…」
 あみが切り出す。
「ホワイトデー、友チョコのお返しとは別に、誕生日のお返しに、あいに新しい会員証をプレゼントしようと思ってたんだ」
「え?」
「わたしたち五人の会員証はわたしがデザインした服で作ったから、あいにもわたしのデザインした服で気に入ったの着てほしいんだ」
「そうなんだ」
「で、そのために、六人でドライブしようと、レンタカーとか手配してたんですよ」
 れみは夕飯の材料を買いに行ったわけではなかった。
「なんでレンタカー?」
「あい、ホワイトデーは誕生日でもあるよね」
「あ、知ってたんだ…」
「うん。もちろん、ペアライブもやろうね。今日前撮りして当日配信でもいいし」

 そして、3月14日。寮の前には7人まで乗れるレンタカーが停まっている。
「さて、ホワイトデーペアライブの送信も確認したし、さっそく出発しよう」
「それにしても、朝早いよね」
「運転するれみは夕べは九時に寝たけどね」

 神戸を出て車はバイパスを明石、加古川、高砂と進む。高砂で宝殿の岩山を見て、
「昔ここでゲストさんとジュエルコーデでライブしたっけ」
「くるみさんだったっけ」
「我は別会場で同時配信だったから、くるみさんに会ったことはないのである」
 車はジャンクションから播但道に入る。
「そういえば、どこに行くんだっけ?」
「ふふふ。ミステリーツアーです」

 途中、サービスエリアで休憩を取りながら車はどんどん進み八鹿氷ノ山インターで高速を降りた。
 しばらく行くと道の駅があり、養父市観光案内書の隣に食事処がある。
「地元の豚のカツカレーとかおいしそう」
「山椒も名物みたいね」
「とりあえず、ここでお昼にしましょう」

 昼食を終えて国道9号を暫く走る。到着したのは湯村温泉だ。
 川の近くに夢千代日記の銅像が建っており、その下の河原には足湯がある。
「足湯していこうよ」
 ゆみがそう言うと、ゆうきが
「ちょっとお待ち」
 と首根っこをつかむ。
「ぐえっ…それ、あみ直伝のやつ…」
「足湯の前に、そこの売店で玉子買わなくちゃ」
 ゆうきはひも付きの網に入った玉子を買ってきた。そして、それを店の前の源泉に浸ける。
 ひもを淵の釘にひっかければ、網に入った玉子が源泉にちょうど浸かるのだ。
「10分後に引き揚げたらゆで玉子になってるよ」
「なるほどね。足湯のあとに食べるんだね」
「数が割り切れないけど、誕生日だし、あいは二つ食べてね」
「ありがとう」
「じゃ、足湯行こう」

「そういえば、足湯はいいけど、ライブは?」
 思い出したようにあいが言う。
「このへんには配信スタジオないだろうな…」
「近くに牧場公園があるから、牛は見れるだろうけど…」
「あ、そろそろゆで玉子!」
「引き揚げないとね」

「へぇ。温泉玉子なのに固ゆでなんだね」
「でも、ホクホクですごく美味しい!」

 玉子を食べた一同、話に出た牧場公園に行ってみたのだが…
 駐車場を出ると風車が見える。そこに資料館がある。
「ねぇ、あのテーブル!」
「ステーキの形!」
 由緒ある但馬牛の資料よりもステーキ型テーブルで盛り上がるあたり、らしいというか…
「奥のふれあいコーナーに羊やヤギがいるよ」
「あれ?牛は?」
「そういえば…」
「駐車場の反対側から出た坂の上にいるみたいですね」

「うわー、近くで見ると大きいね」
 あいはそう言いながら、牛の頭を撫でる。牛はうれしそうにしている。
 まみだけは少し離れて見ている。
「まみ、牛さん、こわくないよ?」
「いや、こわいわけでは…、いや、ちょっと…」
「大丈夫。そーっと近づいて、角の間を撫でてあげたら」
「…本当。おとなしいね」
 まみはちょっとビクビクとしながらも牛と触れ合った。

「さて、そろそろ出発するよ」

 車は再び高速に入り、来た道を戻るが、今度は福崎で降りた。
 暫く行ったところの駐車場に車を停める。
「どうしたの?ここに配信スタジオがあるの?」
「いや、ないけど、そこのベンチ見てください」
「え?何あれ?」
 ベンチの片側に油すましが座っている。
 そして、その奥に公園があり、妖怪の像がいくつか並んでいる。
 一同が公園に入ると、最初に池がある。

 ゴボッ。

 水面に泡が出た。
「なになに?」
 すると、池から真っ赤な河童が出てきた。
「きゃっ!びっくりしたぁ…」
「しかし、リアルな河童だね…」
 今度は、池の向こうの小屋から、逆さ吊りの天狗が出てきた。なぜかどら焼きを持っている。
「あみと一緒で食いしん坊の天狗さんですね」
「なんでわたしが…」

 一同は駅まで散歩することにした。油すましのようなベンチが随所にあるらしい。
 道を渡ると座敷童の寝ているベンチがあり、しばらく行った観光案内書の前にはさっきの河童と将棋ができるベンチや、ベンチに座った雪女の前で氷漬けになれる顔出しオブジェがあり、交代しながら面白画像を撮った。
 その後も、店の前に海坊主がいるベンチがあった。
「これ、かわいい。横にタコさんもいる!」
 その後も、
「スマホで自撮りしてる鬼だ!」
 デートパシャっとのシーンを再現してみたり、
「わぁ、猫またの女の子、なんかカワイイ!」
「ノートパソコンで仕事してる天狗さん…あれ?画面は将棋だ?」
「さっきの河童といい、将棋流行ってるのかな?」
 と、JR福崎駅に着いた。

 駅前に水の入った大きな円柱がある。
 時々上がる水泡を小さな子が見ている。
「何かな、あれ?」
 一同が近づいた時だった。
 池にいた赤い河童が「ようこそ」の札を持って浮き上がってきた。
「ぎゃっ!」
 一番前にいたあいが思わず叫んだ。
 さっきの小さな子は驚いて泣きながら親の所へ走っていった。
「あたしらでもびっくりしたよ。そら子供泣くわ」
「でも、まぁ面白かったね」
「そろそろ、遅くなるし、車に戻るか」
「だね。でないと配信スタジオ閉まっちゃうね」

 一同、神戸に戻った時はもう夕方と呼ぶにも遅い時間だった。
「でも、間に合った」
「あれだけ車で遠出して、ライブはいつもの所なんだ…」
「一応、春の旅行ってことでチューリップコーデも用意したんだけど」
「じゃ、会員証用とチューリップの二本立てで行こう」
「本気で盛りだくさんだなぁ…」

「ね、あい」
「ん、すごく楽しい誕生日になったよ。ありがとう」
「良かった。でも、わたしたち、まだあいに言ってないことがあるんだ」
「え?何?」

「お誕生日、おめでとう!」


今回のライブシーン
                     
前へ表紙へ次へ