最終章 だいあのレインボーマジックだもん
「そういえば…」
あまねさんがあみに向き直った。
二人はたまたま出会って、ベンチで缶ジュースを飲みながら雑談していた。
「ダイヤモンドコーデを着ると願いが叶うって都市伝説みたいなのあったじゃないですか」
「あ、そういえば。でも、わたしの場合、楽しくライブを配信したいってことくらいだから、最初から叶っているかも」
「ははは。あみさんらしいですね」
「あまねさんは?何かいい事ありました?」
「アイドルタイムプリパラに出てきたファンタジータイムドリームコーデって知ってます?」
「うん」
向こうの世界にいた頃に一度着た気がする。
「あれを着てみたいなと思ってたら、手に入ったんですよ」
「そういえば、先週の配信で見たような…」
「で、今度は自分が着るだけじゃなくて、誰かに貸して着てもらって一緒にライブしたいなと思って」
「じゃ、さっそく貸してもらおうかな」
「あ、付き合ってくれるんですか?やったぁ」
二人がライブを終えて外に出ると、まだ昼間なのに、彗星みたいなものが空にあった。
「あら?めるめるさんが見つけた彗星?」
「それなら接近のニュースあるはずだけど、見落としたかな?」
そんな話をしていると、通りの向こうからさなえが走ってきた。
「あ、あみ!やっぱりこの辺にいたんだね」
さなえの後ろにはなぜか虹ノ咲さんがいた。
「あれはプリチャン衛星です」
虹ノ咲さんは突拍子もないことを告げた。
「プリチャン衛星?」
「あれは、皆さんの配信を中継する人工衛星です。あの中にだいあがいるんです」
「そもそも、だいあは私のデザインパレットのナビキャラだったんです」
虹ノ咲さんは一冊の絵本を取り出した。
「ジュエルの国のおひめさま…たしかウチの店長が昔出版した絵本ですよね」
「はい。この絵本に出てくる、素敵なドレスを作って、それを人にあげて友達になったお姫様。そのお姫様にあこがれて…」
なるほど。だからデザイナーになったのか、この人。
そして、その絵本のお姫様は…
「なんとなく、だいあぱんに似てるかも」
あみがいきなり出した用語にさなえが聞き返す。
「だいあぱん?」
「店に置いてるだいあちゃんのぬいぐるみの事。顔が丸くてぱんぱんな造形だからかそう呼んでる人も多いみたい」
「あー、あのぬいぐるみね。かわいいけどちょっと高くて買えなかったな」
「話を戻しますね」
虹ノ咲さんが話を続ける。
「ナビキャラのだいあは、このお姫様の姿を借りた私の理想の姿になり、なぜか心を持ってしまったんです」
「ふむふむ」
「そして、私がみらいちゃん達と友達になったりして、私の中のだいあへの依存が少なくなり、だいあは淋しかったんだと思います。突然、イメチェンして、イタズラをしたりするようになったんです」
「確かに、黒いだいあちゃん、わたしの所にも来たよ」
「そして、だいあは衛星の中に閉じこもり、心を閉ざしてしまったのです。そのため、衛星がキラ宿に落下しようとしています」
「えっ?」
「そして、キラ宿の地下にあるデータベースが壊れたら、これまでの配信の記録も全て失われてしまいます」
「ええーーーーっ!!!」
そんなことになったら、すべての思い出が無くなってしまう!
「私とみらいちゃんで、ダイヤモンドコーデの力で説得に行きます。でもコーデの力がどこまで持つかわかりません」
「うーんと…」
「だから、あみさん。あなたの力を貸してください」
「え?なんでわたしが?」
「あなたは、だいあが選んでこの世界に呼ばれました。きっと、何か意味があると思います」
「でも、どうすれば…」
突然、あまねさんがスマホを取り出した。
「みんなと楽しくライブを続けたいというあみさんの願い、叶えてあげたい!…と送信」
あまねさんがツイートした。
あみはさっそくそのツイートを見た。
「えっ?さっそくいいねが付き始めてる!」
あんずさん、すてらさん、このはさん、つぼみさんからのいいねが既に届いていた。
「じゃ、リツイートするね」
あみがリツイートした。
いいねが増え始める。まもるさん、まいまいさん、シュヤラさん、ひなさん、クララさん、なでこさん、ありもも!さん、はぁるる♪さんさん、みるきぃさんさん、ロリロリさん、かり〜な♪さん、さきちゃん、ゆっきーさん、ショウラさん…
もちろん、この界隈でライブした人だけではない。
東京。秋葉原の路上で。
「さて…今日の予定は…」
にじのエルザさんはふと空を見上げた。
「え?何?人工衛星?」
情報を得ようとスマホを取り出す。
「あら?あみさんが何か計画してるみたい」
エルザさんはいいねを押してリツイートした。
スペイン。パエリアの美味しい店で。
「メル、ラウラ☆!エルザのリツイート見て」
せと☆君が声をかける。
「あみさんがリツイートしたやつだね」
いいながらラウラ☆さんがいいねを押す。
「私もいいねしておこう。プリ☆チャンを守ってほしいもんね」
メロディー☆さんもいいねを押す。
「せと☆は?」
「いいねなら最初に押したよ」
大阪。配信スタジオの待合室で。
「ねぇ、あいき、これ、あみさん関係のメッセージじゃない?」
ななせさんに声をかけられ、あいきさんがメッセージを見る。
「あ、本当。いいねを送ればいいのかな」
そして、その会話を隣で耳にしたみにゃさんが、
「お姉ちゃん、さっき、隣の人たち、あみさんの話してなかった?」
「うん。あさぴーが戻ってきたらツイッターを確認してもらおうよ」
静岡。商店街で。
あおい★さんとあかね♪さんが歩きながら話に夢中になっている横で、あさぎ☆さんが立ち止まって振り返った。
「みなもと、どうした?」
みなもとさんが少し後ろで立ち止まってスマホを見ていた。
「あみさんの事、覚えてる?」
「あ、神戸から遠征してきた人だよね」
「あの人へのメッセージがタイムラインに流れてきたんだ」
「へぇ、懐かしいね」
「いいねを押しておこう」
「うん。それがいいよ」
ロシア。どこかの家で。
「あ、このはちゃがリツイートしてる。ん?知らない人だけどいいねしておこうかな…」
あみと面識のないコもいいねを押した。いつか、一緒にライブする日がくるかもしれない。
そして、他にもたくさんのいいねが集まってきている。
それだけではなく、最初に来たさなえ以外のあみの仲間もこの場に集まってきている。
「あれ?わたしのジュエルパクトが光ってる?」
あみのジュエルパクトにいいねの奔流が流れ込みまぶしい光を放つ。
そして。
光の中から黒いだいあが現れた。
「えっ?人工衛星の中にいるんじゃなかったの?」
「分裂してライブしてたら、取り残されてその辺を漂ってたんだよん」
本体に戻れず漂っていた分身がいいねに引かれてここに来たようだった。
だいあは虹ノ咲さんの手を取った。そして、あみのジュエルパクトに集まったいいねがその手に集まる。
「だいあ、これで、いけるんだよん!」
二人のだいあが声を重ねた。
「だいあの〜、レインボーマジック!」
あみたち9人が光に包まれた。
「えっ?」
いつの間にか、全員ジュエルコーデを着ていた。そして、それはいつものジュエルの色ではなく、友情のレインボーカラーになっていた。
「これで10曲ノンストップでライブして、いいねを集めるんだよん」
どうやら、いいねに応じてステージがぐんぐん上に伸び、そこから虹ノ咲さんが人工衛星にジャンプしてだいあを説得するという。
「どのようにすればいいのかな」
ゆみが疑問を投げかけた時、
「ワタクシたちに…」
聞こえかけたセリフを遮るように、
「すずたちも協力するよ!」
「一番に駆けつけるすずちゃんもかわいいですぅ。リングマリィがかわいく助太刀しますよぉ」
「虹ノ咲さん、あみちゃん、お待たせ!」
「あたしたちの超えもえもな応援でばっちりだよねぃ!」
「きっと大丈夫」
すず、まりあ、みらい、えも、りんかが現れた。
「ガールズたち、私も喜んで力を貸すわ」
「めるめる達も参加するよ!」
「みんなに先を越されたようだね」
アンジュ、める、さらが現れる。そして、その後ろで、
「なんで最初に来たワタクシの前に次々出てくるんですの!」
最初に言葉を遮られたあんなが怒っていた。
「とりあえず、私たちはレインボーカラーのジュエルコーデです」
れみが説明する。
「レインボーの私たちが順番にセンターで、みらいさんたちはオリジナルのジュエルコーデでお願いします」
「なるほど。でも、ほとんどが3人曲ですよ?」
まりあの質問に再びれみが答える。
「あみが先のジュエルコレクションで全てのピンクジュエルコーデを着たので、ぶっ続けでやってもらいます。できますよね」
しれっとれみが無茶振りをする。
「うん…がんばるね」
いずれにしても、他に選択肢はない。
「曲順はどうしよう?ジュエルコーデ入手順で行く?」
「それなら、最初はあみがセンター、みらいさんがバックで『ときめきハートジュエル』だね」
ゆみが確認する。
「あみがセンターなら、あたしがバックに入るね。ときめきのブルージュエルコーデ、この前のコレクションで着たし」
ゆうきが名乗り出る。
「いきなり、ダイヤモンドコーデに選ばれた二人だね。一気に距離をかせがないとね」
さなえがハードルを上げる。でも、確かにそうだ。少しでも距離をかせがないと!
1曲目が終わった。
「現在の高さは…?」
「16パーセント。意外と伸びないね…」
「でも、このペースならいけるよ」
「じゃ、私とゆうきちゃん、あみちゃんで『夢色エナジー』だね。二人とも大丈夫?」
「全然問題なし!」
りんかに二人は笑顔で答える。
こんな感じで、めるとまみ、すずとさなえも続けて曲をこなす。
「次は『シアワ星かわいい賛歌』いきますよぉー」
「よりによって、ボクがこの曲でいいのかな?」
みぃは不安そうに言う。声は低くかっこいいイケボ、日に焼けて洗練された体。どう見てもさっきのすず達のステージに会うイメージだ。
そして、曲は半分消化するので、高さが50パーセントを超えたいが、今は42パーセントだ。
「大丈夫ですぅ!みぃちゃんがやれば、ギャップかわいいですぅ!」
そして、ステージが始まる。元より白っぽいレインボーカラーのコーデだけに、みぃの肌色との差でとても映える。脚の網目が健康的な色気を醸し出し、普段見れないかわいい振り付けのギャップも面白い。
「すごい!59パーセントまでいったよ!」
「ゆみくん。ボクたちも続こうか」
さらがゆみの手を取り、次のステージに向かう。
それを見送りながらアンジュが言う。
「そういえば…」
「どうしたんですか?アンジュさん」
「私の課題曲『フォーチュンカラット』はソロ曲だから、くみさん一人になるわね…」
「あ、それなら、曲変えませんか?『キラキラプリチャンワールド』なら三人でいけますよ」
くみが提案する。
そして、そのステージを見ながら、まどかが言う。
「大トリが一番後輩のアタシで良かったのかな」
「大丈夫。まどかもウチのチームの主力メンバーですよ」
れみが答える。そして続ける」
「私も距離を稼いでおくから安心してくださいね」
「当たり前ですわ!このワタクシの出番ですのよ」
あんなも口添えする。確かに頼もしい。
「あの黄色いのが足を引っ張っても大丈夫なくらいの差はつけますわ」
あんなの発言にえもはふくれっ面だ。
でも、その発言が激励であることはみんな判っていた。
そして、れみとあんなの正義のステージが終わった。
「次の友情のステージは…」
「だいあがセンターで、だいあとあみでいくんだよーん!」
センターの黒いだいあと虹ノ咲さんがお揃いのレインボーで、あみがピンクだ。
課題曲の『フレンドパスワード』はセンターのだいあに合わせてアナザーだった。
「さぁ、残り7パーセント」
「行くよ?まどか」
えもがまどかを誘う。
課題曲『えもめきピッカーン』はポンポンのキャッチや回転もある最高難度の振り付けだ。
まどかに緊張が走る。
「大丈夫。ジュエルコレクションの時、バッチリだったし、わたし、信じてるから」
あみがまどかの肩に手を置いて言う。その手は汗ばんでいた。無理もない。ここまで休みなく9曲こなしているのだから。
♪EMO、EMO、ぴっかぴか
気が付くとステージは終わっていた。やりきった!
「達成率105%。余裕で届くんだよん」
虹ノ咲さんにだいあが憑依し、みらいの手を取った。二人はダイアモンドコーデの力で人工衛星に跳んだ。
あみたちはもう、衛星を見上げて待つしかない。あみは無意識に隣にいたれみとゆうきの手を握っていた。
そして気が付くと、17人全員手を繋いで輪になって空を見上げている。
と、突然、みらいと虹ノ咲さんの二人の歌声が聞こえてきた。
それからほどなくして、人工衛星はゆっくりと元の軌道に戻っていった。
「成功…したんだよね」
「うん…」
一同は、想像したより、ずっと静かに喜びを分かち合ったのだった。
その後、だいあはだいあフェスで配った元のだいあのコーデを着てライブした。
そして、元のだいあに戻ったのだった。
「じゃ、今から、記念ライブやろうよ」
あみは黒いダイヤモンドコーデをれみに手渡した。
「え?私?」
「さすがに疲れたから、センターは任せるね」
「じゃ、れみとわたしとだいあちゃん、あと3人は先着順で6人ライブしよ!」
「センター譲っても仕切るんですね」
このライブが終わると、突然だいあが光りはじめた。
「はてはて?」
どうやら、だいあの復活は一時的なものだったようだ。
「みんな、ありがとうだもん」
唐突にだいあは消えた。最終的にはだいあぱんのぬいぐるみのようなマスコットの姿で再生したのだが…
あみは一つため息をついた。
「この世界に連れてきてくれただいあちゃんが消えたってことは…」
「まだしばらくこの世界に居ることになりそうですね」
れみが笑いながら答えた。
(ジュエルオーディション編・完)
あとがき(スペシャルサンクス画像付き)
今回のライブシーン
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