第2章 ガールズ戦士と共演だもん

「遅いなぁ、ゆうき」

 あみとれみはゆうきを待っていた。待ち合わせの時間はとうに過ぎている。
 幸い、街頭ビジョンの前にいるので、退屈はしない。

「カラっとジュエルにキラにちは〜」
 画面に派手な少女が登場した。
「そこにいるのにここにいない。バーチャルプリ☆チャンアイドル、だいあだもん!」

「あれ?今、あのコ、プリ☆チャンアイドルって言いませんでした?」
 れみが聞く。
「言った気がする」
 あみが答える。

 突然、画面が光ったかと思うと、だいあと名乗った少女が立体映像のように画面から飛び出した。
「げっ、貞子?」
 あみは以前見たホラー映画で、ビデオ画面から出てくる幽霊の名前を口に出した。
「メガネなしでも立体に見えるんですね」
 れみは冷静に感心している。

「ジュエルオーディションに参加するんだもん!」

 だいあが二人に手をのばす。

「えっ?」
 二人は映像のはずのだいあに物理的に手首をつかまれていた。

「行っけーーーっ!」
「えっ、ええええぇぇぇーーっ?」
 あみとれみはだいあに導かれて画面の中に吸い込まれていった。

 二人は気が付くと何らかのデバイスを手に持って知らない町にいた。デバイスからだいあの立体映像が投影された。
「特別にジュエルパワーをプレゼントするんだもん」
 デバイスが発光する。唐突にあみが思い出す。
「どこかで見たと思ったら…」
 あみはポーチから元の世界に戻る前にプリチケについていた招待状を取り出した。
「やっぱり…」

 だいあはそれを見て、
「それはだいあからの招待状だもん」
 そうか、これを持ていたからだいあが来たのか。
「招待状を持っているあなたにプレゼントだもん」
 だいあは熊さん模様のかわいい服を出した。
 そして、だいあはそれをあみに渡すと消えていった。

「れみ、わたしたちもしかして…?」
「また、この世界に来てしまったみたいですね」
「せっかくゆうきに会えたのにまた…」
「ですね…」
 二人は呆然と近くのベンチに座った。
「どうしよう」
「ゆみたちに連絡取れればいいんですけど…」
 世界を渡る時に、携帯のアドレスは消えていた。

 その時、近くの通りで何か騒ぎが起きたが、二人は意気消沈していてそれどころではなかった。
 騒ぎの元凶となったとおぼしき人物が二人の目の前に走ってきた時、二人の前にピンクの怪盗っぽい衣装を着た少女が現れた。
「ひみつ戦士ファントミラージュ!イケナイ心、ちょーだいします!」
 少女は手にした鍵のようなアイテムから目を回した熊のようなものを放ち、暴れている人物に浴びせた。
「イケナイ心、ちょちょっとちょーだい!」
 暴れていた人は落ち着き、騒ぎは収まった。
 少女はSNS配信を意識したように野次馬に撮影ポーズを取った。
「はい、ファントー、ミ!」
 そこで、妙にノリが悪いあみたちを見た。
「あれ?」
 少女はあみを見ると、
「あの、この前、21人ライブ配信してた人ですか?」
「えっ、あ、はい」
「すごい!私のハート、ファンファンしてる!…でも、元気ないですね」
「はぁ、すみません…」
「私、ココミといいます。何かあったんですか?」
 あみが答えようとすると、
「あ、あみさん、元の世界に帰ったんじゃなかったんですか?」
 ココミさんと同じような髪型のコが近づいてきた。
「あ、この前の清掃ボランティアで助けてくれた人!」
 ココミさんがそのコを見て言う。以前、あみたちを助けてくれた魔法戦士マジマジョピュアーズのモモカさんだった。ココミさんとは清掃ボランティアで知り合っているらしい。
「あみさん達、元気ないね。アキラメスト化じゃないからピュアライズしてもダメだよね」
「ネガティブなら、私がなんとかしてみようか」
 また、似たような髪型のコが現れた。
「私はアイドル戦士、ミラクルちゅーんず。アンコールはお断りなんだけど、ま、いいか」
 そのコはココミさんに、
「あ、ライブ、フィニッシュって声かけてもらっていい?」
「え?はい、ライブ、フィニッシュ!」
「OK!フルボリューム!」
 突然かかった音楽に合わせ、そのコがダンスを踊る。すると、手にしたロッドに光がやどる。
「チューンアップ!」
 光があみとれみを包む。二人から紫色のネガティブオーラの塊が幾つも飛び出した。
 すると、どこからともなく黄色い8分音符のような形の魚の群れが現れ、ネガティブオーラを食べ始めた。

 二人は少しすっきりした。けれど、本調子ではない。
 そこに通りかかったのは…

「あれ?あみにれみ!なんで?」
 ゆうきだった。
「えっ?ゆうきも来てたの?」

 ゆうきの顔を見て、二人は完全に元気に戻った。
「あの…」
 あみとれみが3人のツインテール髪のコたちに申し訳なさそうに声をかける。
「心配かけてすみませんでした。そして、ありがとうございました」
 最後に二人を助けたコの顔を見て、れみの顔色が変わる。
「ああ、あなた様は!」
「れみ、知り合い?」
「あみ、ゆうき、頭が高いですよ。前髪下してたから気付かなかったけど…」
 その少女が前髪をかき上げておでこを出すと、モモカさんが、
「カノンちゃん?」
「へへ。おかげ様様」

「えっと…」
 事態を呑み込めていないあみたちにれみが解説する。
「カノンさんは世界アイドルバトル日本代表に選ばれたこともある超一流のアイドルグルーブ、ミラクルミラクルのメンバーです。リーダーのマイさんは音楽の女神の娘とも言われる至高の歌唱力を誇る歌手。そして、フウカさんは国際的にも注目されるダンスの達人」
 れみがそこまで言うと、ココミさんが、
「先週、ダンスを教えてくれた人、フウカさんって言ってた…やはりすごい人だったんだ」
 心当たりがあるのか、感動している様子だ。
「…そして、超絶かわいい姉妹ユニット、カリカリのアカリさん、ヒカリさんもメンバーに加入した、とにかくすごいアイドルグループの人なんですよ!アイドルの端くれなら、ぜひともご指導ご鞭撻を賜りたいようなお方ですよ」
 れみは長々と詳しい解説をしてくれたものの、肝心のカノンさんについて全く言及していない。

「でも、お友達に会えたのが一番効果があったね」
 カノンさんは笑ってそう言ってくれた。
「じゃ、ココミさんの配信写真撮りそびれたリベンジ、モモカさんとの再会、カノンさんのご指導ご鞭撻ということで…」
 あみがそこまで言うと、れみとゆうきは、
「いつものパターンだな、こりゃ」

「みんなでライブしましょう!」

 そして、ライブが終わり、戦士たちは引き上げていった。
「ねぇ、あみ、れみ。実はさなえも来てるよ」
「そうなの?」
「あと、ゆみたちにも会いたいですけど、ここはどこの町なんでしょう」
「前に一度来た場所だけど。この建物、最近できたらしいけど、ここの角を曲がって、350メートルほど行ったらプリズムストーンだよ」
 ゆうきが事もなげに言う。

「じゃ、みんなでまたライブできるんだね」
「今度は6人だね」

 こうして、あみたちの異世界ライブ、第2幕が始まったのだった。


今回のライブシーン
    
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