第9章 デザインパレットだっチュ(後編)

「おお、ここが歌劇の聖地、宝塚!」
 あみはゆみと二人で宝塚市にいた。別に歌劇鑑賞というわけではなく、ゆみのお使いにあみが付いてきた帰り路なのだが。
「ゆみは初めて?」
「うん。あみは?」
「前に来て歌劇観たことあるよ」
「羽付けた人や男装の麗人が光る階段で脚挙げてラインダンスするのをテレビで見たことはあるけど」
「あれはね、レビューって出し物で、ミュージカルと二本立てなんだ」
「そうなんだ。『ベルサイユの薔薇』とか『ヴァンパイア・レクイエム』とかってやつ?」
「わたしが観たのは『エル・アルコン』って作品だったよ。主人公が悪者で、最後は退治されちゃう話」
「そんなのあるんだ」
「普通は野蛮残酷な悪党を退治するほうが主役なんだろうけどね」
「まぁ、劇場はここから結構遠いけどね」

 二人がいるのは阪急清荒神駅の近くだ。目の前に佃煮屋さんがある。
「わぁ、山椒昆布もしめじの佃煮もおいしそう!」
「買って帰ってご飯炊いて佃煮パーティーしようか」
「あみ…おなか空いてる?」
「うん。だから、お昼はこの近くで食べようね。前にゆうきといったおでんのおいしい店があるんだ」
「とはいえ、もう夏も近いのにおでんは…」
 そんな話をしながら歩いていくと…
「さっきから炭酸せんべいってよく見かけるね」
 ゆみがあみより先に食べ物に反応した。あみの頭の中はおでんに占拠されていたのかもしれないが。
「このあたりの名物だよ。有馬温泉の炭酸水を使っているんだっけか」
「これもお土産に買おうか」
 二人がせんべいを買うと、店のおばさんが、
「これ、おまけ」
 と、一枚別のせんべいを出してきた。そして、それをいきなりビニールの袋に入れると、鉄のワゴンの角に叩きつけた。
「!?」
「食べやすくしといたで。堅焼きやから気ぃつけて食べてな」
 食べてみるとかなり堅かった。おばさんが割ってくれなかったら確かに苦戦していただろう。
「そういえば、清荒神ってことは、この辺に神社があるの?」
 ゆみが聞く。
「うん。でも、神社みたいなんだけど、本堂はお寺なんだよね」
「へぇ、面白そう」
「台所の神様だから、おいしいものにご利益あると思うよ。まずはお参りしようね」
 二人は山門をくぐった。正面には大きなお地蔵様やお寺が見える。そして、左手に階段があり、その上にあるのが荒神さんのお社のようだ。
「えっと、ここは神様だから手打つんだよね?」
「うん。それからね…」
 参拝を終えたゆみの手をあみが引っ張る。
「えっ?何?」
 二人はお社の裏に来た。ご神木の榊の周りに柵があり、人々が棒でお賽銭を取り出そうとしている。
「えっ?お賽銭を取ってない?」
「うん。ここのお賽銭を借りて、いい事あったら倍返しするんだよ」
 言いながら、あみは財布を開けた。
「わたし、昔来た時、きれいな五円玉持って帰ったんだ」
 あみはその中でいちばん綺麗な10円玉を柵の中に返した。
「あたしも借りてみたい気はするけど、いつ来るかわからないしなぁ…」
 あみは自分が返した10円玉と、もう1枚を棒で手繰り寄せた。
「いい事があった時、また一緒に返しに来ようよ」
「そっか。そうだね」
 ゆみはあみの返した10円玉、あみはもう1枚の10円玉を借りた。
「さて、ここの階段の上にはお稲荷さんもあるよ」
「お参りのテーマパークみたいだね」
「お参りしてから、奥のお寺まわって戻ろうか」

 お参りを済ませ、昼食予定の店に行くとおでんのシーズンは終わっていた。
「あ、ざるうどんとお寿司のセットがあるから、ここでいいよね」
「まぁ、そうなるよね」
 二人はランチを楽しみながらゆみが話を振った。
「そういえば、大阪の北新地駅に恐竜のオブジェがあるんだって」
「そうなんだ」
「でも、どんなオブジェかは知らないんだけど」
「じゃ、帰り、わたし十三じゃなくて梅田まで行ってJRで帰ろうかな」
「あたしは見たいテレビあるからまっすぐ帰るよ?」
「じゃ、十三で解散だね」

 あみは結局、阪急電車で乗り換えの十三を通過して梅田で降りた。そして、最寄りのJR大阪駅をスルーして北新地駅に向かった。
 北新地駅は地下駅だ。地下通路を進んでいくと「キタノザウルス」と銘板のついた高さ2メートル位のキャラクター化された首長竜の銅像があった。
「これか」
 コロナ禍の影響で、マスクをつけてもらっていた。
「これはこれでかわいいかも…でも、これだけで帰るのもったいないな…」
 あみはなんば方面に向かうことにした。

「ここの配信スタジオだと何人かライブしたことある人が…」
 あみはあたりを見回した。何人か配信しにきた人がいる。
「はなこさんやあいきさんが居ると誘えるんだけどな…」
 あみがそう言うと、
「あいきに用事ですか?」
「あ、あいきさんのグループの方ですか?」
「ええ」
 大所帯とは聞いていたけど…
「私はいのあ。私でよければご一緒しますよ。たまにここで大集合ライブ募ってますよね」
「お願いします」
「あとは…」
 目線の先に、少し前にツイッターのタイムラインで見かけたコがいる。あみは声をかけたが、そのコは気づかず行ってしまった。
「行っちゃいましたね」
 そう言ういのあさんに、
「じゃ、ペアライブでも…」
 と言いかけると、
「あれ?あみさん!また賑やかライブを?」
 ロリロリさんだった。
「ええ。今日は一人なんですか?」
「今日は一人でツーリング中なんですよ」
「あれ?地元の人じゃないんですか?」
「滋賀ですよ」
「そうなんだ」
 三人で配信スタジオに向かうと、はなこさんがいた。
「あっ、いいところに!はなこさんも一緒にライブしましょう!」
「はぁ。別にいいですけど…」
 こうして、結局四人でのジョイントライブとなったのだった。

 そして、ライブを終えて解散したところへ、さっき見かけたコが戻ってきた。
「あの、さっきは…」
 あみが声をかけると、
「あれ?さっき声をかけられた気がしたけど、ちゃんと気づけなかったんですけど、何か?」
「いえ、タイムラインで見かけた事があったので、一緒にライブできたらと思って」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
「あ、わたしはあみ」
「きららです。レインボー赤ずきんコーデなら今ありますけど」
「じゃ、わたしはニコチケのトゥインクルリボンスイートの色違いで」
「おおかみとうさぎですか」
「どうかな?」
「楽しそうでいいんじゃないですか」
 そして、そのライブでアンティークリボンコーデが手に入った。
「わぁ、これ、早く着たいけど…そろそろ神戸に戻らないと…」

 その晩。あみたちの寮では、ゆみとまみを招いて佃煮パーティーをした。
「しめじ、本当においしいね」
「ごはんが進むね」
「山椒昆布も専門店のはやっぱり違うね」
「そういえば、明日は予定どう?」
 あみはさっきのコーデを試したくて仕方がない。
「私はバイトシフト入ってますね」
「あたしも明日はパスかな」
「さては録画してきたってテレビ見たいとか?」
 ゆみはテレビ見たくて帰ったものの、録画をしかけてここに来ている。
「ていうか、今ここでかかってるやつだし」
 番組は結局みんなで見たのだった。
「まみは?」
「ライブなら我は参加できるぞ」
「じゃ、決定!」

 翌日。メンバーを募ったところ、れんげさんとはぁるる♪さんが来てくれた。
「ごめんなさいね。今日は私だけで。はるか♪達も明後日ならOKなんだけど」
 はぁるる♪さんが言ってくれる。
「じゃ、週末にリベンジしますね」
「じゃ、伝えておきますね」
 そんな話をしていると、
「私はリベンジなんですよ」
 れんげさんが言う。
「えっ?」
「この前、このはがあなたを見かけたけど、声かけられなかったみたいでね。よろしくって言ってたよ」
「そうなんだ。それもいつかリベンジしたいね」
 そんな話をしながら配信スタジオに着くと、どこかで見かけたコが隣のブースに向かっている。
「あの!」
 あみが声をかける。
「はい?」
「この前、わちゃわちゃ会で…確か…」
「私、こままこといいます。確かにお見掛けしたことがあったかも」
「もしよかったら、わたしたちとライブしませんか?」
「私が入っても大丈夫ですか?」
「もちろん。ウチのメンバーこっちのまみだけで、二人はゲストさんです」
「はぁるる♪です。よろしく」
「私はキラキラチャイナってグループから参加のれんげです」
「それじゃ、楽しいライブにしましょうね」

 そして、二日後。あみはれみと一緒にハーバーランドに来ていた。
「この先はアンパンマンミュージアムか」
「昔は親子連れが多かったけど、ちょっと少ないですね」
「コロナの第二波あるかもって話だし、子供さん連れてる人は気を遣うだろうしね」
「ですね。おおっ、大きなウルトラマンの看板がありますよ!」
「看板じゃなくてウルトラマンの顔が大きいんだね」
「そういえば、新しいプリズムストーンが出来たんですよね」
「うん。そこではぁるる♪さんと待ち合わせだよ」

 待ち合わせ場所に着くとはぁるる♪さんがいたのであみが声をかける。
「お待たせしました」
「…?どなた?」
 振り返ると、はぁるる♪さんに似ているが別人だった。目がプリパラのゆいに似たコだった。
「あ、あみさん。こんにちは!」
 はるか♪さんが来た。はぁるる♪さんも一緒だ。
「あ、こんにちは」
「あれ?もう会ったんだね。はぁるる♪に似てるでしょ?」
 はるか♪さんが言う。
「うちのゆめ★はるです」
「はじめまして」
 そういえば、この前はぁるる♪さんがはるか♪達と「達」を付けてたっけ。
「いよいよジョイントライブですね」
「はぁるる♪さんの和風コーデ、かわいいですねぇ」
 れみが言うと、
「一応、テーマは合わせたんですよ」
 はるか♪さんはわんわんフットボールコーデだ。
「わたしとれみも着たことあるよ!かっこかわいくてちょっと色気もあるコーデだし」
「共通のテーマって何?」
「グミについてたコーデ」
「あ、そういう事ね」
「私はアーガイルハートなので、テーマが…」
 ゆめ★はるさんがコーデ間違ったかなって顔をする。
「でも、似合ってるからOKOK!ってか、わたし達はバラバラのコーデだし」
「あみ、かわいいライブするから、かわいいのを適当に用意しろ、しか言わないんです」
「確かにクッキングコーデのデザインはかわいいですもんね」

 ジョイントライブは無事配信成功。その帰り道、あみは突然、
「あ、やっと思い出した!」
「どうしたんです?この前からずっと言ってた気はしますが」
「デザインパレットで四人のコーデ作ったからお披露目ライブ企画しようしとて忘れてたんだった!」
「いや、あれを買った時で近々やるってみんな思ってますけど」
「それなら言ってよ〜!」

 当然のことながら、週末、あみたちはお披露目ライブをしたのだった。


今回のライブシーン
                      
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