第16章 プリパラ5周年だもん

「やっぱりコンビニで正解だったでしょ」
 あみはそう言いながらベンチに腰を下ろした。
「本当に、食べる事に関しては見事ですね」
 れみが隣に座る。二人は袋からカップに入ったタピオカミルクティーを取り出す。
「専門店との差額でチキンをゲットして、ポイントも付くからね」
「ですね」
 れみが大きな鶏の唐揚げの袋を開けようとする。真ん中から切り離すと、袋の下半分を手に持って食べられるようになっている。
「あ、袋の底に油が溜まってることあるから気を付けたほうがいいよ」
「えっ、あら、本当。危ないところでした」
 二人がチキンに舌鼓を打っているところに、いかにもアスリートといった感じの男性が近づいてきた。
「ちょっといいかな」

 あみは一瞬驚いたが、すぐに誰なのか思い当たった。
「えっと、プリズムショーの大会で舞台壊して失格になった、かっこいいジャンプの人…ですよね?」
「ん…まぁ。大和アレクサンダーだ。覚えてもらうと嬉しい」
「で、どうしたんですか?」
「この近くでストリートダンスの配信を見かけたんだが」
 アレクサンダー選手が配信画面を出した。
「この黒川すずというプリチャンアイドルが、己のカッコよさを追求するため耐久ダンスをするというものだ」
 たしか、まりあさんの言ってた人だ。
「著名なダンサー、マイケル黒川の妹らしく、そこそこの腕前だったが、それについて行ける挑戦者がいる」
 あみは画面を見た。みらい達ミラクル☆キラッツの面々はすでにリタイアして横で休んでいたが、ついていっているのはめると…
「まみ…?」
「そのコから、異世界から来た友人がいると聞いてな」
「確かに、わたし達は異世界から来たんですけどね」
 なぜこの人が異世界のことを?
「ルヰ、あ、同僚だ。そいつが気になる話をしていてな。プリズム1という大会を知っているか?」
「はい、二人でテレビで途中からだけど見てましたよ」
 れみが答える。
「アレクサンダーさんも出られてたんですか?わたし達が観たのはユキなんとかって女形の俳優さんのあたりからなんですけど」
「太刀花ユキノジョウは俺より前に出てたのだが…」
「あ、お茶のお煎餅取りに行ったりして、所々見てなかったから…見逃したのかな。残念!」
「まぁ、俺の演技はこの際どうでもいい。一条シンの演技は見たか?」
「暴走して無茶なジャンプを連発して失格した人でしたっけ。ドーピングか何かしてたんですか?」
「ルヰの話では、世界を安定させるプリズムの使者が奴の中で覚醒し、暴走したという」
「エヴァンゲリオンみたいですね」
 あみの相槌にアレクサンダー選手は怪訝な顔をする。
「あ、アニメで乗ってるロボットみたいなのが意思持って暴走するのがあるんです」
 れみがフォローする。
「とにかくだ。そのせいで色々な世界が影響を受けているらしい」
「でも、わたし達も訳が分からないままこっちに来たから、あまりよく知らないんですよ」
 アレクサンダー選手に提供できる話題もないが、彼自身、ちょっと興味がわいた程度なのでまぁ、そんなものかという感じだった。
「そうか。邪魔したな」
 立ち上がったアレクサンダー選手にあみが声をかける。
「いえいえ。サイン貰う紙無いから、握手してください!今度テレビで応援しますね!」
「ああ、ありがとう。次は煎餅を前もって用意してから見てくれよな」

「折角、超一流のアスリートさんに会ったのに、配信のゲストになってもらえませんでしたね」
 れみが言う。
「うん。すっかり忘れてた」

 だが、あみは10分後に、さっきの話が身近なものであることを実感することになるのだった。

 本屋に行くというれみと別れてあみが歩いていると、ミラクル☆キラッツの面々に出会った。
「こんにちは。すずさんとのダンス、お疲れ様」
「あ、あみちゃん。配信見てたんだ」
「うん」
「でも、まみちゃん、最後まで踊りきってすごかったよ」
「うちで一番体力あるえもちゃんですらダウンしたからね」

 そんな話をしていると、目の前が光り、誰かが現れた。

「らぁらさん…!」
「あれ?あみちゃん…?お久しぶりのかしこま☆」
「えっと…」
「プリパラで5周年記念でそらみスマイルのライブをしてたら、急にシステムエラーが起きて…」
 確かにらぁらの衣装には数字の「5」の飾りが付いている。
「じゃ、みれぃさん達も来てるかもね」
「え?みらいならここにいるよ?」
 えもが口をはさむ。
「みらいさんじゃなくてみれぃさん」
「じゃ、あたしたちとライブでもして呼び掛けてみる?」
 えもの提案に
「まぁ、来てるかどうかわからないけどね」
「やってみなくちゃ判らない。判らなかったらやってみよう!」
「だね。やろうやろう」
「かしこま☆」
 あみもらぁらも賛成するが、みらいとりんかは先ほどのダンスバトルの疲れが回復しきっていなかった。
「じゃ、3人でライブ、やってみよう」

「どう?」
 ライブを配信し終えたものの、まだ反応がない。
「もう一曲やろうにも、あたしも、さっきのダンスバトルで足がついていかないんだよねぃ…」
 えもが太ももをさすりながら言う。
「えもさん、一曲だけでもありがとう。あとはわたしとらぁらさんで2曲目行くね」
「あみちゃん、いいの?」
「うん。そういえば、この前、ゆみがパプリカ学園の制服手に入れたって言ってたな。らぁらさん、制服は持ってる?」
「うん。じゃ、二人で学校の制服でやろうか」

 そして…

「あれ?この制服…?」
 先日ゆみたちが着ていたものではなく、ピンクと黄色の子供っぽい制服だ。
「初頭部の制服だよ」
「あ」
「あたし、小学6年生!」
 あみの頭の中で小学6年生という言葉がこだまする。
 この歳でコレ着るの…?

 しかし、この配信に反応する人がいた。

「すずちゃん、見てください。たんぽぽの綿毛のような可愛さですよぅ」
 まりあがすずにあみたちの配信を見せる。二人はユニット、リングマリィを結成し、打ち合わせ中だった。
「小学生のコスプレ?可愛い制服なのは確かだけど、すずはかっこいいのが好きなんだってば」
 その配信を通りかかった人が見る。「5」の飾りのついた衣装を着た人物が、画面のらぁらを見て、
「お願い…レッドフラッシュを…ぷぅしゅぅぅーっ」
 その人はそれだけ言うと、くらげのように倒れた。
「あの、大丈夫ですか?」
 ぴくりとも動かない。
「どうしましょう」
「この人が見たさっきの配信、ギャラリーにみらい先輩がいたみたいだから、聞いてみようよ」

 ライブを終えて、仲間を探しに行くというらぁらと別れたあみはみらい達のところへ戻った。
「あ、あみちゃん。すずちゃんのところに来た人が「れっどふらっしゅ」って言ってたらしいんだけど」
「そふぃさんも来ているみたいね。梅干しの事をレッドフラッシュっていう人だよ」
「じゃ、すずちゃんにレッドフラッシュは梅干しとメールしておくね」
 りんかがそう言ってメールを送信した。あみはそのまますずのいるところへ向かった。

 あみが到着した時、ちょうど、すずが調達してきた梅干しをまりあがそふぃに渡しているところだった。
 そして、レッドフラッシュを食べて、そふぃが復活した。
「あら、久しぶりね。私の籠の小鳥ちゃん」
「お久しぶり。さっき、らぁらさんに会ったんだけど…」
「それなら、ライブをしましょう。らぁらはきっとそれを見てここに来るはずよ」
「じゃ、わたしも一緒に。そふぃさん、会員証ないだろうから」
「まりあも協力します。すずちゃんはダンスバトルで疲れてるから休んでてくださいね」

 ライブを終えて、あみはらぁらを待ってみるというそふぃとリングマリィと別れ、さらの所へ向かっていた。
 帰るついでに借りていたCDを返せたらと思ってのことだったのだが。

 そこでは似たような声の二人が口論していた。
「私の計算によれば、99.999999999%の確率で異世界に来たはずぷり!」
「異世界から来るなんて非科学的な事はありませんわ!」
 みれぃとあんなだ。
「えっと…お取込み中?」
 割って入ったあみを見て、さらが、
「そういえば、あみ君も異世界から来たって言っていたね」
「Yes!この人の計算、合っているヨ!」
 めるも同じ結論だ。
「あんなも、あみ君たちが異世界から来たって言った時は認めていたよね」
 さらの言葉にあんなが窓から見える看板を指さして言う。
 看板は佐賀県のドライブインの広告で、ゾンビネタをウリにしているご当地アイドルがイメージキャラクターを務めているものだ。
「あなた方は、あの方たちが本当に墓場から蘇ったとお思いですの?」
「フランシュシュの「死んでも叶えたい夢がある!ゾンビとバレたら退治されるから秘密です」ってやつ?」
「あのグループのアンデットパワー手品とか、本物のゾンビみたいで面白いけどね」
 一般的には、あみたちの異世界人もゾンビと同様の設定と思われているのかもしれない。
「あみ…あみもこっちに来たぷり?」
「お久しぶり。らぁらさん、そふぃさんにも会ったよ」
「あ、あら。お知り合いですの?」
 驚くあんなにさらが言う。
「これは信じるしかないね」
 その時だった。
「キラにちは〜☆」
 だいあが空から現れた。
「プリパラのシステムがエラーを起こしたんだもん。ライブをして復旧させるんだもん」
 これで、みれぃが言っていることは真実だと皆が確信したのだった。

「ところで、あなた、神アイドルだとおっしゃってましたわね」
「そう。私たちそらみスマイルは神アイドルぷり」
「それなら、その実力、ワタクシ達に見せていただきたいですわね」
「要するにあんなはみれぃ君と一緒にライブしたいんだね」
 さらが翻訳する。
「素直じゃないぷりね。いいぷり。一緒にライブするぷり」
「みれぃさん、会員証ないよね。わたしが入ろうか」
「確か、あみも神アイドルだったぷり。センターは任せたぷり」

 ライブが終わって。
「なかなかやるぷりね」
「あなたも神アイドルの称号、伊達ではありませんでしたわ」
 二人がお互いの実力を認め合っていると、
「みれぃー!」
 らぁらの声がした。らぁらはそふぃと合流し、みらいにここへ連れてきてもらったのだった。
「メルティックスターが大物アイドルとコラボするって、話題の配信だったから、すぐここが判って良かったよ」
「それと、私、らぁらちゃんとずっと実は会ってたんだ」
「みらいちゃんとパキったら、思い出したんだ」
 以前、みらい達は一時的にプリパラの世界に行ったけど、気が付くと元のテーブルで寝ていたことがあって、夢だと思っていたことがあった。
 その時にトモチケとフォロチケをパキったのだった。

「それなら…」
「やっと集合したそらみスマイルと、ミラクル☆キラッツのみらいさん、メルティックスターの…」
「ワタクシですわね。センターは言い出しっぺのあなたにお任せしますわ」
 あんながあみを指名する。確かに全員とライブ経験があるのはあみだけだ。

「それでは、プリパラ5周年記念ジョイントライブ、オンエアー!」

 ライブが終わると、そらみスマイルの3人は光に包まれた。
「プリパラのシステムが復旧したんだもん」
 だいあが告げた。
「またいつか会おうね!」

 らぁら達はプリパラの世界へ帰っていった。

 そして、あみは…

「わたしは相変わらず、この世界に残ったみたい」
 もう、あみはこの世界に馴染みすぎたのかもしれない。


今回のライブシーン
                        
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