第10章 地元探訪だもん

「ただいま」
 あみ、れみ、まみが休憩室に入ってきた。
「おつかれー」
 休憩室ではみぃとゆみがお茶していた。とはいえ、まだ午前の小休止。茶菓子はない。
「配信、どうかな?」
「うん、そこそこ「いいね」がきてるね」
「今回のピクニックギンガムコーデはデザインもかわいいし、緑、赤、青の光の三原色だもんね」
「以前のキラキラフィーバーで四色ライブもやったっけ」
 そこで、みぃが切り出した。
「色違いといえば…」
「どうしたの?」
「ジュエルコーデの色違いライブなんだけど」
「今度、ゆうきやまみのでもやろうって言ってたやつ?」
「うん。なぜか、まみのだけ使えなかったんだ」
「えー?なんでかな」
 そこで突然、机の上に小さなだいあの立体映像が現れた。
「それは、まみちゃんのジュエルチャンスが足りなかったんだもん」
「どういうことであるか?」
 まみが訊く。
「あみちゃんはジュエルチャンス7回、キラチケ3回。ゆうきちゃんはジュエルチャンス6回、キラチケ2回で、どちらもジュエルによるカラーチェンジは8回いけるけど」
「まみは…」
「ジュエルチャンス5回、キラチケ2回だから、7個までしかジュエルを使えなかったんだもん」
「そうなのか…みぃ、ごめん」
 まみが申し訳なさそうにみぃに謝る。
「仕方ないって。ちしきのジュエルコーデは出る期間が短かったし」
「まぁ、全ての色違いライブをするわけでもないし、いいんじゃない」
 みんなが口々にフォローする。

 と、あみに電話が入った。さなえからだった。
「あ、もしもし。今、王子動物園でゆうきとまどかと一緒にいて、配信してるんだけど、まどかがもう時間切れなんだ」
「そりゃそうだね。まどかは用事あるからこっちにいないわけだしね」
「で、代わりに暇な人いないかな?」
「てか、わたしを呼ぶつもりでこの電話でしょ?」
「へへ、ばれたか。他に空いてる人いれば…」
 残念ながら、動けるのはあみだけだった。
「じゃ、今動物園出るから、阪神岩屋駅の南の豆みたいな巨大オブジェの前で待ち合わせね!」
 電話が切れた。
「なんか、豆粒みたいと巨大って、形容詞が相殺してないか?」
 みぃがつっこむ。
「あ、豆粒じゃなくて豆。王子動物園から兵庫県立美術館へ行く道に、鞘豆みたいなのを持ったドラゴンみたいなのの手のオブジェがあるんだ」

 さて、あみがオブジェの前に到着すると、さなえたちがいた。
「で、何の配信するの?」
「以前、あみたちが静岡や東京で旅行記みたいなの配信してたの見たんだ」
「あ、あれね。楽しかったなぁ」
「で、ワタシ達もやりたいねって話になったんだけど、お金ないし。地元神戸で旅レポしようという話になって」
「まぁ、フォロワーさんには神奈川県の人とかいるし、遠方の人には新鮮かもね」
「そんなわけで、動物園でパンダやコアラを見てきたんだけど、寝てて。結局、小動物ふれあいコーナーでうさぎ触ったり、滝の裏に入ったりしてきたんだ」
「ここでわたしに合流ってわけか」

 3人はその場で進行方向を見た。巨大なカエルが載った建物が見える。
「カエルカエルけろけーろ♪」
「いや、それはもういいから。で、あれが県立美術館だよね」
「うん。あの「美かえる」は風船だから、風の強い日とかには出てないんだよね。今日は出ててラッキーだね」
 美術館の前に着くと、通路の左手の足元が虹色に色が変わっていくライトが点いている。
「綺麗だね」
 ゆうきはこういうのが好きだ。うれしそうに見ている。
「なになに…ロック・フィールドの灯り?あ、コレも展示作品か」
 通路の先の扉から入ると、売店や展示室に行く通路と海側に出る出口がある。
「美術館の中で配信はできないし、海の方へ行こうか」
 出口を出ると、海へ続く大階段がある。海とは言っても、対岸に倉庫街があるので運河みたいなものだが。
「…何あれ?」
 さなえが指差したのは階段の下に立っている巨大な少女像だ。鏡のようなピカピカの銀のワンピースでギザギザのものを掌に載せた立像だ。
「ふむ。駅でもらったパンフによると、サン・シスターという作品で、なぎさちゃんという愛称らしいよ」
「なぎさちゃんの服、長方形の鏡がタイルみたいになってるんだね」
「これが1枚1枚さっきのロック・フィールドみたいにカラフルに光ったら面白いのにね」
 ゆうきの発言にさなえが思い出す。
「昔、プリパラクラブの特典でそんなイメージの服貰ったよね」
「カラフルレトロコーデだっけ」
 3人はそんな話をしながら海沿いの遊歩道を西へ歩く。右手には公園があり、バスケットボールをしている人もいるようだ。
 遊歩道を終点まで行き、公園に入る。長い板に電車や玉などが載った作品があり、小さな子供が平均台のようにして遊んでいる。
「あれ、遊具なのかな?」
「少なくとも、あれに腰かけてるウインナーおばけみたいなオブジェはかわいいね」
 そんな話をしながら道に出ると、四角い池の中にガラス張りの建物が建っている。
「また巨大オブジェ…」
「いや、あれは阪神・淡路大震災の資料館だよ。人と未来の防災センター」
「看板には「人と防災未来センター」とあるけど…」
 さなえの間違いをゆうきが訂正する。
「その先のショッピングモールに配信スタジオがあるみたいよ」
「じゃ、さなえがカラフルレトロコーデでソロライブということで」
 あみが勝手に仕切る。
「でも、それ面白そうだからやっちゃおうかな」
 さなえは乗り気だ。さっそく配信を開始する。さっきバスケを見たし、曲は「スキスキセンサー」にする。
「さなえって、意外とかわいい系もいけるんだね」
「なんとなくクール系のイメージだったけどね」
 そんな話をしていると、曲が終わり、突然ステージが変わり、だいあが降ってきた。
「ジュエルチャンス?」
 こうして、さなえは純真のブラックジュエルコーデを手に入れた。

「さて、ちょっと早いけど、ランチどうしようか」
「あみは以前、静岡県庁の食堂ででご当地魚フライ食べたって言ってたよね」
「うん」
「じゃ、ここから二駅だし、兵庫県庁の食堂を攻めてみるのはどう?」

 一同は少し歩いて春日野道駅から元町駅へ行き、兵庫県庁へ向かった。
 県庁の入り口の階段を上ると、渡り廊下の奥に芝生広場がある。
 あみが広場を見て気づく。
「なんか、広場の奥に騎馬像があるよ」
「兵庫県庁だし、楠木正成か熊谷次郎直実かな」
 さなえは歴史に強いようだ。
「行ってみようか」

「…織田信長?」
「なんで?」
 なぜか愛知県の織田信長の騎馬像だった。

 気を取り直して三人は県庁の中に入った。
「食堂は…?」
「あ、13階って書いてあるよ」
 そして、エレベータが12階に止まる。
「あれ?終点…あ、階段に食堂って張り紙あるよ」
「一般の方もご利用できます…って、まさか、社員食堂?」
 食堂は日替わりおかず、サラダ、カレー、今週の麺からどれか一つ、小鉢二つ、ごはんとスープで、ご当地メニューじゃなさそうだ。
「こういう食レポはかえってレアかも…」
「麺はうどんか。あたしはうどんにしようかな。ご飯がついてるのも関西らしいし」
 ゆうきは簡単にメニューを決めた。
「おかずはポークソテーか。おいしそう」
「さなえがおかず行くなら、わたしはカレーにしようかな。百円追加でカツカレーにできるみたいだし」
 小鉢も煮物、コロッケ、スイーツ等から選べるようだ。ここは全員おかずとスイーツを一つずつ。
 カレーのごはんもごはんコーナーで好きな量入れるようになっていた。
「ごはんも白ごはんとピラフから選んで自分でよそうんだね」
「じゃ、わたしは両方入れたらカレーライスとカレーピラフ両方食べれるんだ!」
「おいおい…」
 とりあえず、一同、窓際の席で神戸の街を見下ろしながらランチを摂ったのだった。
「ここから海のほうへ行くとハーバーランドだけど」
「アンパンマンミュージアムとかがあるんだよね」
 ゆうきが情報を提供するが、あみは…
「実は、わたし、店長にお使い頼まれたんだよね。そろそろ向かおうと思うんだけど」
「そうなんだ。どこへ?」
「高砂市の宝殿ってところ」
「じゃ、みんなで高砂まで旅しようか」
 さなえが提案する。

 三人は元町駅に戻った。あみが時刻表を見る。
「でも、ちょっと早いか…」
「ねえ、あのポスター。明石城築城400年だって」
「お城か。途中下車して見に行く?ちょうど時間つぶしになるし」

 そして、明石城。
「すごーい!お堀に噴水がある」
 ゆうきが歓声をあげる。お堀に大きな噴水が3つ並んでいる。
 城の敷地に入ると、正面に2つの城郭、左手にガラス張り櫓が見える。
 と、ガラスの中のすだれが上がり、からくり人形が太鼓を叩いた。時報のロボットらしい。
「いろいろ斬新なお城だね」
 城を出て駅の反対側に出ると魚の棚市場がある。
「さかなのたな?」
「これで「うおんたな」と読むみたいだよ」
 通りの両側では新鮮な鯛や蛸などの魚介類が売られている。
「そうなんだ。確かに魚屋さんがいっぱいだね」
「お、名物玉子焼きってあるよ」
「明石焼きだね。だしにつけて食べるふわふわのたこ焼き」
「あ、明石では明石焼きとは言わないんだね」
「せっかくだから食べていこうよ」
 県庁でご当地食レポができなかったので、ここでリベンジ。
 斜めに下駄のような脚のついた赤い板にたこ焼きが並んでいる。そして、とんすいに出汁が入っている。
「おいしい!」
「さすがは本場だね」

 とりあえず食レポを配信した三人はJR宝殿駅へ。
 駅前には高砂の語源を説明する記念碑がある。
「ゲームのポリゴンキャラみたいな彫刻だね」
「他にまともな例えはないんかい!」
 さなえの感想にゆうきがツッコミを入れる。
「うーん、駅前にあるのはベーカリーと加古川かつめし…あ、ここはお休みか」
 あみはまだ食べ物屋をチェックしている。
「う、格安のカレー屋さんがあるけど、さっきわたしカツカレー食べちゃったよ」
「いや、ワタシらは先刻のランチ後の明石焼きでおなかいっぱいだし」
「そもそも届け物で来たんだよね」
 ゆうきがつっこむ。

「えっと、届け物は…」
「この地図だと、こっちへ行った次の次の角のイオンモールの中だね」
 そう言いながら歩き始めたが、なかなかイオンモールが見えない。

「けっこう遠かったね」
「これは車用の地図で、大きな国道とかしか書いていないんだね」
「帰ったら店長に文句言わなきゃ」

 用事を終えたあみたちは、配信スタジオの前を通った時、ちょうど配信を終えたコがいた。
 そして、そのコが着ているコーデを見て、あみはそのコのところへ歩いていった。
「こんにちは」
「え、あ、こんにちは…」
「そのコーデって」
「あ、知識のゴールドジュエルコーデですけど…」
「やっぱり!よければウチのライブにゲストで参加してくれませんんか」
「ええ、私でよければ」
「あ、じゃ、ちょっと待ってくださいね」
 あみはれみに電話をかけた。
「もしもし、れみ?」
「あ、あみ。今高砂でしたっけ。さっき、まどかが遊びに来て、みんなでお茶してますよ」
「それは好都合。ゆみ、まみ、まどかと四人で知識のジュエルコーデで「インフルエンサー」でライブできる?」
「うん、できますけど、何故ですか?」
「ほら、知識のコーデはゴールドだけ作れなかったじゃない?」
「はい。みぃが残念がっていました」
「今、知識のゴールドジュエルコーデを着た…えっと」
 あみがゲストのコを見る。
「あ、私ですか?くるみです」
「くるみさんをゲストに呼んだから、全色一気に見せる同時配信ライブをやろうと思って」
「また、とてつもないネタ、思いつきましたね…」
 電話の向こうのれみとこちらの隣のくるみさんがハモるように言う。

 どんなのかを見る事も諦めていた知識のゴールドジュエルコーデは、こうしてあみたちの配信記録に残ったのだった。

「しかし、近場でも、旅レポは楽しかったね」
「うん」
「また、駅まで遠いし、フードコートで腹ごしらえして帰ろうか」
「…あみ、まだ食べる気なんか?」


今回のライブシーン
                       
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