第14章 夏合宿だもん

 その日、さなえが突然言い出した。
「夏合宿をしませんか?」

「合宿?」
「まぁ、夏休みだし、みんなで一泊で遊びに行きたいかなって」
「9日からだったら、非番が多いかな。あみとみぃ以外はみんな休みだよ」
「そっか。店長に相談して休み取るね」
 まぁ、あみならさくっと休暇を取るだろう。
「まみ、ゆみは大丈夫ですか?」
 れみが確認する。二人は学生だし、家の都合がある。
「合宿なら大丈夫だと思うよ」
「ところで、行先はどうするの?」
 まどかが訊く。一番冷静だ。
「へへへ。鳥取の皆生温泉はどうかなって思ってるんだ」
「夏に温泉?」
「ほら、この前、貝殻浴衣ゲットしたでしょ」
「うん」
「皆生温泉のこのホテル、ホテルの前に海水浴場があるんだよ」
「なるほどね。貝殻のビーチと浴衣の温泉。どっちも楽しもうって寸法か!」
「どうかな?」
「いいプランだと思うよ。それでいこう!」
「じゃ、早速ホテルを予約しないとね」

 さすがにこの時期に大部屋は取れなかったものの、なんとか二部屋確保できた。合宿決定!

 そして、合宿当日。天気は晴れ。一同はレンタカー2台で出発した。
 全員で手のひらを出して裏表をする。運転できるのはみぃとれみの二人なので、二人が別れて4人ずつになれば決定だ。
 結果、みぃ、ゆうき、あみ、まみのグループとれみ、ゆみ、さなえ、まどかのグループになった。

 車は蒜山サービスエリアに入った。ここで昼食にする。
「絶対、ジンギスカン定食を食べる!」
 あみが宣言する。
「うどんは…あ、ご当地の山菜蕎麦がある!あたしはこれかな」
「ゆうきは本当に麺が好きですね。と言いつつ私はこの蒜山ちゃんぽんにしようかな」
 ゆうきに続いてれみも麺を選ぶ。
「ジンギスカンが有名だし、アタシもあみと一緒にしようかな」
「あたしも」
「我は数量限定につられてちゃんぽんに挑むのである」
 皆、思い思いに注文し、ランチを食べたのだった。

「ふぅ。おいしかったね」
「あ、あそこでジャージー牛乳のソフトクリーム売ってるよ。デザートに食べよう!」
「あみ…あのボリュームの定食食べたばかりですよ」
 れみがつっこむ。
 しかし、別腹とはよく言ったもので、結局みんなでソフトを食べた。ただ、あみとみぃ以外はスプーンを貰って二人で一つだったのだが。

 食後、暫く走って米子自動車道から一般道へ降りるとすぐにお城が見える。先頭車両のあみがゆみに電話して、急遽城の駐車場へ。
「こんなところにお城があるんだね」
「壽城だって」
 城の中は土産物のお菓子を売っている店だった。
「土産物なら、帰りに来たほうがよかったかな?」
「日持ちするし、買うなら買ってもいいんじゃないか」
 みぃたちがこんな話をしている間に、あみが饅頭を買ってきた。
「これ、16個入りだから、後で宿で食べようね」
 2個ずつ食べる気か…

 暫く進むと皆生温泉に着く。しかし、一同はそのまま素通りして境港まで走る。
「ここはゲゲゲの鬼太郎の町なんだよね」
 車を降りて、少し町を散策する。
 土産物屋さんの並ぶ道の両側の歩道に数メートルおきに妖怪の像が立っている。ゆうきがその中の一つに駆け寄った。
「このコ、超かわいいっ!」
 丸い体に大きな口と足だけが付いている。ユーモラスな形ではある。
「銘板には「べとべとさん」って書いてあるね」

 妖怪を見ながら歩くと、休憩所のようなところがあった。ぬりかべと写真を撮れるスポットや等身大の一反木綿がある。
「ちょっと休憩しようか」
 巨大な骸骨のある建物に喫茶コーナーがあり、妖怪の絵の描いたラテ等が売られている。
 あみ、みぃ、まみがラテを買ってきた。
「どの妖怪にしたんですか?」
 れみが訊く。
「わたしは目玉おやじ」
「ボクはねこ娘にしたよ」
「我は一反木綿である」
「…主役、鬼太郎ですよね?」
 誰も選んでいない。

 とりあえず、一口どうぞとかやりながらラテを堪能したのだが…
「ねぇ、もうちょっと休んでいいかな」
 ゆうきが建物の外のテーブルに着く。青い丸テーブルに大きな口が書かれている。
「あっ、べとべとさんのテーブルなんだね」
「ゆうき、べとべとさんが気に入ったんだね」
 ゆうきは鞄から飲みかけのポカリスエットを出して一気に飲んだ。
「よし、車に戻ろうか」

 車は来た道を少し戻ってホテルに到着した。
 チェックインを済ませると、
「そういえば、部屋割りって決めたっけ?」
「車のメンバーでいいんじゃない?どうせ寝る前までどっちかの部屋に集まるだろうし」
「だね。じゃ、荷物置いたら、ビーチに集合して貝殻浴衣ライブだね。色は四色か」
「とりあえず、そのまま着るチームとミックスチームで交代しながら『夏祭り』でライブかな」
「だね。あみ、ゆみ、れみ、まみがそのままで、アタシ達がミックス。五人ダンスだから、あみとみぃが相手チームの時にセンターやる感じかな?」
「まどか、わかってきたね。それでOKだよ」

 ライブが終わって、宿に戻る時だった。ゆうきがあみにもたれかかる。
「どした?ゆうき…って、えっ?あつっ!」
 あみがゆうきの額を触る。
「熱…あるんじゃない?」
 そういえば、さっきもまだ休憩したいと言いながらポカリ飲んでたっけ。
 さなえがフロントに走り、何か話して戻ってくる。
「すぐ近くの労災病院が今日の休日救急だって」
「ボクが車で送るよ。あみはゆうきとここで待ってて。車取ってくる」
 みぃが外に走る。
「あ、食事の時間、一番最後に変更してくるね」
 今度はゆみがフロントに走る。

 病院にて。
 幸い、軽い熱中症で、解熱剤飲んで一晩寝れば大丈夫とのことだった。
「じゃ、処方箋を近くの調剤薬局に持っていくから、二人は先に帰ってね」
 あみがみぃにゆうきを任せて会計に行く。
「預り金、一万円になります」
「えっ?」
「県外の休日救急なので、一旦お預かりして、後日、差額はお返しします」
 げっ、小銭入れしか持ってない…
 あみはれみに電話する。
「れみ、悪いけど、迎えに来て。あと、一万円持って来て…」

 そして、漸くホテルの食堂。ビュッフェなので好きなものを取ってこれる。
「ゆうき、冷たいうどんあるから、それ食べて薬飲んだら?」
「うん。そうするね」
 そこへ、皿に芸術的に料理をてんこ盛りしたあみが来る。
「ゆうき、食べたいものあったらここから取ってね」
「うん。ありがと。からあげと玉子のお寿司一つずつもらっていい?」
「はい、どうぞ。お代わり取ってこれるから、遠慮しなくていいよ」
「あみ、あんたこれ全部食べて、まだお代わりする気か?」

 そして、夜。ゆうきは片方の部屋ですぐ寝に行った。二部屋になったのはラッキーだった。
 他のメンバーは交代で温泉に入った後、もう片方の部屋でガールズトーク。
「で、アタシ、この世界の師匠に本気で投げられて負けちゃったんだ」
 まどかがこの世界に来ていきなり金網デスマッチをした話をした。
「えっ、よく眼鏡壊れなかったね」
 さなえが感心する。
「そんな戦いしたら、パンツ丸見えじゃないですか?」
 れみの質問もこんな感じだ。
「…なんで、リアクションがそういうところばかり?そもそも、その日はスカートじゃなかったし」
「さて、ゆうきの様子見てくるとしよう」
 まみが席を立つ。こんな感じで夜が更けていく。

 翌日。
「昨日はありがとう。おかげで復活!」
 ゆうきは熱も下がり、回復した。
「予定通り、水着でライブ、できそうだね」
「えっと、フラワーパレオが三人で、あとはバラバラだね」
「じゃ、3人でフラワーパレオライブと、そのうちの一人と残りで今年の水着6種類ライブかな」
「よーし、ライブしたあと、海水浴楽しんで、それから温泉で汗を流そうね」
 元気いっぱいにゆうきが言う。他のメンバーは昨夜話し過ぎてやや寝不足。今日はゆうきが一番元気なのだった。

 こうして、色々な思い出を作った夏合宿は終わった。


今回のライブシーン
                
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