第6章 れみ、お休みだっチュ

「お邪魔します。しばらくご厄介になります」
 あみは深々と頭を下げた。
「うちの娘がいつもお世話になっていると聞いています。自分の家だと思ってくつろいでくださいね」
 ゆみの母はそう言ってあみを招き入れた。

 昨日のこと。
 あみの電話が鳴った。れみからだった。
「今、病院にいるんですけど、コロナ陽性の人がいたみたいなんです」
「えーっ?」
「念のため、二週間ほど外出しないようにしないといけないんですけど、どうしましょう」

 そこで、あみは暫くゆみの家に泊まり、れみは寮で自主隔離することになったのだった。

 あみは荷物を積んだトランクをゆみの部屋に担ぎこんだ。
「しばらくの間、よろしくね」
 ふと、机の上に目をやると、小学生向きの算数のドリルがある。
「これは…?」
「あ、これはね」
 ゆみが窓の外を指さす。
「あの、はす向かいの親戚のところの子が、コロナ休校中に時々息抜きに一緒に勉強しに来ててね」
「そうなんだ」
「そういえば、そのドリルの挿絵見て」
 ゆみが渡したドリルを見る。男の子と女の子と犬となぜか亀が先生の授業を聞いている。
「犬はテンテン、亀ははるのすけって名前なんだね。じゅん君に…あみちゃん?」
 ツインテの女の子の上には「あみ」と書いてある。

「というわけで、親戚の子が来たらウケると思うから、一度ツインテにしてみて」
「なんでやねん!と言いつつ、面白いかも。似たような緑のスカート持ってるし」

 そんなわけで、この日はあみはドリルの「あみちゃん」の物まねの髪型、服で出かけることとなった。
 この後、まみと合流して、三人でライブを配信したあとで、お弁当とパンを買ってれみに届けることになっている。
 ダイヤチェック合わせの予定だったが、センターはやっと揃ったギャラクシーコーデにしようか、などと話しながら、あみとゆみは待ち合わせの場所へ急いだ。

「あみ…イメチェン?」
 待ち合わせたまみも驚いている。
「いっそ、このままソロでやればウケるのではないか」
 まみに言われるままに、あみはコスプレソロライブをしてから、三人で予定のライブをした。
「わたしはこの髪型でのライブだから、結構レアだよね」
「センターはあみで決まりだね」

 結局、あみは髪をツインテールにしてこの日のライブを終え、れみに差し入れに行った。
 会いたいけれど、寮の廊下に置いて外から電話する。
「ありがとう。配信見ましたよ。私のいない間に面白い事するね」
「へへへ」
「でも、配信見て元気出ましたよ」
「また来るね」

 ゆみとあみは帰宅した。その前にゆみの親戚家に寄ったら、実際にすごくウケたのだった。
「いやー、マジでウケたね」
「でも、あの子だけじゃないみたいよ」
 ゆみに言われて、あみはゆみのスマホを見る。さっきの配信だ。
「あ、このはさんからメッセージが来てるね。なになに、新しい髪型、かわいいですね。今度ツインテライブしませんか、だって」
「オファーがあった以上、まだ髪型は戻せないね」
「だね」

 数日後。ツインテライブの日。
「こんにちは」
「こんにちは。お誘いありがとうございます」
「髪型はこれからも?」
「あ、コレは一発ネタ用に一時的に変えただけなんですよ」
「そうなんだ。じゃ、結構レアですね」
「ハッピーレアくらいにレアかも」
 そんな話をしていたら、あみにれみから電話が入った。
「ごめんね。寝てました。今日のごはん買い出しはあみですよね。ありがとう」
「うん。わたしだって判った?」
「カップ焼きそばがペヤングの2玉入りの超大盛な時点で判りましたよ」
「焼きそば食べたいって言ってたよね?」
「確かに言いましたけど、私は一人で食べるんですよ」
「え?それ、おいしいよ?」
「知ってます。だだ、量がすごいんですよ」
「無限に広がる焼きそばのの大海原を独り占めだね」
「何アホな例えを使ってるんですか」
「いつも二人で分けてたから、一度やってみたいかなと…」
「さすがに味に飽きますからね。半分は鉢に取って夜食にレンチンします」

「楽しそうですね」
 あみとれみの漫才にこのはさんがコメントする。他に言いようがない気もするが。
「あ、お話中でしたか。ウチの者がお待たせしてすみませんでした。後でお仕置きしますので」
「きぃーーやぁーーー!電気アンマとか四の字固めはやめてーー!」
「あみ!あ、私、そんな事はしないですよ!冗談ですから!」

「…楽しそうですね…」
 このはさんは少し戸惑うような口調で同じセリフを繰り返した。
「ごめんなさいね」
「いえ、でも、あみさんも結構食べるんですか?」
「ですね。ほら、駅前にあるビッグボーイってファミレス」
「あ、私も時々行きますね」
「あそこで、取り放題のサラダ、スープとカレーライスでメインのお肉が来るまでにおなか一杯になるまで食べちゃったり」
「わかります。あそこのカレーって、つい、おかわりしちゃいますよね」
「そうそう…って、あれ?」
 あみはふと我に返った。
「そういえば、今日は食事会じゃなくてツインテライブ配信でしたね」
  「そうでしたね。そろそろ始めましょうか」
 二人は笑いながら配信スタジオへ入っていった。

 数日後。

「やっぱりこれが落ち着くなぁ」
 あみはおだんごに束ねた自分の髪を触りながら言う。
「で、元の髪型にして、どんなライブをするの?」
 ゆみの問いかけに、
「そらクッシングとか、レインボーライブとか、かわいい型紙のコーデの3色ライブはどうかな」
「いいけど、どっちにする?」
「両方やればいいじゃん」
「…言うと思った」

「じゃ、曲はなる店長がこのコーデでやった『ハート・イロトリドリーム』で」
「さっきのそらクッキングはまみがセンターだから、次はゆみがセンターだね」
「パクトだから、失敗すると一人だけエジプトとかになるんだよね…」
「それはそれでネタライブにすれば良いのである」
 スタジオでいつものようにわちゃわちゃち喋っていると、みらい達がやってきた。
「あみちゃん、私たち、あれからいっぱい練習してきたから、げきむずでリベンジバトルライブしようと思ったんだけど…」  言いかけてまわりを見回す。
「あれ?れみちゃんは?」
「今、お休み中。コロナ陽性者が近くにいたから、大事を取って自主隔離してるんだ」
「そうなんだ。じゃ、復帰後じゃないとダメかな…」
「あ、どうせウチは四人だから、一人留守番だから問題ないよ」

 なんとなく、勢いでリベンジバトルが決定した。
「確かに、メンバーが欠けてるのに何の躊躇いもなく受けちゃったけど」
「いいんじゃないですか。私も一応リモート参加ですよ」
 直前の作戦タイムには、画面越しにれみも参加している。
「キラッツはコーデ変更ないですから、ウチは前回とコーデを変えて新鮮味を出そうか」
「じゃ、アーガイルハートコーデなんてどうでしょう」
 れみが提案する。
「確かにデザインかわいいし、ニコチケの色違いもあるから変化もつけられるね」
「それで決定なのである」

 そして、対決ライブの結果、あみたちは防衛に成功した。

「れみ、勝てたよ!れみのコーデ選択、ばっちりだったね」
「でしょ。私の予想通りでした」
「え?」
「あのスカート、裾が広がっているから、『ミラクルコースター』の振り付けだと見た目以上に脚を強調できますからね」
「れみ…またしても」
「相変わらず、お色気担当の押し付け合いだなぁ、って、あたしらも巻き添えか!」

 そうこうしているうちに、れみは結局感染はなかったようで、週末には復帰できそうだった。
 あみはゆみとれみに弁当を届けたあと、二人で散歩していた。以前、インフルエンサーの配信の時にみんなで着た、ピンクの制服系の服を二人で着ていた。
「へへ、おそろいの制服で学生みたいだね」
「あたしは学生だけどね」
「いよいよれみが復活か。その前に何か驚くようなライブできないかなぁ…」
「あたしはまみとクラシックバージョンのコーデでペアライブしようかって話してたんだけど」
「最初の光るコーデの白黒は、プリパラでもミステリーコーデとしてあったなぁ。あれは白黒だけど、最後は綺麗に光るんだよね」
「今回のは光らないんだよね」
 そんな話をしながら、ふたりはゆみの部屋に戻ってきた。
 ゆみは着替えようと制服のブラウスを脱いだ。
「あれ?それってディアクラウンのキャミ?」
「うん。アウターとしても使えるやつだから、薄着の季節には便利だよね」
「わたしも時々使ってる。その白は下着っぽいけど、黒ならそのまま着れるし…あっ!」
「どうしたの?」
「いいこと思いついた!れみの予想を超えるライブ!」
「?」

 そして、れみ復帰直前ライブ。
 まずはゆみとまみがクラシックで『レディー・アクション!』。そして、あみは『キラリ覚醒リインカーネーション』。キラッツのメンバーの曲メドレーだ。

 あみはピンクの制服で登場した。そして、さびの手前で、
「キャストオフ!」
 あみは制服のブラウスを脱ぎ捨てて、黒いキャミソールを合わせたコーデに早変わりした。

 さすがに、お色気路線でも、ココまでやるとは誰も思うまい!

 実際のところ、勢いでやったものの、配信を改めて見たあみは、顔を真っ赤にして途中で動画を止めた。

 恥ずかしすぎる…もう二度とやらない!


今回のライブシーン
                                    
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