第18章 新ユニット誕生!?だパン

 休憩室は一瞬緊張が走ったように静まり返った。
「えっと、私…ですか?」
 女の子に名指しされたれみ本人が沈黙をやぶる。
「どの曲でどの衣装でライブでしょうか?」

「え?」
 逆に女の子のほうがポカンとする。
「あの、普通、他のメンバーに相談とか葛藤しない?いきなりライブの中身の話って…」

「葛藤?なんで?あたしら、特にあみなんてうちよそユニットしょっちゅうしてるし」
「我など、5チームのメンバー連合軍で大会出たのである」
 ゆみもまみも平然としている。

 女の子は部活もののドラマとかで引き抜きを持ち掛けられて仲間との絆との葛藤みたいなのを想像していたようだが、ここではそんなものは存在しない。

「あれ?なんであいがここに?」

 突然、ゆうきが部屋に入ってきた。

「なんだ、ゆうきの知り合い?だったら最初に言ってよ、えっと…」
 あみが話しかけようとするが、よく考えたら名前を聞いていなかった。
「あ、申し遅れました。アタシ、あいと申します」

「だから、なんでアンタがここに?」
 ゆうきが改めてあいに聞く。
「4-Miさんの配信を見て、アタシたちのチームの持続可能な開発目標の達成にはれみさんの加入があればと思ってスカウトに…」
 それを聞いて全員が爆笑する。
「え?え?」
「あい」
 ゆうきが諭すようにあいの肩に手を置く。
「あたしとれみと、そしてあみの三人はもともとユニット組んでるんだよ」
「え、ええええぇぇぇぇぇーっ?」
「ましてや、リーダーのあみは4つのユニット掛け持ちしているし。スカウト合戦で喧嘩売る相手間違ってるよ」
「え?勝負?」
 あみはピンときていない。
「あたし、あいとディアクラウンでユニット組んで活動始めたんだけど、れみをスカウトしようとしたわけだよね」
「そうだね」
「ということは、れあみゅーずのあみの代わりにあいがいるユニットを作ろうとしたわけじゃない」
「なるほど。単なるれみへのライブのお誘いくらいに思ってた」
「でも、あいちゃん、あみと似た者同士かもしれませんね。ライブユニット作りに突っ走るところとか」
 れみが微笑みながら言う。
「それだけじゃないよ。チャーハン大盛のおかずに焼きビーフン大盛頼むところとかもね」
 付け足すゆうきにあみが、
「ちょっとお待ち!そこは聞き捨てならないよ」
「え?してなかったっけ?」
「だって、チャーハンと焼きビーフンはコメがそのままか麺かだけで味は同じじゃん。わたしはおかずには天津飯大盛を頼んだんだよ」
「結局炭水化物の大盛は頼むんだ…」
 つっこみかけたゆみに重ねてあいが反論する。
「え?それだとご飯とご飯だから変だよ。焼きビーフンならうどんとお稲荷のセットみたいだし」
 あいが反論するのを聞いてゆみが言った。
「まさか、ここまであみの同類みたいなコがいるとは…」

 反論を聞いても特に喧嘩になるわけではなく、あみは話題を変える。
「でも、ちょうど良かったよ」
「えっと、何がでしょう…?」
「DDTのメンバーが今いないから、6人ライブあまり出来てないんだよね」
「はあ…」
「今から試しに6人で一旦お試しライブしよう」
「え?コーデは?」
「そのまま表に出てやるから大丈夫」

 そして、そのままの勢いでいきなりライブとなった。

「うん」
「さすが、ゆうきの相方。ぴったり私たちに合わせてますね」
「これはウチの期待のホープかな」
「うむ。歓迎するのである」
 みんなの評価は上々だ。
「じゃ、これやってみたかったんだ」
 あみがニコチケを出す。制服風コーデだ。
「アイドルユニットみたいな制服6人ライブ」
「ディアクラウンの二人は色違いもいいかも」
「あ、確かに色違いのほうがあいに似合いそう。それでいい?」
「え、あ、はい」
「それと、プリパラのドレスも6色あったから、それもできるかも」
「いいねいいね。二曲続けてやっちゃおうか。色はどうする?」
「シャッフルして…」
 あみはワンピのプリチケ六枚を切る。
「引いた色で決まり!」

 気が付くと、六人で三曲も配信している。
「もしかして、アタシ、スカウトに来たつもりが逆にスカウトされてる?」
「うん。あいはウチの新メンバーとしてやっていけるよ。どうする?」
「はい。よろしくお願いします、先輩方」
「そもそも、さっきあいの言った「持続可能な開発目標」ってもともと今の資源に見合った開発をしましょうって話ですよね」
「SDなんとかってやつだっけ」
「SDGsです。多分、デビュークラスでカリスマクラスのあみを傘下に入れるよりは傘下に入ったほうが良さそうですよね」
「れみ、知ったような言い方する割には、スマホ見ながら喋ってない?」
「ばれましたか」
 れみはSDGsの意味をスマホで見ながら喋っていた。
「いずれにしても、アタシも流行語使ってみたかったたげけで、そこに深い意味ないです」
 慌てて否定するあいにゆうきが言った。
「絶対楽しいから、メンバーになりなよ」

 話が一段落して、あいがあみに聞く。
「そういえば、他にもメンバーがいるんですか?なんか、それっぽいこと言ってませんでしたか?」
「うん。あと、みぃ、まどか、さなえ。それから、わたしのお姉ちゃん」
 あみが9人でチアをやっている画像を見せた。緊急事態宣言の時に作ったコラージュだ。
「さなえはあたしとディアクラウンでバイトしてたんだよ」
 ゆうきが補足する。
「アタシの先輩ですね」
「じゃ、さなえの後輩のまどかはあいの姉弟子になるのかな」
 ゆみが付け足す。
「そういえば、一人ずつジュエルコーデでソロライブしたやつがあったっけ」
「あれ、友情のレインボージュエルだけ無いんだよね」
「というわけで、次回はあいのジュエルソロライブもいいかもね。コーデは貸してあげるよ」
 ゆみが提案する。すると、あみが、
「あいって、髪型はいつもそのメッシュツインテ?」
「ええ、まぁ」
「わたしもこの前ツインテにした事あったんだ」
「えっと、先輩とかぶるの禁止とか…」
「いや、ウチのグループ、先輩とか縦社会じゃないから。だから、今後は喋るのもタメでいいからね」
「じゃ…ツインテって?」
「ツヨキツインテールズのペアライブ、自前でできるなって思ったんだよ」
「なるほど。あみとあいは似た者同士だし、それウケる!」
 ゆうきもノリノリだ。
「じゃ、3曲目はアタシがリクエストしても、いい?」
 あいがまだ少しぎこちないタメ口で言う。
「お、さっそくアイデアあるんだ!どんなの?」
「さっきのチア画像、アタシ、グミの色違い持ってるんだけど、あれ2色で6人ライブとかどうかな」
「なるほど。今のメンバーであの画像やるのか。いいね!」
「我らの仲間入りの証だね。うむ、力になろう!」
 ゆみもまみも賛成する。

 ゆうきがあいに言った。
「ね、楽しいでしょ」
「うん」
 あいは満面の笑顔で頷いた。


今回のライブシーン
                           
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