第8章 ファンタジーだっチュ
「ほうじ茶が入りましたよ」
れみがお茶をテーブルに置いた。
「あ、ありがとう」
あみは買い物袋から一つの小袋を取り出す。
「お茶うけはコレでいい?」
「キョロちゃんのチョコボール…の中身ですか?」
「うん。袋にはそう書いてあるね。どんなのかなって思って買ってみたんだ」
「チョコボールのアイデンティティーを全否定してませんか?」
言いながら小皿にパラパラと入れる。
「なるほど。塩味のおかきの中にピーナツが入っているんだ」
「ビールのつまみに最適そうですね」
「あっ、でも意外とおいしいわ、コレ」
「本当ですね。チョコレートの立場ないですけど」
「そういえば、今日この後どうする?」
「これを試してみるのはどうでしょう?」
れみが鞄から四つ折りにしたチラシを出して広げる。
「プリチャンファンタジー?」
「なんか、ゴーグルを付けてバーチャルでファンタジー世界の冒険が出来るアトラクションみたいですよ」
「面白そうだね。行ってみようか」
すでに小皿のチョコ無しチョコボールもほうじ茶の湯飲みも空になっている。
「じゃ、食器洗ったら出発しましょう」
「コロナかも自粛もあって、二人で出かけるのは久しぶりだね」
「久しぶりのデートだから、腕組んで歩きますか?」
「言いながら、もうくっついてる…」
あみも嫌がるでもなく二人は仲良くプリチャンランドに入っていった。
「あ、二人も挑戦するの?」
ファンタジーのアトラクション入り口にみらいがいた。
「あっ、みらいさんも?」
「うん。さっそくゴーグル付けて行ってみよう!
三人はゴーグルを付けて中に入った。
あみは青い騎士の恰好になって庭園にいた。
「わぁ、なんかすごいね…あれ?」
れみがいない。
しばらくキョロキョロしていると、あみと同じ騎士の姿のみらいがいた。
「あそこにお城があるね」
「とりあえず行ってみようか」
「だね。れみもいるかもね」
二人は城の方へ歩いて行った。
なぜかここに配信スタジオがある。
「おそろいの衣装だし、ここで配信できるって事なのかな?」
「わからなかったら、やってみようか」
その頃、れみは城の中にいた。
「王冠といい、服といい、私は王様になったのでしょうか?」
れみは城の中を歩いてみた。玉座にも王様がいる。
「アンジュさん?」
なぜか、れみと同じ王様姿のアンジュだった。何かを読んでいる。
「あなたもアトラクションで王様になったのかしら?」
「アンジュさんも参加ですか」
「ええ。ガールズ達が楽しそうに話していたので、やってみたいと思ってね」
「で、アンジュさんは玉座で何か読んでましたよね」
「ええ。アトラクションの説明をね。なんでも、魔王の呪いで笑顔を無くしたお姫様を救う必要があるみたいよ」
「そうなんですか」
「とりあえず、お城の中を探検してみましょう」
二人は城の廊下を進んだ。と、向こうから見慣れた顔が。
「あみ!」
「れみ!アンジュさんまで二人して王様なんだね」
「とりあえず、お姫様の所に向かいましょう」
「お姫様?」
あみはお姫様の事は聞いていない。みらいはマニュアルを見たのか状況を知っていて、あみに説明する。
庭園にお姫様はいた…のだが。
「えっと…」
「アレがお姫様…なんだよね?」
灰色のいかつい顔をしたお姫様は、なんとシルクちゃんだった。
「配役した人、一体どういう感覚で…」
「で、どうすれば笑ってくれるんだろううね」
「うん…多分だけど」
あみは横を見ながら言う。
「あからさまにライブ配信のスタジオがあるんだけど、アレ使うんじゃないかな」
「どう見てもそれですよね」
と、キラッCHUが現れた。アイドルに成長した姿だ。王様にあわせてかクイーンのコーデだ。
「それじゃ、ライブをするっチュ!」
四人はそのままキラッCHUと一緒にコスプレライブをした。
「あっ、お姫様が笑った!」
アンジュが言うが、あみ達にはシルクちゃんがどう笑っているのかよく判らなかった。
「でも、『ハッピーエンド』って出てるし、クリアしたみたいね」
「なんかバタバタだったけど、面白かったね」
「お姫様の配役にはビックリしたけど…」
みらい達と別れて、あみとれみは寮へ戻る道を歩いていた。
「あみ、どうかしました?考え事してるみたいですが」
「何か忘れてる気がするんだよね…」
「晩御飯の買い物ですか?」
「多分、それじゃないと思う…てか、わたしは食欲の権化じゃないってば!」
「食欲の権化だと思ってました」
「れーみぃー!」
「ひっ!電気アンマしてあげるから許してくださーい!」
「なんでわたしが罰ゲーム食らって許さなあかんねん!」
案外、この二人なら、お姫様を笑わせるのに漫才をしたほうが彼女たちらしかったのかもしれない。
「ははは、冗談ですよ」
れみはそう言いながら、あみの手を引いて近くの配信スポットへ行った。
「コスプレペアライブしたかったんでしょ。判ってましたよ」
あみはそれとは違う気がしたものの、ナイトの衣装が気に入っていたので、結局そういう事にしてペアライブを楽しんだのだった。
今回のライブシーン
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