第6章 ライバル(?)登場だもん

 あみはカフェでゆみとお茶をしていた。
「この前の白雪姫、黒雪姫のライブってさ」
「あ、まりあさんとのやつ?」
「普通は白雪姫がメインじゃない?」
「確かに。じゃ、ゆみ、クローバー着る?」
「うん。でも、今日はれみもまみもいないけど」
「植物系コーデだし、グリーン系の髪ということで、さなえを呼ぼうかな」
 言いながら、あみはさなえを呼びだした。
「さなえさんも、あみの無茶振りは慣れてるんだろうなぁ…」
「何の話ですか?」
 急に会話に割り込む声が。
「さなえ…じゃなくて」
「おひさしぶりです」
「おふぇりあさん?あ、そうそう。この前のれむれすさんたちもいた時のライブの動画見ます?」
「ぜひ!」
 動画を見終わると、さなえが入ってきた。
「そういえば、植物ライブをするところだった!」
「あみ、ワタシを呼び出して目的を忘れてたんじゃ…?」
「いや、違う違う。あ、おふぇりあさんはクローバーファンタジーコーデ持ってます?」
「ええ、ありますけど…?」

 勢いで4人の植物ライブをオンエアしたあと。
「そういえば、今度ダンスのすごい人がデビューするそうですね。ライバル登場ですね」
 おふぇりあさんから情報提供があった。
「そうなんですね」

 あみたちが去った後、おふぇりあさんはあみの目の前にあったディアクラウンのポスターを見ながら、
「黒川すず、近日デビューって書いてあるけど、見てなかったのかな?」

 一方、あみたちはプリズムストーンに戻ってきた。そして、店長に
「なんか、ダンスがすごいライバル登場って本当ですか?」
「あら、耳が早いわね。来週、あみちゃんの寮の隣の部屋に、スペインから二人入ることになってね」
「そうなんですか」
「切磋琢磨して、うちを盛り上げてね。ただでさえ、ディアクラウンのせいで客減ってるんだから」

「スペイン?ラウラ☆さん達かな?」
「いや、あの人たちはすでにエルザさんチームでしょ」
「そういえば、ラウラ☆さん、来日したい人に会ったとか言ってたかも」

 翌週。あみ、れみ、ゆみ、まみの4人は新しいコの来日お披露目ライブを見に行った。
「どんなコたちだろうね」

 そして、舞台を見た途端、あみとれみはその場に凍りついた。
「あれって…?」
「みぃ…?」

 舞台の上にいた二人組の片方は、かつてプリパラであみやれみとチームを組んでいたみぃだった。
 元バックダンサーで、確かにダンスのキレはピカイチだった。語尾が「にゃ」で、年上なのにみんなに可愛がられていた。

 ライブ後、控室にて。あみは開口一番
「みぃ、みぃだよね!」
「え?確かにボクはみぃだけど、どうしてボクの名を?」
 みぃは愛らしい猫キャラではなく、低いイケメンボイスで驚く。
「えっ?語尾がないし、声も違う…?」
「違和感しかないですね」

 あみとれみのリアクションにみぃは何なんだ、という顔になった。
 どうやら、この世界のみぃで、あみたちのチームのみぃとは別人なのだろう。
「ごめんなさい。わたしたちの世界のあなたとはチームメイトだったんですよ」
「世界?」
「あ、信じてもらいにくいんだけど、わたしとれみは異世界から来たんです」
「大丈夫ですよ、先輩方」
 みぃの相棒のコが会話に入る。眼鏡をかけた気の強そうなコだ。
「はじめまして。アタシはまどか。おそらく、先輩方と同じ世界の出身です」
「あなたもまさか、システムエラーに?」
「はい」
「それに」
 みぃが続ける。
「ボクもあみさんの噂は聞いているので」
「そうなんですか?」
「人生のターニングポイントだったからね」
「え?」
「ボクはかつて、日本から韓国に渡り、プリズムショー女子の韓国最強のチーム、ピュリティーの門下生になったんだ」
 みぃはこれまでの経緯を話した。

 みぃがプリズムスタァになれる直前まで腕を上げた頃、徴用工裁判とか、日本と韓国の関係がギクシャクしはじめた。
 みぃは師匠たちに迷惑がかかることを案じて、身の振り方を考えようとした時に、あみのプリ☆チャンライブ配信を見て、プリ☆チャンアイドルへの転向を決めたという。

「まずは、王女自らがアイドルとなったソルベットという国へ行ったんだ」
「あ、そのアリシア王女が来日した時のライブ、見ました」
 れみが口をはさむ。
「あー、あのなみりーん☆さんが出てた中継番組の最後の方に出てた綺麗なお姫様か」
 あみの認識はその程度だ。前座のフォロトモは覚えていても、どこかの姫さん程度にしか覚えていない。
「ただ、ブリザードに遭って入国できず、行き先を変えることになった」
 みぃは古い本を取り出した。
「えっと、『ひとりひとりは小さいけれど』?」
「世界から集まった5人組のトップダンサーユニットの随想集なんだ。ジャパン、フランス、コサック、ケニア、アメリカの人」
「コサック?」
「本の誤植で、コサックダンスの事。ソレンという国が正しいそうだ」
「ふむふむ」
「この中で唯一の女性ダンサーがいるアメリカも良かったが遠いし、ソレンという国は見つからない」
「あの、それ、「ソ連」今のロシアだと思います」
 れみがつっこむ。
「そうそう。USSR。「ユナイテッド・ステーツ・ソビエト・連邦」の略」
 あみが言う。
「USSR全体の訳が「ソビエト連邦」です。そもそもUはユニオンです」
 れみが訂正する。
「いずれにしても、ボクの行き先はフランスに決めた」
「で、なんでスペイン?」
「この本のフランス人、スペインでフラメンコを極めた人だったんだ」
「フラつながり?」
「まぁ、フラダンスでハワイでなくて良かったですね」
 れみが的外れなフォローをする。
「まぁ、そこで、異世界から来た、格闘技のジムで鍛えたスピード感あるダンサーの噂を聞いた」
「それがアタシ」
 まどかが言う。

 そして、みぃとまどかはチームを組んだ。そんな頃、プリズムストーンがライバルのディアクラウンに押されているのに、お抱えのプリ☆チャンアイドルがディアクラウンお抱えのライバルとお菓子を食べながらなれ合っているという噂が耳に入った。
 それも、それが自分の人生のターニングポイントとなった人物がその体たらくだという。

「ボクたちは君たちの実力が、以前にボクが見込んだ通りなのかを確認しに来たんだ」
「つまり、アタシたちが上なら、プリズムストーン代表は引き継がせてもらいます」

 二人は大真面目に宣戦布告する。
「…いや、そんな深刻な状況じゃないんだけどなぁ…」
「そもそも、プリズムストーンのトップはミラクル☆キラッツだし」
「みらいさんたちもまりあさんと仲いいよね」
「まぁ、そもそも、ディアクラウン組、元々二人ともわたしたちのチームメイトだし」
「そうなのか?」
「うん。ちょうどもうすぐここに遊びにくるんだけど」
「二人とも、絶対あみや私と同じリアクションでしょうね」
 
 ちょうど、ゆうきとさなえが入ってきた。
 さなえは完全に凍りついた。しかし、なぜかまどかが同様に凍りついた。

「みぃ…まどか…!なんで?」
「さな姉ぇ?」

「え?両方知り合い?」
「ちょっと話を整理する必要があるかな」

 まどかはさなえの後輩で、スペイン留学中にシステムエラーに遭った。
 みぃはこの世界のみぃで、一部の歴史は同じだけど別人ということだ。

「しかし、みぃと同じ人なのに「〜にゃ!」じゃないのは違和感あるなぁ…」
「いや、ボクには「にゃ」のほうが違和感あるんだけど」

「それはそうと、二人はわたしがゆうき達とライブするの、否定したよね」
「まぁ、事情を知らなかったこともあるけど」
「百聞は一見にしかずだよ。ゆうき、れみ。今すぐこのまま行ける?」
「いいけど」
 ゆうきもれみも、これが日常茶飯事という感じで答える。
「じゃ、ゆうきセンターでいいかな」
「え?そうなの?別にいいけど」
「じゃ、見てて。元の世界でライブを始めた3人での即興ライブ」

 みぃとまどかはライブを見て愕然となった。コーデも今着ている私服のままでいきなり始めたのに、息もぴったりで、何よりも楽しそうにライブしている。

「なんだか…想像以上だな」

 曲が終わると同時に、ジュエルパクトがゆうきの頭上に落ちてきて、上空から声がした。
「キラにちは〜」
 だいあが空から現れた。そして、ゆうきを上空へといざなう。

「これって…?」
「ジュエルチャンス?」

 ゆうきはあみのものとは形も違う「やさしさのブルージュエルコーデ」を着て踊っている。

「あんなアバウトなライブでジュエルチャンスを起こせるなんて…」
 みぃとまどかは顔を見合わせた。

 だいあがゆうきと共に地上に戻ってきた。
「ライブは楽しんでやることが大切なんだもん」
 だいあはそう言ったあと、あみを見て微笑んだ。
「だいあのプレゼントしたお洋服、似合ってるね。うれしいんだもん」
「あ、そっか。この服だね。ありがとう」
「ジュエルコーデは、ジュエルで色が変わるんだもん」

 だいあは重要な情報を伝えるとどこかへ飛んで行った。
「そういえば、この前、つぼみさん達が色違いのジュエルコーデ着てたね」

 そこまで言って、あみはゆうきを見る。
「そっか、ゆうきはブルーのジュエルだからか」
「そういえば、わたしはピンクだけど、みんなは?」
「私はレッドですね」
 と、れみ。
「我はパープルで、ゆみはグリーンなのである」
 と、まみ。
「ボク達は」
 みぃとまどかがジュエルを見せる。みぃはゴールド、まどかはイエローだ。
「すごい。全員バラバラだね。ちなみにワタシはブラックだよ」
 さなえがしめくくる。

「それなら…」
 あみがそう言うだけで、れみ、まみ、ゆみは頷いた。
「まさか…」
 ゆうきが言うと、
「そのまさかをやるよ。わたしの「ときめきのジュエルコーデ」を全員で色変えて着てライブ」
「えっ?ライブは最大でも6人じゃないの?」
 つい、まどかが訊く。
「やってみたのタイミングでセンターにズームインした間に交代するんだよ」
「あと、確か、ジュエルコーデのライブは、センターだけ羽根を背負うんだよね」
「いっそ、センターを4人で交代して、順番に羽根つけると面白いかも」
「難しそう…」
「わたし達ならできる気がする。まどかちゃんは初めてだけど、さなえの後輩だし」
「それだけの根拠で…」
「じゃ、最初はあみが羽根背負ってね。言いだしっぺだし」
 実行は確定事項といった雰囲気でゆみがあみを指名する。

 そして、ライブを無事終了し、全員で配信をみながらお菓子で打ち上げ。
「ね、楽しかったでしょ」
「あ、ああ…確かに、達成感もある」
 そこまで言って、みぃはこう続けた。
「そっちの世界のボクが羨ましいな」
「え?」
「もっと早くにあみさんに出会い、この楽しさを知っていたんだからね」
「これから楽しめばいいんだよ。あ、もうチームメイトだから「さん」はいらないよ」
「うん、よろしくね、あみ。そして、みんな」
「あ、同じく、よろしくお願いします!先輩方」
「先輩とかナシでいこうよ、まどか」
 さなえが言う。これで、グループは一気に8人になった。

「ところで、みぃの持ってた本ですけど」
 れみが本のとあるページを開く。
「これがタイトルの元なんですね。いい言葉ですねぇ」

「えっ、ははは、身近なところに答えがあったんだね」

 そこには、こう書かれていた。

『ひとりひとりは小さいけれど、力合わせば、ごらん。無敵だ!』


今回のライブシーン
                 
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